173. 資本主義の限界 (2011/9/27)


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近年の世界経済の不調を見て、資本主義の限界が見えたということを言い出す人がまた多く出てくるようになった。私も同じ意見だ。ではどういうところが限界なのか?アダム・スミスの言った「神の見えざる手」がもはや経済を発展させるどころか資本の極端な偏りを招いている点だ。果たしてマルクスの予言は当たるのか?

という視点で書いてもありきたりでつまらないので、今回は日本悪玉論という視点で論じてみたい。

■円高のせい?

日本の経済が不調なのは円高のせいで製造業が輸出競争力を失っているからだと言う人が多い。そして円高なのはアメリカやEUが紙幣を刷りまくっているからで、日本は日銀が円を刷ろうとしないからダメなんだ、一体なぜ刷らないんだ?という疑問に行き着くとそこで話が終わってしまいがちだ。

このあと話が続くと、大体以下のような結論に導かれる。

  1. 円を刷るとハイパーインフレになるから。
  2. 円を刷っても資金の需要がなくて結局銀行の金庫に納まるだけだから。
  3. アメリカ様やユダヤ様の言いなりになっているから。
3の真偽はともかく話が展開できないので論外として、1についてはそもそもハイパーインフレとは資金の量に対してモノが極端に不足していないと起き得ないので今の日本では絶対にありえない。2の借り手がいなくて銀行が国債を買うだけというのが一番の理由だろう。

じゃあ刷ったカネを国民にバラまけばいいじゃん、と言う人がいて、そういう人は誰にも相手にされずに話が終わってしまうのだけど、乱暴ながらこの意見が一番まともだと私は思う。そもそも資金の需要が少ないのは、労働者がカネを持っていないからだ。彼らがカネをケチるから、外食産業を始めとした幅広い産業にカネが落ちないのだ。なぜ彼らがカネをケチるかというと、収入が少ないからだったり、雇用が不安定でいつまで働けるか分からないからだ。なぜ彼らの生活が不安定なのかというと、企業が人件費をケチっているからだ。なぜ企業が人件費をケチるのかというと、そうしないと輸出で儲けている製造業が国際競争に勝てないからだ。なぜ国際競争に勝てないかというと、円高だからだ。ふう。

■円高の理由はメーカーのせいか?

ではなぜ円高なのか?

答え:日本のメーカーが輸出しすぎるから。

そう、メーカーがすべて悪い。

ここでよく言われるのは、日本みたいな資源もなにもない国は、モノを作って海外に売らないとやっていけないんだ、みたいな理屈だ。しかしちょっと考えてみて欲しい。彼らが危惧するように日本が輸入超過になったら、その時点で既に円高は自然に解消されているはずである。つまりこれは日本の輸出企業を束ねる経団連による詭弁なのだ。

ちなみに2011年8月の貿易収支は震災の影響もあって赤字になっているらしいが、アメリカ国債などの外債の利子を含めるとまだまだ黒字のようだし、仮に本当に貿易赤字になったとしても日本にはこれまでの蓄えがたくさんあるので短期的にはまったく問題ない。メーカーは円安に振れるまでの円高に苦しむかもしれないが、短い間なら補助金でもなんでも出して守ればいい。

労働力の国際的な価格破壊が起きているからだ、ということもよく言われる。これまで資本主義に組み込まれずに農業で生計を立てていた発展途上国の農村部の人たちが、新たに労働力として組み込まれることで、先進国でのんびり働いていた人たちが彼らとの競争にさらされ、労働市場からあぶれてしまう。でもこれだって発展途上国に工場を建てたメーカーのせいだ。メーカーが発展途上国の労働者を安く使うからその国の内需が拡大せず、どこかに輸出しなければ売れないので、結局商品と一緒に不況を輸出することになる。

しかし本当にメーカーだけのせいなのだろうか?あなたの家計の支出に占める割合は、メーカーのたとえば家電製品や車なんかが多いだろうか?否、断じて違う。一番の負担は住居費で、次いで子供がいれば教育費、あとは食費や光熱費なんかのほうが多いんじゃないだろうか。税金や社会保険料だって高すぎる。それに対して、メーカーの作るものはデフレの圧力を受けて信じられないくらいに価格破壊を起こしている。

内需さえ盛んなら、メーカーは極端な話、輸出しなくても十分にやっていける。大々的なモータリゼーションに成功したアメリカだって、フォードが自社の社員に車が買えるようにしたことで成し遂げられた。

■内需が細った理由

ではなぜ、不景気でまっさきにメーカー中心に価格破壊が起きたのか?そもそも生活必需品ではないからというのも大きいが、ほかのものは価格破壊に強かったからだ。住居費は大都市一極集中により需要が大きいので大きく下げたりはしない。教育費は日本が保守的な社会だからいい大学に入っていい会社に入れば生涯賃金も多くなるのでやはり下がらない。

もちろん価格破壊が大きく起きたのはメーカーに限らず、流通業だってサービス業だって影響を受けている。では影響を受けなかった産業との違いはなんだろうか?

まず住居費については、そもそも企業が集中しすぎるのが悪いのだけど、なぜ特に首都圏に集中するのかというと、政府に近い必要があるからだろう。政府と直接つながりがあるのは一部の大企業のみだが、その一部の大企業とのつながりを求めてみんな首都圏に集まってしまう。そうやって土地に需要が高まると、当然それをもとに儲けようとする人々がいるわけで、生来の日本人の土地信仰もあって土地の値段が高くなってしまう。特に金持ちが不動産業をやってさらに儲ける。首都圏の不動産屋と賃貸物件の多さは異常といってもいいぐらいのレベルだ。最近ようやく人口減少の足音が聞こえてきて、過剰な供給量もあって条件の悪いところは埋まらなくなってきているらしいのだが、それでも首都圏の人口はまだ下り坂になっておらず、微増を保っている。

教育費は、大学の数が増え続けていて、多くの人が大学に進学するようになっていることからも明らかである。なぜみんな大学に行きたがるのかというと、学歴の低い人は大企業に入れず、大企業に入れなければ収入が低くなってしまうからだ。もっとも、子供の減少により受験の競争率は落ちており、団塊ジュニアの世代と比べると早慶レベルの大学が今は当時のMARCH程度の難易度にまで落ちているらしい。でも他人との競争である以上手綱は緩まらず、いったん増えた塾なんかの支出は容易には減りはしない。特に不景気となればなおさらである。

光熱費は東電みたいなヌルい会社がやっているから世界的に見て高いカネを払わされている。税金は公務員の給料が高すぎたり無駄な公共事業をやっているから高い。ここで私が公共事業を無駄だと言っているのは、公共事業自体が無駄なのではなく、寄生虫に中抜きされるから無駄だと言っている。公共事業をやっている企業というのは、大抵政治家や役人になんらかの形で賄賂を払っている。露骨な賄賂を送れば捕まるけれど、合法的な範囲での政治献金、社員を送っての選挙協力、形ばかりの役員としての天下り、親族企業へのおいしい仕事の発注、などなど抜け道はたくさんある。社会保険料だってそうで、高齢化社会で医療費なんかが増えているというのが大きいけれど、医療費や年金資金に群がる寄生虫が多いのが悪い。

払うだけではなく本来得られるべき収入という点について言えば、銀行に預けたときの利子も含めるべきだろう。銀行は集めた預金を企業に貸したり金融商品で運用して儲けている。企業が市場から直接資金を借りるようになったり金融商品の利回りが少なくなったりして資金の需要が減っているとはいえ、それでも預金の利子0.05%とかよりもずっと高い利回りで運用しており、それが銀行の儲けとなっている。彼らが本来の目的である信用の創出と資金の循環に精を出しているならまだいいが、なんと彼らは預金の多くを国債で運用している。そのほうが貸し倒れもなくて楽だからだ。日銀が円を刷らないのも、銀行が多く保有している国債の価値を守るため、というのが大きな理由ではないかと思う。都市銀行と日銀の人事交流からみてもその可能性が高い。じゃあ銀行に損をさせないよう銀行の持つ国債を全部日銀が買い切ればいいじゃんと思うかもしれないが、そうすると銀行が儲けるためのおいしい国債がなくなってしまうことになるのでやはり阻止しようとするだろう。なにせ国が巨額の借金してくれるのだから、金貸しにとってはこれほどおいしい話はない。

こうして社会に寄生して分不相応な収入を得た人々が、多い収入に見合った派手な生活をするのであればそれはそれで金が回って良かったのだが、彼らの多くはタチの悪いことに利殖に走っている。その際たるものが不動産であろう。偏った資金が投資に回り、資金の供給が多くなって需要が少なくなる。不動産に回った資金は、不動産の価値を高めてしまい、一般労働者の内需を細らせる原因となる。それに、みんな搾取される労働者になりたくないだろうから教育費も減らない。

つまり、内需が細ったのは寄生虫が跋扈しているのが原因である。

■癒着こそ諸悪の根源

私は最初、不景気をなんとかするには最低時給を上げるとか、ベーシックインカムのように労働供給を減らして消費を増やすとか、もっと直接的に国民にカネをばら撒くとかすれば良いかと思っていたが、それでは解決にならないということに気づいた。なぜなら、労働者がカネを手に入れたところで、手に入れたカネの分だけモノの値段が上がるだけだからで、モノの値段が上がった分だけ寄生虫たちに回収されるのがオチだからだ。モノの値段が上がったら景気がよくなるからいいじゃないかと思うかもしれないが、競争が激しい分野ではモノの値段なんてあまり上がらないだろうから、上がるのは不動産みたいな癒着系のモノばかりになるだろう。まあベーシックインカムが実現したら高い土地に住まずに田舎でのんびりやればいいのだけど、であればますますこの制度は実現を妨げられるだろう。実現すると困る人間がいるからだ。

だから結局この問題は日本社会のいやらしい癒着をなんとかするしかない。そもそも日本が戦後高度成長を遂げることが出来たのも、GHQにより一時的に日本的な癒着が破壊されたからだという説を唱えている人もいるぐらいだ。誰だったか忘れたけど。

■輸出企業の悪

だからメーカーだけを責めるのはフェアではないのだけど、日本のメーカーの自助努力は全世界に悪影響を及ぼしている。世界最大の債権国であり貿易黒字国であるということは、それだけ他国の産業や雇用を破壊しているということだ。

私は最近までずっと日本のマスコミやその裏にいる産業界の印象操作に騙されてきた。日本はアメリカの言うことには逆らえないだとか、アメリカにこれまで一体いくら貢いできたんだとか言われているが、それらはすべて彼らにとって都合のいい論理だ。アメリカは自国の産業を守るために仕方なく戦ったのであり、産業が空洞化しながらも仕方なく消費しつづけてきたのだ。もちろんそれはアメリカという国を一つの主体として考えた場合の話であって、アメリカの中でもそのほうが都合が良い人もいれば都合の悪い人もいる。少なくともアメリカの資本家は日本の資本家と利害が一致していたので、互いに自国の国民を犠牲にして自分たちが肥え太る道を選んだだけの話だ。

日本による過剰な輸出が叩かれだすと、今度は中国や韓国やASEAN諸国を介した輸出に軸足を移した。それらの国々に部品を売ることで間接的に輸出を増やしたのだ。たとえば韓国なんかは全世界に工業製品を輸出しているが、それらは日本からの部品の輸入に頼っており、対日本で見れば大きな貿易赤字となっている。見方を変えれば、日本は韓国を隠れ蓑にして全世界に輸出していることになる。

■行き着く先

このままの状態が続くとどうなるか?

実は私は最近の経済の閉塞を非常に面白く思っている。というのは、結局資本家が労働者から搾り取れば搾り取るほど経済が破壊されていくということが、徐々に現実化しつつあるからだ。

日本も含めた先進諸国は、企業を優遇するために法人税率を下げ、金持ちを優遇するために高額所得者の税率を下げてきた。各国の財政はそれにより悪化し、あるいはその分だけ中流以下の層への税率を上げた。それが結局、金融の破綻、内需の崩壊を招き、企業や金持ちの首を絞める結果となった。アホとしか言いようがない。そもそも法人税率を下げないと企業が苦しむなんてのは真っ赤なウソだ。赤字の企業は法人税を払わなくてもいいのに、なにをどう困るのか?企業は売り上げから事業に掛かった費用やら社員への給料やらを差し引いたものを利益とし、その利益に対して法人税が掛かるのだから、法人税が高くて困るのは株主配当と役員報酬が欲しい人たちだけだ。法人減税は、利益を出している企業だけを優遇する、景気対策とはほとんど関係ない政策なのだ。

日本のメーカーは、製造を国外に移転させるだけでなく、設計やスタッフ部門の人材も外国人に置き換えようとしている。彼らは日本の内需が崩壊しても外需つまり輸出で稼ぐので日本人の雇用なんてどうでもいいのだ。外国で自分たちが製造した製品を自国の国民が買えなくなったって気にしない。すでに日本のサラリーマンの平均所得は先進国の中でも低いほうだ。一人当たりGDPでは日本はもはや二十位くらいにまで落ちぶれた。しかし平均労働時間は世界一である。いまの日本は、中国と同じように、貧困労働者への搾取で成り立っている。中国が安い労働力を大量に輸出して世界を不況に陥れたと言うが、それ以前に日本のサラリーマンが他の先進諸国の産業とくに製造業を破壊してきたではないか。

みんなそれぞれ得をしたいから行動する。その結果として、みんな損をする。何が悪いのか?ルールが悪い。政治が悪い。でも政治だって誰かが得をしたいから動いている。資本主義国家での政治はそうならざるをえない。

じゃあこのまま資本主義は滅びるのかというと、良い方向の萌芽も出てきている。たとえば、アメリカの大金持ちウォーレン・バフェットは、自ら富裕層への増税を政府に働きかけている。アメリカだけでなくヨーロッパでも似たようなことを提言していた人がいた。彼らは別に慈善精神だけで言っているわけではないだろう。自分たちが優位に立っている社会をいつまでも保っておきたいのは当然であり、そのためには短期的な利益を捨ててもしょうがない。でなければ、最悪革命が起きるし、そうでなくても徐々に世界が衰退していってしまうからで、そうなると一番困るのは彼らだからだ。

それに対して日本ではこのような動きはまだほとんど出てきていないように見える。高潔な金持ちがいないせいもあるけれど、日本の場合権力者がみんな小粒だからだろう。一流企業の経営者、官僚や地方公務員や特殊法人やそのファミリー企業、電力ガス通信などのインフラ企業、マスコミ、パチンコなどの特権的な企業など。誰もリーダーシップを取らないのでみんな勝手に動いている。これでは良い方向に舵など取れない。

■どうすればいいか?

夢物語を言ってもしょうがないので、出来るだけ実現性のありそうなルール作りを考えてみたい。金持ちの権力者だってこのまま世界が潰れたら困るのだから、誰かにルールを作ってもらいたいに違いない。まあ実際には必ず抜け駆けをしようとする勢力が出てきて実現しないのだけど。

▽内需保障税

主権国家は関税を自由に掛ける権利を持っている。FTAなんかで自ら放棄する場合もあるけれど必ず交換条件を相手にも出している。だから本当は、貧困を輸出してくる中国や日本のようなダンピング国家をそれぞれの国は阻止できるはずなのだ。しかし現実には出来ていない。なぜなら、輸入することで儲けている人たちがいるからだ。現にいまの日本だって円高で商社や石油会社なんかが大儲けしている。自動車を輸入するからオレンジを輸出させろ、みたいな政策がロビー活動を通じて実現する。反対勢力に対しては補助金を出して懐柔したりする。補助金は税金から出るのでツケが国民にまわる。まあ安い野菜が手に入って喜ぶのも国民なのだけど、輸出作物の農薬で健康被害に悩まされるのも国民だ。

だから政治が入り込む余地がないよう、はっきりと原理原則を法律で定めてしまえばいい。日本でモノを売る企業には、日本の内需を保障させるような税を取る。全部日本で作っている場合はこの税はなし。全部外国で作っている場合はこの税を100%掛ける。設計だけ日本でやって製造を外国でやっている場合は半分ぐらい。流通センターで日本人を雇用している場合とか、営業所を持っている場合など、それぞれ度合いに応じて税を掛ける。雇用だけではなく外国人株主比率なんかでやっても面白い。逆に日本から外国に輸出する企業には補助金を出してもいいぐらいだ。もっとも、輸出相手国からなんらかの税を掛けられるので、差し引きで結局変わらなくなるだろう。

▽社会への寄付によって得られるステータスの創設

アメリカでは儲かっている企業や個人が寄付をすることで合法的に税を逃れられる制度がある。寄付といっても赤十字とかに寄付するのではなく、自分たちが作った公益法人なんかに寄付して自分たちの望むことを代わりにやらせている。

近代社会では人々はみな良い意味でも悪い意味でも平等になってしまった。実際には金持ちと貧乏人がいるので平等でもなんでもないのだけど、建前上は平等ということになっている。この建前上の平等なんていうつまらないものをこの際なくしてみてはどうだろうか。いまでも地方の名士という言葉があるようにステータスを持っている人たちがいるけれど、もっと簡単にそしてはっきりとした形で社会に様々なステータスを設けるのはどうだろうか。そして、そのステータスと引き換えに、社会になんらかの形で寄付してもらうのだ。

私が数百億円ぐらい持っていたら、学校を作って経営したい。儲からなくたっていい。自分の考えで学校を運営する。教師や生徒を集めたり、立地を考えたり校舎を建てたりする。まあ自分一人でなんでもやるわけにはいかないのでブレーンを集めるとかから始める。このご時勢、少子化だから新設校は厳しいだろうな。現実的にはどこかの学校を買収する形になりそうなのだけど。

そんなにお金がなくても他に色々ある。たとえば、以前書いたことがあるのだけど、格闘技の道場なんていうのもいいと思う。きっと儲からないんだろうけど別にいい。道場を開きたい若い人に出資する代わりに、自分はその道場のなんだかよくわからないけどエラい人になるw たまに生徒の前に出てきて、ちょっとエラそうなことをしゃべる。格闘技なんて全然できなくても、出資してるから先生も自分を立ててくれる。時々稽古場を訪ねて、汗水流す生徒や先生を見てウンウンなんて言ってみたりする。こんな出資なら、配当なんてなくていいじゃないか。みんな自分の持ってる小金を銀行に預けたり金融商品を買ったりしちゃうから、成長率の低い日本ではなくどこかの外国に金が行ってしまうのだ。格闘技が嫌なら保育園や自動養護施設でもいい。ロリ大歓喜w

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まあこんなこと書いてみても、世界は2012年に終わるかもしれないな、なんていう心配があんまり薄れないんだよなあ。


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gomi@din.or.jp