エントランスへ サイト・マップへ 主BBSへ 日記+更新録へ アドバイスへ 一つ上へ戻る



リアル・ストーリーの光と影

STAGE_04 「光と、舞と」 SCENE#6
 圧倒的な力が流れ込んできた。眼前に輝く目映い光に目が焼かれる思いだった。

「アオイっ! 気をしっかりと保て!」

 リュオンが叫んだ。奥歯を噛み締めると、葵(あおい)は手の中で暴れだそうとする剣の柄を、その両拳が白くなるほど力一杯握りしめた。

「むぅ・・・」

 リュオンは低く唸った。葵がリュオンに預けられた剣“Foutune”──その剣を抜くところまでは特に問題はなかった。だが、その剣を使って“空間に扉を描く”ことを始めた瞬間、葵の手の中から剣が飛び出そうかとするように暴れ始めたのだ。葵は必死に剣を押さえようとしているが、ロクに鍛えていない非力な力では限界が訪れるのもほど遠くはない。

「予想はしてたが・・・」

 予想以上に悪いぜ、とリュオンは呟いた。葵が押さえきれなくなったら──それは、考えたくもない結末だった。

「止むを得ないな。ショウ!」
「は、はいっ!」

 何の手出しも出来ず、ただ葵が必死に剣を押さえようとするのを見守っていた翔は、跳ね起きるようにリュオンに向き直った。

「手を貸して欲しいことがある。ちょっと、いや大分危険なんだが・・・やってくれるか?」
「葵さんを助けられるなら、なんでも!」

 きっぱりと言う翔に、リュオンはにやりと笑いかけた。

「上等だ。アオイが剣を押さえるのを助けてやってくれ。出来るな?」
「やりますっ!」
「良い返事だ。アオイの手から、剣が飛び出さない様に押さえつけてくれ。いいか、“手の上から”だぞ。決して剣を直接触るなよ!」
「判りました!!」

 翔が葵に手を貸すのを横目で見届けると、リュオンは周囲に張った結界の強化に集中した。先刻、公園の入り口に張った魔法印(グリフ)は崩壊する寸前だった。葵と翔は、尚も剣を制御しようと必死になっている。

「今、二人の集中力が途切れたら一巻の終わりだな・・・」

 魔法印(グリフ)も、強化したにも関わらず余り長くは持ちそうに無かった。周囲は、既に嫌な気配に取り巻かれている──脱出など、検討すること自体が無意味だった。

「頼んだぞ、アオイ、ショウ」

 崩壊しそうになる魔法印(クリフ)を維持しながらも、リュオンは薄く笑っていた。その視線の先には、翔と二人で力を合わせて、アオイが剣で空中に扉の形をなぞろうとしている。

「葵さんっ!!」
「・・・翔・・・くん・・・」

 蒼白な表情ながら、葵は剣を握って離さなかった。葵の手に自分の手を重ねた翔は、その手がどんどん冷たくなっていくのに戦慄した。

「くそっ!」

 何とかしなければ、なんとか──空回りするだけの想いが、翔を焦らせる。遮二無二葵の手を握ってみたものの、それ以上どうしていいのか判らない。

「・・・翔・・・くん・・・力を・・・」
「力って、どうすれば良いんですか!!」
「・・・わたしを・・・想って・・・」
「想う・・・葵さんのことを想えば良いんですね!!」

 辛うじて頷く葵。そんな葵を見て、いつもは優柔不断な翔も奮起した。目を閉じると、精一杯葵の事を思い浮かべる。無表情に近かった最初に会った頃、マニュアルを渡してくれたときの真剣な表情、少し笑ってくれる様になったこの頃、そしてリュオンとのやりとりで少し怒った様に顔を赤らめている時──色々な葵を思い浮かべている内に、心がだんだんと温かく感じる様になってきた。

“そうだ・・・”

 感じる──冷たい、理知的な仮面の下にある、優しくて暖かい心が。翔はゆっくりと目を開けた。

 世界は、眩しいばかりの輝きで満ちていた。葵と翔が握る剣が白光を放っているのだ。

「行きます。」

 短く、しかしきっぱりと言うと、葵は一気に空間に扉の形をなぞった。そして次の瞬間。

「TOR!!!(召門)」

 一瞬剣を懐に退いた後、葵は叩き付ける様に扉に向かって振るった。

『ドンッ!!!』

「でかしたっ!! 早く中へ跳び込めっ!」
「えっ?」
「・・・」

 リュオンが叫んだ。空間に描かれた光の扉が一気に左右に打ち開く。公園の入り口に最後の魔法印(グリフ)を描くと、リュオンは全力で葵と翔に走り寄ると、二人を抱え込んでその光の扉に飛び込んだ。間一髪、その後ろで空間を振るわす轟音と共に、扉が閉まった。
☆☆ SCENE7に続く ☆☆

天査からのメッセージ
 四苦八苦の状態ですが、なんとかアップに漕ぎ着けました。いや、私的に色々と立て込んでいまして、創造性(大袈裟)まで余力が回らない状態です。と、これが五月も最初から続いているのですが、この状態、益々悪化傾向にあるように感じています。
 ちょっと尻切れトンボでしたので、補足を付け足しました[220505]。

 御意見・御感想・御要望は 天査 まで!