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JJニュースショウ ─弦の呪縛─
ライナーノート




  JJの話は、実は昔、私が仕事で企画していたゲームソフトの世界観が元になってい
 ます。この企画は、結局、お蔵入りになってしまったのですが、その時、築いていたも
 のを、小説という全く違う表現方法であっても、よすがとして残しておけたのは良かっ
 たと思っています。

  1950年代のアメリカというのは、とても輝かしい時代で、活気にあふれています。
 そういうイキの良さ、伸びやかさをJJに投影したつもりです。前向きで明るいラッキ
 ーガイの彼が私は大好きです。
  ニュースキャスターの仕事って、本当はもっともっとシビアなものだし、この小説の
 ようでは決してないのですが、そこはご愛敬。
  JJの勤めるテレビ局は、当然、まったく架空のものですが、イメージはアメリカの
 三大ネットワーク(CBS,NBC,ABC)をモデルにしました。ちなみにJJのテ
 レビ・スタジオの場所は、ニューヨークのNBCスタジオのあるところのつもりです。 

  なぜクラシック音楽界を取り巻く事件の話を書こうと考えたかといえば、ただでさえ
 アメリカという未知の国を舞台に書くのだから、せめて、事件に関わる主要な人々や道
 具などを、実感として少しでも知っている世界にして、安定感を出したかったからです。
 やはり、体得している経験に乗っ取ったことを書くと、リアリティを感じながら自信を
 持って書くことができます。
  私はかつて音楽大学の学生だったので、クラシックの世界の人々は、何も知らない人
 よりは、実感を持って捉えることができる存在なのです。
  ただ、お断りしておくと、私はヴァイオリン専攻の学生ではありませんでした。私の
 専攻はクラリネットです。
  弦楽器というのは、音にせよフォルムにせよ蠱惑的な楽器で、どこかあっけらかんと
 している管楽器などとは一線を画す楽器という印象があります。色気があるというので
 しょうか。実に魅力的ですよね。
  そうそう、ストラディヴァリに愛称がついているものがあるというのは事実ですが、
 『アスタロト』というストラディヴァリは実在しません。完全なフィクションですので
 本当にそういう悪魔のヴァイオリンがあるなんて信じないでくださいね。

  企業家のロバート・ゴールウェイという人は企画中だったゲームの世界でいうと、実
 はプレイヤー自身にあたるキャラクターでした。いろんな物件を購入し、投資をし、イ
 ベント起こして億万長者になるゲームだったのです。      
  ですから、特にモデルもいないのですが、強いて言えば、鉄鉱王のカーネギーがモデ
 ルと言えるかもしれません。ゴールウェイ・ホールが、カーネギー・ホールというわけ
 です。少なくともホールの場所は、そのつもりで書いていました。カーネギーホールに
 あんなに練習室があったりはしないと思いますけれどね(笑)。
  夢を現実にした成功者のゴールウェイはひとつの理想です。お金持ちのいやらしさを
 感じさせないキャラクターにすることに心血を注ぎました。

  マエストロ・バーンスタインは、偉大なアメリカの音楽家、レナード・バーンスタイ
 ンがモデルです。私はレナード・バーンスタインが大好きなので、外見も彼をイメージ
 しています。とは言っても、本当の現実の彼とはまったく別人ですから、ファンの方、
 怒らないでくださいね。あのダンディな感じが出したかったけれど難しい〜。

  私は音大生でしたから、ゴールウェイ・コンクールの参加者たちは、どこか身近な存
 在です。私はコンクールに出たり留学したりするような優秀な学生ではなく、ただオー
 ケストラや室内楽の合奏がやりたくて学校に行ってたようなものでしたが、周囲にはい
 ろんなタイプの人がいましたし、先生には著名な音楽家もいたわけですから、音楽に対
 する向き合い方は、どこかでつながっていると思うのです。音楽には言葉の国境がない
 ですものね。
  天才少女のアン・イチノミヤのイメージはヴァイオリニストの五嶋みどりです。アン
 という名前は、やはり女性ヴァイオリニストのアン・アキコ・マイヤースにあやかって
 つけました。日系の少女という設定は、完全に私の趣味です。
  ジョルジオ・ローニみたいなキャラクターも華があって好きです。演奏家になるなら、
 天才少女イチノミヤよりも彼のようなタイプが理想なので、ちょっとひいきしてるかな。
  ロイ・クライブは、最初に想定していたより、かなりナイーブな男性になってしまい
 ました。もっとイチノミヤとライバル意識向き出しで張り合うはずだったのに。変ねえ。 
  最終選考のメンバーは、国際色を出したくて、先に出身国を決めてから設定したので
 すが、誰がコンクールで優勝するのか、物語を実際に書き出す前は私にもわからなくて、
 書いてみたら、ああいう結果になりました。何となく○○○○○が優勝するかなと思っ
 ていたんですけれど、わからないものですね。   

  アメリカを憎んでいるらしい謎のヨーロッパ貴族のバロン。彼には、さんざん泣かさ
 れました。作者を無視して暴走し、JJの出番を奪いかねない勢いだったんです。
  JJならば絶対に言わない、格好つけたキザなセリフをポンポン言ってくれるので、
 書いていてとても楽しいキャラクターなんですよね。私は昔からこういう言葉で煙を巻
 くキャラクターが好きだったようです。
  バロンには、ひそかなイメージ・モデルがいましたが、かなり恥ずかしいので内緒に
 しておきますね。言ったら、きっと「どこが?」と叫ばれそうな感じ。ちょっと昔の外
 国の映画俳優です。彼をもっと軽くした感じがバロンのイメージだなと思っていました。
 あくまでイメージだけですが。
  いずれにせよ、バロンは、JJの完全な敵でもなく、しかし、もちろん味方ではなく、
 謎めいた感じが面白くて気に入っています。JJとバロンを会話させると、妙に刺激的
 で、つい力が入ったことを懐かしく思い出します。

  JJは探偵ではないし、もどきとはいえ、ミステリーのシリーズを書いていくことは
 私には難しいので、JJの物語を、また書くことはおそらくないでしょう。
  だいたい事件の題材となるジャンルの50年代頃のアメリカ事情を調べるのに、えら
 く時間がかかり、作品を仕上げるほど勉強しきれないというのが本音です。
  けれど、この作品は私の中で、どこにも出せずに、ずっと眠っていた子なので、こう
 して自分のホームページで発表することができて、とてもうれしいです。
  心ときめくロマンスのかけらすら出てこない私の推理小説もどきを読んでくださった
 方、本当にどうもありがとうございました!
  これで過去のしがらみは無し! いずれ、もっと別の新しい物語を書いていきたいと
 思っています。





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