気まぐれ姫への小夜曲
ウルダとリーメリがメインかな



  【1】



 平民が騎士になった場合、騎士と呼ぶにふさわしい装備と財を見せられなければ騎士団に暫く所属する必要がある、という条件がある。
 言い方を変えれば平民でも金があるなら別に騎士団に入らなくてもいいのだが、それでもわざわざ希望して騎士団に入る場合がある。大抵の場合は金持ちの親が『ウチの馬鹿息子を少し鍛えてくれ』というつもりで入れるのだが、ウルダとリーメリの場合は自ら希望した。二人に共通している点と言えば二人ともリシェの大商人の息子ではあるが跡取りではなく、ちゃんと剣の腕があって冒険者としてもそこそこの実績がある事だ。ついでに言えば独身で、すぐに結婚する気もなくて家に帰ると縁談を持ちかけられてうんざりするというのも含まれる。
 その共通点に加えて、リーメリは親と仲が悪く出来るだけ家にいたくないという事情があって、ウルダは親の勧めもあって社会勉強のつもりで暫く騎士団に入る事にしたという事情があった。

 ちなみに金持ちの子供等、貴族ではないがそれなりに力のある家の者が騎士団に入る場合、もし万が一戦争が起こっても戦場へ飛ばされないようにと騎士団側も気をつかって配属先を決める。そのためにあるのが各隊の後期組みで、派兵される事がまずない冬の時期の担当とする事だった。
 ウルダもリーメリも冒険者として既にそれなりに危険な場所を行っていた身であるから別に戦場に行きたくないとは思わなかったが、それでも親の力があるから後期組みの所属となった、という訳だ。

 まぁ騎士団に入った後、リシェの次期領主であるシーグルの下に付く事になったのはただの偶然だが――(シーグルが騎士団に入ると分かって親が手を回した可能性もあるが)――やる気がなくてだらだらと雑談と雑用をやるだけの日々が俄然面白くなったのは確かだ、とウルダは思う。

 ただシーグルの下について2年目、2回目の冬を越えて自分の担当期が終わって、更には騎士団所属の義務である3年が終わった段階でウルダは考えた。

 さて、これでさっさと騎士団を辞めるか、それとも残るか。

 義務は終わったが別に希望すればそのまま騎士団に残っても構わない。このままシーグルの部下として働けるならそれでも良かったが、それならそれで自分達にはもう少し別の選択肢もあるなとウルダは考えた。

 だから同じく任期が終わって辞めるか残るか考えている相棒で同室のリーメリに、彼はある日仕事が終わって部屋に帰った途端聞いてみたのだった。

「リーメリ、お前、あの人の部下なら続けてもいいんだろ?」

 聞けば、着替えをしていたリーメリはその手を止めてこちらを見てくる。

「え? ……いやそれはまぁ、な」
「というか、あの人を助けてやりたいって思ってるんだろ?」
「……そ……それはっ……いや、ああいう人間は危なっかしくて放って置けないだろっ。偉いのに低姿勢でやたらお人よしだしっ、そういうのが騙されたり貧乏くじ引かされてるのを見てるとムカつくからなっ」

 相方が素直でないのはいつもの事だが、この彼がここまでいうのだから相当に今の上官様を気に入っていて助けてやりたいと思っているのは確実だ。
 思わず笑ってしまってから、ウルダは彼に提案した。

「前に話したろ、俺は親父から騎士になったらシルバスピナ家の警備兵になれって言われてるって」
「あぁ、言ってたな」
「あの時はさ、騎士団で偉くなっていくあの人の傍に居る為にはこのまま騎士団に居た方がいいんじゃないかって思ってたんだがな。考え直したら逆かなと思ったんだ」
「逆?」

 リーメリが理解出来ないといったように顔を顰める。

「そ、ここでこのままあの人の部下でいたって、所詮後期組は予備隊の更に予備みたいなモノでロクな仕事に出る事はない」
「……だから去年は前期の奴との交代期間一杯一杯までいたんだろ?」
「まぁな、それでもやっぱり最初から前期でやってる奴との温度差っていうか……そうだな、彼らとの意気込みの違いを見せつけられたからな」
「へぇ、それで気後れしたって訳か?」

 今度はリーメリの方がにやにやと笑ってこちらを見てくる。ウルダは肩を竦めて見せた。

「いや、別に気合いだけじゃ負けるつもりはないけどな。ただあっちの連中が気合い入り過ぎてて、後からの俺達が今更入り込むのは難しいなと思ったのさ」
「別にいいんじゃないか? アウドは前期に移動したけど上手くやってるみたいだし」

 実はここでさらりと『俺達』と言ってみたのだが、リーメリは気にしなかった。わざと無視したのか、それとも彼の中でも自分と同じ気持ちというのは当然という事なのか。それにちょっと嬉しくなって、ウルダはリーメリに近づいていく。着替え中の彼は上を脱いだところだから上半身裸だ。

「まぁな、だが、俺達は彼らと別の立場ってのが選べる訳だろ?」

 だからにこりと笑ってその頬に手を置けば、彼はちょっとだけ眉を寄せはしたが特に拒絶はしなかった。

「別……ってのが警備兵か?」
「まぁそうだ、俺達はリシェの民で、更に街ではそれなりの発言力がある家の息子だ」

 親の話をすると不機嫌になるリーメリは、案の定顔をまた顰めた。
 それを宥めるように、彼の腰を引き寄せてその頬にキスしてやる。

「お前が親と仲が悪いのは知ってるが、利用出来るものは利用してやるくらいに思えばいい。……ま、そういう背景があるからな、俺達が騎士団を辞めてシルバスピナ家の警備兵になってもただの下っ端扱いにはならないだろう。更にはあの人がシルバスピナ卿になって領主となった後は、騎士団で部下として働いていた実績もあって気心の知れた俺達の事は傍に置いてくれると思う」

 これはほぼ確実だろうとウルダは思っている。一世代抜けてしまった事もあって現シルバスピナ卿は高齢で、シーグルが成人すれば割合すぐに家督を譲るつもりだろうと言われていた。それに伴って恐らく長く現シルバスピナ卿に仕えていた高齢の重職の連中もかなり辞めると考えられる。
 とはいえシーグルは公平であろうとするだろうから空いた席には順当に実績のある者を選ぶだろう。だが自身や家族の護衛等、プライベートに関わる位置の部下なら直指定しても文句を言う者はいない。そしておそらく自分達が正式に警備兵になれば、彼は喜んでそういう位置に取り立ててくれる……とウルダは考えていた。

「まぁ一応、あの人にも聞いてはみるさ。ついでにちょっとアピールもしとこうかと思ってる」
「アピール?」

 リーメリはウルダに抱き寄せられたまま特に抵抗はしてこない。顔を顰めてはいるが今日の彼の機嫌は悪くなさそうだと思って、ウルダはそのまま彼の体を抱き上げベッドへと運んだ。

「……まったく」

 嫌そうにそう呟きはするが、彼は大人しくベッドの上に寝たまま諦めたようにため息を吐いた。ウルダはその様子にクスクスと笑って、今度は彼の額にキスをしてから自分もベッドの上に乗った。

「まぁな、ここと違ってリシェでなら俺もいろいろツテがあるし、商人相手のアドバイスも出来ますってな」

 ベッドに乗り上げると、仰向けでいる彼の上に乗り上げる。とはいえすぐに体重を掛けるとこの気まぐれなお姫様はすぐ怒るから、ここはまだ膝と手をベッドについて上に覆いかぶさるだけだ。

「……本当にとことん自分の家を利用する気だな」

 唇を尖らせて呆れながらも、顔を下していけばリーメリは目を閉じてくれる。最初はまだ唇を合わせて軽く舌同士を触れさせてから一度その舌を絡めるだけですぐ離す。情事前の少しとろんとした目をした彼を見て笑いながらウルダは言う。

「親父の方も、俺がシルバスピナ卿の下で働くとなったらそれを領主への貢献としてアピールするだろうからお互いさまさ」

 リーメリの手が伸びてくる。誘うようにこちらの両頬に手を置いてきたから、ウルダはまた顔を下していった。

「本当にお前は商人の息子らしいな」

 唇同士が触れる直前、彼がそう言って来たからウルダは聞き返した。

「嫌か?」
「……嫌だったら、こんな事させてないだろ」
「そうだな」

 それから唇を合わせて、今度は深く、長く……。



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エロはまた後でなので今回はこんなとこで。シーグルが出てくるシーンまで書けなかったのが……すみません。



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