将軍側近の難儀な日々
※エロって程でもないけど一応やってます。




  【4】



 とりあえずシーグルには言いたい事が大量にあった。
 体勢的に、終わったら力が抜けてセイネリアの上に倒れ落ちる事になるのはまぁ、いい。セイネリアもそれを分かっていて、こちらが無様に顔から落ちて鼻を押さえる……なんて事にはならないように体を支えてくれはしたし、いくら傷はすぐ治ると言ってもわざわざ彼の方が下になって痛い思いをしてくれた訳だし。基本的にはこちらを気遣って大切にしてくれているのは分かるのだが……。

「お前、ここで中に出されたらどうやって馬車まで歩けというんだ」
「歩けないなら運んでやるぞ」
「誰もいないところならともかく、人目があるところで抱きかかえられてたまるかっ」

 さすがにムカついて目の前にあった彼の胸を叩く。彼は何も言わなかったが、その部分には綺麗に手の跡がついた。致命傷に近い傷程早く治るらしい彼の体は、こういう『特に体にダメージがある訳でもない』くらいのほうが痛みが持続するらしい。

「掻き出してやるからどうにかなるだろ」
「そもそも外に出せばよかったろ」
「……体勢的に難しかったんだ、仕方がない」

 文句を言って起き上がったら、彼と自分の体にべったり自分が吐き出したのがついていたのを見てシーグルはうっと顔を顰めた。

「大丈夫だ、拭く布くらいはもってきてる」

 用意が良すぎるだろう、と心の中で突っ込みつつシーグルは頭を軽く押さえる。つまりここへ来てヤることは最初から彼の中で決定事項だったらしい。
 それでつい最中の事を思い出し、セイネリアが終始にやにやと楽しそうな笑みを浮かべていたこととか、女みたいに自分が喘ぎまくったこととが頭に浮かんでシーグルは恥ずかしくなると同時に更に腹が立ってきた。

「貸せ、自分で拭く」

 だから彼が装備を探って布を取り出した時にそう言って手を伸ばせば、彼はわざとその手から布を遠ざけた。

「遠慮するな、拭いてやる」
「遠慮じゃない、お前に頼むと絶対に拭くだけで済まなくなるっ」
「いつも俺が拭いてやってるだろ、今更嫌がってどうする」
「いつも体を動かす気力もない状態だからだろっ」

 怒鳴って意地になって布を取ろうとすれば、意外にもそこであっさり布が取れて……一瞬ほっとしたものの嫌な予感がしたシーグルだったが、セイネリアがわざと布から手を離したのをみてその嫌な予感が的中したことを理解した。
 布から手を離したセイネリアの手がシーグルの腕を掴んで引っ張る。そうすればシーグルは彼に倒れ掛かるようになって、そこをがっしり彼に抱きかかえられる。

「離せっ、何をする気だっ」

 勿論逃げようと暴れるが逃げられる筈がない。
 セイネリアはこちらの抵抗などなかったかのようにこちらの体を抱き寄せて持ち上げて……片手が尻に触れた。

「掻き出してやると言ったろ」

 妙に嬉しそうな声でそう言いながら彼の指が入ってくると、シーグルは歯を食いしばってその感触に耐えるしかない。

「いいっ……じ、ぶん、で……」
「遠慮するな」

 それも耳たぶを吸ってから言ってくるのだから本気でムカつく。シーグルとしては文句を言って噛み付いてやりたいくらいの気分なのだが、指が中を掻きまわしているからその感触に耐えるので一杯一杯だった。
 セイネリアの指はやはりというか嫌な予感通り、ただ掻き出すだけではなく中を押して刺激してくる。しかもやたら水音が聞こえるのも絶対わざとだ。そこへ奥からどろりと出てくる感触が気持ち悪くて、でも下半身にはまた熱が上がってきていて背筋がぞくぞくと震えてしまって、思わず出してしまいそうな声をシーグルはひたすら耐えた。

「う……ぐ、ぐ、が……」

 彼の体に抱き着いて目を硬く閉じていれば、やはりセイネリアが耳元にわざと掠れた声で囁いてくる。

「声を出せ、さっきはいい声で鳴いてたじゃないか」

 それでまた先程の時の自分のみっともない喘ぎ声を思い出してしまって、シーグルは意地でも声を出すまいと更に歯を噛み締めた。

「……まったく、意地っ張りめ」

 そう言ったセイネリアの声が聞こえたと思ったら、急に体が持ち上げられて尻に彼のが当たる。そこから止める間もなく、また彼が中に入ってくる。今度はお互い座ったまま、むき合った状態で。

「おい、お前――っ」

 文句はすぐに唇で塞がれた。
 そこからまたながーーーーいキスが始まって、いつの間にか唇が解放されたと思ったら彼にしがみついて揺れていた。そこから先は言うまでもなく、文句も抵抗もする気力も余裕もなく、彼に抱き着いて喘ぐしかなかった。






 いろいろ言いたいことがある……どころではなく、もう何処から怒っていいのか分からないくらい腹が立っていたシーグルは、二回目が終わった後はヘタに文句も言わずにセイネリアを一睨みしてからわざと顔を背けてやった。
 それから無言のまま意地で立ち上がると、自分の体をさっさと拭いて布を彼に投げつける。勿論そこからすぐに服を着る。
 セイネリアも流石に今回はこちらが相当怒っているのに気付いたのか、黙って自分の体を拭くと彼も服を着だした。

 装備もつけて、嫌がらせもあって兜までしっかり被ったシーグルだったが、ここでさっさと帰ろうとするのは少し考える。なにせここまでセイネリアに運ばれてきたと言うことは、一人でいけばどこに飛ばされるか分からないという事だ。おそらくは、間違った道に入ると大抵飛ばされることになる正面広間に出ると思うが本当にそうかは分からない。だから躊躇して足を止めていたら――後ろからセイネリアに抱きしめられた。

「少し調子に乗り過ぎた。謝るから機嫌を直せ」

 逃げられないほどしっかりという事もなく、緩く抱きしめてくる辺りがこの男の計算高いところだ。
 シーグルとしてはどう文句を言ってやろうかと考えながら彼をみないままでいたのだが、そうしていればセイネリアがこそっと言ってくる。

「初代王アルスロッツの秘密の場所であるここからどうしてリシェがよく見えるのか、アルスロッツと初代シルバスピナ卿の話を聞きたくないか?」

 あぁ本当にこの男はこういうところがずる賢い――シーグルがそれを聞きたがるのを分かっていたから、ヤル前に匂わせる程度の話を振っておいたのだろう。
 シーグルは溜息をついて諦める事にした。
 どちらにしろ、彼を許さないでいつまでも意地を張り続ける訳にもいかない。

「聞かせろ」

 言って振り向けば、仮面をまだ外したままの男は笑って言ってくる。

「お前が兜を取ったら話してやる」

 シーグルは仕方なく兜を外す。そうすればすぐ彼はこちらの前髪を払って、額と目元にキスしてきてからやっと口を開いた。

「旧貴族、と呼ばれるこの国を興した時のアルスロッツの仲間の内、シルバスピナだけは豪族などの地位のある者ではなく最初からアルスロッツの部下だった」
「そうだ」

 それはシルバスピナ家に代々伝えられている話だ。だから王のもとにすぐ駆けつけられるよう、シルバスピナはリシェの領地を守っている。

「初代シルバスピナ卿はお前にかなり似ているらしい。銀髪で、濃い青い瞳の美しい青年だった。……ただお前のように細くはない」
「なら俺より父さんの方が似ていたんじゃないか」

 分かってはいるが、やはり細いと言われるとムカつきはする。
 セイネリアは笑って、シーグルの髪に手を入れて梳きながら話を続ける。

「銀髪の髪を長く伸ばしていた上に、お前のようなちょっときつい顔をしていたようだぞ」

 現在のシーグルの髪は下ろせば楽に肩を過ぎるくらいは長い。執務室での仕事中は邪魔だから髪を束ねているが、兜を被る時は下ろしている事も多い。特に登城するときはまず大抵下ろしている。青い髪が兜から出るのをわざと見せているのもあるからだ。

「戦士として誰よりも強くて美しい青年――戦い事に興味がなさ過ぎる息子のために、村の有力者である父親が奴隷の中で最高の戦士を付けた、それがシルバスピナだ。彼はアルスロッツの仲間の中で一番強くて、信頼出来る忠臣だった。そしてアルスロッツは、そんな彼を愛していた」

 セイネリアの手は尚もシーグルの髪を梳いて撫ぜていた。
 シーグルはそれを黙って聞いていた。そこまで聞けば、ここからリシェが見える理由は分かる。

「だがシルバスピナの方は何があっても部下としての態度を崩そうとはしなかった。……多分、外見だけじゃなく、性格もお前に似てたんじゃないか?」
「……だから、せめて傍にと……リシェの領地を……」
「そうだ」

 セイネリアが更にシーグルを引き寄せて頭に鼻を埋めてくる。

「勿論、シルバスピナ本人の願いでもあったそうだ。いつでも駆け付けられるような場所にしてほしい、とな。王は側近として傍に残す道も考えたが、シルバスピナの戦果は仲間一で対外的にもそれでは不味かった。本来なら王の直轄領にする筈のリシェは、場所的にも、狭さの割りに富が約束されている点でも都合が良かった。ただシルバスピナは『何かあればいつでも駆け付ける』とは言っても、平時にはまず首都に来ようとはしなかった。来てもプライベートで会う事はなかった……だから王は、いつでも彼のいる場所を見たくてこの場所を作らせた、という話だ」

 シーグルは暫く黙ってセイネリアに頭を抱かれたまま髪を撫でられていたが、ふと思い立って聞いてみる。

「それで、その話は……アルスロッツ本人から……アルワナの術で聞いたのか?」

 セイネリアが頭から顔を離してこちらの顔を見てくる。

「厳密には術ではないが……まぁそういう事だ。お前は余程初代シルバスピナと面影が重なるらしくてな、だからお前が城に捕まっていた時もずっとアルスロッツはお前を見ていたらしい。そして……俺たちがお前を助けにここへ来た時、ラストにお前の居場所を教えた。『私のシルバスピナを助けてやってくれ』と言っていたそうだ」

 そんな事が……と大人しく聞いていたシーグルだったが、そこで気が付く。
 セイネリアの言っていたことをまとめると、今までの話はこの間レストとラストが城にきた時にアルスロッツから聞いた話で、ということはアルスロッツの魂は今もこの城にいるということになる。しかも自分が捕まっていた時ずっと見ていたというなら……。

「ちょっと待て、まさかアルスロッツは今も……見ている、とかないよな」

 セイネリアはあっさり答えた。

「見てるだろうな。愛しい人間の面影を持つ子孫がきたら、そりゃずっと見てるんじゃないか?」
「つまりそれは……その、ここでしていたことも見られていた、と……」
「ここでは嫌々抱かれるお前の姿しか見ていなかっただろうから、どうせならちゃんと愛されて感じてるお前を見せてやろうと――」

 シーグルはそこでセイネリアの口を押さえた。
 セイネリアはその手を引き離そうとはせずに黙ったが、喉が揺れて笑っている。
 考えれば確かにここで捕まっていた時に見られていたというなら、リオロッツの前で犯されていた姿も全部見られていて、その上ここでの姿も……。シーグルは顔が尋常ではなく熱くなっていくのを感じていた。

 考えてはだめだと思うのだが、考えれば考える程落ち込むしかない。なんだか立ち直れそうになくて、セイネリアに寄り掛かかったまま黙っていれば、そこからひょいと持ち上げられた。
 まさかこのまま馬車まで連れて行く気かと焦ったシーグルだったが、セイネリアはそこで魔法使いを呼び付けて馬車までは転送で戻った、のだが。

 馬車の中ではまたセイネリアが好きなだけべたべたしてきたのは言うまでもなく、将軍府に帰った直後はまたすぐにベットに直行したのも言うまでもなく――話は最初に戻る、という結果になる。……いや、流石に城で2回やった後もあってシーグルも今回は簡単に折れてやる気はなく、将軍府へ帰ってからの二人の喧嘩は前回より更に派手な事になったらしい。

 ともかく、こうして二人の平穏な日々は積み重ねられていた。  



END.


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 アルスロッツと初代シルバスピナのちょっと切ない話……かと思ったら、おいセイネリアって話でした。まぁ二人楽しそうにやってますって事で。
 



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