絶望と失望の火
※この文中には性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【3】



「逃げてはだめだよ、皆順番を待っていたんだから」

 サテラの声が聞こえる、だがその姿は見えない。その段階で完全に暗示の中にいるというのに、今のシーグルはそれさえも判断する事が出来なくなっていた。恐怖で覆い尽くされた思考は見える全てを見たくないものに変える。シーグルの中にある罪の意識を恐怖に変える。
 シーグルの前には男達の集団が立っていた。
 シーグルの姿を見て、ゆっくり、ゆっくり近づいてくる彼らは……異形の化け物ではなかったが、どうみても生きている人間の姿をしてはいなかった。皆が皆血を流し、ある者は腕がなく、頭がなく……まるで戦場に転がっていた死体達が動き出したかのようなその光景に、シーグルは身動きさえとれずに、ただ立ち尽くして見ている事しか出来なかった。

『お前の所為デ俺達は見捨テラレた』

 耳元で声が聞こえたと思えば、シーグルはわっと四方から湧いたたくさんの手に体を押さえつけられる。

「うあぁぁっ」

 そのまま四つん這いにさせられ、後ろから貫かれた衝撃に声を上げる。最初から容赦なく突き上げられ揺さぶられれば、ぐぶ、ぐぶと濁った音が自分の中から響いてくる。

『アァ本当に、お前がイナケレバ』

 髪を掴まれて顔をあげれば、目の前にいたのはノウムネズの戦場でシーグルを犯してきた男達だった。あぁ彼らはあそこで死んだのかと呆然と思ったシーグルは、直後に今度は髪を後ろからひっぱられて振り向かされた。そうすれば自分を貫いている男もその時の一人で、それから複数の手で顔を押さえつけられ、口を開けさせられて前に居た男の男根を口の中に押し込めれられた。

『償わせテやる』

 口の中一杯に、覚えのある青臭い匂いが広がる、まるで口の中を突き上げるようにソレは出し入れを繰り返す。
 口と後ろを犯されているうちに、辺りに人の気配が集まってくるのをシーグルは感じていた。たくさんの手が自分に触れてくるのが分った。

「ぐぅっ……ぐがっ……」

 容赦なく後ろから突き上げられれば、喉にまで男のものが届く。えずこうが咳き込もうが構わず口の中を使われて、シーグルは涙を流しながらもただ口を開いてそれを銜えた。

 後ろに吐き出され、抜かれれば間髪入れずに次のものが押し込まれ、尻を掴まれて抽送が始まる。口も口で吐き出され、えずいて地面に顔を落してもすぐに頭を持ち上げられて次の男が唇を割って中に入ってくる。

「が、あぐっ……ぐぁっ、う、ぅっ……がはっ、がっ、あがっ」

 再び口に出された時は、一番喉の奥に届いた所為でたまらず大きく咳き込んだ。そうすれば後ろでひたすら突き上げていた男が両足を掴んできて体をおこされる。

「あ、ぁ、あ、あ……」

 まるで周りに見せつけるように、突き上げながら両足を開かされて持ち上げられる。たくさんの顔、たくさんの瞳、どの顔も血を流していて、どの目も光なく自分だけを見つめていた。

『オ前さえイナケレば、何故私が……』

 そう言って近づいてきた男の顔は前王リオロッツで、彼はシーグルの雄を掴むとそれを握った。
 それと同時に後ろの男がすごい勢いでシーグルを揺さぶってくる。

「うぁ、あ、あ、アン、はぁ、あ、あぁ」

 自分はこの状況で何故喘いでいるのだろう、そう思いながらも口からは女のような甘い声出る。

「はぁ、あ、あぅ、ん、はぁ、あぁ、ああああっ」

 体の中にまた熱いものが放たれれば、自分のモノもリオロッツの手の中で弾けた事をシーグルは知った。

『何が騎士ダ、ただの雌ではナイカ』

 リオロッツが笑う、周りの者達も笑う……シーグルも笑った。
 体を持ち上げられ、中を貫いていた男のものが抜けていく。それから投げ捨てるように地面に降ろされれば、視界一杯に見つめる瞳が近づいてくる。
 誰のものと認識する間もなく体の中にまた男が入ってくる。あちこちから頭を掴まれ口にも肉塊が押し込まれる。たくさんの手がシーグルの体を触る、舌が体を舐めてくる。
 乳首を弄られ、舐められ、齧られては大きく喘いで中の男を締め付けた。性器を擦られて中を突きあげられて腰を振る、最後まで注ぎ込むように中で動かされればそれを求めるように足を絡めた。

『償エ、全てお前ノセイだ』

 兵士達の声が聞こえる。内乱で何人死んだのか、自分を戦死させる為に見殺しにされかけたノウムネズの戦場で何人死んだのか……自分は何人殺したのか。謝って済む訳がない、償える訳がない、だから好きにすればいい、それで気が済むなら、少しでも救われるというなら。

 目の前に出された他人の雄をシーグルは進んで自ら口に入れた。舌を絡めて唇を窄め、それに奉仕した。精液を出されれば飲み干し、吐いてえずきながらもまた別の男のものを口に入れて舌を絡める。

『ほら、騎士様、アンタはこっちニモウ一本入る筈ダ』

 その声は恐らくノウムネズで自分を犯してきた連中の一人で、尻朶を掴まれて広げられ、既に誰かの雄を銜えているそこにもう一本の肉が押し付けられた。

「うが、あ、あぁぁぁ」

 さすがに苦しくて叫べばミシミシと軋む音とともにそこが広がっていく。抽送する雄に合わせてもう一本の雄が入ってくる、違うリズムで動く肉塊が体の中を滅茶苦茶に掻きまわしてくる。二つのタイミングで揺さぶられ、シーグルの体は様々な方向に不規則に揺れる。

「あ……が、ぐ、ぁ……」

 前後から揺さぶられて、その激しさにシーグルの視界も大きく揺れた。何重にもだぶって見えるたくさんの顔は全て歪んでハッキリしない。ただ、顔は見えなくても、彼らの自分に対する悪意だけは分かった。欲と、憎しみと、嘲笑が体に体にねっとりと纏わりついて肌を更に敏感にさせる。

「は……ぁ、ぁぅ」

 けれどもふと自分を突き上げてくる男の一人、前にいる男の顔だけ焦点が合うようにはっきり見えて、大勢の笑い声と呪詛の声の中、耳にもその男の声だけがクリアに聞こえてきた。

『お前さえいなけれバ、全て上手くいったノダ』

 あぁ、今自分の中にいるのはヴィド卿か――思うと同時に体と意識が切り離される。もう痛みなのか快楽なのかもわからないが、体は体の望むまま好きにさせた。

「あぅ、あ、あ、はぁ、あぁ、あぁっ」

 そうすれば、痛みと苦しみしか感じない筈の下肢からも快感が生まれ、次第にそれが他の感覚を置いて行く。一度それを快感だと体が認識してしまえば体は快感だけを追い、シーグルの吐息は高く、熱く、甘くなっていく。

「あぁぅ、んぁ、はぁ……あぁ、あ、んんぁ」

 思い切り喘いで、自ら腰を振って、他人の性器にしゃぶりつく。身を捩らせて、足を広げて男を受け入れる。吐き出されて、精を体に掛けられて、飲み込んで喘ぐ――所詮、自分はこうして犯されて喜ぶ雌なのだ――耐える事を止めてしまえば、体から切り離された頭は妙に冷静に考える事が出来るようになった。

 あぁ確かにそうだ、自分がいなければヴィド卿は死ななかった、ウォールト王子も死なずに済んだ。きっとそのままあの大人しい青年が王になって、ロージェがその妻として大きな改革はなくとも平和に国を治めてくれたろう。
 そうすればリオロッツが王になる事もなく内乱も起こらなかった、大勢の死者も出なかった。……全て自分の所為だ。

『オ前の所為でアノ人は弱くなった』

 変わって次に自分の頭を掴んだのは赤い髪の男で、彼は忌々し気に見下ろしてシーグルの口に自分の性器を突き入れた。
 あぁそうだクリムゾン――口の中の彼を銜え、それを必死に舐めて扱きながらシーグルは目を閉じた――俺がいなければセイネリアはあんなに苦しまなかった、弱くならなかった。彼が自分を信じられなくなったのは全て自分の所為だ。

 シーグルは思う、全て自分さえいなければ良かったのだと。

 シルバスピナの当主としての銀髪の子供……もし自分が生まれてこなければ御爺様は諦めたのではないだろうか。幸せな家から子供を連れていくことなく、仕方なく父親と和解しようとしたのではないか。自分がいなければ、自分が生まれなければ、本当は全て上手くいったのかもしれない。

「ぐぁ……あ、あぅ、ふ、ん、ぐぅ……ん、ん……」

 止めどなく涙を流す虚ろな瞳はもう何も映さない。どうせ見えていてもそれが現実かなんて分らないから見る必要はない。体は死者達の精液に塗れ、滑る手で男の腹に手を置いて自分で腰を振って中の男を求める。自ら自分の性器を掴み、その上から他人の手で擦られて喘ぎ中の男を締め付ける。口の中の雄のカタチにそって舌でくるめば液体が口の中一杯に吐き出されてだらだらと口の端から溢れていく。
 あぁ無様だ、あぁ惨めだ、誇りも意地も何もない、快楽に溺れる自分の身体に嗤う事しか出来ない。
 見開かれた瞳は涙を流す。そこに強い意志はなく、どこまでも澄んでいた深い青は濁って何も映さない。
 ただ揺れる世界の中、男達の精液を溢れさせながらシーグルの唇に笑みが湧いた。

――俺は生まれてこなければ良かった。

 身体を手放して、心を手放して、シーグルは深い闇に身を委ねようとする――その、最後に声が聞こえた。

『眠りなさい』

 誰の声だったろうかとシーグルは考える。けれどもそれが分らなくて、分らなくてもいいかと思って考える事を止める。

『眠ってしまいなさい、これ以上はだめだ、君が耐えられない。目を閉じて、耳を塞いで、私が呼ぶまで全てを閉ざして眠りなさい』

 そうしてシーグルの意識は、暖かい何かに包まれるのを感じながら深い闇に閉ざされた。




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 本気でヤバイシーグルさん。
 



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