105. 新しいオーディオを買った (2001/7/23)


戻る前回次回

■スピーカー

BOSE 博士のスピーカーを買った。

▼ボロボロ

というのは、三四年前に中古で買った KENWOOD の LS-11 のウーファーのフチのウレタンがボロボロになって穴があいてきたからだ。ひどい。触るだけで崩壊してくる。これは欠陥品じゃないか。と思って調べてみたら、私のほかにも同じ経験をしている人がホームページで文句を言っていた。ただ、このスピーカーはもう十年以上も前に開発されたものらしい。スピーカーの製品寿命は長いので、長い間生産されていたのかもしれないが、私が買ったのは倉庫で眠っていたデッドストック品だから、買った時点ですでに長い間たっていたのかもしれない。それでも、かなり高級な外見とは裏腹に、二万円ちょっとで買えたことからも、ポイントは高かったかもしれない。

ウーファーのフチがボロボロになってもまだ音に大した影響がないのだが、新しいものが欲しくなった。それで色々と探してみたのだが、オーディオは確実に衰退している。新宿を歩いているとき、電機屋の前でチャチなミニコンポが大音量でデモされていたのだが、その横を通り過ぎたアホっぽい三人組のうちの一人が「あれ音よくねえ?」と言っていたのだから、オーディオ民度はかなり下がっているだろう。なんたら民度っていう表現は使いでのある言葉だ。日本はファッション民度が高いらしい。モデルとか俳優などのトップレベルは知らないが、しもじもの若者のファッションセンスというか気配りは世界一だと断言していた評論家がいた。ともかく、ファッションにあれだけ金を使いセンスを磨く若者が、音楽を聴く装置に対してはそれほど気を配らないのはなぜだろう。

▼BOSEにしよう

BOSE はラインナップが多くて、どれを選んで良いか分からない。最初、とにかく一揃いのものを買うのが一番いいのだろうな、ということで、雑誌の広告に沢山でていて値段も一番高い WBS-1EXII という製品に注目してみた。こいつの値段は大体市場価格で 15万円くらいだ。しかし、BOSE なんてスピーカーだけ有名なのだから、アンプやCDプレイヤーの部分はいまのままで十分じゃないかと思った。いちおうこの製品はバラでも売られていて、スピーカーが四万ちょっと、アンプと CDプレイヤーが一体になったものが十万ちょっとだった。普通に考えて、一体型のチャチそうなアンプとCDプレイヤーを十万も出して買う気になれない。あるいはそれだけの価値があるほど一体化されていてスピーカーとの相性もいいのだろうか。

インターネットで調べてみると色々なことが分かる。BOSE でもっとも一般的なスピーカーは 101MM と呼ばれるもので、かなり小型なものである。値段は小型のくせに高めの三万円台前半で、こんなチャチな外見のものにそれだけの金が払えるのか、といいたくなるほどのものだ。しかし評判はいいようだし、広く使われているのは確かなことだ。面白い話もあって、101MM には本当はちょっとした欠点があって、BOSE も多分それに気づいてはいるのだけど、これだけ世界に広まっていてモニタつまり音を確かめるときの標準的な機器として使われている以上、下手にマイナーバージョンアップができない、ということを言っている人がいる。だから 101 シリーズには色々な改良型っぽいものがあってさらに悩ませる。

私の好きなページの一つ「今日の一言」の Webmaster 氏が上記のように言っているのだが、彼はほかに 101 と 201 と 301 を比較している。BOSE の中で一番高級なのは 901 という超大型で 9個だか 10個だかのスピーカーユニットの入ったモデルなのだが、主力となっている大きさのモデルとしては上の三つが主なものらしい。BOSE の特徴としては、音をあさっての方向にも出して反射によって豊かな音を出させる、という他社には見られない方向性がある。音を忠実に再現するという意味では良くないのだが、BOSE のやり方で出された音はなぜか豊かに聞こえるらしい。101 はフルレンジと呼ばれる単一のスピーカーユニット一つしか入っていないのでこの輻射はエンクロージャつまり箱による響き以外にはないのだが、201 には一つ、301 には二つの中高音用の小さなスピーカーが斜めの方向についている。

▼私の選択

さて、どれを買ったら良いだろうか。ちなみに一番高価な 901 は定価が 44万円だし大きすぎる。501 も十数万でやはりまだ大きい。464 というフロアー用のスピーカーがいま評判がいいらしいのだが、フロアーつまり床に置くほどのスペースがうちにはない。そこでせいぜい 301 クラスのものになるのである。301 になると値段は下がって六万円台くらいになる。201 が五万円ちょっと、101 が三万円台前半からバリ エーションによっては後半。

といいながら、買ったのは 121 であった。121 とは最初に言った一揃いのコンポWBS-1EXII に使われているものである。やはり、いま売り出し中のシステムに使われているものを買うというのは良い選択であるように思える。多分、どの音楽にも対応する万能型なのだろう。中途半端とも言えるかもしれないが、私の音楽の趣味もまちまちなのでこれで良いと思った。他にもいくつか理由がある。いまはメインスピーカーとして買ったのだが、将来的には 5.1ch つまり DVD 再生環境とかのセンタースピーカーとして使えるというのもある。インターネット上の人々の多くがそのような使い方をしていたのだが、主な理由は 121 が中音域のボーカルを豊かに鳴らすからだそうだ。センタースピーカーは人の声が豊かに出せればそれで良いのだからうってつけなのだろう。

▼スピーカーユニット

ほかに理由としては、フルレンジの単一ユニットのものが欲しかったからである。それまで使っていた KENWOOD LS-11 は 3way と呼ばれる三つのスピーカーユニットから構成されていて、高音と中音と低音がそれぞれ別のスピーカーによって鳴らされる。スピーカーユニットごとに分ける理由は、スピーカーユニットというのはサイズによって得意な音域があるからで、その得意な部分を合わせれば全体的に良い音を鳴らすことができる、という理屈だ。しかし弱点があって、たとえば中音と高音の中間付近の音は、両方のスピーカーから中途半端に鳴らされ、音のつながりが悪くなると言われる。俗に言うクロスオーバーと呼ばれる現象だ。それに、スピーカーユニットの数が増えると、音の出る点が一つではなくなるので、音がバラバラになってしまう。私が一昔前に知識を集めた限りでは、3way やそれ以上のスピーカーを使う方式はよくないのでせいぜい 2way が良い、という論調が多かった。スピーカーユニットを複数使う場合は、たとえば真ん中に高音用のユニットを置き、それをはさむように二つの中低音用のユニットを置くことで、擬似的に真ん中から高音も中低音も出ているように聴かせたりする工夫もアリで、その方式のスピーカーが高い評価を得ていた時期があった。

しかし、2way でもまだ手ぬるい、1way もといフルレンジが一番の理想形なのだ、という原理主義者も少なくない。彼らが言うには、フルレンジから出る音が一番自然で耳に心地よいのだそうだ。それに余計な回路が入っていないのでノイズや歪みも最小限だ。複数のスピーカーユニットを組み込んだスピーカーというのは、特定の周波数の信号だけを特定のスピーカーユニットに伝えるために、サーキットと呼ばれる文字どおり回路を組んでいる。このサーキットが余計な歪みを作ってしまうのだと彼らは主張している。彼らの主張が極論としても、なるべく余計な回路をはさまないのは音にとって重要だ。そこで BOSE や自然派の人々は、最低限コンデンサーをはさむだけでせいぜい 2way の自然なスピーカーを作るという選択をした。コイル(スピーカーはコイルと磁石と紙で出来ているから)とコンデンサーは、インピーダンスを構成する要素である。交流回路では、低い周波数の電気(音声信号)ほどコンデンサーは高い抵抗の役割を果たす。

フルレンジの最大の弱点は、低音が出ないことだ。中高音は一つのスピーカーユニットで十分出すことが出来るのだが、低音だけは大きなユニットが必要になる。そこでフルレンジ派は、スーパーウーファーという低音専用のユニットを用意することになった。BOSE で言えば、バズーカ砲みたいな筒型のやつがそれ。しかし BOSE はその方法だけでなく、ちゃんと低音用のユニットつまりウーファーを組み込んだスピーカーも作っている。201 と 301 はその系統のスピーカーみたいだ。301 となると20cm くらいのユニットが正面にあり、斜め横に小さな中高音用のスピーカーが二つついている形になっている。

▼買って聴いてみる

会社帰りに無理矢理秋葉原に行き、石丸電気本店へ向かう。安さを求める人は直販サイトとか卸し売りサイトとかビックカメラなどの量販店へと向かい、マニアな人たちは専門店へと向かうのだが、私のような半端者は普通の大型家電店の本店へ向かう。別に店員にアドバイスしてもらいたいわけではなく、品揃えがあり、落ち着いてゆっくり選べる店が良いだけの話である。値段は 41,800円で、ビックカメラより千円安かったのだが、ビックカメラの場合はポイントカードがあるので、それも計算に入れたら逆に三千円も高くなる。BOSE 121 を買うと最初から決めていれば、わざわざ秋葉原まで行かなくても、帰りの横浜のビックカメラでエスカレータ前の小さなスペースでわずかに逡巡しつつパッと買ってしまえば良かったのである。

それで重い思いをしながら手で持って帰ってさっそくつないでみたのだが、思ったほどではなかった。抜けるような音を期待していたのだが、普通にまとまりのある普通の音だった。なんだ、BOSE なんてこんなものか、と思った。確かに音はそれまでとは違う。自然な音でありながら、それまであまり気にならなかった音が多少前に出てきた感じもした。ただ、やはり四万円ちょっとで抜けるような良い音を味わおうというのは甘かったなと思った。

■CDプレイヤー

そこで思い立ったのは、せっかくスピーカーを新調したのだから、CDプレイヤーくらい新しいものにしよう、ということである。

▼十年前

というのは、それまで私の使っていたCDプレイヤーは、パイオニア製の十年くらい前の 6連装というキワモノのCDプレイヤーだからである。値段は確か定価で 35,800円だったのを覚えている。当時は、家族で買ったパイオニア製の二十万円くらいのシステムコンポに、まだ広がって間もなかったCDプレイヤーを追加しようと、親がカタログを持って帰ってきたのでその中から好きなものを選んだ。子供心に、これくらいの価格帯のものにしておこう、と考えたのを覚えている。私の父親は、欲しいものを買うときには金をあまり気にするな、と子供に教育していたが、対して母親は逆に口には出さないがあまり高い買い物を好まなかった。おそらく小さい頃に貧乏で、ピアノを買ってもらえなかったり大学に行けなかったりした経験がそうさせているのだろう。そういう両親から育った私は、どちらかというとケチになった。とまあ、たかだかCDプレイヤーに人の人生の話を持ち出すのはいいとして、とにかくそれまで使っていたCDプレイヤーが古くて低価格のものだったということを言いたいだけである。ちなみにパイオニアはその当時から連装にこだわっていたのだということが分かる。私の友人の家にあるミニコンポがパイオニア製だったが、確か二十数枚の CD が入るとても便利なものだった。

▼クラス

そこで店で物色してみたりインターネットで調べたりしてみたのだが、何を買えばいいのかよく分からない。一応、価格帯を見る限りでは、入門機が一万円台から、廉価機が三万円前後、一番多く出すのを狙っているのが五万円くらい、普通の人向けで高級機が七万から十万くらい、その上はマニアの世界である。

マニアのことは置いておいて、普通の人間が考えるべきなのは、普及価格帯を狙え、という原則である。つまり、メーカーが売れ線を狙って出す製品は一番コストパフォーマンスが高いのである。それよりも安い製品は、安くするための努力がされているので質が落ちてしまう。安い製品には二通りあって、部品のコストを下げるために安くてあまりよくない部品を使うものが一つと、ある機能をつけるために必要だった研究開発費の分を削って機能を落とすものがある。部品の質を落とす場合は、オーディオに限らず品質がガクンと落ちてしまうことが多い。一方、研究開発費の分を削る場合は、本当はいい音を出せるのだが上位機種との差別化を図りたいがために機能を削るのだから、メーカーの戦略次第で品質が変わる。つまりこの場合は、上位機種の持ち味を残した廉価版、という位置づけの製品になるのである。一方、普及価格帯よりも上のクラスでは、贅沢に部品を使う方向になり、上位ならではの技術も導入される。

▼私の選択

私は結局、再びパイオニア製品を買った。PD-HL5 という型番のもので、五万円弱くらいの普及価格帯のモデルである。決め手はいくつかある。

私が石丸電気本店で物色していると、店員が話し掛けてきた。ラジオ会館とかならともかく、大型店で話し掛けられるとは思ってもみなかった。普段ならそれをうっとうしいと思ったのだが、本当に悩んでいたので適当に話を聞くことにした。まず店員は視聴を勧めてきたので、ヘッドフォンでいくつも視聴してみることにした。CDプレイヤーについているヘッドフォン端子にヘッドフォンを直に突っ込んで視聴してみろということなのでそうしたのだが、心の中では「ヘッドフォン端子なんかで音が分かるものか」と思った。しかし他にやることがないので仕方がない。

私はそれまでは、ソニー製のものを買おうと思っていた。というのは、CDはソニーとフィリップスが開発した規格だからで、それなら一番良いものをあるいは一番普通のものを作っているのだろうと思ったからである。ほかに、LDを作ったパイオニアという選択も考えていた。それから、マニア向けではなく多くの人に量を出しているメーカーのものにしようと思った。一般には、マニア向けの方が音がいいみたいだが、それは十万を超えるレベルの話であり、それ以下であれば量を出しているところがいいに決まっている。あと、DENON はやめることにした。インターネットで特にオーディオ系の雑誌の大口スポンサーになっていることから、それらの雑誌でのランキングに影響を与えているだとか、小売店のマージンが高いので店員が積極的に勧めてくるだとか、とにかく悪い話を聞いたからである。一方でDENONは、一番量を出しているメーカーであり、部品もまとめ買いで良いものを安く手に入れているので、同じ価格帯なら良い製品を作っている、という話も聞く。情報とくにインターネット上のものは信じる信じないを判断するのが難しいので、ここはあっさり勘で DENON を回避することにした。

結局決め手になったのは、ヘッドフォン端子による試聴で一番耳あたりの良いもの、ということになった。それが先述したパイオニア製品である。逆に DENON は聴いていてはっきりと耳に嫌な感じが残った。インターネットで散見されたように、音がキツいことがはっきりと分かった。一方でそれだけ正確に音を出しているからこのような音になるのだ、という評価も見られたのだが、BOSE との相性を考えると他のもののほうが良いような気がした。

やはり試聴していてもパイオニアとソニーのどちらかということにした。ほかにもこの二社は、どちらもCDの固定にこだわっていたというのもある。パイオニアはCDを裏返しで置くターンテーブルをトレイと一体化しているのに対して、ソニーはなんとCDの上に重りを置いて固定する方式をとっていた。私は、重りを紛失する恐れを抱きつづけるのは嫌だと思ったので、ソニーを選ぶのをやめた。

マランツも有力な候補だったのだが、上位機種にはヘッドフォン端子がついていないのでやめた。多分、ヘッドフォン端子なんてあっても無意味だということなのだろう。廉価版が安めであまり良さそうではなく、逆に良さそうなものはやや高めの値段だったので、今回は敬遠することにした。

本当は、良さそうな機種があれば十万円の範囲で買ってしまおうと思っていたのだが、最終的にはせいぜい五万円程度にしておこうと思いとどまった。その理由は、次世代オーディオの時代が来たらいくら十万円でもCDプレイヤーなんて時代遅れになるからである。この判断が逆に中途半端な選択をしたことになるのかもしれない。

▼デジタル入力

買ってからまたインターネットで調べて後悔したのは、私の買った PD-HL5 の一つ上の機種である PD-HS7 という機種は、デジタル入力を持っていることで有名であり、多くの人がそれを目当てに買っているということが分かったのである。デジタル入力があることのメリットは、たとえば安いMDで最低限デジタル出力のついているものがあれば、デジタル入力を持つ高級な機械のDACを使って高品位な音で聴けることである。DACとはデジタル信号をアナログ信号にコンバートつまり変換するための装置であり、この部分がCDプレイヤーの音質のほとんどを左右する。また、パソコンのサウンドカードからの出力は、アナログ信号をアンプに直接渡そうとするとパソコン内部のノイズにより音質が悪くなってしまうのだが、パソコンからデジタル信号を受け取って外部の高性能なDACを利用することで、従来のパソコンからは想像できないほどの高い音質の音を再生できるらしい。

ただ、このクラスとなると定価は 95,000円となり、小売価格で比較しても PD-HS7 と PD-HL5 では二万円くらいの価格差ができてしまう。石丸電気本店では確か 69,800円くらいだった覚えがある。もちろんデジタル入力だけでなく全体的に音も良いみたいなのだが、音質の差はかなり小さいという話もきく。これだけの差で二万円を上乗せする価値はあるのかということを考えると、PD-HL5 で良かったのだと自分に言い聞かせることにしたのだが、当日はクレジットカードで支払ったこともあり、たかだか二万円をケチることもなかったな、という思いもある。まあ、いまの私の金銭感覚では、あの大きさと外見なら五万円が気軽に使える限界であり、それより値段の高いものを買うと操作が慎重になって不要な緊張を感じたかもしれないので、このあたりが良いところだろう。冷静になって考えると、CDプレイヤーに七万円を掛けるのには不安があるし、良いCDプレイヤーを買うと今度は良いアンプも買わなければならないというバランスも頭にはあった。

ちなみに、そのあとでパイオニア製のパソコン用 DVD-ROM ドライブを買った。こいつにはデジタル出力がついている。たぶんこれさえあれば DVD オーディオのソフトも聴けるだろう。こいつのデジタル出力を PD-HS7 に入れたら、DVD オーディオの 100KHz オーバーの広帯域高サンプリングレートのつまり高音質なデジタルオーディオをそのままノイズフリーで外部のオーディオ機器につなげただろうから、そう考えるととても惜しい気がした。ただ、DVD オーディオのソフトは現状ではかなり限られていて、いつごろ本格的に広まるのかまったくみとおしがない。それに、いちいちパソコンをつけてまで高音質で聴きたいとは思わないし、友達との貸し借りもできない。だいいち、PD-HS7 の DAC で 100KHz 超のデジタル信号が処理できるのだろうか。それ以前に、DVD-ROM のデジタル出力に 100KHz 超のデジタル信号が出るというのも考えられにくい。

たまたま今日の新聞で、メーカーがこれからデジタル系のAV機器を廉価で販売するための戦略を練っているという報道があり、多分これからかなり戦略的な低価格で多くのプレイヤーが出てくることだろう。それまでは、いちおう技術的に成熟しているCDプレイヤー専用機でいいだろうということにしておく。

■アンプ

五万円のCDプレイヤーを買おうというからには、いまのアンプではバランスが崩れるのではないかと思い、こうなったらアンプも新調してやろうと決めた。

▼それまでのアンプ

ちなみにいまのアンプはこれまたパイオニア製の A-UK1 という廉価なものである。あまり金のなかった学生時代に買っただけあり、定価は三万くらい、フロントパネルと機能のシンプルさゆえか、割引率が非常に高かったのを覚えている。確か買い値は一万六千円くらいだった気がする。廉価機ながらも最低限の音質を保つために、削れる機能は削りまくり、トーンコントロールのたぐいが一切ない。私はこの手の製品作りが非常に好きである。多分普通の人は敬遠するだろうから、なおさら値段が下がりコストパフォーマンスが高くなるのである。当時は買って非常に得をしたと思った。

このアンプを買おうと思った理由は、それまで使っていたシステムコンポのアンプ部のボリュームつまみが動かすたびに雑音が入り始め、末期にはほどよい位置につまみを置かないとロクに音が出ないようになってしまっていたからである。

このアンプに交換してから、音質にはっきりとした変化はあまり感じなかったのだが、気のせいかアナログっぽい特徴を持ったCDの音がよく聞こえるようになったのを覚えている。当時は Deep Purple の Machine Head とか Highway Star とかを聴きまくってコピーしていたので、聴きなれたCDの音の変化には敏感になっていたというのもある。

そのあとに一番最初の KENWOOD LS-11 というスピーカーを中古で買ったときは明らかに音が変わったのだが、多分アンプの交換なしにはあそこまで音は変わらなかっただろう。まあスピーカーの交換もシステムコンポのスピーカーからの交換だったし、なによりスピーカーが一番音の変わり易いコンポーネントなので、アンプによる影響はやはり根元の部分だったのだろうが。

▼マランツ

アンプはあっさりと絞れた。マランツである。インターネットで高い評判を得ていたものの中で、値段がそこそこだったからである。実際には、評判になっていた PM17SA よりも一つ下の PM8100SA を買った。一つ下と言っても型番の形が違うので明らかに音質が違いそうなのだが、値段の差は三万円も無かった。店員がまず PM6100SA と PM8100SA なら PM8100SA のほうが全然良いと強調してきたので、私は PM8100SA と PM17SA とではどうだと聞いたら、あまり強く勧める風ではなかったので、PM8100SA にすることにした。値札には 59,800円とあった。

難しいことに、PM6100SA にはとある雑誌で四万円以下クラスのアンプでは一位という評価を得たという宣伝が書かれていて、値札は 29,800円だった。私はこれはお買い得な製品だなと思った。一方で PM8100SA には何も書かれていないし、インターネット上で目立った評価を聞いていない。一つ上には PM17SA があり、こちらも価格差が思ったほどではない。店員はひょっとして在庫を考えて私に PM8100SA を勧めているのではないかと一瞬思ったのだが、パンフレットを見てみるとやはり PM8100SA の方がメーカー側としてもイチオシの製品であることが分かった。PM6100SA はあきらかに PM8100SA の廉価版なのだった。それに多分マランツの最下級モデルである。最下級モデルに良い製品はない。それはまさに売るためのものだからである。といいつつ前回は A-UK1 という UKシリーズで最下級モデルを選んだ私だったが、それでもパイオニア全体からすれば最下級モデルは A-1 だった。余談だが、インターネット上で仕入れた情報によると、当時は日本のメーカーが海外に設計を委託するのが流行ったらしく、だからこの UK という文字を冠した製品が生まれたらしい。

私が PM17SA にしなかった決定的な理由は、この価格帯の製品から温度計がついていることだった。それはまさに、このクラスの製品になると、電源を入れてから暖まるまでのことを考えなくてはならない、というマニアの領域に入ることを意味していたように私には思えた。まあその点について店員に聞いてみたところ、実際は温度計というのは実用的な用途もさることながらアクセサリーに過ぎないという答えが返ってきたので拍子抜けした。それでも温度計というのは象徴的なものなので私は見送ることにした。もっとも、まともに音を鳴らすオーディオ機器となると必ず電源投入直後と暖まったあととでは明らかに音が違うのは当たり前であり、それは私の安く買った A-UK1 にも見られたことであるのだから避けてとおれないことではある。

それから、PM17SA の重量はなんと 16kg もあり、PM8100SA の 9kg と比べるとかなり重くなってしまう。一般にオーディオ機器の重量というのは安定性を増やすためにわざと重くしてあるのであって、電子部品の総重量とは全く関係が無い。CDを回さなければならないCDプレイヤーならともかく、なぜアンプでここまで重くする必要があるのかよく分からないのだが、ここまで重くなるとPM17SA は設置場所まで考えなければならないクラスの製品であることが分かる。私はオーディオ機器を幅のせまい本棚の上に置いていることから、あまり重いものを置くとあぶないし、せっかく重くしてあるのに本棚の剛性でだいなしになってしまうのだから、このクラスのものを買うのはもったいないような気がする。

ちなみに私の部屋の真ん中には数百kg のウォーターベッドが置いてある。牛乳パック一本分の水が 1kg なので、それを敷き詰めて布団代わりにしていることを考えれば、かなりの重量である。

■聴いてみる

電機屋にくりだしたときに財布の中に九万円を入れていた私だったが、そんなわけで当初の予定を上回り、ある程度本格的に買ってしまった。カードで支払いをし、重くて持ち帰れないので配送してもらえる手続きをとり、次の日に届くのを待った。

スピーカーケーブルはおまけのものを使った。私の中では、ケーブルを気にするほどには本格的なものを買ったつもりはなかったからである。一方で、ケーブルの長さにだけは気を配り、両手で広げたくらいの大体 1.7m で切り揃えた。一般には短ければ短いほど良いと言われるが、短すぎても悪いとも言われ、素直に 3m ぴったりが一番いいとも言われる。マニアの間では、ケーブルでさえ音質に影響すると言われており、ケーブルの良さを出すためにあえて 3m とか 5m と若干余裕を持たせてケーブルの味付けを楽しむ人もいるらしい。ところでケーブルの銅線を剥くのが面倒で困る。素直にバナナプラグとかを買ってくれば良かったのだが、そのときは思い至らなかった。

接続が終わったらさっそくCDを色々と聴いてみた。明らかに音が良くなっているのは分かる。古いアンプとCDプレイヤーで聴いていたときのBOSEとは音が違っている。スピーカーを換えたときが一番音が変わると言われているが、今回はスピーカーよりもむしろアンプとCDプレイヤーを換えたことによる効果が大きかったようである。多分アンプが大きいだろう。金額だけを考えても一万六千円と六万円弱と大きくグレードアップしている。

とくにアナログっぽい音のCDがよく聞こえた。様子を見にきた私の弟が言うには、特に Deep Purple の Machine Head というアルバムで、中でも Space Trucking という曲がとてもよく聞こえたらしい。他に女性ヴォーカル系のものやクラシックなんかも聴いてみたが、大体音がよくなっていることがはっきりと分かった。BOSE を少し馬鹿にしすぎていたようだ。いくら着色の強いスピーカーとはいえ、アンプとかもある程度良いものを使わなければ、良い音を出してくれないようである。さらにインターネットで調べた限りでは、BOSE は多少重いので少しはパワーのあるアンプで鳴らさなければならないらしい。

そこで満足していれば良かったのだが、ふと思い立って、もとの KENWOOD LS-11M に戻して、新しいアンプとの組み合わせでどこまで鳴るのかを試してみたくなった。こちらは 3way なので、新しいアンプとCDプレイヤーによって高音域のクリアな音が聴けるかなと思ったからである。しかし予想に反して大した音は出なかった。古くて安いスピーカーだからだろうか。それとも、BOSE 121 とは違う方向性、特に型番の末尾の M がモニターの M だとしたら、まったく色づけのない正確な音を出すという方向性を持っているからかもしれない。インターネットで調べた限りでは、この LS-11M をスタジオで使っているところが一ヶ所だけあった。個人では、LS-11ES や LS-11EX という型番のものを所持している人を何人か見つけたのだが、肝心の LS-11M を持っている人は見つからなかった。ES や EX ならば、学生のころに買った、と言っている人が何人もいることから、M もあまり値段の高いスピーカーではなさそうである。ちなみに EX は定価六万円くらいで ES は八万円くらいらしい。

■いま改めて買うなら

別にそれほど後悔してはいないのだが、いまもし改めて何もないところからオーディオ機器を買うとなれば、私はいまとは違う選択をしただろう。

私はいま、金なら十分にあるので、三十万円くらいまでならオーディオにつぎ込んでもいいと思っている。さすがにそれ以上となると無駄だし、住環境の悪さを考えるとあまり意味が無い。そこそこ広い家を買って防音室を作るとか地下室を用意するとかしなければ、あるいは田舎の一軒家に住むとかしなければ、数百万円のオーディオを買う価値はないし、それ以前にそのオーディオ機器に見合うだけのCDがない。というわけでせいぜい一つの部品に十万、スピーカーはその倍の二十万円くらいがせいぜいのところだろう。

▼低予算

しかし、金があるからといっても、オーディオにそのままつぎ込めば良いというわけではない。最低限良い音で聴くためにどんなものを買えばいいか、ということになると、私は以下の構成を勧める。プリメインアンプにマランツの PM6100SA を、CDプレイヤーもメーカーを揃えてマランツの売価三万円以下の機種を、スピーカーには BOSE 120 を買うと良いだろう。

なぜマランツなのかというと、安いアンプに関しては一番コストパフォーマンスが高そうだからである。これは聞き比べたわけではないのであくまで私の勘である。インターネット上での評判もいい。私は PM6100SA の音を聴いたことがないのだが、インターネット上での評価のほとんどは PM8100SA を聴いてみて大体その通りだと思ったからである。多分 PM6100SA は PM8100SA よりは多少性能が落ちるのだろうが、スピーカーに良いものを使わなければ大した違いはないのではないかと思う。実は PM8100SA を買う代わりに PM6100SA が二台買えてしまうのだが、そこまでの性能差があるとは思えない。

CDプレイヤーもマランツなのはなぜかというと、この程度の値段の製品の場合、どのメーカーもあまり差はなさそうなので、アンプと同じメーカーにしておけばバランスがいいだろう、ということである。この考え方は私がネットサーフィンしているときにだれかが言っていたことをそのまま真似したのだが、まさにその通りだと思う。それから、CDプレイヤーの場合は値段の高低が音にそんなに影響しないと割り切った方がいい。最低価格帯のものはヤバいかもしれないが、下から二番目あたりで良いのではないかと思う。同様の理由で、アンプと同じくらいの値段のCDプレイヤーを買う価値はないので、半分から三分の二程度の価格のもので十分だろう。ただ、マランツには CDP6000ose という定価四万円の機種があり、値段もちょうど PM6100SA と同じくらいになっている。最低限三万円程度のものを買っておいた方がいい、という原則を持ち出せば、これを選択するほうが良いかもしれない。

スピーカーであえて BOSE 120 を勧めるのは、私の買った 121 は十年近く前に発売されたものなのに対して、120 は去年あたりに発売されたものだからである。私がインターネット上で調べた限りでは、120 の方が音が明るくて、ポップやロックや、さらにはクラシックまでも、121 よりも 120 の方が良い音を出すらしい、という声があった。私は、120 の外見のダサさと、121 がいまでも BOSE で最も露出度の高いコンポーネントに使われている実績を買って、121 の方を選択した。しかし、インターネット上では、このコンポーネントのスピーカー抜きのバラ売りを買って 120 を組み合わせたほうがいい、という声まであったほどなので、いまでは 120 を買った方が良かったのではないかと思っているところである。121 を買った方がいい人というのは、多分ジャズ系の音楽を聴く人だろう。音も多分落ち着いているっぽい。

▼高予算

高い予算、といってもせいぜい三十万か四十万なのだが、それでもやはりいまの私ならマランツを選ぶ。多分 PM17SA と CD17Da の組み合わせが良さそうである。調べた限りでは定価でちょうど合計二十万円だったので、売り値は多分 15万くらいになるだろう。

スピーカーとなると、私はこのクラスのスピーカーを物色したことがないのでよく分からない。一昔前ならば、スピーカーの値段は全システムの値段の半分くらいにすべきだとか、他のコンポーネントで一番高いものの倍の値段にすべきだとか言われていた。となると買い値で 15万円くらいのスピーカーがちょうど良いということになるだろう。ただし、高いスピーカーを低いアンプで鳴らすことは無駄だが、低いスピーカーを高いアンプで鳴らすことはそれほど無駄ではないので、安いスピーカーを鳴らすのも手である。

スピーカーは国産のものはあまり良くないらしい。これは通説なので私はなんとも言えない。

中古で買うというのも手である。特にスピーカーは、ウレタンとかの経年変化の激しい素材が使われていない限り、新品で買うのと大した違いはない場合が多い。一応どんな部品も劣化はするみたいなのだが、明らかに破損していない限り、あまり大したことはなさそうである。しかし、中古で買っても思ったほど安くないという欠点があるし、金に余裕があるのならばあえて中古を買う理由もない。スピーカーの次に候補になるのはアンプだが、ボリュームつまみなどの稼動部品、内部のコンデンサなんかが劣化するみたいなので、スピーカーほど安心はできない。CDプレイヤーやとくにテープデッキなんかは稼動部品の固まりなので中古で買わない方が良い。

■天井から下げてみる

後日、やはり BOSE といえば天井から釣り下げて鳴らす方がいいのではないかと思い立ち、ビックカメラでブラケット(天井から下げるための金具)を買ってきた。税込みで八千円以上するので馬鹿にならないが、開封してみたら思ったより造りが良かったので安心した。

買ってきて、いざ取り付けようというときになって初めて気がついたのは、天井が石灰ボードだったのである。叩いてみてコンコンと軽い音がする。試しにネジで固定して、手で負荷を掛けてみたところ、バリッとはがれてしまった。ネジには石灰の粉が密着していた。

このブラケットは天井だけでなく壁にも取り付けることができるので、壁に取り付けようと思ったのだが、あいにく壁はコンクリートである。コンクリートだからといって手がないわけではなく、コンクリート専用のクギを使う方法や、ドリルでネジ穴をあけるという方法もあるらしい。が、面倒なので、丈夫に三センチほどある木の部分に強引に取り付けることにした。ネジ穴は四ヶ所あるが、この場所には上部二個所しか固定できない。五キロ近くあるスピーカーとブラケットを釣り下げるのは非常に不安であったが、思ったより強度があったので思い切ってぶら下げることにした。木にネジという組み合わせが相当強固だということが分かる。ちゃんと四ヶ所とめたら 20kg ぐらいまでならぶら下げられるのではないかとも思った。

さて期待を込めて見上げると、BOSE が天井近くに固定されているのは良いながめである。BOSE 121 は黒ではなく茶色なのでバッチリ決まっているわけではないのだが、いかにも BOSE といったたたずまいを感じることはできた。いよいよ試聴である。…なにやら音がこもっている感じがする。弟が来たので聴かせてみるのだが、弟は私よりもはっきりと「前より明らかに悪くなった」と言った。

私はスピーカーにそんなに詳しくないのでよく分からないのだが、普通スピーカーを土台から離すと低音が抜け落ちる。だから、壁にかけることで低音が無くなるというのであれば話が分かる。しかし逆に中低音によって音がぼやけるなんていうことがあるのだろうか。ありうるとしたら、壁にかけることによって壁や天井との距離が縮まって反射音で低音が強くなるということだが、その程度の効果がそんなにあるとは思えない。むしろスピーカーを土台から離したことによる低音の抜け落ちの方が強いのではないかと思っていた。

スピーカーには細かいことにこだわると理屈が通じなくなるというか不可解なことが多くなるので、私はあまり考えずにすごすごとまたスピーカーを降ろすことにした。ブラケットは箱に戻して次の機会を待つことにした。将来 BOSE 101系のスピーカーを買ったとしたらそいつに使おうと決めた。

思ったのだが、BOSE 121 はブラケットに固定するための金具があり、つまりブラケットとスピーカーの間にその金具が仲介する形となっていて、この金具が音に悪い方向に影響しているような気がする。BOSE 121 は Westborough という特別なシリーズのスピーカーであり、黒い普通の BOSE とは違うのだ。黒い BOSE はスピーカー自体にブラケットを接続することができるので音があまり変化しないのではないかと思うのだが、実際のところどうなのだろう。買ってみないことには分からないのでなんとも言えないが、いまはさすがに買う気はない。中古なら二万円ちょっとで手に入るみたいなのだが…。

■余談・ソフト編

ハードを買ったらソフトが欲しくなる。これまで集めた CD を聞き直すだけでは満足できなかったので、いくつか CD を買ってみた。

▼丹下桜

まず最初は、丹下桜というアニメの声優のベストアルバム SAKURA である。インターネット上でオーディオ関係の情報を調べているうちに、私の大好きな DREAM THEATER というメタルでプログレなグループを好きだという人を偶然発見して、その人がなぜか「俺的名盤」と銘打ってこのアルバムを挙げていたので買ってみた。結論から言うと、今日私の MPMAN には聞き込みのためにこのアルバムが入っているのだが、あまりよろしくない。声優の CD というとアニメ声を想像させられるのだが、本当に普通に歌っているのだ。しかも声が細い。浜崎あゆみの声よりも聞き苦しい。

浜崎あゆみの声はどう考えても聞き苦しいと思うのだが、しかし売れている以上は買っている人間はそうは思っていないのだろう。私の方が異常なのだろうか。

丹下桜の演じている声で一番有名なのは、NHK の BS でやっていたカードキャプターさくらの主人公木之本桜の声である。

声優に限らず、打ち込み(コンピュータ音楽)の多いアルバムは聞くにたえない。特に日本のポップ音楽の CD は三千円以上するのに、買って聞いてみて打ち込みばかりだったらガッカリする。肉声さえ聞ければ良いというファンだけではないのだ。打ち込みだと安くて済むのでたぶん儲かるのだろう。

声優のアルバムといえば、私はかつて椎名へきるという当時超有名だった声優の代表的なアルバムを萌え萌えな人から勧めてもらって買ったことがある。やはり歌手としては二流いや三流だった。彼女の場合は本業の声優よりも歌手として有名だったらしいのにこれなのだから、およそ声優と名乗る女性ヴォーカルは私の中ではすべて駄目だと思うことにした。…いや、最後に宮村優子を試すことにする。いっぽう、アニメの主題歌を歌う男性の声は非常に素晴らしい。彼らの中で特に素晴らしい三人のことを「アニメ界の三大テノール」と言うのだそうである。マジンガーZ とかの主題歌を思い出して欲しい。

▼管野よう子

またまたアニメ系になってしまうのはなぜか分からないが、管野よう子は素晴らしい。確か私が初めて管野よう子の曲を聞いたのは確か光栄のゲームだったと思う。信長の野望シリーズだっただろうか。要するに彼女は音楽界からすればメインストリームとは程遠い位置にいる作編曲家である。メインストリームではない位置にこのような才能が見つかるので見つけるのには手間が掛かる。

私が買ったのは、もう結構前になってしまうが、テレビ東京系列でやっていたカウボーイ・ビバップというアニメのサウンドトラックである。管野よう子はカバーできるジャンルがとにかく広いのでなんでもアリのようである。このサウンドトラックはジャズ系の音楽になっている。まさに私の BOSE 121 との相性を考えるとちょうどいいなと思ってこれを買った次第で、そうでなければ同じアニメでも天空のエスカフローネの方を買っただろう。

天空のエスカフローネの方は、私はこのアニメをすっかりチェックし忘れていたので終盤の少ししか見ていないのだが、音楽がいかにもわざとらしく作られていて演出過剰だと思いつつも非常に印象的な楽曲だったなと記憶している。しかしサウンドトラックがシリーズ化されていて何やら三枚か四枚くらい CD があり、買い揃える気になれない。せめて一枚目くらい買いやすくしてくれてもいいのではないか。少女革命ウテナというアニメのサウンドトラックも同様の理由で私は買わなかった。あ、これは管野よう子ではないな。話がどんどん横にそれるのでここらへんにしておく。

カウボーイ・ビバップの方は私の予想そのままに生の楽器の演奏をそのまま焼き込んだような造りになっていて非常に良かった。私はジャズ系の音楽のとりとめのなさが大嫌いなのだが、音はかなり好きである。ハーモニカのソロが延々と続くのには辟易したが、ダイナミックなブラス系とか、アコースティックギターのボロンボロンとした生音が非常に心地よい。

ここはもっと強調したほうが良いので改めて言うが、私はジャズが大嫌いである。ビッグバンドも嫌いなら、ソリストが感性だと言いながら冗長で行き当たりばったりなアドリブを延々と続けてセッションと称するのも嫌いだし、個性と個性のぶつかり合いなどという胡散臭い文句が並ぶことにも我慢ができない。私の持論では、あらゆる芸術は共同作業からは駄作しか生まれないということである。オーケストラでも、譜面を書くのは一人、タクトを振るうのも一人、あとの人は従うだけ。絵画で合作というのを聞いたことがあるだろうか? ジャズの論理によれば、異なる個性を持った芸術家(と彼らは称する)が一つのものを作り上げると一人のときよりも良いものができるということになるのだが、いまだに私は人類史上そのようにして作られた傑作というのを知らないし認めたくもない。

そういえば、打ち込み(コンピュータ音楽)だと何からなにまで一人で音楽を作ることができるが、さすがにそうである必要はない。一人の人間が大勢の楽器奏者や歌手を操作すればよいだけの話である。

▼アナログ系

やはりアナログ系の CD の音がよくなったのが一番分かりやすい。前にも言ったが Deep Purple が特によくなった。昨日は Van Halen を聞いてみたがそこそこ良かった。アナログだから良いというわけではなく、ただ当時はラジカセとかミニコンポではなくちゃんとしたオーディオシステムで音楽を聴くことが当たり前だったからだろう。多分、今のバンドが改めて彼らの曲を最新のマスタリング技術で録音して CD 化すると、ずっと良い演奏のものができるだろう。70年代 80年代と比べると、少なくとも楽器演奏のレベルはいまの若者の方がずっとうまい。バークレーの有名な音楽の学院なんかに才能がゴロゴロしている。彼らに昔の曲のカバーをさせたアルバムなんかを作ってくれないかなと思う。

▼日本のポップス

aiko とか宇多田ヒカルなんかも確かに音がよくなるのだが、特に音の密度が高くなるところで前よりも音が潰れなくなったのがうれしい。鳴っている音が少ないときは前のシステムでもかなりきれいな音が鳴っていたように思うのだが、盛り上がっていくところとかで音がグチャグチャにつぶれていたような気がする。それが多少なりとも緩和されたのは大きい。ただしこれ以上なんとかするのは多分無理だろう。究極的には全ての楽器を別々のスピーカーで鳴らすようなシステムが必要になってしまうからである。

ところで私のオーディオの横にはいまだに、使われなくなったギターアンプとベースアンプが置かれている。これらのアンプは、ギターやベースを一本鳴らすためだけのアンプであり、これらのアンプから流れる音はまさに原音である。つまり、オーディオというのは基本的にこの音よりも良い音を出すことができない。

▼クラシック

さきほどトイレに行ったのだが、偶然バッハの「二つのバイオリンのための協奏曲」がビルの構内に流れていてびっくりした。これは私のとても大好きな曲であり、新しいオーディオに換えてから唯一聞いたクラシックの CD である。私の持っているものは千円くらいで買ったあまり良い CD ではないのだが、それでもあきらかに新しいシステムだと弦がよく聞こえる。新たに別の演奏者のものを買ってみようとは思うのだが、特にこれといった演奏者を知らないので何を買って良いのか分からない。教えていただければ嬉しい。

*

ところで、15万円もあれば CD を 50枚買うことができる。新しいオーディオシステムを買わずに CD を 50枚買った方が場合によっては良かったかもしれない。新しいオーディオシステムを買った場合は、これまでに買い集めた二百枚くらいの CD を聴きなおせるのだが、実際のところ二百枚のうちいまでも聴くのはせいぜい 50枚程度なので、非常に微妙なところではある。なんというか、今回は 15万で済んだが、さてこれから十万円くらいのスピーカーを買おう、三十万程度でまた買いなおそう、ということになると、果たしてどちらが得なのかを考えるのが難しくなってくる。

■買い時を待て

前にも言ったが、いまオーディオシステムを組むのはあまり良いことではないのかもしれない。DVD オーディオや SuperAudio CD という新規格もあるし、アンプの方式でもシャープの 1bit と呼ばれる革新的な方式が、例によって日本発なのに世界で認められてから日本で認められつつあるという現象が起きているらしい。デジタル関係の機器はこれからメーカーが共同開発をしたりして安価なものを今年の秋だか来年の秋を目標に出していくようだから、それらが出た頃になるといまの機器は時代遅れになっているかもしれない。

一方で、いくら新しい規格が出てきたからといって、いまの CD がすぐにすたれるなどということは考えられず、これからもしつこく CD は生き延びつづけるだろう。それらの CD はただでさえ新規格と比べて音質で劣るのに、ウォークマンやミニコンポを対象とした録音がされるわけだから音質がいいはずがない。さんざんたきつけておいてこういうのもなんだが、あまり高い金を払って買うようなものではないのかもしれない。

むしろ、MP3 や WMA などのシリコンオーディオに未来を見るべきなのかもしれない。シリコンオーディオの世界では、メモリさえあればいまでも高い音質で音楽を聴くことができるのだ。いまは 64MB 〜 128MB のメモリを搭載するに過ぎないが、将来的に 256MB とか 1GB とかのメモリを積むようになると、もはや DVD オーディオだとか SuperAudio CD だとか言っているときではなくなっているかもしれない。ブロードバンドでこれらの高い音質の音楽データをダウンロードしてきて、ハードディスクや CDR にデータとして記録して、それをノイズフリーな DAC またはデジタルアンプに光ケーブルで送り込んで再生するのがハイエンドオーディオの姿になるのかもしれない。あるいは将来的にすべてのアンプは IEEE1394 などを装備するようになるのかもしれない。

変わらないものがあるとしたら、それはスピーカーである。となると十万円くらいならスピーカーに投資してもいいかなと考えてしまいそうになるのだが…。


戻る前回次回
gomi@din.or.jp