或る朝の話
クリスマス企画。騎士成り立てシーグルのちょっとしたエピソード。





  【4】




「それが、シーグルが初めてパーティを組んだ時の話なんだ」

 ウィアが尋ねれば、シーグルは静かに閉じていた目を開く。

「お互いに利点があったからな。彼と組んでいる事でパーティとしての実力は保証される、俺がいる事で信用が保証される。おかげで、それなりにいいランクの仕事を貰えたから、俺もポイントがこんなに早く稼げた」
「成る程なぁ……」

 シーグルは人のいい男の顔を思い出して、口元に僅かな笑みを乗せる。
 その様子を見たウィアは、にっと顔に笑みを浮かべて背伸びをした。

「それで、そのグリューって奴は、今どうしてるんだ?」
「さぁな、ある日事務局に言伝があって、実家に帰るからパーティを解消してくれという事だったが……恐らくどこにいようと元気でやっているだろう、そういう男だった」







「それで、そいつは今、どうしているんだ?」

 セイネリアが問えば、カリンは口元に笑みを浮かべて答える。

「どうやらその男、一応貴族だったらしく、ただし当主が外で女遊びをして作ってきた子供という事で、本来なら相続権では兄弟中の一番下にあったのですが、流行り病で兄弟が全員死亡して家に呼び戻されたらしいです」
「成る程……あいつはそこまで知っているのか?」
「いえ、知らないようです。家に戻ってから、シーグル様との接触は一度もないようですので」

 そうか、と何の気なしに呟いたセイネリアだったが、カリンはその声に僅かな安堵の響きを見つけてしまった。
 だから、余計な事だろうと思いながらも、言葉をつけたしてしまう。

「仕事では何度も組んでいたようですが、シーグル様とは仕事仲間以上の事は一切ないようです」
「当然だな」

 妙に自信たっぷりにそう言ったセイネリアの様子を、カリンが少し驚いたのが分かったのか、彼女の主は皮肉げな笑みを唇に乗せると、彼女の顔をその琥珀の瞳でちらりと見た。

「あいつにとって、そういう行為が俺が初めてだったのは反応を見て分かるさ。それに、少しでもその手の接触があったなら、あいつ自身がそいつの事を笑って話したりはしないだろうよ」

 カリンはくすりと笑う。確かに、と。
 だが、それとは逆に思いついた事もあって、一瞬だけ悩んだ後に聞いてしまう。

「では何故、ボスは調べようなどと思ったのでしょうか?」
「そうだな……」

 セイネリア自身、どこまで自分自身の感情を理解しているのか。
 考え込む素振りの彼には、主に対して礼を欠いていると思いつつも笑みしか湧かなくて、カリンは彼に撓れ掛かる。

「妬いていらっしゃるのではないのですか? シーグル様が、笑顔で他の男の事など話していらしたから」

 セイネリアは、この男にしては珍しく琥珀の瞳を一度見開いて、それから喉を震わせて笑い出した。
 ひとしきり喉だけで笑った後、彼は静かに目を閉じながら呟いた。

「そうか……そうかもしれんな」



END

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ほんとーに、少年騎士シーグルのちょっとしたエピソード、程度の話だったのですが、その割りにこの長さはどうなんだとorz。
本編に入れる程のエピソードじゃないので番外にした、ってぇくらいの話なんですけどね(・・。
でも、この話を読んでおくと、後でちょっとだけ本編でにやりと出来るかもしれません。


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