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カエル 映画日記7月号…『バベル』



『バベルの塔』・・・この人間の高慢な企てに怒った神は、彼らの言葉を混乱させた。以来、世界には様々な言語が存在することになる。

 物語は、モロッコの羊飼いの少年が、遊び半分に撃った一発の銃弾から始まる。モロッコからアメリカ、メキシコ、そして日本へと舞台 は往き来する。おごれる者の代表は、アメリカとわが日本。狩りのガイドをしてくれたモロッコ人へのお礼として日本人からプレゼントさ れた銃。それが、アメリカ人の観光客を銃撃する武器となる。

人の命よりも「これは犯罪にはならないのですよね」と、自分自身のことを まず心配する日本人。日本のテレビでは事件が報道されるも、すぐにチャンネルが切り替えられ、誰も関心を示さない。この無神経、無関 心。妻が銃で撃たれたアメリカ人観光客。妻のためには、身体が弱っている他のツアー客のことなどはお構いなし。親切にしてくれている 現地人にも当り散らす始末。また一発の銃弾で、国際問題にまで発展していってしまう、アメリカ政府の神経過敏。

さらに言えば、妻を助けたモロッコ人へのお礼にドル紙幣を手渡そうとする無神経ぶりは、銃をお礼にあげた日本人とも重なってくる。 一方貧しいモロッコ人と、メキシコ人の無知。なぜ、子供に銃を持たせなければならなかったのか。なぜ、自分の子供のように愛していた アメリカ人夫婦の子供たちを危険な目に合わせてしまったのか。

人々は、それでも懸命に理解しあおうと、努力する。離婚寸前のアメリカ人夫婦しかり、聾唖の娘を持つ日本人の父親しかり。しかし、共 通言語を持つ彼らでさえ、言葉は無力な存在でしかない。

今、世界は傲慢と無知の間で引き裂かれている。人類は、神が与えた罰、言葉の混乱以上に深刻な、世界分断のときを迎えたかのようであ る。そして現代のバベルの塔の象徴としてスクリーンに映しだされたのは、東京で今流行りのタワー・マンションであることに、私たち日 本人は思いを馳せるべきである。

<作品データ>
スタッフ
監督/アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
製作/スティーヴ・ゴリン
ジョン・キリク
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本/ギジェルモ・アリアガ
撮影/ダグラス・クライズ
編集/サラ・フラック
音楽/グスターボ・サンタオラヤ
キャスト
ブラッド・ピット
ケイト・ブランシェット
ガエル・ガルシア・ベルナル
役所広司
菊地凛子
メイルちょうだいケロッ

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