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スカーレット<前編>(11月28日)
11月も末になり、街の風景はクリスマスの装い。
映画館では、クリスマスを越えてもう、お正月映画の封切りがそろそろ始まろうとしている。 『風と共に去りぬ』を観てから、いろんな方向に興味が広がり、同時に新作を観る 気持ちも萎えてしまっていたけど、そろそろ気持ちを切り換えないと… ということで今日は、ちょっと長尺映画のような「猫」です。(_ _)

<理解力のない女>
スカーレット・オハラというのは、理解力がない女なのだとつくづく思う。
数学と男を釣ることだけは誰が教えなくても、本能的にスイスイとできてしまう。
「炎の女・スカーレット」なんて言う人もいるけど、この点については 「本能の女・スカーレット」という感じがする。
ものごとの10分の1も理解できない女。
もし、理解できたとしても、言葉じりだけを捕らえた、ひとつまちがえば 反対のことに受け取ってしまうほどの理解力のなさ。 時にはその度合いというのは、コミカルでさえあるのだ。
悪いことに、客観性や知性も持ち合わせていないときているから、尚ことは やっかいになってくる。

例えばトウェルヴ・オークスのパーティで、レット・バトラーが、 「南部にあるのは、綿花と驕慢だけだ」と言い放ち、去って行く後姿を見ながら、 アシュレはこうつぶやく。
「まるで、ボルジア家の一族のようだ」
それを聞いていたスカーレットは、「その方って、彼のご親戚?」 とチャールズに聞く。
チャールズは答える。「イタリア人ですよ、ボルジア家というのは」
「なーんだ、外国人なのね」

フランクが死んだ直後、レットが求婚したときのこと。
罪の意識からか、自分を責め泣いているスカーレットに向かって、レットが言う。
「まったくナンセンスだよ、現行犯でつかまった 泥棒が、罪をしたことは後悔しないが、牢屋にぶち込まれるのが怖いと言って いるようなもんだからね」
「なんですって?私が泥棒ですって!」
そのあとの会話もこう続いていく。
「なんでみんな私を嫌うのかしら、私は何も悪いことは していないのに…」
「それは君がオポチュニストだからさ」
「オポ…オポなんですって?」
「機会を巧みに捉えて、ものごとを成し遂げる人間のことさ」
「それって、悪い意味なの?」

さらに、アシュレに対しては、もう救いようのない状況なのである。
「なんでこんな時に彼は、私にはまったく興味がない、役に立たないようなこと ばかりを言ってるんだろう。彼は何が言いたいのだろう」
そんな時は決まって「今考えるのはよそう、明日考えることにしよう」とか、 たまに一生懸命理解しようとしているときでも
「彼女は、懸命にその言葉の 意味を理解しようとしたが、野鳥のように彼女の手から飛び去って行ってしまった」という具合。

だから、アシュレが昔、スカーレットへの賛美をした過去に対しても、 彼独特の文学的な言いまわしや比喩、南部紳士としての 淑女に対する儀礼なんかはまったく理解しないで、「愛していると言ったじゃないの!」 と激しく彼を責めたてたってことも容易に理解できる。
(アシュレとて、自分にないものを持っている彼女を好きだったし、 ちょっとした本能的なスケベ心があったことは確かだと思う)

アシュレとのことは、彼女だけじゃなく、彼女の家庭環境にも原因はある。
"結婚というのは、似たもの同士が一番幸せになれる"という、何度も出てくる言葉を、 彼女が納得しなかったのは、彼女の気質もあるだろうが、 父・ジェラルドと母・エレンの姿を見ていたからでもあったと思う。

「お父さんとお母さんは、あんなに似ていないのに、 幸せだわ」
母・エレンは16(15だったか…)歳の時に、ジェラルドについてタラに輿入れしてきた。 近所の人たちみな、奇跡だと陰で言い合っていたが、奇跡なんてそうそうあるわけもない。 エレンは、いとこのフィリップ・ロビヤールとの結婚に敗れ、修道院に入るのを反対されて、 ジェラルドとの結婚を選んだのである。
タラに来た時すでに、エレンの心は墓の下にあったということなのだ。 キリスト教っぽい言い方をすれば、自分を捨てて奉仕するっていう感じなのかな?
考えてみると、似ていない者同士の結婚は、どちらかが自分の心を墓の下にでも、 しまいこまないと成り立たない、とまあ、そういうことかもしれない。

そんなことをつゆとも見せない母親、そしてそれに何の疑問も持たない幸せそうな父親を見ていて、 スカーレットが「アシュレとだって、幸せになれるわ!」と思っていたとしても誰も 彼女のことを責められないだろう。それはあくまで、メラニーと結婚する以前の話であれば、 ということなのだが…。

<気付かない女>
レットというのは、その辺の紳士ぶったヤワな男とは違って、 度胸もあるし、行動力もあるし、客観性も、知性も持ち合わせた頼り甲斐のある 地に足つけて生きている男である。 大義のために負け戦に出て行ってしまう、男のロマンも持ち合わせても いるけれど、そこがまた私には魅力だったりする。
(映画の中のクラーク・ゲーブルが、またその魅力を倍増させていることも確かだが)
いくら愚かなスカーレットでも、ごく早い時期から、レットと過ごす時の不思議な安心感と、 彼女の言動を理解し、賛美してくれる彼に「どうしてだろう…」と疑問を持ってはいた。

レットの愛情は、命がけの愛情だった。現に、彼女を助ける時は、 いつも自分の命や立場を危険に晒す状況だったのだから。
例えば、スカーレットが心配で、陥落寸前までアトランタに留まっていたし、 自腹を切って、北軍の収容所からアシュレを救い出したし、戦争後は、途中で 残してきたスカーレットのことを心配して、自分が"吊るされるかも知れない"ことを承知で、 ノコノコとアトランタへ戻ってきたりもしている。 クラン団の襲撃騒ぎの時も、結果としてはフランクは救えなかったけれども、 アシュレたちを助けたりもしている。

それほどレットは、スカーレットに惚れこんではいたが、愚鈍な男ではないから、 他のダンナ衆たちとは違って、美しい彼女から次々と出てくるひどい癇癪や、 弱いものいじめが好きな彼女に打ちのめされないよう、からかってみたり、 皮肉を言って、巧みに自分の弱みを見せまいと立ちまわっているのが見え隠れする。
そんなレットの気持ちは、ポケットに入れている握りこぶしも 語っている。
300ドルを無心しにきたスカーレットに、何もしてあげられない 自分が悔しくて、彼はポケットの中でずっと拳を握り締めていたり。
でも、そんな切ない彼の気持ちを、何も気付いてあげないのだ、あの女は!

そんな彼女に、レットが結婚をせまったのは、中年に達しようとしているレット・バトラーという 山師の"最後の賭け"だったんじゃないかと思う。お金でもなく、家でもなく、 自分自身の人生をかけたんだから、半端な気持ちではなかったことは私でさえわかる。
スカーレットを自分の妻にし、なんとかアシュレを忘れさせようと、 レットはいろいろな努力をするのだが、スカーレットは何も変わらないのだから、 結婚生活を送るのも、いよいよ困難なモノになって行く。

アシュレを思って遠い目をするスカーレットにイラつき、嫉妬に狂いそうになった時は、 レットは決まってプィと家を開け、何日も帰って来なかった。 先にも書いたが、レットという男は、自分の感情を、見た目だけでもコントロール できる男だから、そうやってその場をしのいでいたわけである。
にもかかわらず、嫉妬と彼女の魅力に、我を忘れてスカーレットを抱きかかえて階段を 登ってしまったレットは、後悔と恥ずかしさとスカーレットに嫌われたくない、 と恐怖に震えて、5日も帰って来なかったあげく、別居をしようと決心する。 スカーレットに足元を見られたら、どうなるかわかっていたし、 彼の自尊心はそれを受け入れることはできなかったからだ。

だがしかし!!
そんなレットに気付かない彼女は翌朝、幸せ一杯!
再び「本能の女・スカーレット」になってしまうのだ。「動物的な歓喜の世界、 レットを征服した。私の足元にひざまづかせた」という満足感で。
ここで、スカーレットが気付かなかった、重大なことがひとつある。
その幸福感は、「ホントに好きな男に抱かれた」幸福感もあるのだ、ということ。
ここまで来ると「いい加減気付きなさいよ!」と、スカーレットのように 癇癪を起こしたくなってしまうほどである。

<懲りない女>
スカーレットは、メラニーのやさしさの中にある勇気と気高さを理解しなかった。 レットを理解していなかったから、レットに去られてしまった。 アシュレの真の姿を理解していないから、アシュレを愛してしまった。
そして、これらの元凶はどこにあるかっていうと、ひとえに、 「あんなに大事にした、自分のことさえ理解してなかった」ということにつきると思う。
スカーレット・オハラは、理解力、知性、客観性のなさで、手元にある幸せを "気付かぬうちに"投げ捨ててしまった女なのだ。
そして、彼女がその大切さ、やさしさに気付くのはいつも、それが目の前で音を立てて崩れていき、 なくなってしまう時だけなのだ。

彼女は自分の愚かさに、本当に気付いたのだろうか?
レットが去っていく時、彼はどうして自分がこんなになってしまったのか、 スカーレットをどんなに愛していたか、自分はこれからどうして行きたいのかを淡々と語る。
「俺の言ってることがわかるか、スカーレット?」
「いいえ、わからないわ。私にわかっているのは、私があなたを 愛しているということと、あなたはもうあたしのことを愛してないっていうことだけよ!」

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