171. ニコニコ動画最底辺P戦記(音楽制作2)中編 (2011/4/16)


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前回170. ニコニコ動画最底辺P戦記(音楽制作2)前編 (2011-3-27)の続き。

■アルペジエータで楽にテクノを作ろうとした四曲目

テクノ音楽なんていうのはDAW(音楽制作ソフト)のアルペジエータつまり分散和音(アルペジオ)を自動的に生成する機能を使えば簡単に出来る、と2ちゃんねるの動画板の最底辺Pスレで誰かがふざけて言っていたので、それを真に受けたフリをして自分も一度テクノを作ってみようと思って作ったのがこの四曲目だった。


【ニコニコ動画】【初音ミク】僕の飛行船【オリジナル曲】
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そのアルペジエータにCmmaj7というちょっとマニアックなコードを入力したところ、けたたましいサイレンのような音が出てきて、それがそのまま曲想となった。それからテクノっぽい音を入れているうちになんか宇宙っぽくなったので、メロディをすでに作っちゃってからピアプロでなんとかこのメロディにハマりそうで宇宙っぽい歌詞を探してきて歌詞を半ば強引に当てはめてみた。実のところ歌詞を考えるのが面倒になってきたので、それならいっそピアプロで歌詞を探してくるのが楽なんじゃないかと思うようになったのだ。本当に運がいいというか、z-uさんという人の「僕の飛行船」という自分探し的な歌詞をうまいことハメることができた。絵もちょうど宇宙をテーマにした「ミク、宇宙にいく」という名前のニトロ・スクロアさんという人のイラストがあったので使わせてもらった。

メロディを先に考えただけあってメロディは自分で言うのもなんだけどまあまあの出来で、サビで三声のコーラスワークをやっているのはたぶんこの曲だけだし、詞も物語的なものがあったり悩みみたいなものが込められていて良かったのだけど、編曲の出来が悪くて自分の中では没曲に近い位置づけになってしまった。私は自分の曲が好きなので今でも何回も何回も繰り返し聴いているのだけど、この曲は滅多に聞き返さない。編曲のアイデアだけはひょっとしたら一番センスがいいかもしれない。テンションの効いたコード進行とか、いかにも宇宙っぽいフレットレスベースやチェロ、初音ミクにハミングさせるところ、互いに追いかけるように動く左右のストリングスと色々考えて作った。最底辺Pスレでこの曲を聴いてくれた人が「なぜかセンスを感じた」と書いてくれたのだけど、編曲の土台的な部分が全然ダメだった。エレクトリックピアノのバッキング(伴奏)がリズムを生んでいないし、気の抜けた単音ストリングスの響きと動きが間抜けていたり、なによりテクノという編曲をろくに知らないので独特すぎて奇妙な感じがする。あとからハメこんだ歌詞にCメロにあたる部分があったので、あとから強引にCメロをでっちあげたのも迷走に拍車を掛けた。この完成度の低さは聴くたびに恥ずかしくなる。

一応構成を書くと、

イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏-Cメロ-Aメロ-Bメロ-サビ-アウトロ

となっている。なんとBメロの途中で転調している。あとで気づいた。知らず知らずのうちに転調していたのに気づかなかったのが編曲の迷走につながったんじゃないかと思う。まあ実は早いうちにこの問題には気づいていたのだけど、面白いと思ってそのままにしたのが失敗だったのかもしれない。

▽Steinberg Cubase 4 Essential

音楽にだんだん力が入ってきたので、そろそろハードウェアの付属品のDAWを卒業してちゃんとした製品版を買ってもいいんじゃないかと思って買ったのがこれ。

SteinbergはCubaseを五種類出していて、無印が最上位で大体十万円、やや機能が制限されたStudioと付くものが五万円ぐらいで、ここまでがレギュラー版と言える。残るは私がいままで使ってきたLEというグレードで、前に言ったようにこれはハードウェアのおまけとして他社製品に付属させて販促に利用しているもの。

細かいことを言うと、EMU 0404 SEに付いてきたのはメジャーバージョン3ベースの単なるLEで、Zoom ZFX Pluginsに付いてきたのはメジャーバージョン4ベースのLE 4だった。LE 4のほうが新しいので機能も進んでいるのだけど、実際のところ3ベースのLEのほうが制限が少なくて機能が上だと思う。特にLE 4には普通のマルチティンバー(一つのエンジンで複数のトラックを鳴らす)のソフトウェアシンセサイザーが2つまでしか使えないという大きな欠点があった。Steinbergは1トラック1シンセを進めたかったらしく、マルチティンバーにこだわらなければトラックごとにシンセを立ち上げればいいだけの話なのかもしれないけれど、なにやら独自の仕様があるみたいで付属のHalionOneでの使い勝手しか考えられていないような感じがした。

独Steinbergは日本のヤマハに買収されたので、Cubaseにはヤマハのキーボードなどハードウェアとの連携機能も盛り込まれていった。ずるいことにヤマハの製品にはAIというグレードのCubaseが付属していて、こいつはLEよりも制限が緩い。

さらにヤマハに買収された影響からか、さらなるシェア拡大をもくろんだ戦略的な価格設定の製品として、このEssentialというグレードが追加された。こいつは定価が二万円台後半とさらに安くなっている割に、従来の十万とか五万とかする製品と比べて実用上大して制限がない。特に、売り物になるような音楽だと数十トラック使うのが当たり前になり、これだけ多くのトラックを扱うのに必須の機能であるフリーズつまりソフトウェアシンセサイザーのプリレンダリングのような機能がついている。これにより、すべてのソフトウェアシンセサイザーをリアルタイムに動かす必要がなくなり、あらかじめ計算して出した音声ファイルを再生するだけになるのでCPU負荷が軽くなる。フリーズはいつでも解除したり掛けたり出来るので、編集中のトラック以外は基本全部フリーズしておけば動作は軽くなる。特にアンプシミュレーターみたいなリアルタイムでCPUを食うFX(エフェクト)には有効で、これがないとギターのトラックを何本も使えない。

ネットで聞いた噂なのだけど、Steinberg本体の人たちはこのEssentialを出すのを嫌がったらしい。それだけこのEssentialはお買い得なのだと思う。さらにこいつはLEやAIからのアップグレード購入もでき、私はLEからのアップグレード版を買ったので16,800円で買った。家電量販店で買ったのでポイント10%もついた。

▽Yellow Tools Independence Free

販促のためにハードウェアに付属されるソフトウェアがあることは前述のとおりなのだけど、なんとタダで配布されているものもある。その中で当時もっとも質が高いと言われていたのがこのYellowtoolsのIndependence Freeという変な名前のソフトウェアシンセサイザーだ。IndependenceシリーズのFreeというグレードだからこう呼ばれる。

こいつの特徴は、使える音色がバンド系のものを中心に結構限られているものの、その質の高さは十分他の単品製品と渡り合えるレベルだと言われていることだ。音楽を作って生計を立てている人たちなんかは、たとえばブラスならブラスと楽器ごとに単品製品を買い集めていることが多い。なぜなら、楽器ごとに録音技術とかサンプラーのチューニングが変わってくるので、会社やエンジニアによって得意な分野がそれぞれ違うから、良い製品となると必然的にオールインワンではなく単品ものになる。Independence Freeはそんな単品製品ともいくつかの音色に限ればある程度渡り合えると言われているのだから、それがタダで手に入るというのはすごいことだ。

この思い切ったフリーウェアにより、製品版の方の売り上げも上がったらしい。ただ、昨今の不況によるものなのか、現在サポートが止まっているらしい。Independence Proという最高グレードのものが去年の年末に格安でセールされたので、その頃の私はもう音楽制作に飽きていたにも関わらず買っちゃおうかと思っていたほどなのだけど、サポートが不安なので怖くて買えなかった。

■詞先のパンクロック

前の曲はギターを一切使わなかったので、次は弟への受け狙いでまたギターを使って曲を作ることにした。特に最初のイントロでなるべく勢いのあるかっこいい感じのリフ(繰り返しのフレーズ特にギター)の部分だけまず作って弟に送った。ネット上のやりとりも面白いけれど、やはりリアルで聞いてくれる人、切磋琢磨できる人に向けて作る方がモチベーションが高くなる。


【ニコニコ動画】【初音ミク】桜前線 -Girl's side-【オリジナル曲】
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前作でメロディの上から既存の詞をかぶせるのは無理があることに気づいたので(当たり前だ)、もうこうなったら最初に詞を決めてしまおうと思ってピアプロから良さげな詞をもらってきた。自分で詞を書くのも出来なくはないのだけど、音楽のほうに注力したかったし、クサい詞を書いてあとで黒歴史になるのは避けたかった。

詞はるいじさんという人の同名のもので、どうやらもともと男子学生の恋愛の詞があって、それとは別に女の子のほうの視点から書いたのがこの詞らしい。初めて他人の詞をじっくり選んだせいか、かなり念入りに選んで今でも非常に気に入っている。ぶっちゃけピアプロの詞はほとんどがゴミで、まあそれを言っちゃうと私のも含めて音楽もほとんどゴミなのだけど、これだけあれば中にはすごくいいものもあるし、一般ウケはしないかもしれないけど自分はすごく好きみたいな作品が探せばある。感情ばかり先行する歌詞が多い中で、るいじさんの歌詞には具体的な物語があって展開するところが良かった。当時2ちゃんねるのボカロ動画サイト系のスレでは広瀬香美の作詞術が話題になっていて、いい詞というのは一般的な恋歌であっても抽象的なものじゃなく具体的な何かによって描かれているものだという解説を読んでなるほどなと思った。

ただしこのるいじさんの歌詞、字数が奔放すぎるという欠点があった。特に、一番と二番とで大幅に字数が異なるのは困った。ほかに、言葉を詰め込みすぎている箇所とかあって、メロディを作るのに苦労した。私のメロディの作り方が悪かったせいもあるのだけど、Bメロのサビ前で急に五拍子の小節があったり、サビが十小節という中途半端な長さになったりしている。

題名が桜前線だったので尊重して桜がテーマの絵を選んだ。ピアプロで桜と入れて検索すると関連する絵がズラズラと表示される。その中から自分の気に入ったものを選ぶ。ただ、桜というテーマは春先に結構使われるせいか、他の人にすでに使われている絵が多かった。なので誰からも使われていなかったこのミーナさんの絵をもらった。子供が描いた素朴な絵みたいな感じがして、アニメっぽい絵よりも気恥ずかしくないので選んだ。どこからどう見ても桜が使われているし。ついでに、素朴な絵でどのくらい再生数とマイリストに影響があるのか知りたかったというのもあった。

曲の構成は以下のとおりとなっている。

イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏1-Aメロ-Bメロ-サビ-間奏2-ギターソロ-Aメロ-間奏3-サビ-サビリフレイン-アウトロ

一番と二番の間の間奏1に、リズムに変化を取り入れたフレーズを入れている。8分音符で3-3-3-3-2-2個分の音で刻んでいるギターが、六小節目から微妙にズラして、さらにベースを上に持ち上げて盛り上げている。このフレーズが気に入ったのでアウトロにも流用した。

二番Aメロではベースを派手めにした。というか本当は二番の編曲が最初にあって、それを簡略化して一番にした。だから一番の編曲がシンプルすぎて味気ない感じがする。ギターのミュートが刻まれるだけでも結構存在感があるのでまあいいかと思っているけれど、Bメロの入りが自分でも厳しいかなと思う。

この曲、テンポが異常に速い。確か一分間に190拍だったか。ジャンル的にはパンクロックと言っていいと思う。ギターは左右一本ずつ二本使っている。左がミュートで太目のバッキングを、右がカッティングで軽めのバッキングを担当している。それぞれに見せ場を作ろうと、様式上のギターソロは右側のギターにやらせつつ、二番Bメロの裏にギターの一番の見せ場を左側のギターにやらせたのに加え、三番の途中の間奏に半分リズム半分リードの四小節ソロをさせている。もし自分がバンド組んでギターやるならこういうギターを弾きたいと思う。右側のギターはカッティング用の音作りをしたので音が軽くなってしまった。本来ならたとえギター二本しか同時に使っていなくてもトラックをもっと分けるのが普通で、そのためにアンプシミュレータの高い負荷を和らげるフリーズ機能があるのだけど、このときはまだこの機能を使っていなかったのでトラック二本だけでやった。ほとんどのギタリストは、リズムを刻んでいるときとソロを取るときとで音を変える。音を変えないとこの曲のギターソロのように線が細くなって頼りない感じがする。

結構単純なパンクロックに見えて実はこの曲は結構転調している。AメロBメロは短調、サビに入ると平行する長調に、ギターソロでさらに転調している。意図してやったわけではなく、自然にそうなってしまった。ついでに言うと、二番Bメロの前に左側のギターがミュートでアルペジオ(分散和音)を奏でているのだけど、このときはギターソロの最後にありがちなオルタードスケールという特殊な音階を使っている。2ちゃんねるの自作曲スレでギターのうまい人が曲をアップしていて、それを聴いた他の人が「うまいけどもう一工夫たとえばオルタードなんか使うともっと良くなるのでは?」みたいなコメントをしていて、ググッたらああこういうのをオルタードっていうのかと納得して自分の曲にも取り入れてみた。

我ながらドラムに手を抜きすぎたと思う。リズムにもっと力を入れてくれとニコニコ動画でコメントをもらった。聴き返すたびに少し後悔するけれどまあしょうがないかなと思う。あとギターを適当に弾きすぎた。DAWやそれ以前のシーケンサソフトには、MIDIで鍵盤から手入力したファジーなフレーズをキッチリ揃えるクオンタイズという機能があるのだけど、ギターから録音したフレーズをキッチリ揃えるにはDAWの上位版にしかないオーディオクオンタイズという機能が必要であり、私が使っていたバージョンにはその機能がついていなかった。したがって、リズムをキープするには自分できっちり弾くしかない。でもこんなことを言っていいのか、ギターを弾いたりドラミングを考えたりするのはとても面倒なので、とりあえず曲の完成を優先しているうちに気力がなくなってこのままでいいやとなってしまう。

▽MUSICMAN Silhouette 20th Anniversary

この曲から新しいギターを使っている。MUSICMANという高級ブランドのSilhouetteシリーズの記念モデルで、なんと定価四十万ちょっとする。吉祥寺駅前の楽器屋で不景気のせいか16万円で投売りされていたので買った。

MUSICMANというと私の大好きなバンドDREAM THEATERのギターのジョン・ペトルーシ(John Petrucci)とベースのジョン・マイアング(John Myung)の二人が楽器の供給を受けて使っている。ギターのジョン・ペトルーシは自分の名を冠したモデルを作っていてそれを使っているのだけど、そのモデルは人気があって高かったし、アーティストの名がついたモデルを買うのはたとえファンでも抵抗があったのでやめた。でもいま思えば、ピエゾのピックアップというアコースティックギターの音を再現できるピックアップ(エレキギターのスチール弦の振動を読み取って音に変換するコイルの集合体)が内蔵されていたり、ネックがかなり細くて弾きやすいらしいので、少し無理してもこっちを買えば良かったかなと思わなくもない。

ついでに言うと、前に他大学の学園祭にバンドで参加したときに、二人目のギターの人が金持ちなのか練習に来るたびに違うギターを持ってきていたのだけど、その中にこのMUSICMANのAxisというモデルがあり、かつてエドワード・ヴァン・ヘイレンという有名なギタリストが自分のモデルとして使っていて契約期間が切れて別の名前になったものだった。

このSilhouette 20th Anniversary、ストラトキャスターの亜流の形をしているけれど、ボディの一部に密度の高いマホガニーが使われていたり強力なピックアップが内蔵されているせいか、やたら太くて濃い音がする。ディマジオのカスタムピックアップが使われているので、見た目もなにやらレスポールっぽい感じがする。ボディは茶色一色で木目が美しい。ネックはバーズアイメイプルといって鳥の目のように木目が出ていてきれいなのだけど反りやすいらしい。

■おまけ:演奏してみた動画

ニコニコ動画にはボーカロイドを使った自作曲やカバー曲のほかに、ボーカルや楽器の演奏者が既存の曲に合わせて歌ったり弾いたりしてみせる動画が一つのジャンルとして確立している。いわゆる「歌ってみた」「弾いてみた」系のものだ。面白そうなので私もやってみた。


【ニコニコ動画】【演奏してみた】Buono!のロッタラロッタラ(TV版)をギターで弾いてみた
【直ダウンロード】【演奏してみた】Buono!のロッタラロッタラ(TV版)をギターで弾いてみた

ニコニコ動画はサブカルチャー系の色が濃いので、やはりやるならアニソンにしようと思ってこの曲を選んだ。少女向けマンガ雑誌に連載されている「しゅごキャラ!」という作品が原作のアニメのエンディングテーマで、ロック系アイドルユニットBuono!が歌っている。彼女たちはバンドじゃなくて歌って踊るアイドルなので、伴奏はセッションミュージシャンが演奏してる。あらかじめ他人と曲がかぶらないか念のため調べてみたらさすがに誰もやっていなかったのだけど、あとで調べてみたらYouTubeのほうで一人やっている人がいて驚いた。

海外だとみんな顔を出してやっているのだけど、日本人は恥ずかしがりやなのかネットの危険性を恐れているのかほとんどみんな顔を隠している。私もそれに習って自分の顔をなるべくフレームアウトさせた。たまに口元ぐらいまで見えちゃうけど。あと、高級ギターを使っていると分かると叩かれそうだったので、まあマイナーなギターなのでバレないだろうとは思ったのだけど、高級ギターにありがちなマッチングヘッド(ヘッドをボディと同じ色に塗っていること)とMUSICMAN独特のヘッドの形を見たら分かる人には一発で分かってしまうのでヘッドもフレームアウトさせた。しかしさすがネット社会、数百再生程度でも分かっちゃう人には分かっちゃうみたいでズバリモデル名を当ててきた人がいてびっくりした。

演奏してみた系は結構辛らつなコメントが付きやすい。私より数段ギターのうまい弟がレッド・ホット・チリ・ペッパーズのギターの演奏してみた動画を何本もアップしていたのだけど、嫌気がさしたのか今では全部の動画を消して引退してしまった。弟のギターはフルシアンテ(同グループのギター)の微妙なニュアンスまでかなり忠実に再現していたと思うし、ブログを通じて知り合ったニコニコ動画のベース弾きの有名な人からも賞賛されてちょっとしたコラボまでやったほどなのだけど、アップした動画には心無いコメントがたくさんついていて気の毒に思った。まあ王道の曲をまじめにアップするという趣向がそもそもニコニコ動画に合わなかったのかもしれないし、それ以前にうますぎたからかもしれない。私は上の動画のほかにベースギターで二曲アップしているのだけど、あからさまにリズムが取れていなくて下手な演奏のせいか、厳しいコメントは少なかった。この程度の腕なら叩くほどの価値はないと思われたからなんじゃないかと思う。ついでに言うと、私はベースギターも弾けて十数万円ぐらいの高いベースも買ったのだけど結局音楽制作には一切使わなかった。

ニコニコ動画ではメイド服を来たベース弾きとかノリノリで踊りながら弾く人とか難曲を弾きこなす人が人気あるみたいだった。

■昭和の歌謡曲アレンジ

合成音声で歌わせることの出来るヤマハのボーカロイドエンジンを使ったクリプトンのアニメ声キャラシリーズは、一番目の初音ミクのほかに二番目の鏡音リン・レンというロリ声の製品があったのだけど、いかにロリ好きの私でもいちいち買うと高いし(16万のギターを買う人間がこんなこと言っても説得力ないかもしれないが)あまり製品の完成度が高くなくて調整が難しいみたいだったので手を出さなかった。しかし三番目に出た巡音ルカはバイリンガルの声優を起用していて英語で歌わせることが出来て値段据え置きだったので買ってしまった。

それで作ったのがこの曲。


【ニコニコ動画】【巡音ルカ】恋はギャンブル【オリジナル】
【直ダウンロード】【巡音ルカ】恋はギャンブル【オリジナル】

前回思いのほか詞先の曲作りがうまくいったので、今回も詞を先に探した。前の曲は歌詞の内容がとても良かったものの文字数がバラバラで曲をつけるのに少し手間取ったので、今回は詞の文字数をキッチリしてくれているものをピアプロで探した。すると、北村耕太郎さんというこの危険なネット社会(?)で実名(?)で作品を発表している人がいて、この人の歌詞がとてもカッチリしていて内容も悪くなかったので使わせてもらうことにした。ただ、この人の歌詞はちょっと古い感じがする(と当人にも言っておいた)。そこで、詞の雰囲気に合わせて無謀にも昭和の歌謡曲っぽいものを目指すことにした。

それが思いのほか苦労した。なにせAメロの編曲を完成させるのになんだかんだで二ヶ月ぐらい掛かった。メロディをアンニュイな感じにしたためスケール感が掴みにくかったのが主な原因だと思うのだけど、そもそも起伏の少ないコード進行にしないといけないメロディで、飽きさせないようテンションの効いたジャズっぽいコードを使わないと雰囲気が出ないと思った。言い訳がましいけれど、ボーカロイドが若干音痴なのも足を引っ張ったと思う。ちゃんと人間がニュアンスつけて歌わないと成り立たないような曲調だからというのもそもそもあると思う。

ベースはスラップ奏法(チョッパー)で、跳ねるようなリズムをピアノと一緒に刻んだ。その上に雰囲気づけになだらかなストリングスと独立した動きのホーンを入れた。昭和の歌謡曲っぽさを出すにはストリングスとホーンを両方使わないといけないと思って苦労した。

構成は以下のとおり。

イントロ-Aメロ-Bメロ-サビ-Aメロ-Bメロ-サビ-サビリフレイン-アウトロ

Aメロの最後の方にノンダイアトニックコード(音階外の臨時記号入りのコード)からのモーションを入れたり、サビ最初の四小節にドミナントモーション(X→Tの動きを違うコード基点で動かす)を入れたつもりになってみたのだけど、そもそも本当にそうなっているのか自信がない。まあそれ以前にそもそも編曲の力が追いつかなくてこの曲は全般的に心もとない感じがする。前のテクノを目指した曲同様に、この曲は滅多に聴き返さない。

絵には、すくたさんという人の「いつか歌声を」というあからさまにうまい絵を使った。絵を探すにあたっての条件として、巡音ルカというキャラが昭和歌謡っぽい歌を歌っていても不自然でない絵をピアプロで探した。本当はこんなにうまい絵を使うのは自分的にもったいないと思っていたのだけど、他に適当なのがなかったし、何か別の絵のバリエーションの一つとして作られた作品みたいだったので使わせてもらうことにした。うまい絵に下手な曲という組み合わせだとどのくらいの再生数とマイリストになるのか実験してみたかったというのもある。案の定、巡音ルカ発売直後の祭りの最後に乗れたせいもあるのか、たちまち千近くの再生数になったけれど、マイリストの方は十も行かなかった。

2:17あたりでヒロインが男を刺しちゃおうかと歌っているので、それに合わせて時代劇で人を斬る時の音を入れてみた。そのあとの編曲もちょっと火曜サスペンス劇場っぽくしてみたり。歌詞がまじめなので緊張に耐え切れなくなって思わずフザケてしまった。数少ないコメントの中で反応してくれた人がいてうれしかった。

この曲にはサビが都合三回あるのだけど、一回目は独唱、二回目はコーラス二声、三回目はオブリガード的に入れてみた。曲全体の完成度の低さの割にこのコーラスワークだけは割とうまくいったと思う。特に三回目のオブリガード的なかぶせ方はたぶんあまりやる人がいなくて珍しいと思う。ただ、サビの伴奏がピアノで全音符中心でリズム感に乏しくて寂しいので、ボーカルばかりヘンに浮き上がって心もとない感じがする。DTMやってる人というか音楽制作やっている人たちというのはピアノに強い人が多い中で、私はどうしてもピアノのフレーズを考えるのが苦手というかあんまり好きになれないのでついつい単調になってしまう。まあその分ギターが弾けるのでこれは結構アドバンテージだと思う。でもこの曲はギターをまったく使っていない。

DTMやっている人の中ではあまりギターを弾く人がいないし、ギターが弾ける人はギターを中心にして曲を作るか、いかにもポップスのギターというようなあまり起伏のないフレーズで組み立てる傾向がある。ミュートとかブラッシングとかチョッピングとかを使っていかにもギタリストっていう感じのギターを入れる人は、バンド編成の曲しか作れないことが多いと思う。アトラスのペルソナシリーズの音楽などで知られる目黒将司みたいに例外はごくわずかだと思う。この人はサントラから歌謡からロックからエレクトロニカからフルオケからラップまで音楽の幅が広い。日本のエレクトロニカでもっとも知名度がありPerfumeのプロデュースでも有名な中田ヤスタカもたまに曲にギターを入れていてかっこいい。ニコニコ動画で有名で実はプロで最近売れっ子の前山田健一なんかも自分で弾いているんだろうか。まあプロの音楽制作者だったら自分で弾かなくてもセッションミュージシャンにこんなん弾いてって言えば済む話なのだけど。

▽Ulead VideoStudio

ニコニコ動画にアップロードするには動画にする必要がある。背景に一枚の絵を使うほか、歌に合わせて歌詞を表示させる。ちょっとカラオケっぽい。さすがに歌にあわせて歌詞の文字に色をつけるのは難しいのでやらないけれど。そういう動画を作るのにこのビデオ編集ソフトを使っている。

もともとは家庭用ホームビデオみたいなものを編集するために使うソフトなので、たとえばお父さんがわが子を撮ってなにやらテロップを入れたり小ざかしくワイプを入れたりするようなことがとても簡単に出来る。

ニコニコ動画にアップするのに最適な形式なんかがあって、このソフトではそのままその形式で出力することが出来ないので、とりあえず大きめのMPEG2で出力させ、そいつをaviutilにx264というプラグインを入れた組み合わせでMPEG4に変換している。音声はAAC-LCの96kbpsにしている。一応動画なのに動きが少ないせいか圧縮率をかなり上げても普通に見れるので、数メガ程度の大きさで五分ぐらいの曲が収まってしまう。

■四つ打ちの音圧重視のトランスと英語

この回の最初で紹介した「僕の宇宙船」でテクノの様式をろくに知らないまま曲を作ったことを反省した私は、テクノというか今はエレクトロニカと呼ばれるジャンルの中でなんとなく作るのが比較的簡単そうだったトランスというディスコ系ダンスミュージックを研究して作ってみようと思って出来たのがこの曲。うーん、こうしてサラっと書いてみたけど、結構勉強熱心だよなあ私w


【ニコニコ動画】【巡音ルカ・初音ミク】Cコース【オリジナル】
【直ダウンロード】【巡音ルカ・初音ミク】Cコース【オリジナル】

この曲はさすがに新しいことに挑戦中ということもあってメロディから先に作った。詞はしょうがないのであとで自分が書いた。会社で聞いた笑い話をうまいこと詞にできないか当てはめてみたのだけど、大きく外してると思う。でもまあ私にとって一番重要なのは曲として成り立っているかどうかであり、動画が面白くできたかどうかは二の次なのだった。でもきっと詞と動画をうまいこと作ったら曲がヘボくても再生数やマイリストが上がったと思う。ニコニコ動画は音楽サイトではなく動画サイトなのでしょうがない。

トランスの特に四つ打ちというジャンルは、キック(キックドラムやバスドラムと呼ばれるドラムスでもっとも基本となる音)を一拍ずつ四拍子で打つというシンプルなスタイルが基本となっている。これに重ねるベースは大体オクターブベース(基音とその一オクターブ高い音とを交互に鳴らすスピード感のあるベースライン)かサイドチェイン(隣のトラック次第でエフェクトを変える手法一般だが狭義ではキックなどが鳴っていないときだけベースを浮き上がらせる技法のこと)の効いた裏拍主体のベースラインが多い。私の使っているDAWにはサイドチェインの機能がないので素直にオクターブベースにした。

トランスで何より必要なのは音圧で、スペクトラムアナライザ(フーリエ変換で音の周波数帯ごとの成分を分析する機械)に掛けると全周波数帯がびっしり黒くなるような音作りが求められる。そのための方法がいくつもあって、スケール(音階)をBメジャー(ロ長調)にすることで重低音をもっともズンズン響かせることが出来るなんていうものまであって恐ろしい。この曲もそれに習ってBメジャーだかBマイナー(短調)だかにした。

あとは全周波数帯にまんべんなく音を詰め込む。でもさすがに私はそこまで出来なかった。マリンバなんていうアナログな楽器を入れているし。プロが作る音楽は、音域を考えて編曲されている。同じ音域の楽器は左右に散らしたりリバーブ(残響効果)の強弱で奥行きを使い分けてかぶらないようにしている。極端な話、なるべく似たような音域にはなるべく音を詰め込まないようにしている。また、ボーカルで聴かせる曲の場合なんかだと、ボーカルの邪魔になるような音域を楽器のトラックから削ってしまうなんていうことも当たり前のようにやっている。こういう作業は専門のエンジニアがやっている。素人はこういうのを全部一人でやらなければならないので大変だ。逆に言うと、こういう作業をやることで普通に売られているCDに迫る音で曲が作れてしまう。まあ高い機材やソフトもあったほうがやりやすいらしいみたいだけど、最近は安いソフトでもちゃんと手間隙掛ければかなりのレベルまで行くらしい。

なぜそもそも音圧が求められるのかというと、オーディオ機器で同じボリュームで再生したときに、音圧が高い方が大きく聞こえ、大きく聞こえた方が曲が良く聞こえるからだ。これは特にラジオなんかで効果が大きく、曲の売れ行きを大きく左右するらしい。ラジオ局に賄賂を送って自社の曲のときだけ音量を上げてもらうなんていうことも日常的に行われていたそうだ。さすがにそんなことをいつもやるのは無理だろうから、合法的に音圧で音を大きく聴かせることが重要になる。

音圧を上げるには、コンプレッサやマキシマイザという特殊効果で音の成分を上げて本来の音をゆがめたり、少々音割れ気味にしたりする必要がある。これが音質の低下を招くとしてオーディオマニアから嫌われている。市販のポップスやロックのCDなんかはテレビやラジオやCDラジカセやせいぜいミニコンポで再生したときに良く聞こえるよう調整されており、高価なオーディオ装置で再生するとアラが目立つような録音が多い。限られたマニアを切り捨てて大多数の人に良く聴かせるために音をわざと劣化させてまで音圧を上げている。私もオーディオマニアの一人としてこの傾向を憎んでいたのだけど、まさか自分がニコニコ動画での再生数アップのために音圧向上に手を出すハメになるとは思わなかった。

トランスにはトランスの様式美というものがあって、曲構成がミニマル(短めのコード進行の繰り返し)でありながら少しずつ変化をつけて飽きさせず展開するのが良いトランスとされる。これは様式美や伝統というよりも、心地良い電子音のモチーフ(頻繁に出てくるフレーズ)を繰り返し聴かせることがエレクトロニカというジャンルに適した方法なんだと思う。ただ、今回この曲はそんなミニマルな構成はとらず、トランス風のポップスということでメロディを重視した曲にした。サビ以降はコード一個だけでゴリ押ししているけど。

ほかにトランスならではの様式美として、前々からスネア連打のフィルイン(小節末の派手なドラミング)がかっこいいと思っていたので、この曲にも取り入れてみた。AメロやBメロやサビの間に無意味に入れている。普通フィルインと言えばタム(タムタム)を使うものが多いし、タムを使わなくてもスネアだけじゃなくシンバルも使うのが普通なのだけど、トランスは音の構成上の理由からなのかスネアだけ連打するフィルインがよく映える。

詞の内容的に登場人物が二人いたほうがいいと思ったので、巡音ルカと初音ミクを両方使った。デュエット曲のように、最初は交互に、盛り上がるところは同時に別パートを歌わせてハモらせた。また、前回巡音ルカを使いながらまったく英語を使わなかったので、ちょっと台詞的に英語のフレーズを挿入した。トルコの英語での国名を歌っているだけなんだけど。

▽Proteus VXとX2

ほかにフリーのソフトウェアシンセサイザーとしてProteus VXというオールインワン型のサンプラー系のものがある。一昔前のフル機能シンセサイザーがタダになったと当初は評判だった(最初は有料版しかなかった)。私はこいつの有料版Proteus X2をEMU 0404 SEのバンドル製品としてビックカメラの投売りで6,980円で買って使っていたのでVXはどうでもよかったのだけど、一部の大容量な音色を除くと大体の音色はVXにも入っていたみたいだった。

もともとProteusはサンプラーと呼ばれるサンプリング音源を再生するためのシンセサイザー製品が元になっていて、音色を付属させてサンプラーの機能を除いて再生専用にしたものらしい。サンプラーとは楽器の音をそのまま録音して編集して楽器として使う機器のことである。

しかし残念ながらこいつは旧世代の遺物に成り下がってしまった。十年前なら立派に一線級だし、現に当時は映画音楽にも使われていたらしいのだけど、なにせダウンロードサイズがたった数十メガだ。一昔前のハードウェアシンセサイザーいわゆるキーボードと呼ばれるものは大体このクラスだった。ちゃんと使いこなせば今でもそれなりにいい音で鳴ってくれるのだけど、作り手も怠惰になったし他に良いものが増えすぎた。

ちなみにX2のほうには1GBもあるピアノ音源が付属しているほか、CD-ROM数枚組のサイズを誇る。音色だけでなく、あらかじめおいしいフレーズを録音したサンプリングCD的な音源も含まれていた。

結局Proteus X2はこの曲を最後に使わなくなった。

▽Native Instruments KORE PLAYER

代わって使うようになったのがドイツの楽器メーカーNative Instrumentsがフリーで配布しているKORE PLAYERだ。この会社は現代的な音作りのシンセサイザー製品を作るメーカーとしては実質的にトップに君臨している会社だと思う。特に同社のABSYNTHは多くの音楽制作者から一番高い評価を得ているとの調査結果がある。とにかく音が良いほか、他のソフトでは作れないような変態的なパッド(うっすら鳴っている背景音)を作れるとのこと。

さすがにフリーで配布されているKORE PLAYERは使える音色が限られているのだけど、収録されている音はかなりレベルの高いものが多い。中でも私が気に入ったのはSuper Sawと呼ばれるタイプの音の一つだった。シンセサイザーの世界は日々進歩していて、色んな音がその短い歴史の中でも生まれていっているのだけど、その中でもSuper Sawと呼ばれる音は数学的にも密度の高い音が出ることで知られており、たぶん誰でも聞き覚えがある音で納得できると思う。

KORE PLAYERは同社のシンセサイザーのエンジンを搭載しているので、アルペジオ(分散和音)を自動的に生成したり定番の特殊効果なんかが内蔵されている。それらを組み合わせると、コード(和音)を押さえるだけでいかにもテクノっぽいピコピオ音なんかがのアルペジオが自動的に再生されるようになっている。今回の私の曲にもそれが使われている。通奏的にベースの上あたりで機械っぽい音が出ているのがそれ。わかりにくいか。コードではなく単音で弾いているのでオクターブの動きしかないけれど、いかにもテクノっぽい音がしていてこの音だけで曲に厚みをもたらしている。なんとも楽チンでいい。

*

予想通り長くなったので次回にも回すことにする。
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