剣は愛を語れず
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。





  【7】



 その声がエルマの声だと理解するのに、覚醒はしていても意識が虚ろなシーグルは少し時間がかかった。
 だが、分かった途端、シーグルの半開き程だった瞼が開き、声に視線を向ける。
 魔女は頬を上気させ、自らも欲情した顔を曝して、シーグルに向かって近づいてくる。

「ねぇ、分かってる? 私の暗示はそんなに強いものじゃないの。強い衝撃があれば簡単にふっとんじゃうのよ」

 シーグルの表情が強張る。
 エルマは大きく目を開いて、唇を釣り上げてゆっくりと告げる。

「あの仕事の時に私の暗示で襲ってきた連中なんて、リパの光の術で簡単に解けちゃってたじゃない、今さっき貴方に掛けた暗示なんて、つっこまれたか、最初にイった時で既に解けちゃってたのよ、その意味が分かる?」

 青い瞳が大きく開かれて、魔女の顔を映す。
 快楽に染まって上気していた顔からは一瞬で血の気が失せ、唇が小刻みに震え出す。
 その先の言葉が分かるからこそ、シーグルはその答えを聞きたくなかった。

「いーい、つまりね、貴方は自分から喜んで腰振って喘いでいた訳。嬉しそうに男銜えてアンアン鳴いてたのよ、とっても素敵だったわ」

 嘘だ、と小さく呟いても、それが声にまではならない。
 否定したくても、直感的に、それが嘘ではない事をシーグルは理解してしまっていた。……そもそも今、こうして彼女の言葉を聞いて理解出来る段階で、彼女の言う通りに暗示は解けているのだから。
 エルマはしゃがみこみ、その声と瞳が更に近くなる。

「ねぇ、気づかなかった? 最初はなーんにも考えられなかった筈なのに、途中から意識が戻ってきてなかったかしら? ちゃんと周りが見えて来たんじゃないかしら?」

 そうだ、何時から自分はこうしてマトモな意識があったのだろう。
 考えれば、記憶があやふやなのは最初だけで、途中からは自分が何をしていたのかはっきり思い出す事が出来た。男達の言い成りになって、大声で喘いだ事さえ覚えている。
 言葉さえ返す事も出来ずに、突きつけられた現実と自分の中で何かが崩れて行く音に、シーグルの体が震える。
 エルマの、神経をささくれ立たせるような笑い声がシーグルの耳に響いた。

「本当に素敵な姿だったわ。その綺麗な顔をとっても気持ち良さそうにうっとりさせて、嬉しそうに腰振ってしゃぶって、素敵な淫乱ぶりだったわよ」

 もうシーグルは声を出す事も出来ない。
 ただ、彼女の顔を大きな瞳で見つめたまま、体の震えだけが益々酷さを増していた。
 エルマは親指と人差し指でつまんだ石を、シーグルに見せつけるように前に突き出す。

「ほら、これにも貴方のいい声が取れたから、脅迫材料としては十分よね。あぁでも、そこの連中はまだまだ足りないらしいし、待ってる男もたくさんいるの、だからもう少しつき合ってあげてね。大丈夫、ちゃんとリパの神官もいるらしいから、多少無茶されても体は治してくれるわよ。だから安心して、好きなだけ男を銜えこむといいわ」

 シーグルは彼女の持つ石へと手を伸ばす。
 彼女は声を上げて笑いながら立ち上がる。
 シーグルの視界の中で彼女が背を向ける、ヴィド卿の元へと歩いて行くその姿が離れて行く。
 ヴィド卿の瞳が、同情するようにシーグルを見下ろし、だがその口元が笑みに歪んだ。
 自分でも何をしているのか頭で考える事もなく、まるで彼女を追おうとでもするかのように手を伸ばしたまま、シーグルは床を這いずりながら起き上がろうとする。
 だが。

「ほーら、坊や、まだお仕事は終わってないぜ」

 男達の手が行く手を阻む。
 シーグルの白い身体に何本もの手が伸びて、引き寄せられる。

「い……や、嫌、嫌だっ」

 床に指を立てれば、身体を引かれて爪が絨毯を引っ掻き、絨毯の毛を立たせて爪跡が線を描いて行く。
 数人の男の手が体のいたる部分を掴み、撫でる。
 力の入らない腕でその手達を払い退けようとしても、ただ男達の笑い声が浴びせられるだけだった。

「離せっ、やめろぉっ、嫌だっあああっ」

 最後の力を振り絞って暴れても、男達にはそれは抵抗しているとさえ映らない。
 見開かれた瞳の中に戻っていた彼の意志は、絶望に昏く侵食されて行く。
 腕を掴まれ、足を掴まれ、足を開いたまま中途半端に起き上がらせるような不安定な格好で腰を引かれる。
 そうして、もう解れ切って喜んで男を受け入れる後孔に、また、何者かの欲の肉塊が突き入れられる。

「やぁああっ、嫌だぁぁあああっ」

 青い瞳を見開いたまま、シーグルはただ叫ぶ。
 男達の笑い声と荒い息だけがそれに返されて、男が腰を動かしだすのと同時に、他の手達によって、座っている男の上に座って受け入れているような体勢にさせられる。
 男達の目の前に、突き上げられながらその体を開かれて曝すような格好。
 欲に塗れた男達の視線を体中に感じながら、シーグルは悲鳴のような喘ぎ声を上げる。

「やぁっ、嫌っ、あっ、あぁっ、嫌、嫌、嫌だぁっ」

 だが、伸びて来た誰かの手が胸の尖りを摘み上げ、性器に絡みつき、更には口が誰かのモノで塞がれると、その悲鳴もくぐもって音を無くす。
 後にはただ、肉と肉がぶつかって、溢れる液体が鳴らす音だけが、シーグルの体の中を満たして行く。
 例え耳を塞げたとしてもどうしようもない、男達の肉で貫かれ、受け入れた粘膜が立てる水音だけが延々と体の中に響いている。
 急激に瞳から光が消えて行こうとするシーグルの耳元で、誰かが囁いた。

「……なぁ、お前さん、さんざん喜んで男銜えて腰振った後じゃねぇか、今更嫌はねーだろよ。いいか、お前はこうされるのが好きなんだよ、男に突っ込まれて喜ぶ男娼なんだよ、今更否定出来ないだろ? 諦めて楽しんどきな」

 シーグルの瞳から、涙が落ちた。
 そして、その瞳から完全に意志の光が消える。

 下から上から、シーグルの体に男の体液が注ぎこまれて行く。
 抵抗をしない体は、すぐにまた新しい男の欲望を満たす為に開かれ、貫かれる。
 何度も、何度も。
 兵士達は、代わる代わるシーグルに己の欲望を押し付けた。
 男達の中で、白い体は揺れて、うねり、深い青の瞳から彼の強い意志が消えた顔は、何処か幼さを感じさせ、男達の嗜虐心を更に煽った。
 虚ろな青い瞳はガラス玉のようにただ綺麗なだけで生気を持たず、声さえもが幼くなった口調で、うわ言のように同じ言葉を繰りかえす。

「は、あ……や、ぁ。嫌だ、ぁ……いや、だぁ……」

 か細い声は、だがもう陵辱者達の笑い声と醜い唸り声にかき消されて殆ど聞こえない。
 後は、ただ只管、獣のような交わりの音だけが部屋の中を満たしているだけだった。


 部屋の扉が閉まる音が廊下に響く。
 もう見ている事もないと、ヴィド卿が部屋から出て来た音だった。
 外に出て、扉の傍を守る二人の兵士の顔を見ると、彼は皮肉げな笑みを浮かべる。
 平静を繕ってはいるものの、興奮に頬を染め、つい今さっきまで扉の中に聞き耳を立てていたと思われる男達に、彼は言う。

「お前達も混ざりたいなら、後で中の誰かと交代しろ。殺さなければ多少の無茶はしてもいいが、治癒で跡も残らないように綺麗に治せる範囲だぞ。終ったら何時も通り、クラシコに渡しておけ……あぁ、流石に陽が暮れる前には止めるようにも言っておけよ」

 兵士達は明らかに口元に笑みを浮かべて、ヴィド卿に了承の礼をする。
 ヴィド卿は大きく溜め息を付くと、長い廊下を歩きだした。
 ぶつぶつと、言葉では運のないあの青年を憐れみながらも、計画を変更せざる得なくなった状況に悪態をついて。
 部屋の中では、未だ終る事のない、男達が贄をただ貪る宴が続いていた。




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出来るだけ酷いエロ、を目指してみました。
今まででシーグルにとって最悪の状態、に見えればいいのですが……。



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