WEB拍手お礼シリーズ28
<子供シーグル編その2>








☆☆お子様物語その2 (1/3)

 襲ってきた魔法使いの術が失敗して、何故か10歳くらいの子供になってしまったシーグルは記憶も子供まで戻ってしまっていた。家にも帰れずとりあえず黒の剣傭兵団に連れてこられたのだが――……という事で、ただのもしものお子様ネタなので深く考えないようにお願いします。

 シーグル少年がやってきた日から、セイネリアのいくところにはいつでもその小さな銀髪の少年が付いて歩くようになった。更にいうなら、普段ならそうそう団員の前に姿を現さないセイネリアがよく外を出歩くようになった。
「セイネリア、何処へいくんだ?」
 セイネリアが一歩歩けば3歩分使って少年は追いつく。ちょこちょこと必死に追いかけても次第に差が出てしまうのはどうしようもないのだが、驚くのはセイネリアが適度に足を止めて少年が追いつくのをわざわざ待っているところだろう。
「やっぱりアレってマスターの隠し子じゃ……」
「あの子ってさ、マスターが一時お気に入りだったシーグルって奴に似てるよな。どっかにそいつに似た女見つけて子供作ったってオチじゃ……」
「とにかく、マスターが子供相手に笑ってるのが俺は一番怖い」
 団員達はヘタに目を合わせるとあとが怖い為しっかり見れないのだが、それでもチラチラと目がいってしまうのは仕方ない。
「余計な詮索はしないほうがいい。ボスは見てないようで見ているからな」
 と、そこにカリンがやってきて団員達に釘を指し、それから彼女がセイネリアと少年を追っていくのもここ最近いつものことになっていた。
「ボス、その……湯浴みの準備が出来ましたが」
 ちなみに、午前中にシーグル少年の訓練に付き合ってやってから湯浴みをして昼食を取り、その後シーグルを連れて外へ出かけるというのが最近のセイネリアの日課である。
「そうか、なら急ぐか」
 言うと少し嬉しそうに、セイネリアはシーグルを抱きかかえる。
「セイネリア、俺は一人で歩けるんだが」
 と言いつつシーグル少年もちょっと嬉しそうだししっかりセイネリアのマントを握っている。
「俺が急ぎたいんだ、文句を言うな」
 笑いながらそういうセイネリアは、カリンが見たところでも相当に嬉しそうだった。だが思わずそれに見蕩れてしまってから、カリンははっと気付いた。
「ボス、くれぐれもシーグル様は子供なのですから……」
「分かっている、やるなら十分慣らすといってあるだろ」
「ボスっ」
 セイネリアはカリンの声に軽く片手で返しながらも笑って歩いていってしまった。
 その腕の中、まったく疑いのない目でセイネリアをみているシーグル少年を見て、カリンは溜め息を付きつつも主が自制してくれることを祈るくらいしか出来なかった。
「だーい丈夫っスよ、ねぇさん」
 そこでそう声を掛けてきたのは、そもそも子供になったシーグルを傭兵団へ連れてきたフユだ。
「あれだけ懐かれっとでスね、いくらボスでもヘタな事をして嫌われたくないって思ってまスからね。なぁに本当に手ェだすつもりならもう手出してるっスよ」
「それもそうか……」
「えぇそうっスよ。なにせおやすみのキスさえ、『友達同士でそういうのをするのか?』って言われてやめてましからね」



☆☆お子様物語その2 (2/3)

 襲ってきた魔法使いの術が失敗して、何故か10歳くらいの子供になってしまったシーグル。家にも帰れずとりあえず黒の剣傭兵団に連れてこられたのだが――……。

 昼食が終れば、シーグルを連れてアッシセグの街に行くのが、子供シーグルが来てからのセイネリアの日課だった。というか、散歩と言いつつ実質はシーグルが行きたがる場所にセイネリアが連れていってやっているのだ。
「セイネリア、これが砂浜なのか? 本当に広いんだな」
 馬から下ろしてやれば、シーグルはおそるおそる砂浜を歩きだす。ちなみに彼のいるリシェも港街だが、あの街の周辺は岩場ばかりで長い砂浜になっている場所がない。
「セイネリアっ、小さいカニがいるっ」
 子供らしく無邪気に目をキラキラさせて浜辺を歩き回るシーグルを見ていると、セイネリアは笑みが抑えられない。
 最初の頃は警戒しつつ遠慮していたシーグルだったが、今では『小さくなる前のお前と俺は友達だった』という言葉をすっかり信じきっていて、子供っぽい姿をよく見せるようになった。
「ここの海は水の色が全然違うんだな。俺が知っている海はもっと暗い色だ」
「そうだな、違うのは嫌か?」
「いや、とても綺麗だ。南の方の海は明るい色をしてるんだな」
 そう言って楽しそうに海を眺めていたシーグルだったが、ふと、離れたところで子供の笑い声が聞こえてきてそちらに顔を向けた。セイネリアとしては人が来てしまったかと内心おもしろくなかったのだが……。
「お父さんっ、すごいよ、向うにお船が見える」
「お父さん、俺も俺もっ」
「待ってろ、一人づつだ」
 笑い声の主は小さな子供二人と父親のようで、子供達はせがんで順番に父親に肩車をしてもらっていた。それを見つめるシーグルの瞳が寂しそうなのを見て、セイネリアは聞いてみる。
「羨ましいか?」
「……少し。父さんは優しかったけど、ああいう一人づつしかできない事はしなかったから」
「そうか」
 そこで素直に羨ましいと肯定するのが、このシーグルが子供だと実感するところだ。いつものシーグルならそういうことを、しかも自分に言うなどありえないだろうなとセイネリアは思う。だから。
「え、えぇ、セ、セイネリアっ」
 軽い少年の体をひょいと持ち上げて、セイネリアは肩に持ち上げる。
「いやそのっ、もうそういう歳でもないし、大丈夫だっ、下ろしてくれ」
「何、お前は軽いから問題ない、遠慮するな」
 わたわたと焦っていたシーグルだったが、すっかり肩車のカタチで座らせてしまえば大人しくなる。それどころか、遠くの風景を見ているのか急に黙ってしまった。
「どうだ?」
「すごい、高いな……あぁ本当だ、船が見える」
 声から、シーグルが子供らしく頬を紅潮させて楽しそうに海を眺めている顔が想像出来て、セイネリアの口元も自然と緩む。
「ありがとう、セイネリア」
 ただ、そんな素直に感謝されるとセイネリアの笑みは苦笑に変る。
――まったく、こいつにこんな素直に信用されすぎるだけで今の俺は何も出来なくなるのだからな。




☆☆お子様物語その2 (3/3)

 襲ってきた魔法使いの術が失敗して、何故か10歳くらいの子供になってしまったシーグル。家にも帰れずとりあえず黒の剣傭兵団に連れてこられたのだが――……。

 いつも通り、夜になればベッドに当たり前のように一緒にやってくるシーグル。
「おやすみ、セイネリア」
「あぁおやすみ、シーグル」
 ここでつい、おやすみのキスがしたくなって困る、と何の疑いもなく大人しく一緒のベッドに入って目を瞑る少年を見てセイネリアは思う。ついでに本当はこの小さな体を抱き寄せてしまいたいのだが、それは完全に寝てしまえば向うからその内寄ってくるからと自分に言い聞かせて我慢する。
 まったく、俺は相当にシーグルには甘くなれるらしい。
 こうして大人しく自分の傍にいてくれるなら、それを壊したくなくて彼が嫌がる事が何も出来なくなる。彼の望みを叶えてやりたくなる。
 思いながらも、いつも通り自然と自分からこちらの体温にシーグルがすりよってくるのを待っていたセイネリアは、だが今日は少し勝手が違う事に気付いた。
「シーグル?」
 こちらに背を向けたまま動かない少年の体に、起こさないようにそっと触れたセイネリアは、そこで思い切り顔を顰めることになった。……これは、熱を出している。

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「多分、坊やに掛かってた魔法が不安定になった所為で、魔力と戻ろうとする体が反発しあってるんじゃないかな」
「つまり、この術がそろそろ切れるという事か?」
「そうだね」
 団の医者であるサーフェスの言葉を、セイネリアは少しだけ苦しそうに眠るシーグル少年の顔を見ながら聞く。
「なら魔法ギルドにこいつを引き取りにくるように言え」
「いいの?」
「どちらにしろこんな術の後だ、体に問題が出てないか調べる必要があるだろ」
「そうだけど、戻ったらここにいた事覚えてないかもしれないよ?」
「別に構わん、いや、覚えてない方がいいだろう。魔法で子供にされたから魔法ギルドの方で預かっていた、という事にしておいた方がこいつも安心する」
「あんたがどれだけ可愛がってやってたか、坊やが覚えてた方が後々いいんじゃないの?」
 そう言って含みある笑みを向けたサーフェスに、セイネリアも笑ってやる。
「別に。俺が欲しいのはあくまで今のシーグルだからな。本来のあいつを俺のモノにする為に、子供時代で懐柔するのは卑怯だろ?」
「……あんたから卑怯、なんて言葉を聞くとはね」
 それに『確かにな』と笑ってからセイネリアは思う。彼が自分の元にくるために卑怯な手を使いはしても、彼の心を手に入れるのに卑怯な手は使えない、と。



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時間軸は騎士団編くらいかな。子供シリーズも割と好評でした。

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