『夢の浮橋』『有明の月』の番外編になります。
これを書いたのは、実は『有明の月』とほぼ同時くらいで、ちょこちょこと暇を見て
手を入れながら、5月の末には一稿が上がっていました。
ただ、これを発表するのは、いささかためらいがあって、見せたがりの私にしては珍
しく、外にも出さず手元に置いていました。
理由は何かと言うと、藤姫がどうにも友雅×あかねに都合が良すぎるかな〜と感じた
からです。まるであかねちゃんのお付き女房のような藤姫!
彼女が人気者なのはわかっていましたから、こういう扱いを良しとしないファンの方
が多いのではないかとWeb上に発表するのが少し恐かったのです。
私自身はこんな藤姫が可愛いと思うし、そうゲームのキャラクターからもはずれては
いない……と思って書いているのですが、それにしても、あまりにも自分が友雅あかね
に入れ込んでいる自覚がありました。自分の客観性に自信が持てなかったのです。
けれど、一度、あかねちゃんと藤姫のやりとりをしっかり書いてみたかった私は、あ
かねちゃんに和歌を説明できるのは、やっぱり藤姫よねーと、とても楽しんで仕上げた
ことも確かです。
創作に和歌を説明する注釈ばかりつけても味気ないし、意味がわからなくたってかま
わないように書く、というのは常々気をつけているのですが、それはそれとして、一度、
お話の中で、面白く短歌教室やれたらいいなと考えていたのです。
それで月影夢想で「続きはありませんか」と聞かれていた創作の番外編ではあること
ですし、よかったらペーパー用にでも使ってください〜と投稿させていただきました。
そうしたら、月影夢想ペーパー第3号で、ほとんどペーパー・ジャックのような形に
なってしまって……ああ、長すぎたんだわーっと、届いたペーパーを見て、私、真っ青
になったものです。織名さんには、その節は本当にお世話になりました。とほほ。
『夢の浮橋』と『有明の月』の和歌総解説編みたいな『夢かうつつか』ですが、とくに
友雅さんの後朝の文に対するあかねちゃんの返しと、またその返しの返しの、本歌・出
典をご紹介しておきましょう。
有名なものですから、少し古典関係の本などめくった方はおわかりになったのではあ
りませんか?
藤姫が仕上げてくれたあかねちゃんの後朝の文の返しは、伊勢物語に出てくる有名な
歌のパロディ(?)です。古今和歌集にも出ている歌です。
こちらが、その本歌。
──君やこし我やゆきけむ思ほえず夢かうつつか寝てか覚めてか──
(昨夜はあなたがいらっしゃったのでしょうか。それとも私のほうが行ったのでしょう
か。私にはなんとも分別ができません。あれは夢でしょうか、現でしょうか。寝ている
時のことかしら、覚めている間のことかしら)
古今集では読人知らずになっていますが、これは伊勢の斎宮の歌なのです。相手は在
原業平で、さすが業平、神聖な斎宮とも契りをかわしてしまうわけですから、色好みの
なんたるやって感じですね。
この後半を生かして、ちょっと有明の月をからませてアレンジしてみたわけです。
で、この歌にまたまた返ってきた友雅さんの返歌ですが、これは二つの歌を切ってつ
ないでしまいました。うわーお許しを。
ひとつは上記の斎宮の歌に対する、業平の歌。
──かきくらす心の闇にまどひにき夢うつつとは今夜(こよひ)さだめよ──
(あの時は会えた喜びに心浮かれ、しかしまた満ち足りないままに別れて、いやが上に
も心乱れ、まったく暗闇に惑うようなありさまでした。夢かうつつかは今宵また会って
確かめましょう)
「今夜さだめよ」の部分は古今和歌集では「世人さだめよ」となっていますが、世間に
判断をゆだねるよりは、やっぱり「今宵会って確かめましょう」って方が断然カッコイ
イですよね!
もうひとつ、歌の前半を引用したのはこちらです。
──有明のおなじながめは君も問へ都のほかも秋の山里──
(有明の月の同じように寂しいわたしの眺めの思いをあなたも問い慰めてほしい。私の
住んでいる都の郊外も、あなたの秋の山里と変わりがないのです)
新古今集にある式子内親王の歌です。
この歌は甥の惟明親王の歌、──思ひやれ何をしのぶとなけれども都おぼゆる有明の
月──(察してください。とくに何をなつかしく思うというのではありませんけれど、
都が思われる有明の月です)という歌の返歌です。
しみじみ優しい歌ですよね。
この優しい歌をつぎはぎにした友雅さんの歌といえばこうなってしまいます!
──有明の同じながめは君も問へ夢うつつとは今宵さだめよ──
(私が見る有明の月は君が見るものと同じながめなのを君も問うておくれ。夢か本当か
は、今宵確かめなさい)
あの優しい歌を切り張りすると、どうしてこんなになってしまうのでしょう。なんだ
か自信満々じゃないですか。しょうがないなぁ、友雅さんは。
でも結局この歌が、この話のオチなんですよね。切り張りなのも、ご容赦ください。
いやー、いつか和歌をきちんと勉強されている方に怒られるのではと、毎回ひやひや
してるんですよ。本当に悪意はないんです!
悪意がなければ許されるわけではないのも重々承知しておりますが、いかんせん歌を
詠む能力がないんです。それでも平安の雰囲気を出したくて、つい……。
解釈も間違っていたりするかと思いますので、こうしてライナーノートで懺悔させて
いただきます。ごめんなさい。古典のお勉強にはなりませんので、ご注意くださいね!
いつも言ってますが、雰囲気だけでも味わえたらいいと思っているんです。
最後に、もうひとつ。
この話を書くに当たって、私が狙っていたのは、直接友雅さんを登場させずに、友雅
×あかねの満足感を出す!ということでした。
放っておくと友雅さん視点で、どこまでも書き続けてしまう自分への警告みたいなも
のですね。
うーん、これも成功しているかどうか、はなはだ怪しいのですが、こんなことも今後
の糧にしていきたいと思っています。
|