172. ニコニコ動画最底辺P戦記(音楽制作2)後編 (2011/5/24)


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前回171. ニコニコ動画最底辺P戦記(音楽制作2)中編 (2011-4-16)の続き。

■新しいシンセでプロっぽいミックスを志向

Native InstrumentsのKORE PLAYERの音がとても良くて感動したものの、同社のソフトは買うとなると高い。全部揃えると当時三十万ぐらいしたと思う。さすがに今の段階でそこまでポンと金を出せるほど気前良くないので、結局同社のKORE 2という核のような位置づけの製品だけ買った。この製品についての説明はこのあとするとして、このソフトに含まれているプリセット音色をメインにして作ったのがこの曲。


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のっけからシンセの変態音で始まっている。弟に聞かせたら、まるでゾンビ映画の音楽みたいだと言われた。しかしそのあとはうってかわってアコースティックギターでジャカジャカリズムを刻んだり、オルガンが軽快なコードバッキングを奏でたりして、ポップな曲調になっている。KORE 2の音色を物色していて特に良かった音色ばかり選んだのだけど、たまたまアレンジ的にとてもバランスよくなって、ミックスにも気を配ったこともあってちょっとだけプロっぽい音づくりになっていると思う。聴きやすいとコメントしてくれていた人がいた。

今回も詞を先に選んだ。紅虹さんという人の同名の詞の一番だけ使わせてもらった。というのも、一番と二番があまりに形式が違ったから。最初は二番も無理やりなんとかしてやろうと腕が鳴ったのだけど、曲を作っていくにしたがって気力がなくなってきて断念した。詞の内容はとても分かりやすくて王道的で、くだけた口調で感情を吐露していて良いと思った一方で、あまりに口語的でメロディをつけにくかった。その分、曲が独特の印象を持つようになったと思う。最初の退屈な日常なんていう詞の内容に合わせて、学校のチャイムみたいなフレーズを重ねてみたり、頭が沸騰するイメージで汽笛っぽい音を入れてみたりした。汽笛っぽい音は東京事変か椎名林檎の曲からアイデアを借用した。曲の随所で四分音符の進行があるのも東京事変の曲が頭にあった。

絵は、ピアプロで色々探しているうちに目が離せなくなってこの絵を選んだ。原一雄「のらみみ」のタッチで初音ミクを描いたらこんな感じだろうなというギャップがウケたのと、持ってる楽器がMUSICMANのStingrayという有名なベースなのがツボった。人気ベーシストのフリーという人が使っていることで知られる(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ)。ニコニコ動画でもスティングレイワロタみたいなコメントがついていたので分かる人には分かったと思う。

私は何も考えずにメロディを作ると大抵短調になるのだけど、この曲は珍しく長調になっている。長調は作りなれないせいか、メロディが長調なのに対旋律とかベースラインをうっかり短調にしてしまって混乱することが多いので、しっかりスケール(音階)を意識しながら各パートを作っていった。ちなみにジャズなんかだと小節ごとにモード(スケールなんだけど長調とか短調とかよりバリエーションがある)を変えたりするらしい。まあ臨時記号だって一時的な転調という解釈もできるし、どんなに自由にやっても他の部分である程度規則性があれば自然に聴こえるし、成功したら面白くなる。

この曲は総合的に見て私が自分の曲の中で一番気に入っている曲だ。普段あまり気を使わないリズムにもある程度気を使っているし、バンド編曲以外で初めて生ギターを入れたし、曲もアレンジも分かりやすいと思う。Native InstrumentsスレでB4という同社のオルガンの音色の使い方として、グリッサンド(鍵盤をダーッとなぎはらって弾く奏法)してやると結構それっぽく聴こえるよ、みたいなことを言っていた人がいたのでやってみた。普段あまりコード弾くパートには力を入れないのだけど、珍しくこの曲では自分が弾くつもりになって気を使っている。ただ、毎回聴き返すたびに、イントロのベースラインの繰り返しがウザいのと、Aメロのメロディの奔放さをまとめるための編曲が強引なところが気になる。とは言っても、現代の音楽はあんまりカッチリとコードを張り付けるのではなく、浮かせるというかコード以外の法則性に絡めてスマートに成立させることが多い。私の場合、単に未熟なので自分で何をやっているのか分からずに自然とある程度うまくいっているだけのことが多いのだけど、一応製作中もこういうことを意識はしている。でもって、製作中に気づかなかったことがしばらくたって聞き返しているうちに気づくことが多い。

ドラムはドラム音源のEZ drummerに丸投げしたので、プリセットパターンを選ぶだけで本格的なドラムトラックが出来上がって楽だった。学生と違ってサラリーマンは時間がない分だけ金はあるんだからこういうやりかたが正しいと思う。ぶっちゃけると、ドラムなんてあんまり気を使いたくない。昔はリズムトラックに手間暇掛けるのが好きで色々やっていたのだけど、編曲的に難易度が低いのでいまはやる気が起きない。なーんて言ってみたところで、現代ポップスにおけるリズムの重要性は揺るぎがたい事実であり、リズムトラックを作るための専用のハードウェアとかソフトウェアがあるくらいだ。Native InstrumentsだとMASCHINEという4×4のボタンがついた16ビートのリズム作成を直感的に行えるハードウェア製品がある。優れたリズムトラックはそれだけで商品価値がある。

▽Native Instruments KORE 2 Software Edition

もともとこの製品は、音色のモーフィングを直感的に行うためのもので、そのための専用コントローラがついたハードウェア製品である。しかし本製品はそれだけにとどまらず、名前のとおりKORE(CORE)つまり核として動作する総合的な音源ソフトになっている。というのも、本製品は同社製のすべてのシンセサイザーの再生専用エンジンを含んでいるほか、VSTのホストとしてほかのソフトウェアシンセサイザーやエフェクトを複数動作させてそれをあたかも一つのソフトウェアシンセサイザーとして使うことができる。また、そうやって作成した音色をラベル付けしたり分類分けしたりメモを貼ったりして選びやすく管理できるライブラリ機能を持っている。

だからコントローラを除いたソフトウェアだけのパッケージも用意されており、私はそっちを買った。ほぼ定価の三万ちょいも出して買った。正直いま冷静になって考えると割高だったと思う。期待していた付属音色も思ったほどのボリュームはなかったし、編集機能もそこそこ使えはしたものの微妙だった。アルペジエータとかコンプレッサーなんかの各種エフェクトもついてきたけれど、専用製品にはかなわないレベルのものだと思う。でもなんだかんだで私は同社のシンセを使う場合は大体KORE 2を挟んで使っている。というのも、プリセット音色を探すというのは創作時には欠かせない重要な機能だからだ。

▽Native Instruments Guitar Rig 3 LE

前に紹介したギターのアンプシミュレータZFX Pluginsになぜか付属している競合製品。もちろんLEというだけあってハードウェアに付属させるための体験版みたいなもの。たとえ安くてもフルセットのアンプシミュレータであるZFX Pluginsがあるのだからといままで試さなかったのだけど、今回せっかくKORE 2主体で曲を作るということもあって、じゃあアンプシミュレータもNative Instruments縛りでやってみようと思って使ってみた。

アンプシミュレータには競合製品がいくつもあって、用途とか性質によって違うので優劣つけがたい。純粋にギターを弾く人に一番好まれているのは、重いけれど音がいいIK MultimediaのAmplitubeと、半ばハードウェア製品で安定性の高いPodと呼ばれるものだと思う。ただ、曲づくりで他の楽器と混ぜる場合に、とてもよくなじむのがこのGuitar Rigだと言われている。ギターの音があまりにリアルすぎるとギターだけ浮いてしまって不自然に聞こえてしまう。ちゃんとうまい人がミックスするといいんだけど手間が掛かるし難しい。

でもやっぱりこのGuitar Rigの音はおとなしめなので、曲づくりとは関係なくただギターを弾くときに使うとちょっと物足りない感じがする。まあ私がメタラー(ヘビーメタル大好き)だからなのかもしれないけれど。マイルドなクランチが好きな人には心地よいのかも。蛇足だけどインタフェースがコンパクトエフェクタっぽくなくてパソコンソフトっぽいのもマイナス点だと思う。

▽toontrack EZ Drummer

もっとも廉価でよく売れてるドラム音源がこれ。

プロの現場だとドラムスはスタジオで複数のマイクを使って録音される。ドラムスはバスドラ(キックドラム)、スネアドラム、各種シンバル、高低いくつかのタムタムなんかの個別のドラムで成り立っている。そのそれぞれについてマイクを取り付けて個別に録音し、ミックスのときにそれぞれの音量を調整し、さらにスタジオ全体の音を録ったものを入れて混ぜて使う。そうして初めてCDに入っているようなドラムスの音になる。

その過程を再現するのが通称ドラム音源と呼ばれるソフトウェアシンセサイザーである。最近はXLN AudioのAddictive Drumsという製品が手軽で軽い割に音が良くて人気あり、私の弟はこれの体験版を使っているうちに気に入って製品版を買ったぐらいだ。ほかに、扱いは難しいけれどシミュレーションが緻密なFXpansionのBFD、波形容量が膨大なSonic RealityのOcean Way Drumsなんかがあり、それぞれそれなりの値段がする。その中でこのtoontrack EZ Drummerは値段の安さと手軽さと拡張パッケージの豊富さでなんだかんだで一番使っている人が多いと思う。

音のリアルさに加え、サンプルのドラムパターンがたくさんあって、それらを選択していくだけでそれっぽいリズムトラックが作れるのがいい。基本パターンとフィルインがあって、8ビートなら8ビートで変則パターンも含めていくつかリズムが用意されていて、それに合うフィルインもスネア主体のものからタムタムを使ったもの、シンバル主体のものなど、いくつも用意されている。DAWにドラッグ&ドロップするだけで入力できるのも便利すぎる。他のパートに集中したい私のようなものぐさにはぴったりの製品だった。

■シンセを多用したアニソン風ポップス

前の曲のときにNative InstrumentsのKORE 2を買ってその音に感動したので、同社の総合パッケージKOMPLETEが欲しくなったのだけど、当時まだ14万ぐらいと高くてとても値段分の価値を引き出す自信がなかったので躊躇していたら、ライバル社のIK Multimediaの総合パッケージTotal Studio 2 Bundle Crossgradeがイケベ楽器で69,800円で特売されていたのでこっちを買ってしまった。それでその中に含まれるSonikSynth 2やSample Moogでちんまりしたシンセ音楽を作ろうと思ってたら、ホーンを入れてるうちにだいぶ曲調が遥々しくなり、最終的に以下の曲が出来た。


【ニコニコ動画】【巡音ルカ】Raspberry heart【オリジナル曲】
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前の曲の歌詞が文字数がむちゃくちゃだったのにまた懲りた私は、再び北村耕太郎さんのキッチリした歌詞を借りることにした。前回のような昭和歌謡っぽいものではなく、ちょっと時代を下った歌詞があったのでこれにした。歌詞を借りるにあたっていくつか感想を書いたら詞を修正してくれた。といいつつ、正直修正はやや改悪だったと思う。特に二回目のサビの最後の「サンキュー」は何度聞き返してもナシかなと思う。修正前にあったお気に入りの「バイバイ」がなくなっちゃったし。という本音は言わずに結局そのまま受け入れた。詞は作詞者のものだしね。詞の修正と同時に、メロディの節のつけ方についても注文が来たのでこれもそのまま受け入れた。こっちのほうは良くなったと思う。

曲について言うと、サビがなんだかパクりくさい。あまりにパクりくさいので、2ちゃんねるの自作曲スレのほうにアップするのはやめた。でもその分、とても聞きやすくて普通の曲って感じがする。四つ打ちでシンセ系のアニソンを意識した。Sample Moogから響きの良いシンセ音を選んでアルペジエータっぽいアルペジオ(分散和音)をまぶし、わざわざ二つのトラックを用意してまず右で鳴らしてから数十ms後に左で鳴らすことで空間の広がりを感じさせるテクニックを使用している。

曲の構成はこうだっけ。

イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏-Aメロ-Bメロ-サビ-サビ繰り返し-アウトロ

自分で言うのもなんだけど、サビ前のタメは結構うまくいっていると思う。Bメロでガラッとリズムを変えて落ち着かせでブレイクまで用意したあと、一気にサビで盛り上げている。本当はサビでコーラスワークでもやればもっと良かったのだろうけど、なんかもう満足しちゃったのでサビ繰り返しでしかコーラス入れていない。

ベースは基本オクターブベースで、Bメロだけちょっと変わった動きをさせているほか、特にサビではコードのルート音を離れて割と動かしている。ちなみにサビのコード進行はイチロクニーゴー(T-Y-U-X)からアーメン進行(W-T)というかなり定型的なパターンになっている。最初からコード進行を意識したのではなく、歌詞に合わせてメロディを作っていたら自然とこうなった。

ボーカルは巡音ルカにした。ルカでもっと英語を歌わせたいから英語入りの歌詞を選んだような気もするのだけど、詳しいことは忘れてしまった。ルカはペンダントに管楽器が使われているデザインになっているので管楽器アレンジにすることにした。ミックスで音がつぶれているので分かりにくいけれど、割とうまいこと管楽器を入れることが出来たと思っている。

この曲についてはニコニコ動画でいくつかうれしいコメントをもらっている。曲が90年代っぽい、というのは納得できる。要はちょっと古いということか。でも私がパクりっぽいと感じたのはこの曲が70年代の曲に似ているなと思ったからなので、メロディより編曲についての指摘なのだろう。それから、音をよくすればずっとよくなるというコメントをもらった。IK MultimediaのTotal Studio 2 Bundleに含まれていたエフェクトを使ってマキシマイザを掛けた結果としてこうなった。いまからするとちょっとやりすぎたと思っている。それにシンセサイザーの音色が安っぽいというのも理由の一つだろう。イントロのメインフレーズを奏でているギターっぽいような管楽器っぽいようなシンセ音が特にそうなんじゃないかと思う。IK Multimediaのシンセというのは、音楽を商売にしたり本気で趣味としている人たちからはスケッチ用として使われていて、つまり曲をラフに組み立てるときに使ったあとはもっと良い音源で差し替えることが多いらしい。一方で最終的にそのまま使うことも意外と多いみたいなのだけど、あまり最後まで使うことは考えないらしい。

▽IK Multimedia Todal Studio 2 Bundle (Crossgrade)

イタリアの音楽ソフトウェア会社IK Multimediaのソフトウェアシンセサイザーとエフェクター製品がほぼ全部入ったオールインワンパッケージのクロスグレード版。クロスグレードとは同社のなにか一つでもソフトウェアを持っていたら廉価で変える製品のことで、馬鹿にできないほど安くなる。

この製品には以下の個別製品が含まれている。

  • Sample Tank
  • Sonik Synth
  • Miloslav Philharmonik
  • Sample Moog
  • Sample Tron
  • Amplitube 2シリーズ
  • T-RackS
  • Classik Studio Reverb
  • それぞれの製品には独立した特長があるので別の項を設けて説明する。

    ▽Sample Tank

    同社を代表するソフトウェアシンセサイザー。サンプラーベースのマルチティンバー音源。つまり、演算ではなくベタな録音によるシンセサイザーで、一本で複数のトラックに出力できて動作が軽い。音色の数も十分多いため、すでに述べたようにプロも含めた多くの音楽制作者がスケッチ用に使っている。一通りの音が入っている。音はあまり良くないとされるが、一昔前の基準からしたら十分にいい。さすがにいまこれで市場に出す音楽にメインで使用するのはキツいだろうけど。

    ▽Sonik Synth

    前述のSample Tankのエンジンを使用した、主に電子音を扱った追加パッケージ。容量が結構ある。確かDVD二枚分ぐらい。あまり知られていないけれどお買い得な音源として推す人がいる。ただ、やはり音はそれほど良くはない。IK Multimediaの音源全般に言えることなのだけど、ドライな音だとよく言われる。他社の音源は音源自体にリッチなエフェクトがすでに掛かっていることが多く、そのおかげで一聴して高音質だとみんな思うのだけど、このIK Multimediaの音源にはそんなエフェクトがほとんど掛かっていない状態(ドライ)がデフォルトなので、ちゃんと加工してやればキレイに鳴ってくれる。と愛好者は言う。

    ▽Sample Moog

    Moog(モーグ)というアナログシンセサイザーの音を集めた音源。同社は純粋な意味でのシンセサイザー製品を持っていない。サンプリング(録音)によってシンセサイザーの音を再現している。従って、突き詰めていくと音質に限界が見えてしまうのだが、そもそもアナログシンセサイザーの音はパソコンでは完全には再現できないため録音にせざるをえない。このアナログシンセサイザーの持つ太いリード音(主旋律を奏でるのに向いた音)なんかはデジタルではなかなか出せない。

    ▽T-Racks

    IK Multimediaはアナログ信号の扱いに長けた会社として知られる。このT-Racksは、スタジオでよく使用されるアナログのラックのエフェクタのうち主にマスタリングで使用するものをパソコンで再現したもの。イコライザとコンプレッサーとリミッターとソフトクリッパーからなっている。最近のDAWにはこれらの基本的なエフェクトは付属しているのだけど、音楽を本気でやっている人たちはこの手のエフェクトにWAVESなどの製品を使って数十万ぐらい金を掛けたりする。このT-Racksはたぶんもっとも廉価な別売りエフェクタセットだと思う。安いからそれなりかというとそう馬鹿にしたものではなく、アナログ臭い良い音がするとして特にトラック単位で愛好する人は少なくない。

    イコライザは周波数帯ごとの成分を上げたり下げたりして音の感じを変えるエフェクトで、ミニコンポとか携帯音楽プレイヤーとかパソコン用音楽再生ソフトなんかにも付いてくるやつと基本的に同じ役割を果たす。

    コンプレッサーは音量をさまざまな条件で上げたり下げたりするもので、たとえば声量にムラのあるボーカルの音量を一定に整えたり、いまいちアタックの弱いドラムの音の立ち上がりだけを強調したりするのに使ったりする。

    リミッターとソフトクリッパーは正直ちょっとよく分からないけれど(おいおい)、文字どおりリミッターは音量に限界を設定してそのレベルまで自然に上げ、ソフトクリッパーはクリッピングつまり限界を超えた音の処理を行うエフェクトだと思う。

    あんまり細かいことを知らなくても、プリセットつまりあらかじめやりたいことのパターンが用意されているので、適当に選べば勝手に設定してくれる。もちろん私はプリセットをちょっといじるだけにした。確かボーカルとマスターにそれぞれ使った。特にボーカルトラックへの効果は顕著で、作詞者の北村耕太郎さんから調教がいい(ボーカロイドの設定がうまい)というコメントをもらったのはきっとそのせいだろう(他に何もやってないから)。

    この手の機器は奥が深いので、使いこなすにはエンジニアになるぐらいの気合が必要だと思う。

    ▽Classik Studio Reverb

    リバーブと呼ばれるエフェクトに特化した製品。リバーブとは要するにいわゆるエコーのこと。スタジオやホールの残響音を再現する。掛けすぎるとまるで風呂場で歌っているような音になる。もちろんこの手のエフェクトは最近のDAWにはほぼ付属している。この製品は同社のアナログ処理技術によりリッチな残響音を付加する。

    リバーブとひとえに言ってもいくつか種類があるらしい。そもそもコンピュータが音楽制作に使われていない時代には、鉄板を張り合わせたような文字通りプレートという名の装置がリバーブとして使われていたらしい。本製品はプレート、ホール、ルーム、インバースという四種類のリバーブから構成されている。トラックごとに適した方式があるので使い分けるのが常道である。

    リバーブを掛ける度合いはそのまま各トラックの奥行きになる。パッド(環境音っぽい音)にはリバーブを深く掛けることで奥のほうで音が鳴っているように聴かせることができる。前の方で鳴っているようにしたいトラックには浅めに掛ける。ボーカルには声が心地よく聴こえるよう掛ける。そしてそれらを全部あわせたマスタに対しても軽く掛けて音をなじませる。

    余談だけど最近はコンボリューションリバーブといわれるリバーブが流行っている。これは実際のコンサート会場に行って音がどのように響くのかをきっちり計測してそのとおりになるよう再現するので、まさにホールのサンプリング技術だと言える。普通の数式で作るシンセ的なリバーブと比べて本物っぽいみたいだ。

    ■特に方向性を決めずに作るとこうなる自分テイストの曲

    以前書いたのだけど私の音楽のルーツはクラシック音楽なので、何も考えずに音楽を作るとなんちゃってクラシックになりがちになる。とはいってもクラシック音楽の正規の教育を受けたわけではないので、なんとなくそれっぽいものになるというだけなのだけど、ポップスなのにクラシック的な要素が色濃く入ってしまう。今回作った曲は、特に方向性を決めずに適当に作ったらこんな感じになるという私のスタイルがよく分かると思う。というのも、DAWをずっと使っていたSteinbergのCubaseからcakewalkのSONARに乗り換えたので、慣れないソフトを使うのに気をとられて曲のことをあれこれする余裕がなかったからだ。


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    とはいってもやりたいことはいくつかあって、その中の一つは先に紹介したIK Multimediaの中に含まれるオーケストラ音源Miloslav Philharmonikを使うことだった。私は低音楽器が好きで特にチェロはその中でも一番好きだ。音の奥深さと、高音もイケるところなんかがいい。そんなわけでこの曲はチェロとエレキベースのダブルベースになっている。

    曲の構成は以下のとおり。

    イントロ-Aメロ-A'メロ-Bメロ-サビ

    フル構成にしたかったけれど、サビを没曲から取ってきたのがいまいちつながっていない気がして、気にしているうちに面倒になってこのまま終わらせてしまった。でも二分弱ある。今回はメロディを最初に作ったので詞はあとで自分で考えた。というかネタが思いつかなかったので、イタリア語通訳者の田丸久美子の著作で引用されていたイタリアンジョークを元ネタにした。詞にあったのでそのまま「バンビちゃん」としたのだけど正直死語もいいところだと自分でも思う。その点については気にしないことにした。

    なんといってもイントロで複数のパートがそれぞれ独立したリズムで動いていてそれなのにまとまりがある構成になっているのがこの曲の目玉だと思っている。2ちゃんねるの自作曲スレにアップしたときにたまたま荒らしがやってきて、そのときアップされていた曲を軒並みけなしまくっていたのだけど、この曲はイントロ以降がクソみたいな言われようでなぜかイントロだけは批評から逃れたのがちょっとうれしかった。

    その自作曲スレで当時、笛の打ち込みがうまい曲が軽く評判になっていて、やっぱり楽器ごとに映えるフレーズってあるよね、みたいなことが言われていたので私もフルートを入れていかにも笛っぽいフレーズで動かしてみた。ちょっと野暮ったいけど自分では満足している。ちなみにその評判の曲は他にもアジアっぽいコーラスワークがすごくて、NHKスペシャルのアジア特集なんかで使われても違和感のないようなすばらしい出来だった。まあこういう曲を作るにはちゃんとコーラスを雇うかそういうの専用のコーラス音源が必要になるので、たとえ腕があっても誰にでも作れるわけではない。

    ストリングスの使い方がサビとその前とでは異なっている。サビにいくまではIK MultimediaのSonic Synthの太いストリングスの音を単音または二和音で使っているだけなのだけど、サビではなんちゃってストリングスアレンジでちゃんとバイオリンとビオラとチェロの合奏編成にしてある。わざわざ各パートがそれぞれ目立つ箇所まで作った。特にビオラが目立つ部分は渋いと思う。管野よう子の影響でこうした。アウトロではチェロだけで最後締めた。ありきたりなフレーズだけどそれっぽくて気に入っている。

    サビ前のドラムスの遊びとかストリングスの速い動きとか淡々としたエレキベースなんかが結構気に入っている。ドラムスは今回自分で全部打ち込んだ。KORE 2に含まれているエレクトリックドラムセットを使ってみたくなったからだ。Native Instrumentsの電子系のドラムキットはそんなに評判よくないみたいだけど、シンプルにキックとスネアを叩いているだけでもなんか楽しくなってきたので自分で単純なパターンを作って楽しんだ。サビ前のフィルインが特にお気に入り。

    サビは確か久々に三声のコーラスワークにした気がするけど忘れた。私は基本的にボーカル以外のパートを気合入れて作るので、コーラスワークは割とおざなりになる。

    ▽Cakewalk SONAR 7 Power Studio

    パソコン用のDAWの元祖はこれまで私が使っていたSteinbergのCubaseなのだけど、現在人気を二分しているのがこのCakewalkのSONARだ。渋谷のMusicland KEYでなぜか旧バージョン7のPower Studioが29,800円で売っていたので衝動買いした。この時期なら本来つく無料アップグレードチケットがついていなかったからこの値段になったのだろう。Power Studioは上から二番目のStudioグレードにEdirol UA-25という二万五千円ぐらいするUSBオーディオ機器が付属する特殊パッケージだ。おまけでV-Vocalという最上位グレードにしか付いていないピッチ補正機能がついている。ボーカルを録音すると人間だからいくらうまい人でも多少音程がズレるので、主にそれを補正するのに使う。

    ついでに言うとパソコン用のDAWで他に有名どころとして、プロのスタジオで圧倒的なシェアを持つDigidesignのProtoolsのパソコン版、Macに現在標準添付されているLogic、打ち込みに特化したFL Studioなんかがある。

    SONARの特徴は、豊富で高性能なプラグインが標準添付されていること。ただしそれは主に最上位グレードを指す。最上位グレードは最近だと確か八万ぐらいとちょっと高いのだけど、これだけ買っておけば売り物になるレベルの音が作れると言われている。ただ、DAWの一番の特徴であるVSTプラグインはそもそもSteinbergが開発したものであり、どうしても本家のものと比べて互換性に劣ってしまうため、一部のサードパーティ製プラグインのソフトウェアシンセサイザーやエフェクトの動作が不安定になってしまうという欠点がある。そのため、本格的なプロはSteinbergのCubaseを選んだ上で、高価なプラグインを別途いくつも買うやり方を選択するらしい。以上は2ちゃんねるのDTM板の住人たちからの受け売りである。

    私の個人的な評価を言うと、SONARは高度なフリーウェアのように鋭くて小回りが利く反面、ちょっと操作が難しいように思った。Cubaseのほうが鈍いけどなんというか直感的で扱いやすい気がする。一言で言えば、SONARはエンジニア向け、Cubaseはミュージシャン向け、と言ったところだろうか。

    ▽IK Multimedia Miloslav Philharmonik

    IK Multimedia製のオーケストラ音源。たぶん数あるオーケストラ音源の中でも最も廉価なクラスだと思う。特徴は、同社製なだけにドライであること、つまり余計なエフェクトが加わっていないので物足りない反面、上からエフェクトを掛けるには都合がいいこと。

    それから、しっかりと編曲してやらないとそれっぽく鳴ってくれないこと。これと対極的な位置にあるのが、EASTWESTのQuantum Leap Symphonic Orchestra通称QLSOというオーケストラ音源で、ただ楽器を鳴らすだけでリッチなエフェクトで存在感のある音を奏でてくれるので、映画音楽みたいなのを作るのに良いらしい。フルオーケストラ用の編曲は音楽家にとってはもっとも難易度の高いスキルとされ(たぶん)、管弦楽法というクラシック畑の高難易度な方法を会得しなければならない。

    今回私がサビ前のストリングスにSonic Synthのものを使ったのは、単音でMiloslav Philharmonikのものを使うと細くなってしまうから。普通の編曲だとストリングスは単音では使わず、ちゃんと和音を作ってやらなければならない。ストリングスの音色は倍音が豊かなので少し分かりにくいけれど、一見単音で鳴っているようにみえるときでも大体和音で鳴っている。ポップスでストリングスを使う場合、6-4-2-2と言って第一バイオリン六人、第二バイオリン四人、ビオラ二人、チェロ二人が標準的な編成となる。Miloslav Philharmonikで弦楽合奏を再現するにはちゃんと本物の奏者に演奏してもらうときのように編曲しなければならない。今回私はサビのストリングスにこのMiloslav Philharmonikを使ったので、なるべくそれっぽくなるように和音を構成してみた。チェロだけは通奏低音で勝手に動いているけど。

    ほかにオーケストラ音源の優劣を分ける指標として、ソロ用の音色や奏法のバリエーションなんかがある。ソロで売り物になるレベルにするには楽器ごとに数万円の出費が必要になるらしい。まあ別にちょっと不自然かなぐらいの音なら全部入りのパックで問題ないと思う。

    ■がくっぽいどを使ったビジュアル系ロッカバラード

    株式会社インターネットがGACKTをサンプリングして作ったボーカロイド「がくっぽいど」がなぜか秋葉原のソフマップで半額で売られていたので衝動買いした。となるともう次に作るのはビジュアル系ロックバンドっぽい曲しかない。ちょうどIK MultimediaのTotal Studio 2 Bundleに含まれている最強のギターアンプシミュレータAmplitubeも手に入れていることだし、思いっきりクサい曲を作ってやろうと思ってできた曲がこれ。


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    詞は塵詩さんという人の同名のものを使わせてもらった。ビジュアル系に合ったナルシシスティックなもの、文字数が合っていて作りやすそうなのを選んだ。だからってわけじゃないと思うけれど、あまりに陶酔的でよく分からない内容だと思う。弟に聞かせたら、毎度思うけど詞がひどいねと言われてしまったけれど、否定できなかった。素人に限らずJ-POPの詞ってわけがわからないものが多くて、こんなもんじゃないの?っていうのが私の正直な感想だった。

    曲の構成はこんな感じ。

    イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏-Aメロ-Bメロ-サビ-ギターソロ-Cメロ-サビ

    ひさびさにCメロを作った。Cメロの裏に私の好きな隠れリードギターを入れておいた。しかもツインリード。2ちゃんねるの自作曲スレで良曲をアップしていた人が、次はカズンみたいなツインリードを入れてみたい、と言っていたので調べてみたら、カズンとはちょっと古い日本のポップスで従兄弟同士の男女デュオで、その人が張っていたリンクをたどって曲を聴いてみたらベッタベタのツインリードがあって、自分もこういうのをやってみたいと思って入れてみた。スケールとか考えずに行き当たりばったりで下のギターを入れたのでちょっとヘンな気がするけど面倒なのでそのままにした。

    この曲の動画はなんとDAWの再生画面をそのままキャプチャーで取り込んでエンコードしたものを使用している。さすがに実際に曲を作っているときの高解像度なウィンドウをそのまま動画にすると文字がつぶれてしまうので、わざわざVGA(640x480)に合わせて表示を調整した。なので以降の説明は少し動画を前提にする。にしても、こういう風に面白い動画をつけても再生数はびっくりするほど少なかった。二桁しかいかなかったような。サムネイルにミクとかないとダメなんだなと思った。あ、がくぽか。

    トラックは上からエレキギターの歪み系四本とクリーントーン一本、ドラムス、ベース、ボーカル、パッド、シンセのアルペジオ、アコースティックギター、ストリングス、そしてもう一個のシンセのアルペジオとなっている。

    エレキギターを五本も使ったら普通はデュアルコアのマシンでも厳しい。特にIK MultimediaのAmplitube 2はリアルだけど重い。なのでDAWの機能でトラックをフリーズ(プリレンダリング)している。トラックが水色の波形表示になっているのはフリーズしているからだ。上から二本がリードつまりソロとか単音用で、イントロやギターソロで使っている。次の二本がコード用で、Bメロのカッティングやブラッシングやサビのパワーコードなんかで使っている。最後がクリーントーンでAメロなんかで小節の頭でジャカジャーンって入っている

    ▽Native Instruments KOMPLETE 5

    たぶんソフトウェア音源でもっともメジャーな会社であるNative Instrumentsの全部入りパッケージ。2009年にソフトウェアシンセサイザーの価格破壊の口火を切ったのだが、私が買ったのはそのちょっと前で、秋葉原のソフマップでKOMPLETE 5とKORE 2と拡張パック五つのセットが99,800円で売っていたのを見て衝動買いしてしまった。私はすでにKORE 2のSOFTWARE EDITIONを持っていたのだけど、KOMPLETE 5の単体がまだ13万ぐらいし、KORE 2とのセットのほうが安かったのでダブって買ってしまった。ちなみに今はさらに価格破壊しており、セットで69,800円で手に入ってしまう。リーマンショック後の不景気が原因かもしれない。

    ちなみにこのKOMPLETE 5とKORE 2のセットは、KOMPLETE 5のほうはKORE 2からのアップグレードパッケージということになっていた。KORE 2のSOFTWARE EDITIONはアップグレード対象外だったようなのだけど、試しにすでにインストール済みのKORE 2 SOFTWARE EDITIONの上にKOMPLETE 5のアップグレードパッケージをアクティベートしてみたところ成功してしまった。サポートに問い合わせたらまず本国に問い合わせるという返事が返ってきたあとしばらくしてやはりこれは想定外との返信がきたので、通常版のKORE 2をアクティベートした。Native Instrumentsの製品は一回だけ譲渡可能なので、KORE 2のSOFTWARE EDITIONのほうは使用停止手続きをとってから弟にあげた。でもあんまり興味ないみたいでインストールしていないと言っていた。

    いくつもの個別製品から構成されているのだけど、正直私はそのどれもあまり使っておらず、豊富なプリセット音源集としてしか使っていないので説明はある程度省略する。

    ▽FM8, Absynth, Massive, Reaktor

    Native Instrumentsの誇るソフトウェアシンセサイザーの数々。

    FM8は文字通りFM音源そのもの。アメリカの大学で発明されてヤマハが実用化してヒットしたのは以前説明したとおり。このNative InstrumentsのパッケージであるFM8も基本は変わらないけれど、音色の編集がやりやすくなっているのだと思う。

    Absynthは電子音楽を作る人たちの中でたびたびアンケートで一位になるほど人気の高いソフトウェアシンセサイザー。特にパッドで独特の宇宙的な音が作れるため、同社の半ば代名詞となっている「変態音」の称号を支えている。

    Massiveは従来の一から演算で音を作っていくシンセサイザーとは異なり、サンプリングした波形を素材として使って音を作れる新しいタイプのソフトウェアシンセサイザー。トランスなんかで使う太くて存在感のあるシンセリードの音を作るのが得意で、徐々に人気が上がってきている。

    Reaktorはシンセサイザーを作るための簡易開発環境で、ある程度プログラミングの知識がないと使えない。部品をマウスで配置するといった直感的なプログラミングが可能なのだけど、使うのは結構難しいらしい。

    今回の曲に使われているシンセっぽい音は、上のいずれかの製品によって作られている。なぜどの製品なのか分からないのかというと、私は音色をKORE 2のライブラリから選んでいるからだ。KORE 2の音色ライブラリ機能はとても便利なので、製品をまたいで欲しい音がある程度分類分けされている。

    Native Instrumentsのソフトウェアシンセサイザーは最先端を走っているのかというとそうでもなくて、CPU負荷を考えずに作られたspectrasonicsのomnisphereのほうが評判が高いかもしれないけれど、使用者数ではNative Instrumentsが圧倒的だと思う。

    ▽KONTAKT

    Native Instrumentsはサンプラー系のシンセサイザーのエンジンでもかなりのシェアを持っており、エンジンを自社開発しているメーカーを除くとKONTAKTは事実上市場を独占している。特に小さいメーカーがエンジンをライセンス供与されて利用している。一方で、KONTAKT本体に付属しているサンプリングデータの質はあまり高くないとされている。

    ■シンセメインのトランスっぽいアップテンポな曲

    前回はせっかくシンセに強いNative Instrumentsの高価なパッケージを買ったのにほとんど脇役でしか使わなかったので、今回はシンセ音をメインにして曲を作ることにした。


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    これも詞が先で、雪森さんという人のTwo Vectorという詞を借りて作った。借りるときにVectorじゃなく複数形でVectorsが正しいんじゃないかと言ったらそれでいいと言ってくれたのでそうした。詞の内容は、別れた彼女のことを想っている感じ。がくっぽいどのタグがついていたのだけど、内容が女々しくてがくぽに合わなさそうだったので、なんとなく中性的にミクに歌わせた。出来たメロディがやたらEvery Little Thingのバラードくさかったので、ELTっぽく聴こえないよう結構アップテンポにした挙句、詞が途中で回想シーンになるなど筋がめまぐるしかったのでそれに合わせてコロコロと展開させたら節操のない曲になってしまった。詞は二番まであったけれど、フルコーラス作る気力が湧かなかったので一番でワンコーラスだけにした。

    構成はたぶんこんな感じ。

    いきなりAメロ-Bメロ-サビ

    2ちゃんねるの自作板にアップしたら新スレが立った直後だったからかまったくレスがつかなかったのだけど、キック(バスドラ)の音がショボいというレスが一番違いで書き込まれていて、どうもレス番違いで私のアップした曲にもらったコメントっぽかったのでアドバイスを聞き入れてみることにした。ちょうど前回手に入れたNative Instrumentsのドラム用サンプラーbatteryの出番とばかりに、VENGEANCEのサンプリングCDから力強いキックの音をとってきて使った。

    Aメロからテンション高く、シンセブラスっぽい音で素早くコードを刻んでアップテンポの軽快な曲になっていると思う。ほぼ終始二声のコーラスにしている。いまのJ-POPとかアニソンって常時コーラスワークが当たり前みたいなのでそうした。下のパートは音量抑え気味にしてあるので少し分かりにくいかもしれないけど。

    Bメロは少し静かにして、ベースをアクティブに動かしつつ高音部はピアノで色彩的にしてみた。でも途中からちょっとメロディのコード進行を支える編曲が危うい感じがする。ちょっと工夫した程度ではなんともならなそうだったので様子を見ているうちにそのままになってしまった。あと裏拍にギターでカッティングとかパワーコードを入れているのだけど、なんか中途半端だったのでミキシングで抑え目に調整した。ちゃんとギターをやってれば、アニソンのヒット曲fripSideのOnly my railgunみたいなギターがザクザクしたトランスに仕上がったかも。あれはよかったなあ。

    サビの最後にちょっとしたリズムの遊びを入れている。ドリームシアターっぽいのを意識した。

    この曲、自分で言うのもなんだけど、特にサウンド的にも高めの完成度だと思う。Native Instrumentsのシンセの音やサンプリングCDのパーカッションの音は素晴らしかった。でもこれもびっくりするほど再生数が少なかった。サムネイルにも一応ミクを載せたにも関わらず。なので創作へのモチベーションがガクンと落ちて、結局この曲を最後にPを引退することになった。いま思うと、ニコニコ動画にありふれた曲調になってしまったのが原因なんじゃないかと思う。詞がわけわからんというコメントもあり、つけたメロディも合っていなかったと思う。

    このあともいくつか曲を作りかけたのだけど、どれも完成しなかった。

    ▽Native Instruments battery

    ドラム用サンプラー。以前紹介したドラム音源がアコースティックドラムスのシミュレートをしているのに対して、このドラム用サンプラーは電子音楽用のリズムトラックを作るためにある。

    別にわざわざドラム用のサンプラーなんて作らなくても普通のサンプラーで十分事足りるんじゃないかと思うところだけど、パーカッション(打楽器)に特化して使いやすくなっている。らしい。フラムなんていうタタンと二重に叩く奏法のための専用の機能があったり、同じキーでも一回目と二回目とでサンプリングデータを変えたりするのが簡単らしい。もちろん普通のサンプラーのように、ヴェロシティ(音の速さもとい一音の音量)によってサンプルデータを使い分け、強く叩いたときと弱く叩いたときの制御が簡単にできる。

    ▽VENGEANCE

    ダンス音楽に向いたサンプリングデータを提供している有名なディストリビュータの一つ。サンプリングCDとして提供され、各種パーカッションからループ(リズムトラックの細切れ)から飛び道具(効果音)なんかがサンプリングデータとして収録されている。

    いろんなサンプリングCDがあれば、それらを切り貼りするだけで音楽が作れてしまう、とよく揶揄される。センスが必要になるけれど。

    ■反省

    そんなわけで私の挑戦は失敗に終わった。自分の中で区切りをつけるためにも、一人反省会でもやってみたいと思う。

    ▽詞⇒作曲⇒編曲

    私は編曲こそが一番重要だと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。曲のクレジットが詞⇒作曲⇒編曲とあるようにこの順番に重要なのだと思った。最近のポップスの詞なんてわけわからないものがヒットしているから大して重要じゃないと思っていたのだけどそうでもないらしい。

    思い返してみれば、私がボーカロイド曲を好んで聴くようになったのは、ryoのワールドイズマインとかアゴアニキのよっこらセックスみたいな詞が面白い曲を聴いてからだった気がする。先に挙げた二曲はもちろんメロディも編曲も良かったのだけど、それよりも詞のほうが影響が大きかったかもしれない。

    じゃあ私が使わせてもらった他人の詞が全部悪かったのかというとそうではなく、私自身いまでも気に入っている詞もあるし、二曲分使わせてもらった北村耕太郎さんの詞を私以外の他の人が使って再生数一万以上行っている曲があってびっくりした。

    ちなみに私は最近はゆうゆPやdorikoが好きで繰り返し聴いているのだけど、もっぱら編曲の素晴らしさに惚れている。もちろん詞や曲もいいんだけど。デッドボールPの詞はどちらかというと嫌いだけどスピード感のある曲に磨き上げられたサウンドが気持ちいい。

    2ちゃんねるの自作曲スレなんかを見ると、ここの人たちはというかDTM板全体としてボーカロイドが嫌いな人が多いのであまり詞には注目が集まらないのだけど、編曲の技術を競い合う空気が濃い中で、作曲の重要性を説く人がたびたび現れる。私も幾度も考えてみたのだけど、編曲が一定レベル以上まで行ってしまうとあとは作曲の占めるウェイトのほうが段違いに大きくなっていくと思うようになった。

    ▽ニコニコ動画の視聴者が求めるもの

    ニコニコ動画でよく再生される曲にはやはり傾向があると思う。思いつく限り挙げると、

  • 詞が面白いもの
  • のれるリズム音楽(定番のエレクトロニカやダンス音楽)
  • せつない詞を歌い上げるもの
  • あまり見ないタイプの曲
  • なにか極端なところのある曲(テンポが速い、詞が過激、など)
  • メタ曲(ボーカロイド自体を歌った曲、製作者の想いを歌った曲など)
  • 定番の編曲(いかにも○○みたいな)
  • 動画の完成度が高い曲
  • 手作り感のある曲
  • これらには私のひがみも入っているので全部は鵜呑みにしないほうがいいと思うけれど、最底辺Pの集まるスレで色んな人が囁いていたり、リスナー側で言われていたりする内容も含まれている。

    ちょっと愚痴りたくなったりもするけれど、それでも素人のオリジナル曲を聴く土壌があるというのはすごいことだと思う。まあ最底辺Pの曲の数々はごく一部の熱狂的なリスナーたちが五秒とか長くても三十秒も聴かずに再生停止しているのだけど。

    最近はMMD(ミクミクダンスつまり3Dモデルデータを使ってモーションをつけてPVを作る)が一般的になって、動画をつけるのが当たり前になっているんじゃないかと思う。まあ依然音楽だけで勝負している人も多いだろうけれど、やるなら一人で全部やるか誰かに頼むかしなければならない。

    ちょっとポジティブになってもし自分が次に作るならということで考えてみると、歌ものとして歌に重点を置いた曲を作ってみたい。誰かが歌ってみたいと思うような。

    ■その後

    音楽を製作する意欲が下がってから、創作に必要な気力はなかなか貯まらなかったものの、アニソン(アニメに使われているソングつまり歌)を中心に既存のポップスを勉強がてらよく聴くようになった。これまでも特にガールポップを中心にポップスを時々聴いてはいたのだけど、歌ものとしてではなく主に器楽曲として聴いていた。歌を、歌い上げる歌曲として聴いて歌に注目するようになってから、かつてだったらなんとも思わなかったような編曲的に平凡な感じの曲も好んで聴くようになった。

    それでも一向に創作の意欲が回復しなかったので、またピュアオーディオの趣味に走って大体百万ぐらい費やして再生環境を整えた。その過程で、いままで音楽制作に使っていたaudio-technicaのヘッドホンAH-A900が中高音重視でミックスなんかには向かないものだということに気づいた。こういうものはちゃんとフラットな特性のモニタスピーカーでやらなければならないのが常識なのだけどいままであまり気にしてこなかった。これまで作ってきた曲の音のバランスが少し悪かったことに気づいた。

    いまの私はすっかり聴き専つまり音楽を聴くだけの人間になってしまっている。音楽制作のための努力が、めぐりめぐって他人の曲をより楽しく聴くための素養になっていた。自分の音楽を作る面倒さと比べると、他人の音楽を聴くほうが手軽で良いと今は思っている。人の作った音楽の素晴らしいところがより分かるようになった。

    でも一方で結構頻繁に自分の曲も聴き返している。ひょっとしたらもう、曲を作るのに費やした時間以上に聞き返しているかもしれない。私の場合、フルコーラスなら一曲作るのに二十時間ぐらい掛かっているので、正確に数えたわけではないけれど二年ぐらい経つしひょっとしたら二百回以上聞き返している曲があるかもしれない。何度も聞き返しているうちにこれまで気づかなかったことが分かってきたり、時間を置くことで無に近い状態から聞くことが出来てから理解できたことがあったりした。成功だと思っていたものがちょっと失敗していることに気づいたり、逆に失敗だと思っているものが割と成功していたりすることに気づいた。

    いままた音楽制作を再開すればいままでよりも良いものが出来ると思う。ただ、私は大体四年ごとぐらいに色々な周期が変わるので、あと残り二年ぐらいは創作の意欲が沸かないような気がする。それまではマンガとかアニメとか2ちゃんねるとかゲームを中心に楽しむ生活が続くかもしれない。二年たったらまた技術の進歩があってすごい製品が出ているかも。ボーカロイドはバージョンアップしないのかな。最後のほうで投資した高価なソフトウェアシンセサイザーがちょっと無駄だったかもと後悔しなくはないけれど、まとまった休みを何度も経ても一向に創作意欲が回復しなかったのでしょうがない。

    あるいはもう音楽はやめて次はpixiv戦記でもやるかもw イラストもいつかやってみたいなあw

    *

    やっぱり最後にお礼を言いたい。曲につけてくれたコメントの数々をあらためて読んで、とてもうれしく思った。私が借りた歌詞や絵の作者さんやその知り合いの人が多いんじゃないかとは思うし、ボカロ曲のリスナーさんたちが育んできた文化のもとで好意的な言葉をくれたのだと思うけれど、それらすべてを踏まえた上で感謝せずにはいられない。どうもありがとう。


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