19. 超自作マシン (1999/1/15)


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気づけば更新が一週間ごとになってしまった。ネタは三つか四つほどあるのだが、今回のテーマのことに関して随分と時間を使ったので、書く気が起きなかった。さて今回は、タイトルが安易なものとなってしまったが、最近自作したマシンは「超」が付くほど素晴らしいものとなった。

自作マシンとは、ちょっと知識がある人にはいうまでもないことなのだが、ここで念のため解説しておくことにする。自作マシンとはいわゆる IBM PC/AT互換のパソコンをパーツから組み立てたもののことである。IBM PC/AT互換とは、日本ではいわゆる DOS/V マシンと呼ばれているもので、PC9801 シリーズが日本から駆逐されて以来、パソコンと言えばこれのことであり、Windows の動いているパソコンのほとんどがそうなのである。

PC/AT互換のマシンは、雑誌による情報によれば、多少物を知っている人ならば、メーカー製のマシンを買うのではなく、初期の頃でも自作することが多かったらしい。PC9801 が全盛だったころも、安くて性能の高いパソコンを求める人は、自分たちで秋葉原でパーツを集めて作っていたらしい。

いまでは、自作マシンはマニアでなくても作るようになった。初心者向けのパソコン雑誌にも特集とかちょっとした記事があったり、自作を勧めるような内容の記事をよく見かける。そんなわけで、マニアではない私もずっと自作に興味を持っていた。はっきり言って私は、自分のパソコンを買うときに、自作マシンにするという選択肢については一切考えていなかった。とにかくノートパソコンが欲しかったためなので仕方が無い。現にこの文章は VAIO で書いている。

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私が自作をしたいと思うようになったのは、元をたどれば何かの雑誌を見たりとか、友人が実際に自作したりとかしたことなのかもしれないが、自作が現実的になったのは、VAIO を買って再びパソコンに興味を向けるようになってからである。馬鹿なことに、ノートパソコンを買ってから、あることに気づいたのである。自作パソコンなら、同じ値段のノートパソコンより倍くらい性能のいいパソコンが、ディスプレイ付きで二台作れるということである。

以来私は、パソコン雑誌を見つつ、自作をしようかどうしようか考えたわけである。だが、前にも書いたとおり、既に VAIO を持っている私には、もう一台パソコンを持つメリットはない。いや、3D ゲームをするには 3D 性能の高いビデオカードを装備したパソコンが必要なのだが、特に私はそんなゲームをしたいとは思わないので意味はない。あとは、会社で使うサブマシンという用途があるのだが、リースされたマシンは PentiumII-333 なので、仕事をしたりサボってネットサーフィンとかしながら MP3 を聴いても全然音落ちがしない。ちなみに、私のこの VAIO は、メールを書きながら MP3 を聴くだけでも、MS-IME98 の変換のときなどによく音が途切れる。あとは、Linux 入れて Proxy サーバにする手もあるが、私はそんなにネットサーフィンに狂っているわけではないのでそれほど意味がない。BeOS を入れるのはしゃれになるかもしれないが、使う意味はない。

それに引き換え、私の親しい同僚の二人は、自宅に古い Pentium 100,120,133 クラスのパソコンしか持っていなかった。彼らは十分に自作する意義がある。だが聞いてみると、実際のところそんなに不自由していないらしい。強いて言えば、HDD の容量が足りないだとか、描画速度が遅いだとか、それなりの不満はあるようなのであるが、彼らは足るを知っているのか、単に鈍いだけなのか、それだけの理由では新しいマシンを作ることに消極的なのである。

そんな中、一人の同僚が突然年賀状に「今年は自作マシンを作りたいと思います」みたいなことを書いて送ってきた。とうとうやる気になったなと思い私は喜んだのだが、彼はすぐには作る気はないようだった。それもそうかもしれない、なにせ年賀状に「今年は」と書いているということは、今年中に造り始めることを目標にしているだけで、すぐにその自作が彼の中に具体性を帯びてくるわけではないようだった。

というわけで、私は痺れを切らした。こうなったら自分が自作して、彼らにアピールしてやろう、と思ったわけである。こうして私は、自分の中では全く存在理由のないマシンを作るために動き出したわけである。

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こうして私は雑誌を見たり、インターネットのショップのページを見たり、実際に店に行って物色したりしたのである。確かに色々なパーツがあって面白そうだった。だが、やれケースのデザインが悪いだとか、前に書いたように Micro-ATX のくせに大きいだとか、めぼしを付けたマザーのオンボードサウンドチップが気に入らないだとか、いまいち実際にパーツを買うための敷居を超えられなかった。最後まで ATX にしようか Micro-ATX にしようか NLX,LPX にしようか悩みぬいた。あるショップで NLX のデザインのいいベアボーンキットがあって、これなら職場と家とで持ち運びが出来て、仕様用途をでっち上げられる、組み立てる手間も少ないし! と喜んでいたら、あることに気づいた。実は、自作する第一の目的が、実際に作ることではなく、もう一台の手軽な PC を買うことに代わってきていたのである。

そう思った背景は主に、私が自作マシンを職場で組む気でいて、主なパーツなどを昼休みや定時後に買い揃えなくてはならなかったことにある。別に休日に店に行って家で組み立ててもよかったのだが、それでは第一の目的である「同僚に自作をアピールする」ということが出来なくなる。それではまずい。だから、昼休みとかに、どの店のどのパーツが安くて良いか、などを調べて、昼休みや定時後の短い時間にパーツを買い揃えなくてはならないのである。さらに、物色の方が時間が掛かるので大変である。昼休みに昼食も取らずに、電気街の奥の方にあるショップを目指すのである。特に ZOAFlipFlap のあたりまで行くと、昼抜きでかつ物色する時間も少なくなる。そういうことを繰り返すうちに、パーツを買うのも組むのも面倒になってしまった。特に、奥の店に行くにしたがってパーツの信頼性に不安が出て来たりして、自分の投資が無駄になることを思えば、自作第一歩なのだし NLX ベアボーンでいいかなと思ってきたのである。しかもそのベアボーンはデザインが良かった。Micro-ATX と比べてもずっと小さいそのボディ。気に入ったデザインのものが見つからない Micro-ATX で無理するよりもずっと妥当であるように思った。

だが、転機は突然訪れた。たまたま寄った TSUKUMO パソコン本店II(?) のケース売り場に行った時に、突然入り口付近にあるケースを見つけ、なんというか「ビビビッ」と来たのだろうか、即断即決で買ってしまった。そのケースは、小さいことに加え、3.5inch シャドウベイを二つ持っていた。と言っても知らない人には何のことか分からないだろうから、のちの解説を待っていただきたい。(ついでに言えば、この店で買ったケースの価格は 9,800円だが、ソフマップでは 8,800円、秋葉原の奥の方の店では 8,000円で売っていたらしい。この程度で言うのもなんだが、秋葉原は奥が深い…)

はっきりいって、マザーも CPU も買っていないうちに、いきなりケースだけ買ったのである。仕方がないのである。ケースだけでも何かわくわくするものがある。私は早速職場に持って帰り、同僚に見せた。翌日にはダンボールから出して机の上に置いた。彼らも興味を持ってそれを見ている。私も、中身のないケースだけなのだが、なんだかうれしくなってくる。ちなみに、ケースには電源がついているものなのだが、その電源の初期不良保証期間が一ヶ月なので、それまでに他のパーツを買い集めて組み立てなければならない。

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しょうがないので、ケースを買ったその日に、私はフレックスを利用して三十分早く仕事を切り上げ、他の部品を買い集めることにした。もう矢は放たれたのである。ショップの閉まる 19:00,19:30 という時間に間に合うように足早に出かけた。私は早速、最も職場から近いパソコン工房という店に向かった。ちょっと詳しい人ならば、私の職場は万世橋の近くにあることが分かるかもしれない。その店は品揃えも悪くなく、一部のパーツではプライスリーダーというか、むしろ値段付けが多少孤立していると言えなくもないくらい安い店だった。そこで以前からめぼしを付けていた Micro-ATX の Socket7 のボードを買おうと思ったのであるが…。なんと、つい二日前にあったものが、売りきれてしまったのである。あせった私は、仕方が無いのでマザーボードは電気街の奥にある店で探すことにした。恐らく 1000円〜2000円くらい高く買うことになるだろう、と思いながら他の店を当たったのだが、なんと四店ばかり著名な店に行っても全く置いていなかった。Socket7 は衰退してしまったのだろうか…?

あきらめた私は、そのあと安いドライブとかを売っている ZOA へと向かい、そこで CD-ROM drive と FDD と HDD 2.5inch⇔3.5inch コネクタ変換部品を買った。まだマザーボードや CPU も買っていないうちからドライブ類を買うのもどうかしてたかもしれないが、買い物の効率は何より優先されなければならない。だが、この店で見た或るものが、私の買い物の方針を一転させる。それは、先に私がめぼしを付けていた Socket7 のマザーと同じ会社で、音源チップは良いものを積みながらも Slot1 用のマザーである EP61-BXC-A が 19,800円で売られていたのである。しかも店の目玉商品として、である。安いのではない、高いのである。ZOA は自ら「秋葉原で二番目に安い店」という多少気の利いた(多少寒い)文句を歌っているのであるが、間違い無くこのマザーに関しては、下手をすると「秋葉原で二番目に高い店」なのではないかという値段である。しかも笑えることに、Celeron 300AMHz をハードディスクかマザーとの抱き合わせで売ろうとしていた。

そこで私は考えた。実は、EP61-BXC-A はパソコン工房(私の職場から最も近い店)では 15,800円で売られていたのである。ZOA より 4,000円安い。二割安いのである。もっとも、ZOA が高いのではなく、パソコン工房が安いのである。なぜかはしらない。著名店である FlipFlap あたりでも 17,800円くらいだったと思う。ちなみに、著名店 TWO-TOP にも行ったのだが、なんという運の悪さか、この日はちょうど棚卸だとかで休みであった。この店が開いていれば、例の Socket7 の方のマザーも買えたかもしれない。まあ、最近はこの店もそんなに安くはないし、むしろ安心や保証を売る傾向にあるので、私にとって大した影響はない。

そこで急遽、Celeron マシンを作ることにした。この決断は異様に早かった。私にとって、CPU が K6-2 だろうが Celeron だろうが関係ないのである。よりによってマザーボードの在庫によって CPU が選ばれるとは、AMD も災難である。最近では店によっては Socket7 の扱いを大幅に縮小していたりするので、いかに Socket7 の次の華である Sharptooth (K6-3) がすぐに出てきたとしても、その頃にはショップにマザーボードが少なくなっている可能性が高い。

となると次の行動は早かった。パソコン工房まで急いで戻り、閉店まで 25分くらいのところで色々と物色した。この店の品揃えに関する唯一の大きな欠点は、おそらくグラフィックカードだと私は思う。まあ、クレバリーのダンボール棚にバルク品の山積み、などと比べるのは筋違いだとは思うが、それでももう少し何かが足りない気がする。まず 10分くらいグラフィックカードで悩んだ。結局 CARDEX という知らないメーカーの製品を買った。この選択の念頭には、私が自作に失敗して部品が無駄になることを考慮して、とにかく安めで、しかも成功したことも考えてそれなりのものにすることである。チップには、企業向けに定評のある ATI 製のものが使われているので、それだけで CARDEX というメーカーは無視して信頼してしまった。AGP で 8MB 積んでいて 6,800円という値段も気に入った。4MB のものは 4,800円で、これでも十分なのだが、2,000円足すだけで 8MB になるという魅力に勝てなかった。ちなみにあとで、DOS/V パラダイスで Creative Graphic Extreme という 3D のエントリー的なカードを 5,800円だか 4,800円だかで買えば良かったと後悔した。ATI RAGE IIC では、いかに 8MB 積んでいようが、3D はほぼ駄目な上に 2D もそんなに性能が高いわけではない。他に、RIVA128ZX を積んだカードが 7,980円で、このカードはそれまでのただの RIVA128 の、高性能ながら画質に癖があるという欠点を克服して性能も上げたものであり、こいつを買っておけば 3D 性能は一年前の最高クラスが手に入ったのであるが、考えが及ばなかった。こういう失敗はのちの勉強になるので気にしないことにする。

マザーボードは予定通り EP61-BXC-A を買い、メモリは当然 PC100 64MB CL=2 である。Celeron は 300AMHz のものを BOX で買う。これがなんと 9,980円だから驚く。なぜなら、今月号のパソコン雑誌でのカタログ価格が 14,800円あたりなのである。一月でこれほどまでに価格が下がったのは何故だろう。K6-3 が出る予感で下げたのだろうか?

かくして私の買い物は終わり、職場に戻り、パーツの入った箱を机の引き出しに入れてその日は帰った。実際に組み始めるのは翌日である。

*

組み立てはまず昼休みから始まった。昼休みはマックでグラタンコロッケバーガーのセットを買い、食べながらマザーボードのオンラインマニュアルに目を通す。そのマニュアルは極悪で、HTML で掛かれているが中身はすべて GIF という代物だったので、見るだけでメモリを大量に食った。昼休み中に、メモリと CPU の取り付けが完了した。取り付けは、差し込む力具合がよく分からなかったので、慎重に集中して力を入れていると、向かいの席にいる先輩らが声を掛けてきた。
「何をやっているのかと思えば。怖い手つきだな」
「造ってるのか」
「教えてくださいよ」
「メモリはググッと力を入れて差し込まなきゃ」
特に Celeron のスロット差込は不安だったので、もっと差せ、などとアドバイスをもらった。時間が立つのは早いもので、昼休み中にはそれしか出来なかった。

定時が終わると、というか例によって私はフレックスを利用して三十分早く仕事を切り上げて、製作を再開した。もちろん、仕事中は時々マザーボードのマニュアルに目を通していたので、あとは色々とつけるだけである。

次につまずいたのは、IDE や FDD のケーブルのつなげ方である。これも、分からないところは先輩に聞いて接続した。ケーブルは間違えてつなげても多分大丈夫なようである。もっとも、これは先輩曰くなので私は保証しない。先輩の一人は、FDD の接続を間違えたときに、FDD のアクセスランプが付きっぱなしになったらしい。それでも壊れはしなかったとのことである。

それから念のために言っておくと、自作するときには、いきなりパーツをケースにネジ止めするのではなく、初期不良や不具合やミスのことも考えて、まずは仮組みをして電源が入るかどうかや画面が一応表示されるかどうかをテストしたほうが良いらしい。

一通り仮組みが終わったあと、仕事に使っている PC を落とし、ディスプレイを借りて接続した。マウスやキーボードは差さなかった。いよいよ電源を入れるときが来たのである。まず、電源が入るかどうか自体が不安だった。電源スイッチを押した。電源が入ったことを示す LED が光る。FDD のアクセス音がする。正常である。私は、マザーボードとかから煙が上がったりするかどうかが気になっていて、画面の方には最初まったく気づかなかったが、どうやらちゃんと画面が映っている。ちなみに、今回使った HDD は、以前私の VAIO に入っていた 2.5inch 2GB のハードディスクであり、中には Windows98 が入っている。そうこうするうちに、Windows98 のオープニングの画面が出てきた。成功である。なんの問題もなく動いているようである。そこで電源を切ろうと電源スイッチを再び押す…。電源は切れなかった。え!? 組み立て不良かと思い慌てた。画面には、なにかのドライバが動かない、などというメッセージが出たまま止まっていた。しょうがないのでとりあえず Windows98 をちゃんと立ち上げてみようと思ってマウスを動かしたが、そういえばマウスもキーボードもつないでいなかった。となると電源を切れないのである。そうしていると、先輩が「こうなったらコンセントを抜くしかねえな」と言ったので、抜くことにした。電源が切れないのは、どうやらマザーや BIOS の設定によるものらしいので、特に組み立て不良というわけではないことを教わる。まあとりあえず成功であった。

そのあとは、一度配線を引っこ抜き、ケースにパーツを固定していく。この作業は時間だけ掛かり、そんなに面倒なことはなかった。ただし、ケースのフロントパネルや側面の部分を外すのには手間が掛かった。それと、2.5inch HDD を 3.5inch のベイに付けるためのマウンタが、どうやら旧式のネジ位置の HDD に合わせてあるらしく、本来四つネジでとめるところを、二箇所しか止められなかったりした。

そうこうしているうちに、ケーブルは非常にうざったかったが、小さいケースにすべてが収まり、完成である。外ケースは外したままで、まだ骨組みのままであるが、この時点で完成したと言って良い。そしてまたテストのために再び電源を入れる。すると、一瞬見えた BIOS の画面に 100x4.5 の文字が…。さらに、CD-ROM がなぜか IDE の Secondary の Slave に接続されていることが分かった。

とにかく、100x4.5 の表示はかなりやばいのである。何故なら、私の買った Celeron 300AMHz は、66x4.5 で動作するものだからである。そもそもこのマザーボードは、最初は 100x3.0 にクロックが設定されていたので、最初に電源を入れたときはその設定で 300MHz 動作していると思い、なんだ 100MHz でも動くから、今度は 100x3.5 にしてやれ、とジャンパーの設定を買えたのである。そうしたら、先のとおり 100x4.5 になったのである。つまり、もし表示が正しければ、CPU は 450MHz で動作しているのである。急遽、もともと VAIO にインストールしておいた HDBENCH でクロックを測定することにした。そのまえに、ハードウェアを検出するのにだいぶ時間が掛かったが。それにしても、VAIO に入っていて正常に動いていた HDD の中身が、そのまま他のマシンで、ハードウェアのプラグ&プレイと簡単な手動ドライバ入れ替えぐらいで動くのである。PC互換機は素晴らしい。話を戻そう。クロックを計測してみたら、やはり 450MHz で動作していることが分かった。ついでにベンチマークもとってみた。すると、なんと PentiumII-400MHz よりも速いことが分かった。素晴らしい。驚きである。確かに、HDD の中に入っていた腐った Windows98 が、さくさく動いていたのもうなずける。この Windows98 は、はっきりいって
「HDDを再フォーマットして Windows を再インストールする必要がある」
くらいに腐っていたのである。それが、さくさくと動いてしまう。Windows98 の開発元がこの OS の根本的な欠陥を認識できない理由が分かろうというものだ。

なぜジャンパーによるクロック設定が無視されたかというと、友人や先輩によれば、Intel の最近の CPU には倍率を固定する機構が取り付けられているためらしい。これは、雑誌によればリマーク屋対策と言われ、クロックアップに耐えられる CPU を例えば 300MHz を 350MHz にラベルを書き換えて売るようなことを出来なくするためだといわれているが、Intel の販売戦略つまり性能の高いチップに制限を加えて安い値段で売り、もとのチップを高く売る、ということと無関係ではない。 そして、Celeron は中身は基本的には PentiumII と変わらず、二次キャッシュだけが取り除かれて一次キャッシュが強化されているだけであるため、簡単に 450MHz とか 500MHz とかで動くようである。こうしてオーバークロック動作している Celeron 500MHz は、測定方法にも寄るが、CPU の純粋な速度では PentiumII-400 より 33%も速いと報告されている。この結果は、強化された一次キャッシュがフルに動いたからこそ出たものだろう。普通のアプリケーションではそんなに差は出ないとは思うが、確実に速いことは言えるだろう。

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ちなみに、やはりビデオカードの性能は低かった。True Color の XGA で計測したせいもあるが、そうでなくても中庸な性能しか持たないだろう。13,800円出せば VooDoo Banshee 搭載のカードが買えて、2D も 3D も最高クラスの性能が手に入ったのであるが、壊したら余計痛くなるだけだと思って買わなかった。それに、VooDoo Banshee や RIVA TNT は本来二万〜三万円くらいするグラフィックカードに搭載されているチップであり、格安のカードを買うことにリスクが伴うというのもある。また、安心できるメーカーが安いカードを出している例もあるが、そのメーカーはドライバの性能がそんなに高くないことでも知られており、それで他のメーカーのカードよりも遅いらしい。

ディスクもちなみに前より遅くなっていた。その理由は、友人によれば UDMA の有無によるものだそうである。UDMA とは恐らく UltraDMA/33 のことであろう。VAIO の内臓ハードディスクは UDMA で接続されていたようである。これに関しては、どうやら Xstone というソフトによって改善されるようである。パフォーマンスが 10〜50%改善されるみたいなので、逆にディスク性能は若干上がる可能性がある。良いマザーボードは IDE も効率が良いようである。

そんなわけで、ハードディスクに関してはあらかじめ所持していたものの、そしてマウスやキーボードなどは買っていないながら、なんと税込みで六万五千円以内で、邪道ながら PentiumII-400MHz より速いマシンが出来てしまうのである。しかも、これが小さくてかわいいのである。さすがに作業はしづらかったが、それでも特に小さいこのケースを選んで良かったと思わせられた。昔自作したという先輩も、その小ささには驚いているようであった。雑誌で見るのと、実際にこの目で見るのとでは、感覚が違う。さらに、店で並んでいるケースを見たときの印象とも異なった雰囲気があった。

その分、熱対策や電源容量や拡張性に困ることがあるかもしれない。特に、オーバークロックは確実に熱が多く出るので、気をつけなければならないだろう。ケースのフロント下部にファンを付ける部分があるのだが、ファンが付属していなかったので、途中で買いに行ったのだが、パソコン工房には 6cm のものが売っていなかったのであきらめた。その後、雑誌で調べてみると、どうやらファンは背後の上の方に排気で付けた方が効率がいいと載っていた。ただファンを付けただけでは駄目なようである。空気の流れを考えなければならないそうである。あと、暖かい空気は上へ、冷たい空気は下へ行くので、下部には吸気ファンを、上部には排気ファンを付けた方が良いらしい。さらに、吸気より排気を多めにしたほうが良いとの実験結果もある。色々難しい。さらに、ファンにはベイに取り付けるタイプなど色々あり、奥が深い。

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というわけで、皆さんにも自作マシンを進める次第である。マニュアルを読んで慎重に組み立てたとしても、半日から一日くらいで組みあがるだろう。私の運が良かっただけかもしれないが、初期不良も組み立てミスもなく、ついでに Celeron 300AMHz が 450MHz で動作するというおまけも付いた。それを割り引いても、十分に自作をする価値があると思う。良いパーツを選ぶにはそれなりの手間が掛かるが、手間を掛けずに適当にパーツを選んでもそれなりのものが造れるだろうし、手間を掛けることも最初のうちは楽しい。最低限、このマザーボードにはこの CPU は使えない、とかが分かれば、あとは特に問題はない。心配ならば、同じ店で全部買えば良い。

つまずくこともあるだろう。私がいつも行っているパソコン工房では、ガラの悪い店員が客の苦情に答えて曰く「…うちはそんな店じゃないんですよ。みんなうちに電話掛けてくるんですよ。対応が親切だからって、なんとかしてくれると思ってるんですよ。うちに来る客っていうのは、DOS/V magazine なんて読んでないですよ。power report とか、そのくらいのを読んでいる人が…」。どうやら、他の店で買ったパーツの不具合に関して質問されているようだった。これは多分客が悪いのだが、店員の対応も良いとは言えない。ついでに、私の最近よく買う雑誌が DOS/V magazine だったこともあって、私はいい気がしなかった。パソコン工房という店はあまり方向性がよく分からない店であると私は思う。パーツは平均的にかなり安いのだが、マニア向けの店ではなく、二階に組み立て用のスペースもあると張り紙に書いてあったので、初心者向けの店なのではないかとも思える。おそらく、立地条件の悪さから来るジレンマがあるのだろう。ほとんどの客は、パソコン工房に行くために万世橋まで足を運ぶなんてことはしにくいだろう。ついでに、三号店も電気街の逆の辺境にある。不幸な店である。だからその分安いのかもしれないが。

それから、ガラの悪い店員ばかりではない。あの店員は、パソコン工房をマニアの喜ぶ店にしたいみたいだった。電話客への対応には、店内にいる我々客に対して聞こえよがしに喋っていたことからも伺える。あるいは、単に客にキレていただけかもしれないが。レジにいた女性の店員は愛想がよく、四万五千円をこの店で落としていった私に対して、マクドナルド張りの明るさで「ありがとうございましたー」と微笑んだ。相殺。明日、私は DOS/V power report 誌を買った。


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gomi@din.or.jp