思い出したくない男
将軍様と側近……な二人の旅立ちまで間の物語
※この文中には軽めですが性的表現が含まれています。読む場合は了解の上でお願いいたします。




  【7】



 馬車の中が中であったから、将軍府につくまでにすっかり体から力が抜けて抱き上げて運ばれるのにも文句が言えず……最後の抵抗としてそんな無様な恰好で将軍府内を歩かれて人に見られるのだけは避けたいと、シーグルはソフィアを呼んで転送してもらった。
 で、部屋に直行となれば当然セイネリアはそのままこちらをベッドに下してくれる訳で、さすがにそのまま上にかぶさってこようとした男をシーグルは力の入らない足で蹴って拒絶した。

「せめて鎧を脱いでからにしろっ」

 やるのはもう覚悟しているからいいとして、ベッドの上で鎧を脱がされるなんて冗談じゃない。ベッドの下に服が散乱するのはまだ耐えられても、鎧の各部分がごろごろ転がる状況は勘弁して欲しい。
 それで必死に睨めば、彼も体を離して鎧を脱ぎだす。シーグルはため息をついてベッドから起き上がると、まだちょっと力の抜けた体でどうにか鎧を外しだした。本当にこの男は……と思うものの、一応ここでいう事を聞いてくれた分はほっとする。

「まったく……どれだけヤりたいんだお前は」

 呆れながらも裸になってベッドに座れば、セイネリアが早速やってきてこちらにかぶさりながらキスしてくる。それで大人しくベッドに押し倒されてやれば、彼は本格的にベッドに乗り上げてこちらの顔を押さえ、一度深く舌を絡ませてから顔を離した。

「俺はここまで今日一日ずっとお預けだったんだ、それは溜まってるに決まっているだろ」
「お前は精力がありすぎだっ」

 呆れてちょっと怒鳴れば、今度は彼は耳に囁きかけてくる。

「それは、お前だからだ」

 そんな事で体が震えてしまうのだから、本当に憎らしい程この男は慣れている。セイネリアの計算高さにムカつきつつも、そんな彼が本気で余裕がない様子を見せるからこそいつも結局彼の好きにさせてしまう自分を知っている。

――ただ……今日くらいは少し『感謝』してやらないとならないか。

 シーグルだってわかっている。結局今日のリシェ行きは全部シーグルの為で、セイネリアはいろいろお膳立てしてシーグルをレガーに会わせたのだ。

――多分、それで俺が黙ってこいつに『感謝』するのもこいつの計算通りなんだろうが。

 セイネリアは常々シーグルに言っている。

『俺がお前の為にやる事は俺の為でもあるからお前がひけめを感じる必要はない』

 多分、だから、こうして自分が彼に感謝を伝える事が彼の目的ではあるのだろうが――そうは思っても、彼が自分の為に動いてくれた事は嬉しいし、ずっと心に残っていたしこりを解消出来た事も嬉しいから、結局は彼の思惑に乗ってしまう事になる。
 まったく仕方がない……それは彼自身に思う事であると同時に自分に対して思う事でもあるのだ。

「セイネリア」

 名を呼べば、声の響きだけで分かってしまった彼は、得意げな顔(シーグルにはそう見えた)でこちらを見下ろしてくるからちょっとムカつきはする。けれども、彼の頬に手を伸ばせば嬉しそうにうっとりと目を細める彼に笑ってしまって、シーグルはそのまま彼の顔を引き寄せて唇を合わせた。最初は唇同士を重ねる程度で一度離して、そこから再び唇を合わせて口を開き、互いの舌を擦り合わせる。

「ン……ふ」

 ぬるぬると唾液を絡ませて舌を擦り合わせて……そんなとこに性感帯なんてない筈なのに体が熱くなってくる。頭がぼうっとしてきて思わず彼を押して唇を離してしまえば、次にはもっと深く唇を合わせられて文句を言う暇がなくなる。

「ン……ぅん……ん」

 鼻から甘い声が抜けていく。キスしながらも彼は体を擦り合わせてきて、体全体が彼の体温に包まれる。彼の雄と自分の雄が互いに押し付け合って互いの体に押しつぶされ、擦り合わせられる。

「は……ぁ」

 セイネリアから唇を離されて、シーグルは軽く喘ぐと目の前の彼に抱き着いた。
 そうすれば彼はこちらの顔の目元や額、顎、こめかみとあちこちにキスをしてきながら、下肢では本格的に雄同士を擦り合わせていた。

「や、は、あぅ……」

 それだけですぐイキそうになって、シーグルは彼にぎゅっと抱き着くと同時に唇をかみしめた。顔を彼の肩に押し付ける勢いで抱き着けば、強く双方の雄を掴んで扱かれて……更には彼にちゅ、と音を立ててまで耳たぶを吸われて、シーグルは一度限界を迎えてしまった。

「は……は……」

 最後は思わず息を止めてしまったのもあって荒い息が出る。体から力が抜けて彼から手を離す。ベッドに背をつけて大の字のようになってしまえば、彼が嬉しそうに見下ろしていて、そこからゆっくりと顔を近づけて来たのだが……それは途中で止まってしまった。

 まったく――呆れながらも笑ってシーグルは彼の顔に手を伸ばして引き寄せる。そうすればあっさり下りてきた彼の顔を両手で押さえ、シーグルはまた彼にキスをした。どうやら彼は、今日はシーグルの方からキスをしてもらう事に決めたらしい。
 それでも一度こちらから合わせれば、後はやはり彼の方がこちらを翻弄してくれるのは変わらない。舌を擦り合わせて唾液を交わして、唇からこぼれた唾液を掬い取ってから彼はこちらの耳元に囁いてくる。

「愛してる」

 そこで催促するようにそのまま待っている彼に、シーグルはまた彼の首に手を回して抱き着くと返した。

「俺も、愛してる」

 けれどそれで彼を喜ばせたままではいさせない。

「……露骨に待つのはやめろ、ガキかお前は」

 そうすればセイネリアは声を漏らして笑う。シーグルも一緒に笑う。
 二人で笑い合っていれば、彼は唐突に背に腕を入れてこちらを抱き上げた。

「おい、何を……」

 言った時には手遅れで、シーグルは座った彼の上に正面から抱き付いているような体勢になっていた。しかもそこからぎゅっと抱きしめられて、仕方なくシーグルも彼に抱き着く事にした。

「今回はお前からの見返りを期待していろいろ労力を掛けさせてもらったからな。当然の権利だと思うぞ」
「最初から感謝を期待するな、意地汚いぞ」
「別にいいだろ、お前はちゃんと毎回きっちり『お礼』をしてくれる訳だしな」

 まったく……小憎らしいとしか言えないが、こちらとしても一方的にされっぱなしが嫌なのだから仕方がない。そうしてまた、自分が出来る事で彼が確実に喜ぶだろう事がこういう事しか思いつかないのだから仕方がない。
 それに、毎回毎回、彼には呆れて思う事がある。

「まったく……たかだかこの程度の『お礼』の為に、お前は毎回大がかりにやりすぎだ」
「そうか? 今回なぞあのジジィをお前に会わせただけだろ」
「レガーはまず滅多な事では屋敷には来なくなっていた筈だ。それに……彼に俺の事がバレるリスクを冒してまでする事じゃなかったろ」

 確かに今回はいつも程大がかりに彼が動いた訳ではないのだろうが、それでもたかがシーグルからのキスや、大人しく抱き着いたり愛してると返したり……その程度の事の為にここまでやるか、という事はこの男の場合多々ある。

「何、俺が呼びにいったらすんなり来てくれたぞ」
「……天下の将軍閣下が家に来たら断る訳ないだろ」
「だろうな、だから行ったんだ」
「お前自分の立場を分かってるのか?」
「分かっているぞ、だがそれでふんぞり返って偉そうにしてたら他の馬鹿共と同じになるだろ。なにせ命を狙われても構わんからな、立場なんぞ気にせず自分で動いたほうがいい」

 言いながら彼はこめかみのあたりに何度もキスをしてきて、シーグルはもう呆れて笑うしかない。そうして結局――こんな立場でも、普通の権力者のように自分を偉く見せようとしない彼が……好きなのだから自分的にも仕方がない。

「愛してる、セイネリア」

 これはかなりのサービスだなと思いつつ、抱き着いて言ってやれば、彼は嬉しそうにこちらの背中を腕で覆うように抱き寄せてきて、頬を擦り合わせてくる。

「あぁ、愛してる、シーグル」

 それから少し腕を緩めて彼が顔を覗き込んでくるから、シーグルはまた苦笑して、顔を伸ばすと自分から彼に口付けた。




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 次回はセイネリアサイドからのエロ。
 



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