第3場 1・出会い - 第4場 第5場

フリルド村の最奥に、東の森を背にして小さな礼拝堂と、孤児院と託児所を兼ねた“子供の家”がある。ティアーナは週に3日、ここで子供たちの面倒を見ているシスターを手伝っていた。彼女はその前を通りかかったが、この日は手伝う日ではなかったので寄らずに通り過ぎた。賢者との見合い話は内緒にしておきたかった。

小さな祠のある樫の木の下に来ると、ティアーナは意を決して森に入っていった。森の中は木漏れ日が差し込んで、意外に明るかった。踏み跡はしっかりしていて馬でも充分に進めたが、ドーラの言ったとおり何度も枝分かれしていて、その度に、慎重に方向を確かめなければならなかった。踏み跡が薄くなってはっきりしない所は、目の届く距離ごとに赤いリボンを目立つ木の幹や低い枝に結びつけ、不安になると元に戻ってもう一度確かめ直していたので、予定よりずいぶん時間が過ぎているような気がした。しかし、どのくらい経っているのか、どれだけの距離を進んできたのか、彼女にはもうわからなくなっていた。

ふと気がつくと、目の前に薮が広がっていて、踏み跡がなくなっていた。元に戻ろうと振り返っても道はない。いつの間にか踏み跡を外れてしまったのだった。リボンを結ぶのも忘れていて、最後に結んだリボンの所へ戻れるかどうかもわからなかった。

(やだ、わたしったら、ぼんやりしちゃって……)

馬から降り、あたりを見回した。森はシーンと静まり返っている。空を見上げた。木々の葉陰の向こうの太陽はすでに中天を過ぎていたが、それを頼りに元の道に戻れる自信はなかった。ティアーナは大きくため息をついた。困ってはいたが、不思議と恐くはなかった。それから思い出して、彼女は方位針の入った入れ物の蓋を開けて針を見た。針はゆらゆらと揺れ続け、定まることはなかった。

(もう、ここは婆さまの言ってた結界なのかしら……)

しばらく迷っていたが、やがて決心した。

「賢者さま!!占い婆さまのご紹介でやって来ました!ティアーナです!!そちらへ参りたいのですが、道がわかりません!どうか、教えてください!!」

大声で叫ぶと木々から鳥がバサバサと飛び立ち、一瞬騒がしくなったが、鳥たちが行ってしまうとまた静まり返った。賢者はどうやって自分のことを見つけるのだろう――ティアーナには見当もつかなかった。それ以上どうすることもできず、彼女は黙ってそこに立っているしかなかった。


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