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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 4.5 「それぞれの想い」 SCENE#E
 フロアの中央にクリスマス・ツリーの煌めきが光る、ちょっと洒落たレストラン。その一角の、奥まったコーナーに四人は腰掛けていた。テーブルの中央には紅いキャンドルが灯り、柔らかな陰影がそれぞれの表情を彩っている。

「今年も、なんか早かったなぁ」
「そうだね。この間、新年だったかと思っていたら、もう年末だよ」

 UNO学院高等部一年生、三奈瀬翔は隣に座っている悪友の河邑彰と顔を見合わせ、ちょっと苦笑いを浮かべた。

「あんたたちがぼんやりしているからでしょう?」

 無理もない話ね──と容赦なく二人を切って捨てたのは高国亜里沙。同じ学校の二年生だ。

「うわっ、厳しいっすね〜亜里沙先輩」
「当然よ。座して待っていて、何も起きなかった──そんな典型でしょ、キ・ミ・タ・チ」
「亜里沙、それくらいにしてあげなさい」

 微苦笑を浮かべて、合いの手を入れたのは、同じく二年の神和姫葵。亜里沙の親友で、このテーブルを囲む四人が所属するFS研究会の代表でもあった。

「さすが葵先輩っ! 優しいっす!!」
「ていうと何よ。あたしは優しくないって言うの、彰っ!」
「め、滅相もないっす! 亜里沙先輩はまるで聖母のよう、慈悲深くて、優しくて、容赦なくて、サド気味で・・・あっ!」

 思わず漏れた彰の本音に、翔は額に手を当てて大きく溜息を付く。この後来る修羅場が容易に想像出来るからだ。案の定、亜里沙は立ち上がると、あんですってぇっ! と、怒髪天を突いた。

「彰くん、失言ね」
「はい。気が緩んで、思わず言ってしまったようです」

 葵と翔は顔を見合わると、彰をどつき倒している亜里沙をみて笑みを交わした。いつもの光景、いつもの反応──そして、それを笑って見ていられることの贅沢さを、ここにいる誰もが感じていた。だが、ふと隣を見た翔は、葵の横顔に憂いの影が薄く浮かんでいることに気が付いた。

“聞いてみるべきだろうか?”

 相変わらずの優柔不断さが、翔にして行動に移るのを躊躇わせていた。それでも、心に引っかかる“棘”をそのままにしておくよりは、と思って漸く口を開いて葵に尋ねた。

「・・・何か、心配事でも?」
「えっ?」
「いえ、僕の気のせいかもしれませんが・・・」
「そんなに判り易かった?」

 葵の鋭い視線を受け止めると、翔は黙って頷いた。

「そう・・・」

 自分のグラスに入った無色透明な液体──トニックだが──を傾けてみる。カラン、と氷が澄んだ音を立てた。

「“神皇”のこと、ですね」

 優柔不断な翔にしては珍しく、きっぱると言い切った。モノ言いたげな視線を受け止めると、葵は小さく嘆息する。

「どうして、そう思うの?」
「あのまま、片づいたとは思えないからです。“神皇”は、葵さんを十分苦しめた。目的も中途半端で、アイツが消えてしまうなんて、到底信じられません」

 翔の言葉は、葵の心配事を真っ向から捉えたかの様だった。

「そう、ね・・・。まだ、何も始まってはいない。まだ、何も終わってはいない。全ては・・・これから、ね」
「はい・・・」

 たった一つ、それも小さな山を越えたばかりなのだろうか──AD&Dの謎を解き明かす道も、その緒についたばかりなのだろう。そんな翔の想いに応える様に、葵の深い双眸にも静かな輝きが宿っていた。

「ねぇねぇ!」

 ぽんぽん、と肩を叩かれた。驚いて葵が振り向くと、いつの間にか彰との抗争に決着を付けたのか、亜里沙が顰めっ面で見下ろしていた。

「なに辛気くさい顔で話してんのよ、葵。せっかくの美人が台無しよ。はい、笑って笑って!」
「そうっすよ! 翔も葵先輩を独り占めしてずりーゾ!」

 時間差で彰も翔の背中をバンと叩く。誤解だよという翔の声も、そんな・・・という葵の声も、ハイテンションの二人の耳には全く聞こえてないようだった。

“まぁ、いいかな”

 苦笑いしながら、翔は亜里沙に笑顔を強要されている葵に視線を遣った。小首を傾げて屈託の無い笑みを浮かべた葵の表情からは、先程の憂いの色は払拭されていた。

「おい、翔もすかしてないで歌でも歌え!」
「彰っ! こんなところで、そんなこと出来ないよ!」
「いいからやれっ!!」

 彰の強引さにちょっと辟易としながら、翔も何時しか屈託無く笑っていた。葵と亜里沙もそんな二人に笑顔を向けている。世に事も無し──少なくとも、今だけは・・・。
☆☆ STAGE4/SCENE_1に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 ごきげんよう、皆さん。本編が難しい箇所を迎えてちょっと停滞しているので、今回の更新は番外編などを書かせて頂きました。RSMMが本領を発揮(して欲しいなぁ<笑)するのは、“アルカナの舞”が始まる第五章以降です。このお話は、第四章終了時と第五章の間の一シーンとなります。色々ネタ振りしてしまいましたので、将来どんな展開になるか、ご想像されるのも楽しい・・・訳無いですよね。はい、頑張って本編の更新を続けますです。あっと、余談ながら葵のグラスに入っているのはTonic Waterです。ジンじゃないですよ、いやホント(笑)。
 [03.02.2005追記]文中の表記が一カ所間違っていました。私の記憶違いです。既に正しく修正しましたが、混乱を招いた様でしたらお詫びいたします。

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