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次の日の朝、ティアーナは言われたとおりに、まずドーラの家を訪ねた。ドーラは出かける支度をしていたが、彼女が来るとさっそく説明を始めた。
「いいかい、村の南外れの森の側にある大きな樫の木を知ってるかい?小さな祠が祀ってある木だよ」
「ええ、知ってるわ」ティアーナはうなずいた。
「そこから、森に入って、まっすぐ東へ向かうんだよ。森の中には木こりのつけた踏み跡があるが、幾つも枝分かれしているからね、間違えないように、東へ向かう道を取るんだよ。これを持ってお行き」
ドーラは小さな円形の平たい入れ物を差し出した。ティアーナが受け取って蓋を開けてみると、中には水が張ってあって、小さな細長い針が浮かんでいた。
「婆さま、なあに、これ?」
「これは方位を知る針だよ。こうやって水に浮かべると、いつも北を差すようになってる。おまえの行く方は東だから、この針の指す方向を正面にして、右手の方へ行くんだよ」
「ふーん」
ティアーナは不思議そうに針をつまみ上げて眺めた。そして水の上に戻すと、針はすーっと動いてさっきと同じ方を差して止まった。
「不思議ねえ」
面白そうに針をいじっているティアーナに、ドーラが注意を促すように語気を強めた。
「それから!いいかい、ここからが大事だよ。2時間ほど行くと、踏み跡がなくなって方位針も効かなくなる」
「効かなくなるって?」
「針の指す方向が一定でなくなったり、ぐるぐる回って定まらなくなるんだよ。知らずに進むと迷っちまう」
「どうすればいいの?」目を丸くしてティアーナが聞いた。
「それは賢者の結界に入った証拠なんだよ。結界を張って侵入者を防いでいるんだ。だから、踏み跡がなくなって、針が狂いだしたら、そこを動いちゃいけない。そこで叫ぶんだよ」
ドーラはティアーナの目の前で人差し指を振りながら、しわがれ声を張り上げたが、ティアーナはドーラの意図することがわからなくて聞き返した。
「叫ぶの?」
「そう!賢者さま、ティアーナが参りました、入れて下さいってね」
「でも、森の中で叫んだって、聞こえないでしょう?」
「聞こえるんだよ、ユリウスにはね。話はつけてあるから、声が届けばその先に行けるはずだよ」
「大丈夫かな……」ティアーナは少し不安になってつぶやいた。
「念のためにこれも持ってお行き」ドーラが赤いリボンを渡した。
「これ、どうするの?」
「目印だよ。所々木に結びつけといて、迷ってもすぐ元に戻れるようにするのさ」
「ああ、なるほど。ありがとう、婆さま」
「それじゃ、早くお行き。あたしももう出かけるから」ドーラがせわしげに促した。
「ええ、じゃあ行ってきます」
ティアーナは外に出て、馬の綱を解き上に乗った。後から出てきたドーラが声をかけた。
「くれぐれも気をつけるんだよ」
「はい」ティアーナは明るく返事して、馬を歩かせた。
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