WEB拍手お礼シリーズ12
<シーグルの愉快な部下達編>








☆☆☆騎士団のだめな人々・1

 首都にあるクリュース騎士団における役職のない団員達は、基本的に敷地内にある兵舎で寝食を共にしている。
 さて、彼らは朝起きるとまず点呼の後、走ったり体を解したり等の軽い訓練をすることになる。それが終わったら食堂で朝食、その後の一時休憩の後、各自担当の仕事場に向かうか、予備隊の場合は午前の訓練の開始となる。
「えー、今日はみんなに残念な知らせがある」
 訓練前の整列中、代表で前に立つグスの姿に、内容を薄々わかりつつも、皆はじっと彼に注目する。
「今日は隊長は城の方に呼ばれてる。ってことで今日一日隊長はこない」
 途端にあがる不満と落胆の声。グスはうるさそうにそれを聞きながら、一通り隊員達の反応をみた後、はぁ、と大きくため息をついた。
「で、今日の訓練……ではなく今日は仕事だ。昨日、北の海岸線のとこで崖崩れがあったらしくてな、それの調査と後始末してこいってぇことだ」
 更に上がる不満の声。グスはすましてそれを聞き流した。

 そんな訳で。その日の第7予備隊の仕事はまず現場までの資材運び。それから周辺の調査、土砂の撤去に崩れた場所の簡易補強。
「こんなん騎士様の仕事じゃねぇだろ?!」
 と叫ぶものがいても。
「上から見たら、俺たちは一般兵に毛が生えた程度のモンだ。それにこの国は平和すぎっからタダメシ食わせねぇ為にもこーゆーのがこっちに回ってくんだよ」
 ……まぁ、古参は慣れているものだ。
「あー、今日隊長が呼ばれたのって、あの人にこういう泥仕事させねぇ為じゃね」
「かもなぁ。あの人真面目だから、俺らだけにやらせてふんぞり返ってられねーだろーしな」
「ま、それなら仕方ねーか。あの人にこういう仕事はさせられねぇしな」
「だぁな」
 と、笑いあっていた彼らだが、それから数時間後、その意見は変わることになる。

「雲行きが怪しくなってきたな……」
「こりゃ一雨くるな」
 と言っている間に唐突に激しい雨が降ってきたのだが、彼らにとってこれは丁度いいともいえるものであった。
「おー雨だ雨だー街帰る前にあらえっぞー」
 と、一斉に歓声をあげて、服を脱ぎ出す隊員達。
「こーら、体洗うのは交代でだ。、マニク、セリスク、テスタ、クーディ、お前等は後だ、まだ脱ぐんじゃねぇっ」
 名を呼ばれた者達は恨めしそうにグスを見て、他の者達は素っ裸になって体を洗っている。ちなみに今日は最初から作業目的の為、帯剣はしているが鎧といえるものまで着てるものはいない。
 交代待ちの5人は一応辺りに警戒しながらも、雨の中はしゃぎ回っている連中をぼーっと見ているしかなかった。
「……しかしあれだな、ほんっとに隊長いないのが悔やまれるな」
 ぽつりと突然、テスタがしみじみと呟く。
「さっきはこんな仕事隊長にさせたくないっていってたじゃないですか」
 反論したのはセリスク。
「ばっか、今、隊長いたら、あの人もここで体洗ってるかもしれねーじゃねーか!」
「あ……」
「あんだけ着込んでても細いってのがわかるんだぞ、脱いだら相当細いに違いねぇ。んでも並大抵の鍛え方じゃねぇからちゃんと筋肉はありそうだしな、若いし貴族様だし肌は綺麗だろ。いやぁ、あーゆーどこもかしこも着込んでますって人の裸とか、想像するだけで楽しいよなっ」
「テスタ、やめとけ」
 友人を止めたグスは、ため息をつきながら他の連中を指さす。
「想像だけでも、若い連中には刺激が強すぎだ」
 セリスクは鼻血を押さえ、マニクは前かがみに腰を曲げ、クーディは完全にしゃがみ込んでいた。
「なさけねーなー。どうせなら、隊長があの細い体を悩ましげにくねらせたりとか、泣きそうな顔で喘ぐ顔とか、あの白い肌にキスマークつけまくるとことか、細い腰をわし掴みにして……」
 さすがにグスも、今度はわりと本気でテスタの頭を殴って止めた。
「このエロ親父がっ。だーかーらー若けぇのには刺激強すぎだっていったろ」
 若い3人組の方は言葉を返す余裕もなく、完全にしゃがみこんで各自危険な部分を押さえ込んでいたそうな。




☆☆☆騎士団のだめな人々・2

 騎士団の兵舎、一般団員達に割り当てられる部屋は大体4人部屋か6人部屋になる。
 ただ、第7予備隊にはまだ欠員があるため、マニクとセリスクは現在、4人部屋を2人で使っていた。
「しっかしセリスク、お前本当にマメだな」
「いざという時書けなくならない為だろ」
 セリスクは騎士団に入って以来、ずっと毎日書かさず日記をつけていた。
 騎士試験の一つに文字の読み書きがあるため、一応ここにいるものは最低限の文字書きはできる。神殿が信徒獲得の為、競うように無料の学校を開いているこの国の大きい街出身者はまだしも、地方出身者や他国からの人間はこの条件が厳しくて騎士になれない者も多い。
 ただ、騎士になった後に、安心して勉強を怠り、文字の読みはともかく書けなくなってしまう者は多い。マニクも例に漏れず、騎士になった後は文字書きを全くしなくなり、今いきなり書けといわれても出来るかは怪しい状態だ。
 だから、セリスクのその返しは、実はちょっと耳が痛い。
「何々、今日は隊長が来なかった。しかも今日は訓練ではなく北の海岸道の復旧作業だった、と。……ん、このマル印はなんだ?」
 だからちょっとした嫌がらせに日記を声を出して読み出せば、当然怒ったセリスクがマニクの足を蹴ってきた。
「てっ、いてててっ」
「お前はプライバシーって言葉の意味を勉強しといた方がいいぞ」
「なんだよ、同じ隊にいんだからどーせ俺が知ってることばっか書いてんだろっ」
「じゃ、次に報告書類書く時は代筆しないからな」
「おまえそれひでぇ」
「いつでも自分で書けるように、お前も日記をつけてみろよ。文章になってなくてもな、自己チェック込みでメモ程度でもいいんだからさ」
「めんでーよ……で、このマルの意味なによ」
「これは騎士団内訓練の日」
「じゃ、こっちは?」
「……隊長の顔が見れた日……」
「……」

 と、いったやりとりのあった3日後。

「セリスク、俺も日記付けだしたんだぜ」
「おー」
「ま、お前みたく文章ちゃんと書いてねーけどな」
 といって、自ら得意げに日記を見せるマニク。
「確かに記号多いなぁ。で、マニク、このマルの意味は?」
「隊長が午前中の訓練にいた日」
「こっちは?」
「隊長が午後の訓練にいた日」
「……で、これは?」
「隊長でヌいた日」
「…………」
「…………いやだってさ、テスタのおっさんがエロい想像させるのが悪いって」




☆☆☆騎士団のだめな人々・3

 大通りから少し入った、街の中央に近い酒場。
 いかにも落ち着いた雰囲気を持つ年輩の熟練冒険者、といった風情の男が二人で酒を飲んでいる。
「で、グス。その後どーよ、その隊長さん」
「んん? まぁよくやってるよ、真面目で強くて美人とくりゃ、多少厳しくても皆文句いわねぇからなぁ」
「へぇ、俺ももちょい団に残ってりゃよかったなぁ」
「ほざけ、お前は規定年数終わったらさっさと辞めたじゃねーか」
「まぁなー」
 貴族外のものが騎士試験をうける条件の一つに、騎士たるにふさわしい装備と資産がある事を示さなくてはならない、というものがある。
 金持ちの子供か、すでに冒険者としてそれなりに成功を収めている者ならどうにかなるが、平民の、まだ若い者なら特にこの条件が厳しい。
 ただこの条件は、騎士になった後、3年以上騎士団に在籍するという誓約をすれば不問とされる。
 その為、金のない者は大抵この誓約をし、そして約束の3年が経つと騎士団を辞めて冒険者に戻るのだ。
 騎士団内の一般団員に若い者が多いのはそのせいだ。
 グスも勿論入団した理由は誓約の為だが、最低期間の3年をすぎてもそのまま在籍しているという少ないケースだった。
「で、あの人があのセイネリアのオンナだったって噂はどれくらい本当なんだ?」
 グスが聞けば、グスと同期で入団したものの既に辞めて冒険者生活をしている男は顔をしかめる。
「少なくとも、お前さんとこの隊長さんを、俺のものだって公言したのは本当だってよ。隊長さん本人は相当嫌がってたって話だけどな。あのセイネリアが相当熱を上げてつきまとってたらしいぞ」
「……あいつがか? にわかには信じられねぇなぁ」
 グスもその友人の男も、騎士団時代のセイネリアを実際にみている。
 化け物のような強さ……というかバカ力で、どれだけ無茶な体勢でも腕力で剣を受けて押し返してしまうような男で、なんだか見ていると出鱈目過ぎて笑うくらいの強さだった。
 そしてそれ以上に、あの、まともに見るだけでぞっとするような金茶色の瞳のすごみは、貴族連中でさえ恐れてヘタに文句を言えなかった。
 セイネリアに逆らえば死ぬより恐ろしい目にあう――その噂だって嘘じゃない。実際に失脚させられた貴族騎士や、戦士としては再起不能にされた者もいたのだ。
 あんなのに俺のものだと言われて正気で居られるだけでも、シーグルという人間に感心せずにはいられない。
 だが。
「ただ、そうなると……」
「ヤられてっだろうな、確実に」
「奴が手を出してねぇってのはありえないよなぁ」
 セイネリアは、そっち方面でも手が早くて強引という噂があった。
 綺麗で理想的な騎士様としてシーグルを崇拝してるような連中にはヘタに言えねぇよなと思うのと同時に、やっぱあの色気は経験あるからだろうなぁと妙に納得するグスだった。




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騎士団編を始めたばかりの頃の拍手お礼だったと思います。

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