貴方が幸せをくれたから
※この文中には中間に一部性的表現が含まれている文章があります。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【2】




 彼と最初にした仕事は、ザン・クーン村に出るという手負いの大狼退治だった。

「まず、彼を紹介する。俺は今、彼とパーティを組んでいる事が多いんだ」
「グリュー・ノル・ルーだ。グリューかルーの好きな方で呼んでくれ」

 がっしりした体格だが割と小柄(とはいってもクルスよりもシーグルよりも勿論大きいが)な男は気は良さそうで、彼が握手を求めて伸ばしてきた手をクルスは掴んだ。

「いかにもがさつって風貌でわりィが、襲ったりしないから信用してくれ……っていうか、そこの若様に誓ってヘタな事はしねぇ、よろしくな」
「クルス・レスターです。クルスと呼んで下さい。勿論、シーグルが私に紹介してくれたのですから信用していますよ」

 グリューはそこで、どういういきさつでシーグルと会う事になったのかを教えてくれた。西の下区で、シーグルが女の遺体をぞんざいに扱った警備隊に抗議をした事、知らないその遺体に弔いの祈りをした事、それに感動してグリューはシーグルに声を掛けたという。そうしてそのまま仕事で組む事になったそうだ。

「俺は仕事の実績はあるが信用がガタ落ちしてたとこでな、シーグルが組んでくれたおかげで信用面は問題なくなったからいい仕事がいくらでも取れるようなったぜ」
「俺は実績がないからロクな仕事がなかったのが、グリューと組むことで仕事が入るようになったんだ。お互いに丁度良かったというところだ」

 シーグルとグリューが仲良さそうな様子に少し寂しさを感じてしまったものの、それでもすぐにこうして今自分も一緒にいられるのだからいいとクルスは思い直す。それにシーグルは、クルスをグリューに紹介する時にこう言ってくれたのだ。

「彼は、俺が冒険者になって初めて出来た友人なんだ」

 その言葉だけでクルスは自分が幸せだと感じられた。

「実績と信用、実力の方は俺とシーグルで文句ないとこに、これで神官さんが加われば仕事に困る事はねーな。いやまったく、俺はつくづく運がいい」

 グリューがそう言って笑い合ったその時の仕事は、勿論何の問題もなく完了した。仕事が終わった後にはクルスは彼らとパーティ登録をして、次に会う約束をして別れた。

 その日からクルスは出来そうな仕事を探す苦労をする必要がなくなり、彼らとたくさんの仕事をこなした。3人で出かけた事も多かったが、他のメンバーを募集して大きな仕事をする事も何度かあった。グリューが言った通り、信用と戦力、それに治癒役が確保されているパーティーは仕事も取り易ければ補充メンバーもすぐに集まり、おかげでクルスの冒険者としての内部評価もどんどん上がった。パーティーリーダーであるシーグル程の評価ポイントは入らなくても、気付けばクルスは同期の神官達の内で一番、冒険者としての格付けは上となっていた。

 だが、勿論そういう状況になれば、神官仲間――同じ孤児として大神殿で育てられた者達から妬まれるのは仕方ない。

「いいよなクルスは、なにせ次期シルバスピナ様とパーティ組んでるんだもんな。そりゃいい仕事ばっか入ってくるよな」
「昔から強い奴に取り入るのだけは得意だったもんな、クルスはさ」
「きっと女みたいで大人しいからペットとしちゃ丁度いいんだろ」

 侮辱の言葉も、下卑た噂話も、慣れているから気にならなかった。ただ自分を馬鹿にするのは構わなくても、それでシーグルの事さえ侮辱するのは許せないと思った。それでもヘタに反応すれば向うの思う壺な事は分かっていたから、ひたすらそれらの声は無視するしかなかった。
 嫌がらせや、管理神官に見つからないように暴力を振るわれる事もあった。
 それでもクルスは幸せだった。次の仕事の事を、シーグル達と会う事を考えるだけでどんな嫌がらせを受けてもなんとも思わなかった。
 それに、貰いすぎの報酬を大神殿に恩として返した事で、クルスは個室を貰える事になっていた。だからもうすぐ、一番嫌な事をしなくてよくなるのだと思えばクルスの心は軽かった。

「よぅクルス、もうすぐここから出て行くんなら皆で祝ってやらなくちゃな」

 長く過ごしていた共同部屋に帰れば、この部屋の中ではリーダー格のゼナヴがそう言ってクルスの腕を掴む。彼も準神官になったが思うようにいい仕事が取れず、以前より余計にクルスでウサを晴らす事が多くなった。

 ベッドに突き飛ばされ、上からゼナヴがのしかかってくる。
 他の連中も近づいてきて、ベッドの周りでこちらを見ている。
 ゼナヴはいつも通りクルスの僧衣を脱がし、それから髪の毛を掴んで自分の興奮しきった雄を口に銜えさせる。そうしているうちに他の者がクルスの尻に油を垂らして指で中へ押し込み、そこの準備を始める。

 神官として清く正しい生活――なんてのは建前だけで、若い男が禁欲生活を強制されれば性欲を持てあますのはどうにもならない。その時生贄にされるのは、集団の中で一番弱い者というのはどの世界でも当たり前の事だろう。クルスは弱かった、それだけの事だ。

 慣れた臭い、慣れた味。最初は泣く程嫌だった弱者としての強者への『ご奉仕』は今ではなんとも思わなくなっていた。早くいかせれば、それだけ早く解放される。だからこうして舌で中のものを押して、根本の辺りを手で擦って、吸い込んでやる事を覚えた。思った通りに硬く充血して膨らんでいく口の中のものに刺激を与えてやりながら、ふとクルスは考えた。
 例えばこれが、『彼』のだったら。
 勿論彼が、クルスに対して劣情を催す事なんてある筈がない、彼はどこまでも綺麗な人間だ。けれどももし、これが彼であれば。
 クルスは口の中のものを愛おし気に舐める。口からだして、舌を出して、ゆっくりと、丁寧に、両手で捧げ持つように包んで先の一番感じる場所に口づけて、また口の中に引き込む。

「おぉ、なんだよ随分やる気じゃないか」

 頭を掴まれて、更に顔をゼナヴの下腹部に押し付けられる。それでもクルスは自ら口を開いて、喉の深くにまでゼナヴの雄を受け入れた。

「くそ、もういいっ」

 頭を離されて、口からでていくそれを寂しそうにクルスは見つめる。
 ゼナヴは焦ってクルスの後ろに回り、爆発しそうなそれを押し当ててくる。
 焦って入口で何度か滑らせてから、一気に押し込んでくる。

「あぁぁっ」

 そう、例えばこうして自分の中にいるのが『彼』なら。
 考えただけでぞくぞくと背筋を快感が突き抜ける。

「あんっ、ん、ん、あんっ」

 動きだしたそれが中の肉を擦って、甘い声が漏れた。
 もっと深くに受け止めたくて、もっと感じたくて、クルスは自ら足を広げて腰を揺らした。

「くそ、これじゃもう……」

 言って男は腰を強く掴むと乱暴に中を突きあげてくる。
 望む通りの強い刺激に、クルスは歓喜の声を上げた。

「あぁっ、あんっ、ぁっ、はぁっ、あぁぁぁあぁぁん」

 中に吐き出されたものが、熱い感触として体の深くに入ってくる。
 それさえもが『彼』のものだったらと想像してしまえば、嬉しくて、気持ちよくて、クルスの雄もまた精を吐き出していた。

「どうしたんだよクルス、随分今日は乗り気じゃねぇか」

 抜かれて、再び口の前に出された雄をクルスは何も言わずに銜える。それに舐める事に夢中になっていれば、今度は別の誰かの肉が後ろへと入ってくる。

「うぐ、ぅぁぅ……」

 呻けばやはりセナヴはクルスの長い髪を掴んで抑えつける。そんな事をしなくても……と思いながらも、再びクルスは愛し気にそれを舐めてやる。
 後ろでは新しく入った男が抽送を始める。
 ぐぷ、ぐぷ、と中を満たしている液体が音を上げて溢れていくのを感じる。

「ぅ、ぅ、ん、ぁぐ」

 後ろから突き上げられる度に前のめりになって、口の中のものを深くまで銜え込んでしまう。前も後ろも塞がれて、押されて、突き上げられて、それはとても苦しいと思うのに、『彼』にされていると思えば体がもっと欲しいと騒ぐ。強請るように腰を振って、喉で吸い込んで、もっと自分に注ぎ込んで欲しいと思う。

――そうだ、なんで気付かなかったんだろう。『彼』だと思えばこんなに気持ちよくなれたのに。

 いつもいつも嫌だった。慣れたとはいえ、無理矢理女役をやらされるのは、苦しくて、気持ち悪くて、嫌で嫌で堪らなかった。無理矢理感じされられてイった事は何度かあっても、気持ち良くてもっと欲しいと思った事なんてなかった。

――こんなに気持ちよくなれるなら、もっと早くそうすれば良かった。

 顔の前に出されるそれを『彼』のだと思う、入って腹の中を突き上げてくるそれを『彼』のだと思う、中に吐き出されるそれを『彼』のだと思う。
 そんな事だけで、体は快感に震える、心は歓喜に震える。幸福感につつまれて、ただ気持ち良いという感覚だけを追っていけばいい――。



 部屋が静まり返り、醜い欲の宴が終われば、正気に戻ったクルスを待っていたのはただどこまでも深い後悔だった。
 自分の中の『彼』を汚してしまったという罪悪感。なんでそんな事を考えたのだろう、なんて自分は浅ましい人間だろうと、先ほどまでの自分を嫌悪する。そうして後悔する、ただひたすらに、どうしてそんな事を考えてしまったのだろう、と。

「すいません、シーグル」

 胸が痛くて涙が出て、ただ布団にくるまって心で謝る事しか出来ない。
 何度も何度も、クルスはあのどこまでも綺麗な少年の事を思い出して謝った。





 自分はなんて汚い人間なんだろう。
 そう、思っても、そんな自分が綺麗な彼といる事は良くないと思っても、それでもクルスはシーグルに会いたかった。
 心の中に痛みを感じても、それでも尚、彼と共に仕事であちこちを旅する事は楽しかった、幸せだった。

 あの後すぐ、クルスは個室に移動する事になった為、セナヴ達にそういう行為を強要される事はなくなった。だから結局、シーグルの事を思って抱かれたのはあの一回きりで、たった一回の過ちなら許されるだろうかとも考える。
 想像する、だけなら。
 本物の彼を汚す事は出来ないから、本物の彼を手に入れる事は出来ないから、想像でだけ貴方を求めた事を許してください。
 彼と笑い合って、彼の優しさに触れて、幸せな時を過ごしながらもクルスは思う。
 こうして彼と友人としていられる事、それ以上は望まないと心に言い聞かせて。





 心の中に痛みを抱えたまま、それでも時は過ぎて行く。
 幸せな時間というのはあっという間に過ぎるもので、クルスがシーグルと出会ってからは気付けば1年以上が過ぎていた。
 個室になったクルスはゼナヴ達との接点が何もなくなって、怯える必要もなくなった。最初の内はクルスを妬んで陰口をたたく事が多かった同僚達も、今では冒険者として顔も広くなったクルスに口をきいて貰おうと、好意的に接してくる者の方が増えた。既に上級冒険者となったシーグルと違ってクルスは上級冒険者ではなかったが、それでも評価は普通ではまず届かない程に高かったので、年下の同じ境遇の者達からは憧れの目で見られる事が多くなった。

――彼と会う前は、こんな状況は想像も出来なかったな。

 自分はいつでも弱くて、誰かに従うだけの立場で、そのままずっと一生そうして生きていくのだと思っていた。けれど彼と会った事で、すべてが良い方向に進んで行き、こんなにも幸せになれた。
 だからクルスはただ祈る。自分はこれ以上を望みはしないから、出来るだけ長く彼の傍にいられますようにと。
 クルスは欲張る気はなかった。いつまでもこうしていたいと思っても、それが無理な事は承知していた。

 時間が経つのを忘れる程楽しい日々を重ねて、ソレ、が起こったのはある秋の日の事だった。
 上級冒険者になったグリューとシーグルは、事務局側から仕事の依頼を受ける事が多くなって、前程3人は必ず一緒という訳ではなくなっていた。それでも人数が必要な仕事では必ず声を掛けてくれたし、時間がある時はよく会っていたから、寂しいという事もなかった。クルスも今では冒険者の知り合いが増えて、シーグル達と組めなくても他のパーティに呼ばれるから仕事面でも困るという事はなかった。
 その日はライネー砦から近い山岳地帯の生体系調査という事で、結構な人数の冒険者が集められた仕事だった。とはいえ実際の調査は3、4人づつの班に分かれて行われていて、クルスは知り合いの狩人ともう一人、初対面の青年との3人で仕事をする事になった。
 初対面の青年はハミという名で、正直あまりいい印象ではなかったが、もう一人が知人であるし、実際仕事をはじめれば問題がなかった事から、クルスも特に警戒をしていなかった。

 それが、最初から計画の内だとは知らず、クルスはまんまと罠に掛かることになったのだが。




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 クルスさんのエロはこんなとこで許してやってください。


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