憬文堂
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● ライナーノート ●

挨拶入門

初出 : 2001年2月18日 『月華夜城帝国』




  1月15日旧暦小正月(2001年2月7日)に『月華夜城帝国』の彩本真帆さんと特別
 合同企画のイベントを行いました。1日きりの公開なので、1週間前から予告も打ちま
 した。
  この予告に合わせて、真帆さんが作ってくれたバナー。このバナーの描き下ろしイラ
 ストが、もうかわいくって!!
  あかねちゃんが友雅さんのほっぺにキスしてるんですけど、友雅さんが、そりゃもう
 やにさがっていて「きー! うらやましいやっちゃ!」って感じでしょうか。
  私の書いた『雪の曙』には、こんなかわいいシーンはありません。このすてきなイラ
 ストを、バナーに加工するだけに使って、フルサイズの絵を埋もれさせるなんて、もっ
 たいない! このあかねちゃんの肩が出ているあやうい感じ! いやーん、私ひとりが
 楽しんでいたらバチがあたりそう!
  その瞬間に、私は、この絵を挿絵にしたお話を書きたいなと思いました。
  小正月企画では、私の原稿は、真帆さんの冬コミ合わせのご本にゲストしたものが元
 ですから、それほど負担はなく、イラストを描き下ろさなければならない真帆さんにく
 らべたら全然楽でした。バージョンアップ原稿も1月頭に仕上がっていて、あとは待ち
 の状態。
  なので、真帆さんが本編イラストを描いている間、私はこのイラストの話を考えるヒ
 マがたっぷりあったのです。

  こっそり書き上げた話は、おつかれさまでした、ありがとうの気持ちをこめて、真帆
 さんに差し上げました。
  いつもと違うタイプの話なので、楽しんでいただけるか心配でしたが、幸い喜んでい
 ただけたようで、ほっと一安心。月華夜城帝国で公開していただけました。
  その時挿絵に使われたイラストは、ポイントカラーのシックなバージョン。ところが
 実は当然ながら、バナーに加工したフルカラーのイラストも、私はいただいています。
  真帆さんに、『挨拶入門』の憬文堂での公開のお許しをいただいた時、私は「うちで
 公開するときは、別バージョンのフルカラーの絵を出していい?」と聞いてみました。
  そしたら真帆さんは、そのカラーイラストは納得がいってないと言うのです。友雅さ
 んの目のあたりがどうも気に入らないらしい。バナーサイズでは気にならないけど、原
 寸だと耐えられないので、それならカラーを塗り直すって言うんですよ〜。
  お礼にさしあげたものだったのに、またお手数をかけてしまうとは本末転倒!
  しかし結局、新たなバージョンのイラストが届けられ、こうして憬文堂で公開させて
 いただく運びとなりました。私ってなんて果報者。ありがとう、ありがとう……(感涙)。

  お話に関しては、ご覧の通りの天真くん受難のお話です。
  あのイラストに合わせて友雅とあかねラブラブの情景をそのまま書いたのでは、芸が
 ないかなと思ったので、ちょっとひねって、第三者視点の友雅×あかねを書いてみまし
 た。天真くんファンの方には、いやがられてしまったでしょうか。ごめんなさい。
  でも、私としては決して天真くんを貶めたいわけでなく、純粋に男性のかわいげを書
 きたかったのです。あかねちゃんのためにむきになる天真くんも、内心おだやかでなく、
 この期に及んで、まだまだ安心できず、若い天真くんについ牽制しかけちゃう友雅さん
 も、かわいいでしょ? やっぱり、男もかわいげがないとダメだと思います。
  この天真くんも、きっとイイ男になるだろうな。
  ゲームにあった、あの二人の言い争いのくだりが好きなので、どうしても、友雅さん
 が牽制する最初の相手は天真くんになっちゃうんですよ。キャラクターが、ぴたりとは
 まる感じがするのです。おかげで実に楽しく書けました。

  そうそう、友雅さんが天真くんに言う ──鮑(あわび)の貝の片思ひなる── と
 いう一節は和歌でなく、今様(いまよう)、ようするに、流行の歌、歌謡です。梁塵秘
 抄(りょうじんひしょう)という後白河院勅撰のうた本にあります。

  ──伊勢の海に朝な夕なに海人(あま)のゐて 取り上(あ)ぐなる 
                        鮑(あはび)の貝の片思ひなる──

 (伊勢国の海辺に、朝に夕に漁師がいて、水に潜っては採り上げるというあの鮑の貝の
  ように、私は片思いなのだ)

  せつない片恋の歌ですね。これは万葉集にそっくりの歌がありまして、少し調子を変
 えながらずっと歌われてきたようです。
  これの変形したもので、やっぱり同じ一節があるものが梁塵秘抄に、もうひとつあり
 ます。

  ──われは思ひ人は退(の)け引くこれやこの 波高や荒磯の 
                        鮑(あはび)の貝の片思ひなる──

 (私はあの人を慕い、あの人は離れてゆく、これがまあ例の、波の高い荒磯に棲む鮑の
 貝と同じ片思いであるのか)

  鮑の貝の……というところは一緒。やっぱり片思いの歌です。
  友雅さんってば、あからさまに天真君に当てこすってます。困ったもんだ。大人気な
 いですね。それも、あかねちゃんゆえなので許してあげてください。なーんて書いた私
 が言ってどうする(笑)。



          



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