神官が運ぶは優しき願い

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【5】




 最初は軽い、お互いを確かめる為のキス。
 それはやがて深くなり、欲望の為のキスになる。
 舌同士を相手の口内へ突き出して、その唾液を舐め取る。互いに、相手が欲しいのだと伝える為に、粘膜の交わりでこの先の行為を促す。
 何度目かのキスの後顔を離せば、互いに唾液に塗れた唇を淫らに光らせ、唇の端からは零れた液体の跡が見えた。

「フェズ、大好きだ」
「ウィア、大好きです」

 言い合って、二人同時にクスリと笑みを漏らす。
 けれども二人共に笑顔が消えると、今度は触れるだけの柔らかな口付けをして、そっと唇を離すと同時にフェゼントが呟いた。

「ありがとう、ウィア」

 それに少しだけウィアが驚く。

 その、隙に。

 フェゼントがにこりと、少々含みのありそうな笑顔を浮かべると、唐突にウィアの股間へ顔を下ろしていった。

「フ、フフフ、フェズ??」

 焦ってウィアがパニクっていれば、フェゼントの手がウィアのズボンを緩めて、素早くその中で熱を持っているモノを取り出した。

「わー、ちょ、ちょっと待った、……んっ」

 ウィアの抗議を無視して、フェゼントはそれを口の中に含む。
 途端、敏感なものが暖かい濡れた感触を伝えて、ウィアは思わず息を飲んだ。
 ウィアの手がフェゼントの頭を押さえようとするものの、その手には力が入らず、止める為の役にはたたない。フェゼントは口の中でウィアの欲望に唾液を絡めた後、口から出して、先端をチロチロと舌で舐めながら、丁寧に指で周囲を擦っている。

「フェズ……やめ……んっあぁ……」

 フェゼントが上手いのか、それとも何故かウィアが必要以上に感じてしまっているだけなのか、下半身が小刻みに震え、力が入らなくなってくる。
 水音がする程口に含んで激しく唇で扱かれれば、ウィアも立っている場合ではなく、自然と腰が折れてしまう。

「俺はいいから……さぁ、ぅあっ、んんっ……」

 涙声で訴えれば、すぐに強く擦られて、ウィアの口から喘ぎが漏れる。
 そうなればもう、目を閉じて感覚におぼれる事しか出来なくて、フェゼントが弄る動きに合わせてウィアは熱い息を漏らす事しか出来ない。

「くっ……うぅん」

 鼻で甘ったるい声を上げて、ウィアはとうとうフェゼントの口の中で達する。
 そうすればそれをこくりとフェゼントが嚥下して、ウィアの顔はされている最中以上に真っ赤に染まる。

「フェーズー……」

 抗議するように彼の頭を見下ろせば、顔を上げたフェゼントがまたにこりと笑顔を浮かべた。

「お返しするっていいましたからね」

 そこでウィアは思い出した。
 寝起きで状況のわからないフェゼントに、だまし討ちのように口でやってしまった事を。
 身に覚えがある分、顔を顰めてウィアは拗ねたように唇を尖らすと、それを見たフェゼントがまた笑う。

「俺はぁ、フェズが好きだから、フェズに気持ち良くなってもらいたかったんだよ」
「私も、ウィアが好きだから、ウィアに気持ち良くなって貰いたいです」

 言い返された言葉に文句を言える訳もなく、ウィアは顔を真っ赤にしたまま視線を逸らした。

「ウィア、大好きですよ」

 そっぽを向いているウィアの頬に、ちゅ、と軽くキスすると、フェゼントはウィアの背に腕を回して引き寄せた。

「フェズ?」

 一瞬、何が起こるのかとウィアが驚けば、やけに真剣な彼の顔を見て、何をしようとしているのか、というよりも、何をしたいのかが分かった。
 片腕をウィアの背に、もう片腕をウィアの膝裏に、そうして持ち上げようとしているのだ、彼は。
 つまり、いわゆるお姫様だっこをしたいのだとウィアは理解する。
 試しにその腕に体重を預けてみれば、一応持ち上げてはくれたのだが、その後歩くのがどうにも危なっかしい。落としそうとまでは言わないが相当に大変そうで、ウィアの方がハラハラする上に申し訳ない気持ちになる。だから、それでもがんばろうとするフェゼントに、思わずウィアは言ってしまった。

「あのさ、無理、しなくていいと思うぞ。俺太ってはいないけど、同じくらいの体格の相手持ち上げるのって結構大変だし」

 ――しかも男だし。
 同じくらいの体格なら、女性より男の方が大抵重い。

「……すいません」

 諦めたフェゼントがぼそりと呟く。
 それを可愛いと思ってしまうが、口に出したら多分彼に追い討ちをかけるだろう。
 下ろされたウィアはフェゼントの手を取ると、ベッドへと引っ張っていく。
 そうして自らベッドの上に乗り上げると、にこりと笑ってフェゼントに手を伸ばした。

「続きしようぜ、フェズ」

 フェゼントは複雑そうな表情をしながらも、諦めて静かにベッドに上がる。

「ウィアなら持ち上げられると思ったんですけど……」

 寂しそうにそう呟く彼には、ウィアも笑いを抑える事が出来ない。

「いやあれ結構大変だぞー。体格差が結構あるか、持ち上げる側が力自慢とかじゃないとカッコつかないんじゃないかなぁ」

 そういっても、まだ、フェゼントは未練があるらしい。

「貴方が神官なら、こちらは騎士として、そのくらいの力はないと格好つかないじゃないですか……」

 確かに、一般的に騎士にまでなっている者なら、それくらい楽々出来そうなイメージはある。……あるのだが、フェゼントの体格を見れば厳しそうに見えるのも確かだ。
 ウィアは懸命にフォローの言葉を探す。

「いやほら、俺ら男同士だし、そういうのが絵になっちゃうのもどうかと思うし」

 そこで唐突に、シーグルを当然のように抱え上げていた黒い騎士を思い出したが、あれはどうみても例外だとウィアは顔を引き攣らせる。確かに今思えばすごく絵になっていたが、あの男は化け物なので、それを基準にしたらフェゼントが可哀相だろう。

「でも、その、やはり憧れるじゃないですか」
「まぁなぁ……」

 ウィアとしては、それには同意出来る分、苦笑いをするしか出来ない。
 出来るのならウィアの方が、フェゼントを格好良く抱き上げてみたいと思うくらいだ。

「でも俺、そういうのが出来ないとこも含めてフェズが好きだからいいんだよっ」

 今度はフェゼントが顔を赤くする。
 けれどすぐに彼は笑うと、ウィアの耳元にキスをして、その僧衣に手を掛ける。

「続き、する気になったか?」
「そうですね、拘るのはもう少し鍛えてからにします」

 そこでちょっと、もっとごっつくなったフェゼントを想像して、ウィアは少し顔を引き攣らせたりしたのだが。

「……俺としてはそのままの方がいいんだけどなぁ」

 呟きには返事が返らず、ウィアを押し倒しながらも、肌蹴た胸にフェゼントの唇が吸い付いてくる。
 更に、フェゼントの手が再びウィアの性器に触れてきたのを感じて、ウィアは焦る。

「もういいよ、フェズー」

 これ以上自分ばかりがされるのは、さすがに止めて欲しかった。
 けれどもフェゼントは無視をして、ウィアのものを手で擦り上げる。にちゃにちゃと粘着質な音まで聞こえてくれば、ウィアは熱い息を吐きながらも恥ずかしくて仕方ない。
 彼の容姿とは合わない、剣を持つ者特有の皮膚の硬い手が、やさしく全体を絞るように扱き、先端の蜜を零す部分を拭きとるように指で擦る。意地で我慢はするものの、体が曲がっていくのを止められなかった。
 けれど突然に、フェゼントはウィアのものから手を離す。
 ほっとすると同時に上がってきた熱の居場所がなくなって、ウィアは戸惑ってフェゼントを見下ろそうとしたが、その前に後孔に濡れた感触を感じて目を閉じた。

「んっ……あぁっ」

 ずる、とぬめりを借りて、奥にまでフェゼントの指が突き入れられる。
 すぐに指は増やされて、二本の指がウィアの体の中を突き上げてくる。

「あ、フェズ、やめ……」

 そうしながらも、フェゼントの舌はウィアの胸のぷくりと尖っている頂きを執拗に舐めてきて、じわじわと燻るように上がってくる快感に身を捩るしか出来ない。
 片足は大きく広げて押さえられ、快感に腰を揺らめかして喘ぐウィアは、我ながらそんな自分が恥ずかしくてたまらなかった。

「はぁ、あっ、だめ、フェズー」

 鼻に掛かった声で懇願して、ウィアは胸を舐めるフェゼントの頭を抱き締める。

「お願い、だからっ、もう挿れてくれって……」

 そこまで言えば、やっとフェゼントは顔を上げた。
 悔しさと恥ずかしさでウィアは顔を赤くしていたが、入れられる前にこちらだけ2回もイカされるのはどうしても嫌だった。
 優しい微笑みを浮かべるフェゼントが、心なしか、してやったりという顔に見えるのはウィアの偏見だろうとは思うのだが、今日の彼はどうにも意地が悪い気がしてならなかった。

「では、挿れますね、ウィア」

 額に軽くキスをして、フェゼントはウィアの両足を持ち上げる。
 ウィアは目を閉じて衝撃に備える。

「う、く……」

 まずは指が中を広げるように動き、それに添えられるようにして、もっと体温の高いものが入ってくる。
 一度中への進入を始めるとそれは、ぬめりの所為か思ったよりは楽に中へと入ってくる。ウィアも当然出来るだけ楽に受け入れる為に呼吸を合わせてそこへ意識を集中させたのだが、そうすれば余計に中の異物感を強く感じるのは仕方ない。
 入れただけは、苦しい。
 ただ押し広げられているだけで、まだ快感を殆ど生まない。
 だから早くそれが快感になって欲しくて、ウィアは体を倒してきたフェゼントに抱きつきながら頼むのだ。

「フェズ、動いて」
「はい」

 優しい声は、それでも熱が混じっている。
 軽いキスを唇と耳元に落とされ、フェゼントの体が少しだけ離れる。

「あ、あぅっ」

 すぐに視界が揺れて、内の質量が動き始める。
 中の媚肉を引きずられるように抜かれて、勢いをつけてまた奥を埋められる。
 繰り返される動きが内壁を擦り、徐々に疼くような快感を生んでいく。

「あ、あん、フェズぅ」

 生まれた快感を意識して追って、それに飲まれようとウィアも腰を揺らす。実際に飲まれてしまえば恥ずかしさなど感じずに済むので、出来るだけ早く溺れてしまいたかった。
 フェゼントもあまり余裕がないのか、再び彼の体が降りてきて、動きながら彼は焦るように唇を合わせてくる。揺れるままに歯が当たったりもするけれど、ウィアも夢中で彼を求めて唇を深く重ねた。下肢の疼きは切ない快感となってウィアの腰を揺らめかせ、二人の体の間でウィアの欲望も擦られていく。
 唇の合間から唾液が漏れ、口元からたらりと首の近くまで落ちていく。
 互いに唇を求めている所為で、くぐもった喉から鼻に抜ける声だけが、甘ったるく水音と一緒に響く。
 たくさん彼を感じたくて、たくさん気持ち良くなりたくて、ウィアはフェゼントに抱きついて深く彼と繋がりたがる。
 動きは速さを増し、擦られる内部は感じすぎてひくひくと震えている。

「あ、はぁ……フェズ、フェズ……」

 あまりにも激しい動きに唇は外れ、喘ぎと相手の名しか言えなくなったウィアは、フェゼントの首にすがりついて、泣きそうな声で叫んだ。
 やがて、体の奥に叩きつけられる熱さを感じ、ウィアは悲鳴をあげて自身も果てる。
 それでもフェゼントはまだウィアの内部を味わうように揺らし、ウィアは脱力した体を時折びくりと跳ねさせた。

「大好きです、ウィア、ありがとう」

 震える声が聞こえて、ウィアは抱き締められる。

「うん、俺も」

 満足そうにウィアはそう返して、すっかり力の抜けた体で、それでもフェゼントを抱き締め返した。
 宥めるように頭を撫ぜられ、それもとても気持ちが良かった。
 けれど、僅かに中でとくりと熱を取り戻した彼を感じたのに、それを抜いて体を離そうとフェゼントがしたから、ウィアはその彼の腕を掴んだ。

「ウィア?」
「まだやりたいなら、もう一回やろうぜ、フェズ」

 言えばフェゼントは顔を少しだけ赤くして下を向く。

「……いえその……ちょっと、今日は私もやりすぎたと思いましたし、ウィアもかなりぐったりしていましたし……」

 言うフェゼントの顔を無理矢理上げさせて、ウィアはその唇に噛み付くくらいのキスをした。
 驚くものの、やはり応えて求めてくれるフェゼント。
 ゆっくりと互いの舌を絡ませて求め合い、ウィアは静かに離すとじっとフェゼントの顔を見つめた。

「遠慮するなよ、フェズ。そりゃー、底なし体力って感じで延々やられるのはゴメンだけど、2回目くらいで遠慮される程やわくないからな」

 ウィアがいえば、フェゼント困ったような笑みを浮かべる。

「ウィ……」

 けれど、フェゼントが名を呼んで抱き締めてこようとしたのを、ウィアは彼の目の前に指をぴんと一本立てて止めた。
 そして、ウィンクする。

「でも、ちょっと今日は俺ばっかりやられっぱなしな気がして癪だから、二回目は俺がフェゼントを感じさせるほうな」
「ウ、ウィア??」

 驚くフェゼントに、ウィアは嬉しそうに体を起こすと、逆に彼を押し倒す。

「だいじょーぶ、ちゃんと俺が立場は下やるよ。でも位置は今度は俺が上なっ♪」
「ウィアー」

 本気で焦るフェゼントに、ウィアは唇をペロリと舐めると倒れたままの彼の上に乗り上げるように座りこんだ。

「ウィア、どういう事です?」

 これから何が起こるのか分からず不安そうにするフェゼントの耳元に、ちゅ、とキスをする。それから体を起き上がらせて、再び熱さを取り戻しつつあった彼の欲望を手で包んだ。

「ウィア、やめっ……」
「だーめ。挿れられるのは俺でも、主導権は取りたいもんな」

 手の中のものを何度か扱いて、すっかり硬くなったものを見てにっこりと笑う。
 そして、その体勢のまま腰を浮かせると、ウィアは自らフェゼントを自分の中へ導いた。

「今度は俺が、フェゼントをイカせてやるからな」

 自ら腰を下ろす事で、フェゼントのものを飲み込んでいくウィア。
 フェゼントは目を瞑って感覚を耐えようとしていて、ウィアは苦しいながらも笑顔でそんな彼の顔を見ていた。

「は……っ」

 それでもやはり、入ってくる瞬間はなんとも言えない異物感に息を飲む。
 奥まで入れてしまえば、自分の中でとくとくと脈打つ相手を感じられて、こちらが締め付ければすぐに反応するところとか、これも悪くないかもと思ってしまう。

「フェーズー気持ちいい? もーっと良くしてあげるからなー」

 彼の胸に手を置いて、腰を浮かせ、また降ろす。
 この体勢だとフェゼントが快感に震える顔がよく見えて、ウィアはにんまりと笑みを浮かべた。
 浮かせて、下ろして、何度も繰り返して。
 ゆっくりと動いているから、湧き上がる感覚もそれ程強烈なものではない。
 けれどもフェゼントの方はそうでもないようで、直接性器を締め付けられている彼は、自分でその動きが制御出来ない所為か、そんなゆるい動きでも歯を食いしばって切なげに眉を寄せている。腰を下ろす度に苦しげにくっと顎を上げる様は、とても色っぽくて、ウィアを益々興奮させる。
 実際の立場はウィアが女役ではあるのだが、この位置だとウィアの方が彼を抱いているような気分になれて嬉しい。
 快感に耐えるフェゼントをじっくりと見ながらゆっくり動いて、それからウィアは、今度は自分の方が彼に宥めるように軽いキスをしてやってから、目があった彼に、に、と笑って見せた。

「フェズも動いていいんだぜ?」

 そうして先程とは違い、激しく腰を動かす。
 さすがのウィアもそうなれば相手をじっくり見る余裕もなく、上がってくる自分の感覚で一杯一杯になる。
 言われた通り、今はフェゼントからも突き上げてきている為、ぐんと奥を抉られる衝撃が強すぎて意識を持っていかれそうだった。

「あ、はぁ、うん、ああぁ」

 喘ぐ声は自分だけではなく、フェゼントからも聞こえる。
 どちらの声かはわからないけれど、肉と肉がぶつかる音に混じって吐息のような喘ぎが耳を満たしていく。
 ウィアも自分で自分がどう動いているのか途中から分からなくなるくらい、ただ夢中で感覚を追った。快感だけを追って腰だけを動かして、けれども途中からはウィアも自分で動いている余裕がなくなっていたのかもしれなかった。
 体の中にフェゼントの吐き出したものが叩きつけられたのが先だったのか、それとも自分が先に出したのか、快感に意識を完全に飲まれていたウィアには分からなかった。ただ、終わった後にはぐったりと二人して動ける状態ではなく、抱き合いながら何度も軽いキスを交わしていた。
 それからすぐに疲れと睡魔に襲われて、ウィアはフェゼントの隣にぴったりと体をくっつけて横になると眠ってしまった。
 なぜだか、手を握ったままで。

 笑顔で眠るウィアを見て、フェゼントもすぐに意識を手放した。



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この二人のHは、攻受逆じゃ?っていうところを書くのが楽しみ……かもしれない。


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