68. サービスの悪い店 (2000/7/9)


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サービスの悪い店は潰れるべきである。と言うと言い過ぎなので改めよう。サービスの良い店のみが繁盛するべきである。

■あるパスタ屋

一年以上前、私の職場の近くに新しいパスタ屋が出来たので、開店してすぐに通い始めた。そこの店は、ランチでパスタとピザをやっており、日替わりパスタのセットが千円からあったので、私はもっぱら日替わりパスタのセットを頼んだ。セットなので、パスタ本体と、小品が三つ付く。オードブルまたはデザートが毎日十種類くらいあるので、その中から選ぶのである。食後にはコーヒーか紅茶がつくので、私はいつもストレートティを頼んでいた。

パスタはゆでるのに時間が掛かる。すぐに出てくるのは、既にゆであがったパスタを使っている店だけである。この店も例外ではなく、料理が出てくるまで時間が掛かった。最低 15分は待ったものである。そこで私はいつも、文庫本を一冊持っていって、待ち時間にそれを読むことにした。

待ち時間が気にならなくなると、ますます味で昼食の店を選ぶようになる。私はこの店に行く頻度を上げていった。当時友人から「名探偵コナン」という漫画を借りていたので、漫画も読むことにした。

ところがある日、私の中では重大な事件は起きた。30分たっても来ないのである。そこで私はウェイトレスのおばさんに手を上げてアピールし、おばさんが近づくと「30分待っているのですがまだですか」と言った。そのおばさんは慌てて厨房に確認に行き、それから少ししてパスタが出てきた。遅れたのだとは思えない。忘れていたのだろう。にしてはそれから早く出てきた。私のあとの客に出す分を私にまわしたのだろうか。

ここまでならまだ良い。私は、昼休みが終わってしまうので慌ててパスタを食べ、紅茶を急いで飲んだ。本来ならば、紅茶を飲みながらくつろいで漫画を読む時間である。私はかなり不愉快になったが、このときはまだミスに対してまだ寛容になれそうであった。しかし、私はこのあとの店員の対応に非常に腹が立った。彼らは私に謝ってくる。私は三人ぐらいから謝罪を受けた。彼らは「申し訳ありませんでした」と言う。ニコニコと顔に笑顔を浮かべて言うのである。愛想を出しているのだろうか。私は、これは違う、と思ったので終始ムッツリしていることにした。客を馬鹿にしているのではないだろうか。普通、小さくはないミスがあったときに、愛想を浮かべるだろうか。客を 30分待たせるというのは、愛想を浮かべて謝罪して済むほど軽いミスなのだろうか。

私が伝票を持ってレジに向かったとき、レジの係りがこれまた愛想でニコニコしながら、
「申し訳ありませんでした。セットの方の料金はサービスさせていただきます」
と言った。つまり、千円を八百円にまける、ということである。私は最後のこの言葉でさらに腹が立った。私は、半額にまけろ、と言いたいのではない。このような場合、客に対して謝罪を受け入れるかどうかを訊くのが筋ではないだろうか。つまり、
「申し訳ありませんでした。セットの方の料金をサービスさせていただくということでよろしいでしょうか?」
せめてこのくらいは言うべきである。そして、客の承諾を得た上で愛想を浮かべるのならばそれもよかろう。

30分も待たせるのは、契約違反とまでは言わないが、客の期待を裏切る行為であることは確かである。客がサービスの対価として千円支払うことに同意し、店は客にサービスを提供することになったわけであるから、店のサービスに欠陥があったときには、店は客に対して許可を求めるのは当然のことだろう。

私はこの日以来、この店に行くのをやめた。私に言わせれば、この店はヘラヘラした素人の集まりであり、金を払う価値はない。

余談だが、この店のパスタの味は悪くなかった。ただし、量が少なく、値段も高めだと私は思う。少なくとも私は、パスタセットの千円という価格を、ゆっくりと食後の紅茶を飲みながら本を読む時間も込みで考えていたので、あわただしく熱い紅茶を飲み干した先の体験は許せなかったのである。

■秋葉原のパーツ屋

秋葉原でパソコンのアセンブリパーツを売っている店の中で、小さくてマニア好みの店に行くと、店員同士が私語を大声で話していることが多い。客はほとんど何も喋っていないので、店内は店員同士の声だけが聞こえる状態にある。普通の人ならば、この状態だけで異常な感じがするはずである。だが、秋葉原とくに少し前までは常識的なことだった。

最近では大きな店が出店してきて、マニア好みの店が多かった時の代表的な店である TWO TOP の親会社が、会社更生法の適用を受けることにして事実上倒産した。この店は立地条件が悪いので、最近出店してきた大きな店の影響をモロにかぶって、特にゴールデンウィーク中の売上を見込んで仕入れた商品があまり売れずに不渡りを出したらしい。

この店の店員も私語が多かった。最近出店してきた大きな店では逆に店員は事務的である。TWO TOP は一時期非常に人気のある店で、店内が狭くて込むため、私は特に店員の私語とは無関係にこの店から足が遠のいていた。そして突然潰れた。

私は話に聞くだけなのであるが、ひどい店になると、たったいまレジで商品を買っていった客のことを、すぐに店員同士が私語の話題に上げるそうである。「あの客さあ…」。これは非常識を通り越して異次元である。ちなみにこの店はいまも営業している。

ぷらっとホームというマニア好みの店があるのだが、私は最近その店に行ったときにやはり違和感を感じた。店員が私語をして、客が黙って商品を物色している。店員は時折私語をやめて「なにかお探しのものがございましたらお申し付けください」と大声で客に呼びかける。そしてすぐにまた店員同士の私語に戻るのである。彼は客のことを考えてい…るのだろう。しかし私には、サービスが良い悪い以前に異次元的なものを感じる。展示されている商品に「この商品に絶対に触れないでください」と書いてあるものがあったりするのも不愉快である。

最近私の行きつけのパーツ屋で、突然客に対して話し掛けてくるようになった店があった。私は驚いた。その様子は詳しくは ブック型ベアボーンキット (1) に書いたのでここでは省略する。こういう店では親切なのも私からすれば困るのだが、少なくとも店側に非はない。消費者は好みで店を選べばよいだけの話である。この店では店員同士の私語は一切ない。

私が知る中で最も客に対する応対の良いパーツ屋は、ZOA である。前も言った気がするが、この店はどの店員も対応が良い。言葉遣いが非常に丁寧なのも、些細で或いはどうでもよいことなのかもしれないが、私の心象を良くしている。女性の実力フロア主任がいるのもポイントが高い。

■中華料理屋

私がずっと行きつけている中華料理屋というよりラーメン屋がある。ここ半年ばかり別のところで働いていて、戻ってきて早速足を運んだ。その日はよかったのだが、その次の日だったかどうか忘れたが、頼んだラーメンが少し遅くて、そして何より我慢できなかったのは麺がのびていたのである。こんなことは、数十回来た中で初めてである。ラーメンを持ってきたウェイトレスが多少申し訳なさそうにラーメンを置いたのは覚えているが、はっきりした謝罪を受けたわけではない。私は少し腹がたった。しかもその二日後くらいにまた来たときも麺がのび気味であった。

しかし私はいまもこの店に通いつづけている。この店の店員は、恐らく全員中国人である。少なくともウェイトレスの一人は、あるとき客のおやじが彼女に「中国の人?出身はどこ?」と訊いて「福建です」と答えていたのを私は聞いていた。私は、中国人というのは自己中心的でミスを認めない人種だという偏見を持っているのだが、この店の店員には一切そのようなことがないように思える。

私がこの店に通いはじめてからしばらくして、辛いラーメンが食べたくなって、どのラーメンが辛いのかをウェイトレスに聞いたことがある。するとそのウェイトレスは、コックに聞いた。私はこのときカウンターに座っていたので、私はコックと直接会話をした。コックは少したどたどしい日本語を使っていたので少なくとも日本人ではない。結局、四川ラーメンか四川味噌ラーメンが辛い、という答えが返ってきて、私はそれを頼んだ。四川ラーメンは私好みの辛いラーメンだったので満足した。

私はこの中華料理屋の二度のミスに寛容だったが、パスタ料理店の一度のミスは許せなかった。パスタ料理店の店員は、客をちゃんと客として見ていないようなおごった雰囲気を私は感じたのである。一方、中華料理屋の場合は、きちんとした謝罪の言葉は聞かないが、常に客に対する配慮というものを感じる。言葉ではない。雰囲気である。

まあ私の手前勝手な判断もあることも認めよう。


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gomi@din.or.jp