流され男のエチュード
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【2】



「うん、大丈夫、分かってるよ。僕ね、そういうお客さんに指名される事結構多いからさ。だっから任せて、ちゃーんとにーさんがいいようにしてあげる」



 そう笑顔で言うと、青年は一人だけベッドから降りて床にしゃがみこむ。そうして、ロウがわけがわからず惚けている間に、目の前にきて、やさしくロウの足を広げてその間に顔を近づけてきた。

「え、うわ……」

 引き留める間もなく、青年の手がロウの下肢の衣服を緩めていく。そうすれば、銀髪の青年の顔の前に、ぼろんと勢いよく自分の性器が飛び出して、ロウはその正直すぎる自分の下の反応に更に顔を赤くするしかなかった。

「ふふ、元気いいね、にーさん」

 青年の笑う吐息が、体の一番敏感な箇所に吹き掛かる。と思った直後に、それ全体が暖かくぬめる彼の口腔内にひきこまれていく。

「うあ……」

 ロウは思わず声をあげた。
 自分が余程興奮していたのか、それとも緊張していたせいか、その感触は初めてではない筈なのに強烈で、意識せず肩がぎゅうっと持ち上がった。
 その反応が相手にも分かってしまったのか、彼はロウのものを口に含みながら、ふふ、と喉を震わせて笑う。その振動がまたロウの雄にも伝わって、ロウはぞくぞくと背筋を震わせた。

「くそ……」

 これではまるで、本当に初めて女を買って童貞を捨てにきたガキと同じじゃないか、と我ながらその情けなさに泣きたくなる。けれどちらりとでも下を見れば、銀髪の頭が自分の股間のところで動いているわけで、その視覚的刺激が想像力を引きずり出して、余計に腰にきてしまう。
 せめて、お約束のようにあっさりと達するのだけは回避したい、と気合いを入れては見るものの、正直すぎる下の自分は与えられる刺激に簡単にびくびくと震え、その度に暖かい彼の口の中に耐えきれなかった分をこぼしてしまっている。更にそこを、青年は舐めとって吸い上げてまでくれるから、ロウは必死で解放に向かおうとする自分を堪えた。
 そうして、どうにか波をやり過ごしてほっとして、うっかり下をみてなんかしまえば、口から引きずり出したソレを、青年が根本から先端に掛けて愛しげにさえ見える顔で舐めあげてくれているところだったものだから、もう押さえるどころじゃなくなってしまった。

「う、あ、ちょ、待て……」

 待てって何にだよ、と自分でつっこみを入れつつ、ぶるりと体を震わせて、ついでにソレも震わせて、ロウはあっさりと抵抗を放棄させられた。
 すっかり脱力してしまえば、青年は綺麗に吐き出したものを舐めとってくれて、その感覚にまでまた反応してしまってロウは困るしかない。

「うん、にーさん流石に若いなぁ、ちゃんとまだできそうだね」
「当たり前だ、これで終わったらここに来た意味がねー」
「その通りだね」

 笑って立ち上がった青年に、少し落ち着いたロウは悪態を返す。それでも青年は笑ったたままで、釈然としないロウは、今度は逆に青年の体を引き寄せた。

「悔しかったけど、すげー良かった。今度は俺の方がお返ししてやる」
「それは楽しみ」

 言ってロウは、引き寄せた青年の唇に自分の唇を押し当てる。青年はすぐに唇を薄く開いてロウを誘い、ロウはそれに応えて青年の口腔内へと舌を進入させる。慣れた男娼の舌はロウの舌に絡み付き、ぬるぬると互いの舌を擦り合わせて互いの快感を煽る。
 かぶりつくように顔を押し当てるロウの顔の輪郭をまるでなぞるように、なめらかな青年の手が滑っていき、そのまま首の後ろへと回される。
 そうして、その手が首の後ろにあった装備の留め金を外したことで、ロウの胸を覆っていた金属入りの皮の胸当てが外される。外で遊ぶ時は、騎士団での鎧まで着ず冒険者時代の簡易装備ですましている為、後はもう身につけているのは布製の服だけで、青年の手は、キスを続けながらもするするとそれらを脱がせていく。もちろん、ロウもまた、青年の少ない衣服を、だからこそゆっくりと脱がせていく。
 欲を絡ませるキスは続く。
 互いに露わになった胸を押しつけあいながら、ロウが青年をベッドの上に押し倒して、上から押さえつけるようにしながらも。
 ギシ、と安いベッドが軋み、胸だけでなく、下肢さえもすりあわせて二人は唇を貪り合う。けれどもやがて、ロウは顔を離すと、うっとりと妖艶な笑みを返す青年の額に軽くキスしてやって、それから彼の首筋に唇を押し当て、そのまま胸へ唾液の後を引いていく。いつしかまた首筋に回されていた青年の腕が、ロウを抱きしめるようにぎゅっと力が入る。

「ん、あん……」

 胸の敏感な箇所を触れれば、青年の甘い声が返る。
 その声と、力の入る彼の腕の感触がうれしくて、ロウは指で摘んで、唾液に濡れたままのそこをくにくにと指の中で転がして彼の反応をみる。それで甘い声を更にあげて背をしならせた彼をみて、ロウはもう片方の手を彼の下肢へともっていく。
 相手が男だから当然なのだが、そこには女性にはないわかりきったものがあって、けれども十分に頭が熱に支配されている今は、それに触れる事に嫌悪感は感じなかった。

「あ、やぁん」

 手で包み込んでやれば、青年は泣きそうな声をあげて腰を揺らす。それはロウの中の征服欲を刺激してくれて、彼をこれから抱くのだという気分を盛り上げてくれる。
 青年は与えられる快感に頭を揺らす。
 その銀髪の髪の毛が揺れる様に、一瞬シーグルの顔が重なりそうになって、ロウは急いで頭を振って青年のものを掴む手の動きを速くしてやった。
 やがて、青年はロウの手の中で達する。
 ならば、次はとうとう……と思ってごくりと喉を鳴らしたロウは、慎重に青年の足を開かせ、その中へ自分の体を割り込ませた。
 けれど。

「まって」

 青年がやんわりと、ロウの体を押しとどめた。
 ここまできてお預けはきついのだが、彼の優しい笑顔に気持ちが幾分かほぐれて、ロウは体を一度離した。

「これ使って慣らしてくれる?」

 差し出された小さな小瓶を受け取って、ロウは、思い出したように苦笑いする。

「あ、あぁ、確かにそうだったな」

 青年は首を軽く傾げ、またくすりと綺麗に笑う。

「僕が自分でやってもいいけど、貴方なら自分でやりたいでしょ?」

 なんだか見透かされているような青年の発言に、ロウは、ああ、と殊更表情を出さないように返事をした。そうしないと、また恥ずかしさに赤くなってしまいそうだったので。

「ただつっこみたいだけの客なら自分でさっさとやるんだけどね、にーさんの場合は予行練習なんでしょ?」

 平静を保とうとしていたロウも、その言葉には簡単にそれが失敗した。

「おい、あのおっさん、そんな事までいってあんのか?!」

 テスタの紹介であるから、ある程度の話――男相手は初めてとか――はいってあったのだろうとロウは思ってそれくらいは覚悟していた。だが、さらにそれ以上の余分な事を言われたのか、いったい事前に何を言われているのかと、ロウは顔をひきつらせて考え込んだ。
 けれどもやはり、青年はくすくすと綺麗に、可愛らしく笑うだけだった。

「うーん、特に事前には聞いてないけどね。でもにーさんさ、さっきからずっと僕の事誰かと重ねてたでしょ? にーさんの視線から察するにその人も銀髪、なのかな?」

 ロウは返事が出来なかった。
 こういう時に、別の人間の顔を思い浮かべるというのがどれほど失礼なのかとか、そんなに自分があからさまな態度だったのかとか、自分に対する恥ずかしさと相手に対する申し訳なさですぐ言葉がでなかった。
 だから、頭を落として、やっとの事ででた言葉は、ごめん、の一言だけで、けれども青年はそんなロウにさえ優しく笑ってくれた。

「ん、僕に悪いって思ったんなら許してあげる。でもね、そういう事も別に珍しくないからね、実はそこまで気にならないんだ」

 くすくすと笑いながら青年は、体を起きあがらせて、呆然としているロウの肩にしだれかかる。

「にーさんさ、入ってきた時からすごい緊張しててさ、でもいざ始めたらすごい情熱的なんだもん。そーゆーのは想い人がいるんだって分かっちゃうよ」

 ロウは、自分に寄りかかる青年の体を抱き寄せて、その銀色の髪の毛を撫ぜてやる。

「……ごめん、本当に――」

 青年の手が、すいと持ち上がってロウの晒された胸板をなでた。

「くやしいけどね、にーさん好みだから許してあげる。ふふ、やっぱりさすが騎士様だなぁ、へなちょこ冒険者と違って、若いのにちゃんと鍛えてるって体だよね。こういう体の人に抱きしめられるとすごい安心する」

 いいながらロウの肩に頬をすりよせてくる青年の顔は、やけに幼く見えた。
 彼はどんな境遇で、どんな経緯があってこんな仕事をしているんだろう、なんて事がふと頭をよぎって急いでそれを振り払う。こういうところにいる人間に余計な詮索をしないほうがいいというのは、今までの経験からの警告であり暗黙のルールだ。彼らに深入りするならそれだけの覚悟がいる。その覚悟もないのに余計な事を知ろうとしないほうがいい。
 だからロウは、寄りかかってくる青年の頭を自分の胸に更に押しつけ、出来るだけ優しく髪を撫でた。
 しばらくの間は、そうして互いに体温だけを感じて、こんな場所に不釣り合いな、やけに優しい時間を過ごす。
 けれども、唐突に青年は顔をあげると、無邪気な笑顔で片目を閉じて見せた。

「さって、いつまでもこーしてたら、プロとして失格だからね、にーさんやさしくしてくれたから、僕もいっぱいサービスしてあげる」

 その台詞の間に、青年の顔は無邪気な少年の笑顔から、怪しい情婦の艶のある笑みへと変わる。唇を濡らし、細めた瞳で見上げながら髪を掻き上げる様は、正直なところ、ロウの下半身にそれなりのダメージを与えてくれた。
 青年の手がロウの手に再び小瓶を持たせ、その中身を手のひらに落としていく。それから耳元で、小さく、ハヤクオネガイ、なんて言われたから、ロウは一気に鼓動と下半身が跳ね上がった。
 ごくり、と喉を慣らして。うっとりと目を閉じる青年の顔を見つめながら、手探りで濡れた手を彼の後孔にあてる。
 青年の眉がピクリと僅かに寄せられたのをみて、ロウの指がほんの少しだけ中へと入る。

「あん……」

 甘い声が漏れて、青年の腰が浮く。
 指を受け入れやすいようにしてくれた彼の動きに気づいて、ロウは思い切って指を少し深くまで埋め込んだ。

「んんっ」

 彼の中は熱く、狭く、予想はしていたがこんな狭いところに本当に入るのだろうかと不安になる。けれども、狭い中が柔らかく蠢き出し、指の動きに合わせて引き込むように包み込んでくると、これに自分のものが締め付けられるのかという実感だけで堪らない気分になる、興奮に喉が乾く。
 ほぐれるように柔らかく受け入れていく彼に合わせて、ロウは指を増やしていく。急く頭のまま彼を傷つけないように、手にあるぬめりを彼の中に押し込むようにする。
 そうすれば当然、指の動きに水音がまとわりつき、それがとんでもなく卑猥に聞こえて、ロウのほうも我慢がきかなくなってしまう。
 指に合わせてひっきりなしに甘い吐息を漏らしていた青年の手が、そんなロウにのばされる。
 それから、自分を見るようにロウの顔を手で向かせて、上気したその顔で切なげに喘ぎながら彼は言う、チョウダイ、と。
 それにはロウも、もう耐えることを放棄した。ぎりぎりまでは彼のことを気遣おうとは思っていたのに、もうそんな余裕もなくて、彼を押し倒し、その上に乗り上げて、昂ぶりすぎたそれを押し当てる。最後の押しのように、青年がロウの首筋に手を伸ばしてにこりとほほえんだので、ロウは思い切って腰に力を入れた。

「ん、あぁっん」

 掠れた、高い声が切なげに響く。
 さすがに女性のように押すだけでは入っていかないそれを手で支えて、ロウはそれでも可能な限り慎重に下肢を押しつけた。
 入りにくいのは最初だけ。途中までくれば、後はずるりと一息に中へとひきこまれ、ぴっちりと肉が肉に包み込まれる。

「あぁぁん」
「う、ぐぁ……」

 青年の喘ぎ声だけでなく、ロウもまた一気に訪れた強すぎる感覚に唸る。強い締め付けは、目の前が一瞬くらりとくるくらい予想外の衝撃だった。
 けれども、痛いくらいの強い締め付けは入り込んだ一瞬だけで、軽く揺らせば後は柔らかく包み込んできて、すぐに快感だけしか感じられなくなる。

「なんだ、これ……」

 ロウは夢中で腰を揺らす。
 柔らかく、まとわりつくような中は、突き上げる時の感覚は勿論だが、引く時の離すまいと引かれる感覚も強烈だった。それで偶に彼が喘ぎと共にまたきつく締め付けてくるのだから、そのたびにすぐに達してしまいそうで、ロウは歯を食いしばる。
 それでももう、限界は近い。
 後はもうがむしゃらに彼を突き上げ、最後の時を目指す事しかできない。

「や、あぁん、すごい、あぁっつ」

 銀髪の青年が大きく喘いで、思い切り背を反らす。
 そのちらと見えた横顔の青い瞳が涙に濡れているのを見て、ロウの中で最後まで耐えていたものが飛び散った。
 ロウはぎゅっと、青年を背中から抱きしめるようにして思い切り強く腰を打ちつける。

「あぁぁぁ……」

 強く叫びながら、青年の声が長く尾を引いて消えていく。びくびくと締め付けてくる中に、ロウもありったけの精をそそぎ込んで、二人してベッドに倒れ込んだ。
 そして、快感を残して、まだひくつく青年の中を楽しむように体全体を彼の背中にすり付けながら、ロウは彼の銀色の髪を張り付かせた首もとに顔を埋めて、声を出さずに唇だけで呟いた。

 シーグル、と。愛しい人の名を。




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ロウさん、翻弄されるの巻。
ちなみにクリュースの元の人種的に銀髪とか淡い金髪は結構多く、旧貴族はほぼどちらか。




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