神官と喧嘩と魔法と酒
フェゼントとシーグルの弟ラークがウィアの家にやってきたお話。





  【1】



 ウィアは面白くなかった。

 何が、と言われれば今、目の前で広がっているこの光景が。

「にーさんにーさん、俺隣座っていーい?」
「にーさんそれ届かないから取ってー」

 フェゼントの隣に、ぴったり椅子をくっつけて座る少年。
 少し食べる毎にフェゼントの顔を見上げ、彼に口元を拭かれたり、笑いかけてもらったりしながら、ウィアに話す暇さえ与えない。
 しかもそれが意図的だというのは、ウィアと目が合うと、その少年が途端に挑戦的に睨んでくる事で分かる。

「うーん、やっぱりにーさんの料理が一番だな〜。にーさんいなかったからレグリットさんが食事は持ってきてくれたんだけどさ、あっちは爺さん用だから味付け薄いんだよねー」
「そんな事を言ってはいけません、レグリットさんは好意で持ってきてくれたのでしょう? ちゃんとお礼は言いましたか?」
「そりゃ勿論。にーさんの顔に泥を塗るような事はしないよ、俺」
「なら良かった。私も帰ってからお礼をいわなくては」

 すっかり兄弟二人の仲むつまじい世界を作っている彼らを見て、ウィアは不機嫌に持っていたフォークをずぶりと魚に突き刺した。

 シーグルが去った二日後、屋敷に彼らの一番下の弟であるラークがやってきた。
 どうやらフェゼントがずっと帰ってこなくて気を揉んでいた彼は、シーグルを迎えにきたシルバスピナの使者からこの屋敷の場所を聞き、自力でやってきてしまったらしい。
 当然ながら、シーグルと同い歳のウィアにとっては年下な彼に、最初のうちはウィアだって可愛い弟くらいに思って寛大に見てはいた。兄二人と違って魔法使い見習いだという彼は、年齢の所為もあるだろうがフェゼント以上に小柄でひょろっこくて、体格的にこれだけ圧倒的有利な条件に立てる事がまずないウィアにとっては、それだけで可愛いじゃないかと思えたくらいだったのだ。
 だが、ラーク本人の方は最初からウィアを敵視していたようで、フェゼントの前では可愛い弟ぶる彼は、ウィアと目が合う度に敵と見なした挑戦的な視線を投げてくる。
 更に、ウィアが話し掛ける間もない程にフェゼントにべったりとくっついているのを見れば、ウィアが彼を敵視すべき相手と認識したとしても当然の事だった。

「フェズ、午後の事なんだけど――」
「にーさん、俺これ苦いから嫌いー、残したらだめかなぁ」
「ラーク、好き嫌いはだめだとあれ程……」

 どうにかフェゼントに話し掛ける隙を伺うのだが、相手に注意が最初から行っている状態では、ウィアは少々分が悪いと思わざる得ない。

「少しの間諦めたら? あっちの方がフェゼントさんの注意引く事には慣れてるみたいだし」

 何時も通り本を読みながら言ってくるヴィセントを、まるでラークの代わりというように、じとりとウィアが睨んだ。
 
「お子様に負けてられっかよ、俺は恋人だぞ、コ・イ・ビ・ト!」
「でもさー、ウィア。君だってテレイズさんが誰かといたとして、テレイズさんの注意をずっと自分にひきつけて置こうとしたら出来るでしょ?」
「俺はあいつにンな事しねーよ」
「でも、やろうと思えば出来るでしょ?」
「まぁ、そりゃぁ……」

 生まれた時からの付き合いではあるし、と思えば、成る程向こうもそういう事かと、今更ながらにウィアは納得する。
 とにかく、フェゼントの性格からして、弟を構ってはいてもウィアとの約束を忘れたりはしていないだろう、と思う事にして、ウィアは今は引き下がる事にした。
 フェゼントに対して言っておく事も、ラークについて聞ききたい事も、二人きりになってからゆっくり話し合えばいいのだ。と、恋人の余裕を浮かべて黙ったウィアではあったが、それからあまり時を経たずにそんな考えが何処かへ行く事になる。

 というのも。

「なんで、あんたと俺が仲良く歩かなくちゃならないんだよ」
「うるせぇガキ、そんなのこっちのセリフだ」

 ウィアは、午後からフェゼントと薬草を取りにいく約束をしていた。……のだが、何故か今、一緒に南の森に向かっているのは小憎らしい当の恋人の弟とであった。

「あー、折角フェズと二人っきりになれると思ってたのに」
「二人っきりになってどうする気だったんだよ、にーさんに何かしたら後で後悔する事になるよ?」
「あーうざいっ、お前の為だなんて分かってたら薬草取りにいこうなんて言わなかったよ!」

 言って、二人共に申し合わせたかのようにそっぽを向く。

 昼食が終わって片付けが終わったら、南の森へ一緒に薬草を取りに行く、というのが昨日の夜にウィアがベッドの中でフェゼントとした約束であった。フェゼントは勿論それを覚えてはいたのだが、間が悪い事に昼食後すぐ神殿からテレイズの使者が来て、テレイズがリシェに行っているから迎えに来て欲しいといわれたのだ。

 ――あのクソ兄貴、状況が見えてないとこにいる筈なのに邪魔するのかよ。

 テレイズからの頼み……もとい、命令となれば、こちら側には従う以外に選択肢はない。だからフェゼントが、迎えにいくからウィアとはいけない、という事自体は仕方なく納得する事にした。のだが、いけないなら事務局で仕事でもチェックしに行くか、と思っていたウィアは、フェゼントの提案には大いに抗議をしたくなった。

「あぁ、薬草を取りにいくのなら、ラークと一緒に行くのはどうでしょう? そうすればその間に、私もテレイズさんのところに行ってこれますし」

 元々、フェゼントが暇があれば薬草取りに出かけるのは弟であるラークの為、という事を考えれば確かに不自然な提案ではない、それ自体は。
 ただ、ウィアにとっては薬草取りなんかどうでもよくて、フェゼントと出かけたい為だけでした約束だったという事が問題なのだ。
 だから冗談ではないと抗議しようとしたウィアだったが、それより先に盛大にラークが文句を言い出して、それに頭に来たウィアは逆に思ったのだ、自分はこんなガキと違って大人なとこを見せてやろうじゃないか、と。
 ただ、それだけではなく、邪魔のいないところでラークと一対一ならば、思う存分お互いの本音で文句を言い合えると思ったというのもある。
 そう考えればいい機会かもしれない。

 と、そんな経緯があって嫌っている同士で森へやってきたのだが、互いの主張をハッキリ言い合う以前に、顔をマトモに合わす事さえしないで、ただ二人は森の中を歩いてきていた。

「あーぁ、本当なら今はフェズと仲良くいちゃいちゃしてる筈なのに」
「にーさんと仲良くリシェに帰ってる筈だったのになぁ」

 二人して、口を出るのは愚痴ばかりで、互いに話をしようという気はない。
 だが。

「フェズは当分帰らないって言ってたろー!」
「なんだよいちゃいちゃって!」

 ほぼ同時に相手の愚痴に文句を言う辺り、ある意味この二人は気が合うと言えなくもなかった。
 互いに睨み合い、諦めたように視線を外し、そして溜め息をつく。
 左右対称にそんな動作をしている二人は、外見でなく、その息の合い方が兄弟のようではあった。

 そもそも、ウィアは子供が嫌いだった。

 子供、というにはラークはウィアより3、4程下なだけなのだが、とにかく、自分が相手に我がままを言ったり甘えたりするのはいいのだが、他人にそういう事をされるのが嫌なのだ。それは単にウィア自身が子供なだけだ、というのは回りの人間が思っている事であるが、ウィアとしても自分より年下の者に接する機会が無かったというのもあって、仕方ないじゃないかと開き直っている。
 とは言っても、ウィアだって他人の関係者ならともかく、最愛の恋人の弟ならば多少は面倒を見て我がままも聞いてやろう、という思いはあるのだ、一応は。
 だがやっぱり、そんなものが簡単にふっとぶくらいには、ウィアは子供すぎて、ラークは可愛気がなさすぎた。

「そもそも、俺は認めてないからな……」

 小さく呟く声が、目を逸らしている相手から聞こえて、ウィアは顰めていた顔から更に口を曲げる。

「お前の了承なんか最初から必要ないね」

 顔を背けたままそう返したウィアに、ラークが服を掴んで引き寄せる。
 そうすると、いくらウィアが背が低いとはいえ年齢差もあってか、ラークが見上げる状態になって、ウィアは優越感ににんまりと笑った。

「なんだよ、男のくせに恋人だって? そりゃーにーさん美人で可愛くて優しくてちょっとトロくて料理上手で女の人みたいだけどさ、あれでもちゃんと男だからね、男のお前が恋人とかありえないだろ」

 直前までは喧嘩ごしだったウィアだったが、なんだか、弟から褒めてるのかけなしてるのか分からない、そんな言葉を言われるフェゼントが少し不憫に思えてきた。
 兄であるフェゼントにそういう事を言うくせに、ウィアに対してはちゃんと男と認識してくれている辺りが可笑しい。
 少し頭の熱が冷めてきたウィアは、そこで彼の台詞から、もしかしてと思いつく事があった。

「あー、もしかしてさ、お前って……」

 だが、言いかけた言葉はそこで止まる。
 ラークの背中越しに見えた影に、ウィアは声よりも先に体が動いていた。

「あんたなんか……うえっ」

 ラークに服を掴まれたままその服を掴み返し、ウィアは全力で彼の体を引っ張ると、傍の茂みの中へ倒れこんだ。
 直後に響く、どーんという地響きのような音。
 起き上がれば、ウィアがいた場所の後ろにあたる大木に、黒い大きな影がぶつかっている。

「ちょっと、なんだよ突然っ」

 怒ったラークも起き上がり、そしてウィアが指差す方を見て顔を引き攣らせた。

「あれ……何?」
「多分、イノシシだとは思うけど」

 ただし、大きさは大人の人間以上ある。
 体形がイノシシであるからその樽のような体形上、実際は質量的に人間の倍以上にあるのは間違いない。
 この森には危険生物まではいない――だがいない、といっても、一般的な森の動物くらいは普通にいる。
 ただ単に、そのイノシシが規格外の大きさだっただけだ。

 普通サイズのイノシシなら、危険な事は危険であるが、対処出来ないものではない。こうやって避けて木にぶつかってしまえば、大抵奴等は気を失って、暫く動けなくなるからだ。
 だがそいつは、気絶どころか体をぶるぶるっと震わせたと思うと、ぶつかった木から離れ、ゆっくりとウィア達に向き直った。

「ちょ、おい、早く逃げろっ」
「逃げろってどうするんだよっ、あれより早く走れるのかあんたっ」
「とりあえずそこの木登れ、木っ」

 わたわたとパニックに陥った二人は、慌てふためいて目の前にあった大木に登り出す。先程あのイノシシがぶつかった木よりも太いこれならば、とりあえず大丈夫だろうと思うくらいには、ウィアにも判断力は残っていたのだが。
 どーん、と。
 今度は地面でなく、自分達が捕まる木から直に衝撃を受けて、ウィアとラークは悲鳴を上げながらも木にしがみついた。
 衝撃が過ぎてから下の様子を見てみれば、確かに木自体は大丈夫であったが、相手は諦める気がないらしく、再び距離をとって助走をつけて木に挑みかかってこようとしている。

「おいっ、お前っ、確か魔法使い見習いだったよな、なんかぱぱっと火でも出してあいつ追い払えないのかよっ」

 続いて起きた二度目の衝撃に耐えながらウィアが叫べば、やはり必死にしがみついて顔を青くしているラークが叫ぶ。

「見習いじゃそんないろいろ術使えたりしないよっ。ただでさえ火は扱い難しいし、森でヘタに使ったら火事になるだろ、この考えなしっ」
「だーっ、んな理屈はいいから、なんか出来ないのかよっ」
「あんたこそちゃんとした準神官だろっ、何か出来る事ないのかよっ」
「あんなつっこむだけしか出来ない奴じゃ、目くらましだって大して効果ねーよ」

 どーんどーんと揺れる木の上で騒ぎ立てる二人だったが、未だ木は健在なものの、揺れ具合が流石に不味い。
 とにかく、このままではいつか木が折れそうと、何か対処をしなくてはと焦って、ウィアは助けを探して辺りを見回した。
 その時。

「ザー・デック・リー……」

 揺れる中、僅かに聞こえる呪文。
 見ればそれを言っているのは予想通りラークで、彼は真剣な面持ちで、杖を持って何かを唱えている。
 だからウィアは彼が何をするのかとその様子を凝視したが、彼の目の前に、木からひょいっと小さな小枝が伸びて、それに葉がつき蕾がつき、ついでに花をぽんっと咲かせるに至って、正気に戻ったように叫んだ。

「何遊んでるんだ、お前はーーー」

 そこでまた木が揺れて、ウィアは必死にしがみつく。周囲からはバラバラと葉や枝が落ちていき、しがみついた木からも微かにメキメキという音が聞こえた気がした。

「……ちょっと、調整が出来なかったんだよ、仕方ないだろ、こんな状態じゃちゃんと集中出来ないんだからっ」

 少し恥ずかしさに頬を染めながら、ラークが悔しそうに叫んで、また彼は呪文を唱えだす。
 木は益々激しく揺れ、しがみついているウィアの耳には、大木の奥の方からメキメキと恐ろしい音が今度は確実に聞こえた。
 もうだめだ、と思ったのが先だったか、しがみついている木の感触が変わったのが先だったのか。はっきりと聞こえてくるメキメキという音と共に違和感を感じたウィアは、目を開いて回りに目をやった。
 下を見れば、地面が遠くなっている。
 手元を見れば、しがみついている大木の幹が前より太い。
 つまりこれは、木が大きくなったのだろうか。
 となれば原因はラークの所為しかあり得ず、ウィアはまじまじと仕事が終わって少しほっとした顔をしている彼の顔を睨んだ。

「俺の使える術はたった一つ、植物を成長させるってやつだけ。とりあえずこの木の強度は上がったんじゃないかと思うけど」

 ふふんと、得意げに彼はウィアを見る。
 確かに成果が出ている事は認めない訳にはいかず、ウィアは少しだけ悔しそうにしながらも、彼を褒めざるを得なかった。

「お、おう、すげーな。これなら持ちそうだ」

 そこに再び、どーんとイノシシがぶつかってくる。
 確かに、幹が太くなった所為か、先程よりも振動はマシになっている気がして、ウィアはしがみつきながらも僅かに安堵した。
 だがそれでも、大イノシシはまだ諦めるつもりはないのか、また距離をとっては木に向けて突進してくる。しかも向こうも木が大きくなった事が分かったのか、どうやら先程よりも助走をつけて、もっと勢い良くぶつかってくる。
 一度はほっとしたものの、今度の揺れはまた少し強くなっている。

「おい、ガキ、もっと大きく出来ねーのか」

 言えばラークは少し嫌そうに唇を尖らせたものの、彼はまた杖を木に当てて呪文を唱えだした。
 メキメキと、折れる音ではなく成長の音がして、幹は太く、枝を伸ばし、木はぐんぐんと成長していく。

「お、おぉぉぉ、すごいな、これ」

 だが、それを期待を込めて見ていられたのは暫くの間。
 木はどんどん大きくなって……は、いたのだが、途中からその成長は止まり、心なしか木肌が濃く、表面が乾いてきている気がした。それが気の所為ではないと気付いたのは、振動が来ない間にも回りから葉がバラバラと落ちて、成長以外の音でギシギシと枝が鳴り出してからだった。

「おい、止めろ、やり過ぎってかこれおかしいぞ、おい、どうすんだこれっ」

 なによりも、足場にしている太い枝がピキピキと不気味すぎる音を出しているのが怖すぎた。

「あー……」

 明らかに失敗したという顔をして、ラークは頭を掻いて言う。

「うん、やり過ぎたかな。成長速度の分、養分が吸えないと枯れちゃうんだよね」
「冷静に言ってる場合じゃねーーー」

 と、ウィアが叫んだのとほぼ同時に、イノシシがぶつかってくる。
 どーんと、トドメともいうべき振動が幹から伝わって、その直後に木は破壊音を連鎖させて倒れだした。
 ウィアはそれでも木にしがみついたまま、目を瞑って運を天に任せようとした。だが、少年のカン高い悲鳴にハタと気がつくと、無我夢中でラークの体を抱き締め、やけくそのように叫んだ。

「神よ、光を盾に……!」

 術が発動出来たかなんて分からない。
 盾の術は敵の攻撃を一回だけ無効にするが、こういう場合にどれだけ効果があるかなど、ウィアだって分からない。
 後は来る衝撃が耐えられるものか、そうでないか。それこそ本当に運任せ。
 目を瞑ってラークを抱き締めて、落下特有の浮遊感を感じた、後。
 何か、まるで途轍もなく弾力のあるゴムにぶつかったような感触がして、ウィア達は地面から弾かれ、倒木から少し離れた位置に落ちた。

「いて……て、て、生きてる、よな」

 体は痛いが、起き上がれない程ではない。
 五体満足な事を驚くように実感して、ウィアはどうにか起き上がる。
 弾かれた衝撃で手を離してしまったが、傍に倒れていたラークも起き上がろうとしているのがウィアには見えた。
 どうやら呪文は利いたらしい、と、ほっとしたのも束の間、まだ彼らには根本的な脅威が残っていた。
 殺気を感じたウィアが急いでその場から飛びずさり、黒い巨体は間一髪でウィアとすれ違う。

「あぁもうっ、いい加減しつこいぞ、てめぇっ」

 思わず叫んでしまったのは、これからどうやって逃げるか思いつかないからだ。
 だが、先程まで、突進したイノシシが止まるといえば木にぶつかっていたのだが、どうやら今度は藪のようなところに突っ込んだらしく、それが絡まってうまく身動きが取れないでいるらしい。
 思わずウィアがその幸運に笑顔を浮かべると、背後からイノシシのいる藪に突進していく影が一つ。
 またイノシシか、とウィアが思って反射的に身構えるものの、それはウィアよりも小さいラークの姿だった。

「おい、このガキ、今のうちに逃げるぞっ」

 ウィアが急いでラークを追いかけようとすると、彼は杖を高く掲げ、呪文と共にイノシシを絡め取っている藪に向かって振り下ろした。
 途端、ざざあっと、一斉にヘビが蠢くような音がして、藪がものすごいスピードで膨れ上がっていく。トゲがある蔦のような植物で出来た藪は、まるでトゲの鎖のように、暴れるイノシシに絡まりつき、あの大きな体を地面から持ち上げてその中に閉じ込める。

「う、っわー。こりゃすげーや」

 どこか間が抜けた声でウィアが呟いて、今度こそ安堵に気が抜けてその場にしゃがみ込む。
 肩で息をしていたラークが、やはり彼も気が抜けたのか、ふにゃりと足の力が無くなったようにその場に座り込んだ。それから、くるりと振り向いてこちらを見た彼に、ウィアは親指を上げてウィンクをした。
 ラークはそれに少し面食らったように驚いたものの、彼もまた笑顔を浮かべると、ウィアに返すように親指を立てた。
 ウィアはそれでさらに笑って体の様子を確かめながら立ち上がると、ラークの元に行き、その手を差し出す。ラークはじっとその手を見て、それから思い切ったように顔を上げるとウィアに言った。

「あ、あのさっ……庇ってくれて、ありがとう」

 ウィアははにんまりとまた笑う。

「なぁに、結果的にはアレ捕まえたのはお前の手柄だよ」

 ラークも照れたように笑って、差し出されたウィアの手をしっかりと握った。


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区切りいいとこなかったせいで初っ端から長い……。

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