世界の鼓動と心の希望

※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。



  【4】



 広いアッシセグ領主の家、その客間である部屋のベッドは広い。港街という特性上、この一帯の玄関口として、遠い場所からきた身分の高い者用に用意されたろうそれは、成人した男二人でいても狭さを感じる事もない。
 天蓋付きの豪華とも言えるベッド上で、闇に溶ける髪を持つ、僅かに濃い肌の男が、月光のなか白く浮かぶ裸体に覆いかぶさる。

「ン……」

 短い吐息が静かな部屋に漏れて、上にいる男が頭を僅かに動かす。
 顔の角度を変えて合わせてくるセイネリアの唇を、シーグルは自ら口を開いて受け止めた。
 月明かりだけの闇の中、上にいる大きな影は、シーグルの体全体を覆い尽くすように体を重ねてきている。
 肌に相手の肌の温度を感じる。僅かに汗ばむしっとりとした感触を感じる。確かな重みと鼻に抜ける匂いに、この影が確かにセイネリア・クロッセスであるという事を実感する。
 唇はずっと合わせられたまま、彼の手は体をなぞり、こちらの熱を引きずりだそうとしてくる。大きく、力強い手が驚く程繊細な動きで体の線をなぞるように撫で、時折、感覚の強い場所から少しだけ外した部分に強い刺激を与えてくる。
 その度にシーグルは、もどかし気に足を揺らし、甘い吐息を漏らす事になった。

「あ、……や、め」

 大人しくされるがままになっていても、それでもセイネリアの手がシーグルの足の間、欲に膨らむ雄を掴めば、反射的に拒絶を返しそうになる。離れてもすぐに合わせ直してくる彼の唇にまた口を塞がれる瞬間、僅かに彼が笑みを浮かべている事を気配で知る。
 武器を数えきれない程振り続けた者特有の、何度もマメをつぶしたろう固い皮に覆われた掌が、それでもやさしくシーグルの性器に絡みついてくる。硬い皮のごつごつとした感触が、柔らかい性器を撫でるように擦りあげて、じわじわと熱を引きずりだそうとする。けれど、その優しい快感に身を委ねそうになれば、ふい打ちのように、突然彼の指が一番感覚の強い先端部分を強く擦ってくる。

「あっ……うぁっ」

 それにびくんと反応するように膝が上がり、無理矢理顔を外した唇から悲鳴に近い声が上がる。思わずシーツを固く握り締めて、腰が少し曲がってしまえば、彼の口元が耳元に来て囁いた。

「随分体は素直になったものだな」

 と同時に、下肢からくちゅりと水音が聞こえる。セイネリアの手はただこちらの性器を扱いて動いているだけだから、自分のものが既に零しているのだろうというのをシーグルは理解する。

「は、ぁ……く……ぅ」

 セイネリアの手の動きが今度は速くなる。
 激しく扱かれるのを感触と水音で感じて、腰が逃げるように曲がる。足は両膝とも上がっているから、足先で踏みにじるようにシーツを乱す。

「く……んっ」

 それでも、意識を完全に快感に沈ませる事には抵抗があって、シーグルはきつく唇を引き結んで競りあがる感覚に耐えた。
 それに、また、彼が笑う気配が返る。

「中身が素直ではないのはそのままか」

 ただしその言葉は、懸命に今感覚を耐えているシーグルが聞き取る余裕は殆どなかった。だが言った直後、セイネリアが手を止める。その所為でシーグルは、耐える為にきつく瞑っていた目をゆっくりと開く事になった。
 セイネリアが、また、気配だけで笑う。だが、笑ったというには、シーグルには彼の瞳は悲しそうに見えた。

「そんな顔をしていても、俺が欲しいとは、お前は言ってくれないんだろうな」

 どういう意味なのか、その言葉を正しく理解できる程思考が回復する前に、放置された筈のシーグルの性器に別の熱が触れてくる。熱く脈打つその感触が、彼のものであると分かった直後、シーグルの顔はカッと赤く染まった。

「セイ、ネリ、ア……や、め……」
「黙ってろ」

 返すセイネリアの声が少しだけ苦し気な事に気づいて、シーグルは唇を強く閉じた。
 自分に圧し掛かっている男の体が動く。股間を自分に擦り付けるように、性器同士を擦り合わせて彼が動く。はぁはぁと、らしくなく荒い彼の吐息が耳の傍でよく聞こえて、下肢に与えられる感覚以上に、その音がシーグルをどうしようもない気分にさせる。闇のせいでよく見えない筈の、苦し気な彼の顔を想像するに至ってしまって、シーグルは耐えきれなくなった全身をびくびくと震わせた。

「や……だめ、だ……ぁ」

 ぎゅっと目を瞑って背を浮かせたシーグルのその背を、セイネリアの腕が支えてそのまま軽く起き上がらせ、唇を押し付けてくる。達してしまった余韻で体から力が抜けたシーグルは、それを大人しく受けるしかなかった。
 呆けたように力が抜けたシーグルは、だがだからこそ、口づけてくるセイネリアの息がまだ荒く、苦しそうである事に気づいてしまった。考えれば、自分は達してしまったが、達せぬまま止めてしまった彼が辛いのは当然だった。だと思うのに、シーグルにとっては、それはまるであり得ないものを見たように驚くべき事であった。

 あの、誰よりも強く、いつでも余裕を持って相手を追い詰める男が、こんな余裕のない姿を見せるなど――。

 否、自分は知っていた筈だと、シーグルは思う。
 何度か、こんなセイネリアを、シーグルは見ていた筈だった。それを見ないふりをして認めなかった、忘れようとしたのは自分だと。
 セイネリアの吐息は荒く、口づけ、絡めてくる舌の動きは更に荒々しかった。乱暴とも言える強さで、噛みつくように自分の唇を覆い、口腔内を蹂躙してくる彼を、それでもシーグルは受け入れる。受け入れて……その腕を彼の背に回した。
 一瞬、躊躇うように彼が止まる。
 だからシーグルはその隙に顔を離し、そうして彼の顔を見る。闇の中でもはっきりと見える、金茶色の瞳を真っ直ぐ見て、シーグルは微笑む。

「お前が欲しい、セイネリア」

 金茶色の、琥珀の色そのままの瞳が、大きく見開かれるのをシーグルは目を細めて見つめた。自然と口元の笑みが更に深くなる。

「お前が去った後……俺は、世辞にも自分の身を守れたとは言えない。何度か……何人かに、望まぬ形で抱かれた。だが……その時に思った、これがお前であったならと。俺は多分、抱かれるなら……お前に抱かれたかった」

 誰よりも強く、何者をも圧倒してきたその瞳が、感情に揺れる。
 大きく開かれたそれは、だが急激に歪むように細められると、そのまま閉じられる。

「――セイネリア?」

 何も返さず、闇の中動かなくなった彼をシーグルが呼べば、彼の唇が押し付けられる。乱暴に、彼らしく、奪い尽くすように合わせてくる唇は、だが僅かに震えていて、唇を離す度に漏れる彼の吐息もまた、微かに震えていた。
 キスを繰り返しながら、背を支えていた彼の手がゆっくりと下されて、シーグルの体はまたベッドに寝かされる。そこから、片足だけを持ち上げられて、彼の指が足の間からもっと奥へ伸ばされたと思った途端、一気に体の中へ入ってくる。

「ッ……」

 いくら手は濡らしているらしいとはいえ、その雑な扱いには痛みだけがあって、シーグルは思わず歯を噛みしめた。
 覚えている彼の指はもっと丁寧に解してきた筈なのに、入ってきた指はどこまでも荒々しく、中をひたすら早く解そうするかのように乱暴にかき混ぜてきて、すぐに指も増やされる。
 正直シーグルとしては苦しくて痛いのだが、聞こえる彼の吐息の余裕のなさを感じれば、それに文句を言う気にはなれなかった。だから。

「いい、から……もう挿れ、ろ……」

 まだかなりきついと思うが、彼であればどうにかするだろう。そう割り切って、どうせこのまま指を受け入れているのもきついのだからと覚悟を決める。そうすれば、今度は両足共が持ち上げられて、そこにすぐ猛る彼の雄が押し付けられた。
 覚悟していたから仕方ないとはいえ、入り始めは痛みと共に、ただただ苦しい。解しが充分でない分広げられる感触が酷くて、入口の皮膚が伸ばされすぎてぴりりとした痛みを訴えてくる。
 それでも、こちらの呼吸のタイミングを見計らって、彼はずるりと入ってくる。普段は閉じている筈のその中を一杯に広げられて、大きな質量が体の中に入ってくる。

「う、あ、ぁ……ぐ……」

 シーグルとしては、流石にこれで快感など感じられる筈もなく、拒む体をどうにか開くように意識させて、後は感覚と感触を耐えるしかなかった。
 それでも、慣れている彼は、ず、ず、と少しづつこちらの中に入ってきて、見てしまえばきっと怯んでしまうような質量を完全に自分の中へと埋めてしまう。彼が、大きく息を吐いた事でそれを知ったシーグルは、自分もまた苦しい中で安堵の息を吐いた。
 セイネリアが、また、唇を合わせてくる。
 体勢的にそれを受けるのはきついのだが、それでもシーグルは口を開いて受け入れてやる。
 そうすれば、やはり彼が体を伸ばした所為で体の中のものが動いたのもわかって、シーグルは眉を寄せてその感触に耐えた。
 口の中に入ってくる彼の舌は、今度は少し優しい。
 彼が動いた事で、自分の中が彼のものを締め付けた事を意識してしまって、シーグルの意識はそちらに持っていかれてしまう。
 どくどくと、脈打つ彼の熱さと大きさ、それを銜え込んで震えてしまう自分の中の肉。呼吸をすればその度に彼を締め付けてしまって、シーグルはどうすればいいのか分からなくなる。締め付ければ彼の肉もまた動いて、その感触に下肢が甘く疼き出す。
 たまらなくて、シーグルは口づけてくる彼に自ら強く唇を押し付ける、荒々しく舌を絡ませて彼を求める。
 そうすれば、唐突に彼は一度腰を引いて、それから勢いをつけて奥を抉ってきた。

「う、あぁっ」

 突然すぎるその衝撃に、シーグルは目を見開いて悲鳴に近い声を上げた。
 一度動き出せばセイネリアはもう止めてくれる事もなく、またすぐに腰を引いて奥深くを叩くように突いてくる。

「う、あ、あ、あっ」

 視界が揺れて、世界がぼやける。
 深くを抉られれば、意識が白くなりかけて、体の中がぎゅうっと収縮して彼の肉を包み込んでいるのを感じる。蠢く内壁を乱暴に擦り上げて彼の肉が去り、そしてまた強く擦りながら入ってくる。突かれる度、じゅ、じゅ、と体の中に響く音にまで追い詰められながら、一度は去った筈の熱がまた自分の中で膨れ上がっていくのをシーグルは感じていた。

「あ、う、うん……ぁ……」

 突かれれば声が漏れる。それは抑えられない。
 けれども今は、抑えなくてもいいのだと自分に言い聞かせ、反射的に引き結びそうになる口を意識して開いた。
 薄く目を開ければ、見下ろしてくる暗闇の中の金茶色の瞳が揺れて見えて、シーグルはそれに手を伸ばして、触れた彼の頬を撫ぜた。
 それに、瞳が細めれたと思えば、彼の動きが更に速くなる。

「あ、うあぁっ」

 ずくずくずくと速いリズムで、頭の中に、肉が液体と空気を掻き混ぜながら動く音が響く。
 シーグルは伸ばした手をセイネリアの肩に置き、それにぎゅっと力を入れた。
 体全体が力が入って硬くなる。力が入りすぎてぶるぶると震えて、開いたまま閉じられない口からは唾液があふれてくる。
 声は出しているのかいないのか、それさえも分からない思考が白くなる瞬間、シーグルは体の中に注ぎ込まれる熱い感触に大きく口を開けて叫んだ。






 前髪を撫でられたのに気づいて、シーグルは目を開いた。
 瞳に映る闇の中の優しい琥珀の輝きに、どうやらまた、自分は軽く意識を飛ばしていたらしいと理解する。

「どれくらい、意識がなかった?」

 シーグルが聞けば、いつも黒のイメージの男は、薄闇の中、くすりと鼻を鳴らして笑った。

「息が整う程度の時間、といったところか。寝顔をゆっくり観察する暇もなかったな」

 ならば本当に一時の事だったのだろうと、起き上がろうとしたシーグルだったが、体を動かそうと力を入れた途端、表情を強張らせて動きを止めた。

「まだ……入っているんだが」

 しかも、体勢は本当に意識を失う前のままで、みっともなく足を広げて彼を受け入れたまま、彼に見下ろされているという状況だった。
 気付けば猛烈に恥ずかしくて、抗議の声は小さくなる。セイネリアは喉を震わせて笑った。

「当然だ。だから、寝顔を観察してる暇もなかったといったろ」

 笑った彼の振動が中にまで響いて、びくんと自分の中がそれに反応してしまえば、途端にそれが質量を取り戻していくのを感じてしまう。
 シーグルは顔を青くする。

「早く、抜いてくれ」
「断る」
「おいっ、冗談じゃないぞ、これ以上はっ」

 ただでさえ、結構無茶をして彼を受け入れた自覚がある。この後を考えれば、これで終わりにしないと本気で動けなくなってしまう。今夜はおそらく、ネデが上手く誤魔化してはくれても、明日になって部下の前に姿を現さない訳にはいかない。そう考えれば、流石に彼の気が済むまで付き合う訳にはいかなかった。
 だが、シーグルが噛みつくように叫んで睨めば、意地の悪そうに笑っていた男は、途端その笑いを止める。
 暗闇に慣れた瞳は、この闇でも、月明かりの僅かな光で相手の表情を見る事が出来るようになっていた。
 人に恐れられる金茶色の瞳を僅かに細めた彼の顔は、自嘲気味に唇を歪ませ、そうして悲しそうに自分を見ていた。

「勿体なくて、抜きたくないな」

 この男にそんな顔をされて、それでも文句が言える程シーグルは強くはなかった。静かに近づいてくる唇を受け入れた段階で、シーグルは自分の負けを悟った。

「ンッ……」

 ゆっくりと、セイネリアが動く。
 先ほどのように乱暴な抽送ではなく、ゆるやかに、大きく腰を揺らして中を擦り、こちらの反応を静かに見下ろしているのを感じる。一度引き抜く程にまで引いてからゆっくりと奥深くまで抉られれば、その度に中からとろりと熱い流れが溢れて尻を伝うのが分かって、その感触にシーグルはぞくぞくと背を震わせた。

「あ……う……」

 男が与えてくれる快感を思い出した体は、全身でその感覚を追おうとする。相手の動きを受け止めようと腰が揺れ、もどかしく競りあがる甘い疼きに堪えられなくて身を捩る。
 吐息と共に胸を上げれば、そこに彼の顔が降りてきて、胸の頂きが彼の唇に吸い込まれる。ぬるぬると舌の粘膜で押しつぶされて、吸われて、歯を立てられて、高い声が鼻を抜けていくのを止める術はなかった。

「やめっ、ろ……」

 そんなところで感じるのが嫌で、小さく悲鳴のように叫べば、もう片方の頂きを指で摘ままれて、シーグルは反射的に体を縮める。そうする事で突き上げてくる彼のものを更に深くまで引き入れてしまって、その部分が大きく蠢いて彼の肉を締め付けるのを生々しく実感してしまう。
 それはセイネリアにも伝わったようで、彼は一度その位置で止まって、それから明らかに今度は速い動きに切り変えた。
 はぁはぁと繰り返される荒い息継ぎのリズムに合わせるように、彼の熱い肉の欲が体の中を突き上げてくる。息を吐くごとにそれが甘い喘ぎとなって、自らも彼を求めるように腰を押し付け、足を広げる。

「まずいな……」

 微かに耳に届いた彼のその声は、本当に彼が言ったものだったのか、それともただの聞き違いか。問えるような余裕などある筈がないシーグルは、ただ快楽に翻弄されるしかなかった。
 セイネリアの動きは速く、それを追うシーグルの呼吸も速くなる。最初の時より中が濡れきっている所為か、その動きは更に速くなって、まるで揺らされているというよりも震えるように小刻みに速く打ち付けられ、内部の肉が擦り上げられる。
 口を開いている自覚はあるものの、声を上げているかどうかまで意識していられないシーグルは、ただただ下肢を包む怠い熱に流されるしかなかった。次第にきゅうっと切ない感覚が競りあがってきて、耐え切れなくて足を閉じようとすれば、自然と相手の体を挟み込んで……勿論、シーグル自身に自覚はなかったが、まるで引き寄せ様とするように、シーグルの足はセイネリアの身体に絡み付いていた。
 そんな、既に限界に近いその状態のシーグルの雄に、セイネリアの手が触れる。
 最初は柔らかく、それから、奥深くを突き上げると同時に強く握り擦り上げてくる。

「あ、だ、め……やぁっ……」

 掠れた悲鳴のような声を上げて、シーグルは体をびくんと大きく跳ねさせる。同時に、再び体の奥深くに熱い感触が注ぎ込まれるのを感じて、シーグルはまた自らの雄を震わせた。




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セイネリアさん、2年もシーグルに触れなかったもんだからちょっといろいろ耐えられなかった模様。



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