第2場 3・誓いの日 - 第3場 第4場

太陽が中天に達する1時間ほど前に、ユリウスとティアーナは夜半の時と同じように、ホールで儀式の始まりを告げる鐘を待った。ユリウスはまた隣に並ぶティアーナに声をかけた。

「眠れた?」

ティアーナは昨夜と同じように前を向いたまま答えた。

「明け方にちょっとだけね」

それから少し間を置いて、ユリウスを見た。その表情は相変わらず硬く、顔色は青白かった。

「あなたの夢を見たわ。最初はあなただってわからなかったけど」

「夢?」

「ええ」ティアーナは前を向き、ひとり言のように言い出した。

「わたし、河の流れの中にいたの。冷たい水の中を流されてた。何も考えず、流れに身を任せるのはとても気持ちよかったわ。もうこのままずっと流れていたいって思ってたのに、浅瀬に流れ着いてしまったの。わたし、もう一度流れの中に入ろうとして、深い所を探して歩いてた。浅瀬は石がごろごろしてて、とても歩きにくかったわ。足が痛くて、何度もよろけて、転んで……。そしたら岸辺に黒い人影が見えたの。誰だろうと思って、その人の方へ歩いて行こうとしたんだけど、また転んじゃって……。なんだかもうどうでもよくなって、そこに座り込んでたら、すぐ側で軽い水音がして、それで振り向いたらあなたが立ってた。あなたは何かつぶやいて、手を差し出してくれたの。わたし、その手につかまろうとして、わたしも手を伸ばしたわ。でももう少しで手が触れるって時に目が覚めたの」

ティアーナが言い終わりかけた時、合図の鐘が鳴った。二人は4人の祭司に付き添われ、エイロス神殿へと進んだ。

「不思議だね。わたしも同じ夢を見たよ」

歩きながらユリウスはティアーナに小声で言った。ティアーナはわずかに表情を変え、彼を見た。

「同じ夢?ほんとなの?」

「ああ、わたしは河のほとりにいて、きみは浅瀬にいた。わたしはきみの側へ行って、手を差し出したよ。目が覚めたところも全く一緒だ」

「そんなことってあるの?不思議ね、どうしてなのかしら……」ティアーナはつぶやいた。

ルディア神殿の儀式と全く同じように、式は進められた。祭壇はルディア神殿と同じ樹の彫刻だったが、枝の中に黒い球、根の中に白い球がはめ込まれているところだけが違った。そして天窓には、真昼の光あふれるが輝いていた。

16人の祭司がエイロスの詩篇を詠唱し、頌歌を歌い、祭司の長によって、二人の誓いの言葉がエイロスに捧げられた。彼らは白いリフを祭壇の樹に置き、授けられた細い金鎖の腕輪を銀の腕輪に重ねつけた。もう一度詩篇の詠唱があり、式は終わった。

ユリウスとティアーナは白い衣のまま、神殿を出て、大学に通じる門をくぐった。そこで二人を先導する役は祭司から賢者に替わった。石段を登りながら、ティアーナは一月前のことを思い出した。

(この石段を降りた時、わたしはまだ何も知らなかったんだわ……)

1ヶ月の修道院暮らしはあっという間だったが、彼女はその間に多くのことを学んだ。そのことを考えると、あっという間の1ヶ月が1年にも2年にも及んでいたような妙な感覚にとらわれた。

大学の正門の真正面に建つ大きな建物の中に二人は入った。その中にある大賢者の間と呼ばれる広間で誓約式が行われるのだった。式が始まるまでの間、彼らは別々の部屋で休んだ。ティアーナは出された食事に手をつけることもなく、窓から外を眺めていた。大学の構内は静まりかえり、時折学生やマスターが一人二人と足早に通り過ぎるだけだった。

長い長い1日だった。いつしか緊張しているという感覚すら麻痺していた。彼女にとっては、自分が様々な行事を体験しているというより、それらのことが自分の上を勝手に通りすぎている感じだった。

これから行われる誓約式は、賢者の妻になるための最も重要な式であるはずだった。ティアーナはその式で、7ヶ条にわたる長い誓約の言葉をクルトの言葉で言わなければならなかった。全てを覚えるのは大変な作業だったが、クルトの言葉はその一文字一句全てが力を持つものだと知らされてから、覚えた言葉が重みと恐れと共に彼女の頭に刻み込まれた。しかし、式でそれを完璧に暗唱できる自信は彼女にはなかった。もう一度ここで練習する必要があるとティアーナは思ってはみたものの、彼女の思考は空虚に覆われたまま、それを試みようとはしなかった。

式の時間が来た。広間の扉の前で、三たびユリウスの隣に並んだ時、ティアーナはふと思った。

(今日はわたしたち、何度も引き合わされたり引き離されたり……、なんだかおかしい)

彼女の青白い顔にかすかな笑みが浮かんだ。


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