憬文堂
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● ライナーノート ●

秘 曲

初出 : 2001年6月10日 『憬文堂』




  友雅さんの、お誕生日によせて書きました。
  もう友雅ファンの皆さん、一斉に同じ前提でいろいろな作品を書かれるわけで、そう
 なると、どうやって独自性を出そうかと、結構、悩みます。
  2000年は『祝う日』で、京での最終決戦の翌日という日を書きました。
  ならば、2001年は、京での一年後、二人の暮らしぶりがわかるような、そんな話
 を書こうと考えました。
  とにかく京に於いての誕生日祝いという発想は、あかねちゃんの方からのアプローチ
 に決まっているので、あかねちゃんの視点で彼女が頑張る話を書きたいと思いました。
  たとえ京の暮らしになじんでも、あかねちゃんにとっては、好きな人の誕生日は、お
 祝いしたい特別な日でしょう。でも彼女にできることは限られています。 
  友雅さんが喜びそうなものという点では、いわゆる『私をプレゼント』というのも捨
 てがたいのですが、いくらお約束でも、いきなりベタに走るのは、書く方としては少々
 物足りないんです。
  では、友雅さんに何をあげるか、あかねちゃんと一緒に私も悩みました。ああでもな
 い、こうでもないと、いろいろ悩んだ結果が、この物語です。
  琵琶ネタになったのは、LaLaに掲載された友雅さんの番外編が頭にあったからで
 す。本気の恋も情熱も知らなかった友雅さんでしたが、あかねちゃんによって、それを
 知ってしまった後の反応を書くのは、こういう創作の大きな楽しみですね。

  北嵯峨の入道というオリジナルのキャラクターは、極力、『遙か世界』から浮かない
 ように、出過ぎないように考えました。私の中では蝉丸法師と源氏物語の明石の入道を
 少し若くして、たして割った様なイメージです。
  あかねちゃんのファザコン的要素を刺激する大人がいるといいなと思って書きました。
  恋敵としての八葉とは別の意味で友雅さんを不安にさせる相手です。単純に嫉妬する
 わけにもいかない相手。
  でも、おそらく、あかねちゃんは、友雅さんの中にも父親的要素を感じているように
 思います。あかねちゃんが一人娘なら(私はそうではないかと思っています)、絶対で
 すよ。彼女には愛されて育った者の伸びやかさと強さがありますものね。
  そこの辺りを、うまく表現できているといいのですが。

  琵琶の秘曲というのは、話の中でも少し書いたとおり、平安時代初期には、中興の祖
 とされる藤原貞樹が渡唐して、『流泉』『啄木』の秘曲を招来しています。この秘曲を
 めぐっては村上朝期の楽の名手、源博雅が、逢坂の関の盲法師蝉丸のもとに三年通い続
 けて、遂に伝授される説話が今昔物語にあり、有名です。
  平安時代で雅楽や王朝文学に出てくる琵琶は、いわゆる楽琵琶で、今となっては、そ
 の奏法は大きく退化してしまったと言ってもいいでしょう。雅楽の中で、アルペジオ風
 伴奏のリズム楽器としての役割しか今に伝わっていませんが(『平家物語』などの琵琶
 法師の語り琵琶、薩摩、筑前琵琶などは、後に分かれていった別系統です)、平安の頃
 は独奏楽器として、旋律を奏でる奏法があったはずだと考えられます。
  秘曲として、名曲を伝えることを極端に制限していた弊害もあり、中世の終わりには
 こういった秘曲は絶えてしまっていたようですが、それだけに、友雅さんの奏でる琵琶
 の名演奏を想像するのは楽しいですね。
  また、そういう特別な曲を入道に弾かせてしまうあかねちゃんの魅力を書きたかった
 のです。幸い、多くの方に、ご好評をいただけたようで、嬉しい限りです。
  私としても、いつになく満足のいく仕上がりでした。

  あかねちゃんが入道に乞われて歌った歌は何だったのでしょうね。これは読んでくだ
 さった方、それぞれの想像にお任せしたくて、特定しませんでした。ずいぶんたくさん
 歌ったようですしね。
  私としては、アカペラで歌える歌で、もしかしたら横文字の歌かなぁなどと思ってい
 ます。ほら、歌詞の意味が相手にわからない方が、歌うのに恥ずかしくなかったりする
 じゃないですか。
  その上で、あの時代で全く聞いたことのない旋律で、かつ普遍的な美しさのある曲が
 いいかなと思います。
  イメージとしては賛美歌とか、モーツァルトの『アヴェ ヴェルム コルプス』とか、
 その辺かな。……こんな歌知ってるとしたら、あかねちゃんは聖歌隊出身でもないと無
 理かしら。でも、合唱好きな音楽の先生に習っていたとしたら、学校でも色々歌ったり
 しますよね。『アヴェ マリア』くらいはね!

  この話では、わざと友雅さんの登場を焦らしましたが、甘さのコントロールが思い通
 りにいったので、書いていて本当に楽しかったです。
  出た途端に、丁々発止と入道とやりあったり、あかねちゃんを翻弄したりして、あげ
 くの果てはちゃっかり一番の望みを叶えてしまいました。正に面目躍如。
  だって、お誕生日ですもの。いい思いをしてもバチは当たらないでしょう。

  友雅さんは、原作ゲームでは、もういい年で位田も位禄もある少将のくせに、独立し
 てない設定になっているんですよね。ま、妻もいないし、どうせ夜はあちこち遊び歩く
 から、自分の家を持って切り盛りするのなんて面倒だったせいもあるかと思います。
  しかし、あかねちゃんを手に入れたら、絶対に独立したくなるはず! 
  私は何となく友雅さんは、おばあちゃん子で、実家は友雅さんの姉妹の女の子が継ぐ
 はずだけれど、先先代あたりの帝の乳母(めのと)だった、友雅さんを猫かわいがりし
 ていた、おばあちゃんの小さな邸宅を、実は相続してるみたいな設定を考えています。
  だから兄弟と折合いが悪かったりしてるなんてのは、どうでしょうね? このあたり
 を色々想像するのは、本当にわくわくします。
  今回はそのドリームを背景に思いっきり書きこみました。
  それだけに、オフィシャル設定が後からきっちり出てくると困ったりするのですけれ
 どねえ。後から嘘にならないよう祈るばかりです。

  あとはですね……本当は、最後で裏棚に持っていくような表現を入れるかどうか、か
 なり迷ったのです。書こうと思えば、そういう場面を入れることは充分可能でした。
  が、いろいろ考えて、結局、甘く終わらせるには、かえってこれくらいがいいなとい
 うところで今回は納めました。
  それでも読みようによっては、かなりきわどい感じにはしたつもりですが物足りない
 方がいらしたら、ごめんなさい。
  あかねちゃんの秘曲を聞くのは、やはり友雅さんだけのようですから、どうかご容赦
 くださいね(笑)。







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