21. メガミックス (1999/1/29)


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ファイナルファンタジーVIII の発売日 1999/2/11 が近づいてきた。今回は妙に主人公たちが劇画調になっている。前作 VII は少年漫画風だった。最近の私はゲーム誌をまったく読んでいないので、このファイナルファンタジーVIII(以下 FF VIII) がどんなゲームなのかさっぱり分からない。最近よくテレビで流れているコマーシャルから内容を想像することができようか。

この FF シリーズは、マニアックなゲーマーからは評判が悪い。なぜだろう。特に、ゲーム制作の専門学校の学生からも評判が悪いらしい。FF だけではなく、このシリーズを作っているスクウェアのゲームはみなマニア受けが悪い。

私自身は、FF シリーズはそれなりに好きである。が、ファンにはなれない。なぜか。それは、このゲームが基本的に「メガミックス」な作品だからだと私は思う。

メガミックスとは何か。簡単にいえば、過去の作品から断片断片を取ってきて貼りあわせたもののことである。だから、いまなんとなく流行っている DJ 音楽というものは、完全にメガミックスである。というか、メガミックスという言葉は DJ 音楽 から生まれた。

FF は完全にメガミックス作品である。私に言わせれば、これまでに作られた沢山の物語、つまり小説や映画などから、人々が感動したり面白いと思ったプロットやシチュエーションを、かなりそっくりそのまま取り入れている。だから、私は FF をプレイしていると、確かに面白いなと思ったり、たまに感動したりするのだが、それも全て「どこかにあったプロットだな」と思うし、その引用がそっくりまんまだったりすると白ける。

よく言われることは、あらゆる物語は既に紀元前の間に作られている、ということである。だから、それ以降に作られた物語は全て模倣や再構成であると言える。もちろん、模倣はともかくとして、再構成は立派な創造である。シェイクスピアは偉大な脚本家かもしれないが、基本的に大衆のためにそれまでの物語を再構成しただけに過ぎないが、再構成が優れているのでよく引用されたり教養となったりしている。

近代になって、私はあまり詳しくないのだが、ユリシーズというこれまでになかった革新的な小説が書かれたらしい。だが、革新的だからといって、多くの人々が読むわけではないし、読んで面白いだとかより感動するだとかいうことはまったくない。結局、人々は再構成によって作られた作品を鑑賞して楽しんでいる。

音楽にもこれは言える。前衛音楽がメジャーになって前衛ではなくなることはおそらくありえない。

一口に再構成と言っても、さまざまなものがある。たとえば、シェイクスピアの作品の、登場人物や背景だけをそのまま現代人や現代風にした作品もあれば、親子の葛藤といった核の部分だけを引用して、あとは作家自身が話を考えたものもある。もちろん、その作家がいかに自分の頭だけで考えようと、おそらくその作家が考え出す以前に似たような話はあるのだろうが、それでもその作家が新しく作った作品にはその作家の考え方やこれまでの経験などが反映され、再構成のされかたにもその作家の色が出て面白い。

FF はどうだろうか。おそらく FF にもシナリオライターがいるのだろうが、おそらく一人ではありえない。この点に関しては、ライバルであるドラゴンクエストのシナリオライターが一応堀井雄二一人だけであることと非常に対照的である。あるいは FF もシナリオライターが一人なのかもしれないが、少なくとも前面には出てきていないので、おそらくスタッフのブレーンストーミングとかによってシナリオが作られているのかもしれない。

複数の人間の手によって再構成された作品はどうなるか? 私に言わせれば、そんなものは再構成作品のクズである。何の個性もなく、ただ単に

  1. 誰もが面白いと思えるような没個性のプロット
  2. より刺激的で強烈で単純なプロット

が生まれるだけである。少なくとも文学的な価値はない。もちろん、大衆受けする面白い作品にはなるだろう。

これに対して、堀井雄二のドラゴンクエストのシナリオには、ちゃんとこの堀井雄二という人間の個性が出ている。少なくとも私はそう思う。たとえば、雪女に出会った男が雪女との約束を破ってしまい、自分の村の人間がみな凍らされてしまい、主人公が数十年後に現れて雪女を倒して村人が元に戻ったときには、その村の人間の誰もがその男のことを知らない、というイベントがあるのだが、その男が言う言葉「若い頃の過ちが取り返しのつかないことになることもあるんだ」には、堀井雄二という一人の人間のパーソナリティを感じる。このイベントは正直いって、普通のプレイヤーの記憶には残りにくいだろう。いわゆる「テレビ的ではない」ものである。このイベントだけ浮いている気もする。だが、私はここに文学を感じる。

アニメの世界でも同じことが言える。アニメオタクから絶賛されたアニメだとか、彼らから絶大な支持を受けている人が作るアニメには、必ずいままでに作られたアニメをモザイクしたような作品が多い。比較的最近まではやっていた「新世紀エヴァンゲリオン」にも、さまざまな引用が用いられている。

例外もある。ガンダムシリーズの生みの親である富野監督は、ガンダムの小説版も書いているのだが、その小説にはかなりの作家性がある。彼の文章は「読みにくい」だとか「文章が下手だ」との評価を受けているようである。それはともかくとして、小説版のガンダムには、あまり大衆受けしないような、作家の内面やこだわりが含まれている。物語として読んだ場合には、主人公が突然脈絡に欠ける独白をすることが多く、作品としての完成度には欠けるかもしれないが、この作品には私は芯を感じる。

話を FF に戻すことにする。

私は FF VII は素晴らしい作品だと思う。私は、素晴らしい作品かそうでないかを図る指標として「どれだけ思い出として残っているか」を重視している。たとえば、テレビドラマなんかを例に取れば、本当に面白い連続ドラマだと、そのドラマが終わることが寂しく思えるものである。それは、その作品世界との別れを感じることから来ているのだろう。そんなとき、そのドラマは視聴者にとって「思い出」となるのではないだろうか。私の場合、FF VII は思い出として残っている。

FF VII の素晴らしいところは、各プロットがあまりつながっていないことだと思う。大抵の場合、素晴らしい作品というものは、物語全体をまず一本の巨大な筋が貫いていて、最初のうちは細かな複線や小さなプロットがいくつも語られて、そのうちに物語を貫く大きな筋につながっていくものである。ところが、FF VII の場合はそれがまったく当てはまらない。個々のプロットはバラバラである。あのゲームをクリアした人には分かると思うが、あのゲームはクリアの達成感がない。最初はレジスタンスに巻き込まれる主人公があり、そのあとセフィロスという人物を追って、主人公の本当の過去を追って物語りが進んでいくが、そんなものは無いも同然である。個々の小さなプロットをただ結び付けるためだけに用意されているとしか思えない。その証拠に、個々のプロットの目的は全体の目的とは全く関係が無いのである。それに、登場人物一人一人の物語も、主にその登場人物が登場した時だけしか語られないのである。

当然のことながら、個々のプロットもそんなに特別素晴らしいものではない。プロットは基本的に「場所」を中心に語られているのである。その理由は想像に易い。それは、このゲームが CG ゲームのはしりでもあるからである。CG で個性的な場所をまず作ったのだろう。巨大な工業都市、軍事都市、平和な町、巨大な遊園地、ウエスタン、など、このゲームに登場する「場所」は非常に個性的であり、グラフィックも素晴らしい。だが、物語ははっきりいってそのグラフィックスに後づけされたものとしか思えない。

この「場所」をメインにした構成は、私は素晴らしいと思う。物語は大して重要ではなくなる。自分がゲーム内の世界で、どれだけ印象的な場所にいるのか。旅行番組というものが成立していることから分かるように、場所というものはそれだけである種の物語を含んでいる。FF VII はその点を逆さに取ったのだろう。とにかく印象的な場所を作る。場所さえ作れば、その場所から「物語を引用する」のである。たとえば、夜の遊園地、それだけでプレイヤーは沢山の物語を想像できる。その中から、多くのプレイヤーにとって最も印象的な物語を、他の作品から引用するのである。

そんなプロットが延々つながってくると、プレイしている方は妙な気持ちになってくる。これは何かに似ている。夢みたいなのだ。まさに白昼夢と言ってよい。面白い夢を見たあとの朝は、見た夢をかみ締めようとしたり、忘れないよう覚えておこうとするものである。私は、FF VII をクリアしたあと、この脈絡の無いながら素晴らしい白昼夢を覚えておこう、と思った。要するに、二回目のプレイはしないぞ、ってことだという話もあるが。

おそらくファイナルファンタジーVIII は面白いだろう。買うことは勧めないが。私は発売日に買うつもりはないが、必ずいつかプレイする。それに対してドラゴンクエストの続編はようやく今年中に出るという CM が流れたが、いつになるのか決まっていないようである。

面白ければなんでもいいのかもしれない。

だが、プレイしているこっちが恥ずかしくなるようなべたべたのパターンを堂々と出すのはやめてほしい。

それにしても、フロントミッションII はいまから思えば最悪のゲームだった。ディテールに凝って、ゲーム性がスカスカだった。スクウェアがマニアに受けが悪いのも分かる気がする。ファイナルファンタジーVIII が不評だと面白いのだが。


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gomi@din.or.jp