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リアル・ストーリーの光と影

STAGE_04 「光と、舞と」 SCENE#2
“ふむ・・・”

 翔と葵と別れ、駅前の繁華街にやってきたリュオンは、何気なくブティックのショーウィンドーの前で立ち止まった。自分の愛しの彼女にでも贈ろうかな〜、とでもいうように熱心に展示されている服を見ながらも、その意識は油断無く周囲に飛んでいる。

“つけられているか”

 成る程、面白くなってきたな──そう思うと、不謹慎にも笑みが浮かびそうになる。

“人気の多いところでは、仕掛けては来まいが──”

 その反面、周囲に人が多すぎるので、リュオンにも尾行してる相手が絞り込めていない。さり気なく次の店に移りながらも、更に意識を飛ばす。だが、相手もさるもの、なかなかしっぽを掴ませない。

“やはり、誘い出さなければ駄目か”

 そうと決まれば躊躇する必要もない。昨日の公園、あそこがいいだろう。彼女のプレゼントには見切りを付けたぜ、そんな風を装いながら人の流れとは逆方向に向かう。駅前から離れる毎に人の数は減ってゆく。

“追っかけてきているか”

 リュオンは、確かなプレッシャーを感じていた。何者かは知らないが、間違いなく網に掛かった様だった。

“よし、このまま・・・”

 そう思った時。不意に心に警鐘が鳴った。相手が行動を起こしているのは、自分に対してだけなのか? 翔と葵の方は大丈夫なのか? 何か起きても、剣も魔法もからっきしの翔や葵ではロクな対応も出来ない。

“止むをえないか”

 悠長なことを言っていて、手遅れになったら意味がない。相手に構っていられる状況ではない。次の瞬間、リュオンは全力で走り始めていた。目指すは、翔と葵が向かった学院だった。

★  ★  ★

「はぁはぁ・・・」

 息が上がっている。運動不足だと思いながら、翔は階段を駆け上がっていた。リフトホールに入る度に御殿山が乗ったリフトの状況を確認する。まだ、どの階にも止まっていない。何処まで行くつもりだ? 五階、六階、七階・・・リフトはどんどん上がっていく。

「一番上かっ!!」

 十三階のリフトホールで確認した翔は、最後の階への階段を駆け上がった。一体、御殿山は何をするつもりなのか? そして、最上階である十四階のリフトホールに走る込むと──

「誰もいない?!」

 リフトの扉は開いていたが、中には誰も乗っていなかった。その時、バタンと扉が閉まる音が響いてきた。

「屋上か!」

 今の音は、屋上の鉄扉だった。その先は袋小路だ──息の上がる躰に鞭打って、翔は最後の階段を上っていった。

 軋む音と共に、屋上に続く重い扉を開ける。強い風が髪を掻き乱していく。果たして、御殿山は奥のフェンスの所に立っていた。大きく息を吸い込むと、翔はゆっくりと近づいていく。

「やぁ、三奈瀬君。早かったね」
「・・・」

 残りあと五歩のところで、翔は立ち止まった。

「御殿山君。何のつもりか知らないけれど、先程の言い方は容認できない。葵さんに謝罪して貰おう」
「謝罪だって? どうしてだい? 本当のことを言って、何が悪いのかな?」

 冷たい嘲笑を浮かべた御殿山は平然と言い切った。

「本当の事って何だ!」
「本当のことは本当のことさ。それに、そんなことに拘ったところで、もう手遅れだって思うけどね」
「な・・・んだって・・・」
「謝罪する相手がまだいればね、謝罪してもいいよ。フフフ、まぁ見てご覧よ」

 眼下を指し示す御殿山。ちらりと見下ろした翔の目に、信じられない光景が飛び込んできた。

「あ、葵さんっ!!」

 フェンスを掴んで、翔は叫んでいた・・・。

★  ★  ★

 翔が駆け上がっていった階段を黙って見つめた。あんな中傷は、散々聞いていたものだった。悲しさを通り越して心が麻痺してしまっているのか、そんな讒言(ざんげん)を聞いても、特に悲しみも何も感じなかった。それでも──自分に代わって怒ってくれる翔の行動には、正直嬉しいと感じるところもあった。

 黙って思いを巡らせていると、不意に一台のリフトがエントランス階に向かって下降してきているのに気が付いた。

「翔くん・・・?」

 そんな訳がないと思ったが、自然と呟きが漏れていた。五階、四階、三階・・・。点滅するリフトの表示を見ていると、なにやら胸騒ぎを覚える。どうしてだろうか? リフトがエントランス階に近づくにつれ、と思っていると、鈴が鳴る様な到着音と共にリフトがエントランス階に到着した。ゆっくりと開いていく扉。そして、葵は驚きに目を見開いた。

「やぁ、神和姫葵さん。このようなところで逢うとは奇遇だな」

 そこに、先程からの胸騒ぎの正体が立っていた。リフトから降りてきたのは、翔ではなかった。今最も逢いたくない人物──リフトの扉が開くと、そこには慇懃無礼な笑みを浮かべて琉央が立っていた。

「・・・」

 その射るような視線を浴びて、自然と自分の躰が後すざりするのを感じる。躰が小刻みに震えている。

「いつもの気の強さはどうした?」

 揶揄するように笑うと、一転酷薄な雰囲気を纏う。

「折角呼び出した龍王(リュオン)と別行動を取ったのは、明らかなミスだな。まぁ、今となってはどうでも良いことだが」
「どういう、こと」

 葵は気力を振り絞って問い返した。

「君の存在が計画に支障を及ぼすのでね。だから、ここでその憂いを絶たせて貰う。Komm, die Geister der Finsterniss・・・(闇の眷属よ来たれ)」

 琉央の口から摩訶不思議な言葉が漏れ出すと共に、周囲に靄のようなものが漂い始めた。ぞっとするような寒気に、心まで冷え込むんでいく。

「影が・・・」

 葵は目を凝らした。錯覚ではない。靄の中に、何かが蠢いている。そこまで見れば十分だった。どんな愚か者でも、このままここにいたらどうなるか判るだろう。身を翻すと、葵は走り始めた。

「逃げても無駄だよ、神和姫葵さん。君はここで“彼ら”の贄になって貰うのだから」

 薄笑いを浮かべて、琉央は空中に不思議な印を綴ると、軽く右手を振った。それに呼応する様に、靄の中からゆらりと骸骨の群れが現れ、葵の後を追う。

「あっ・・・」

 エントランス・ホールから走り出た葵は絶句した。いつの間にか沸いてきたのだろうか──正門の方からも、そして左右からも、エントランス・ホールと同じ靄が沸き、骸骨がギクシャクと歩きながら近づいてくる。咄嗟に後ろを振り返るが、今出てきたエントランス・ホールからも骸骨があふれ出てくる。左右を見るが、どちらの方向も、靄から現れてくる骸骨がいる。

“何処か、逃げるところは!”

 必死で見回すが、既に完全に囲まれていた。刃零れした剣や、折れかけた槍を手に、骸骨は無言で迫ってくる。振り返ると、エントランス・ホールの奥に冷笑を浮かべた琉央の顔が僅かに視界に入った。その時。

「アオイッ!!!」

 校門の向こう、靄の彼方から、力一杯自分の名を呼ぶ声がする。

「リュオンっ!!」
「アオイっ! これを受け取れーっ!!!」

 リュオンの叫び声と共に、靄を切り裂いて一条の閃光が葵の眼前の大地に突き刺さった! 

「!!!」

 一瞬閉じていた目をそっと開いてみると──金色に輝く一本の剣が、自分の前の面に突き立っている。

「これは・・・リュオンの、剣・・・?」

 何処かで見たことがある様な剣──ざわっと周囲を取り巻く骸骨に動揺が広がる。

「アオイっ! 心してその剣を取れっ!」

 リュオンの言葉に促されるように、だが何かに導かれるように、葵は剣に手を掛けていた。その途端、全身に電気が流れたような衝撃を覚える。あぁ・・・と、葵は思った。この感覚は覚えている。何だったのだろう──そう、金杯が現れ、少女の声が虚空から聞こえた時に感じた衝撃に似ている──

『・・・』

 何かが頭に響いてくる。激しい頭痛にも似た衝撃に視界が暗くなりながらも、必死にその言葉を聞き取ろうとする。

『・・・汝は・・・』

 もう少し。もう少しで聞こえる──葵は、必死にその声に集中した。

『・・・汝は、我の主か・・・』

 その言葉が認識された瞬間。葵の心の中で、今まで欠けていた何かがカチリと填る感じがした。

「然り。」

 何の疑問も覚えることなく、葵はその言葉を肯定した。途端、手にした剣が目映いばかりの輝きを放った。突き動かされる衝動のままに、葵は周囲を切り裂くように剣を一閃させた。

『ドォォォォンッ!!!!!』

 凄まじいばかりの光の渦が、幾つもの輪となって周囲に広がっていく。そして、その光に触れた骸骨は、瞬時に霧散して行った。

「あ・・・」

 躰から、力の悉くを吸い上げられる感じがして、葵は目の前が真っ暗になった。最後に覚えているのは、遠くから自分の名を呼ぶ翔の声だった・・・。

★  ★  ★
「覚醒したというのか? そうであれば、些か面倒な事になったな」

 一瞬にして、呼び出した骸骨全てが浄化されるのを見た琉央は、自嘲気味に呟いた。

「いずれにせよ、今日は出直しだな。命拾いしたな、神和姫葵・・・」

 いや、楽しみが増えたと取るべきなのだろうな、と笑みを浮かべながら、琉央刃エントランス・ホールの影に消えていった・・・。
☆☆ SCENE3に続く ☆☆

天査からのメッセージ
 予定通り、STAGE4/SCENE2をお届けします。ストーリー的には、色々と動きがありました(笑)。多少ゲーム的な要素も出てきましたが、まだ序の口です。これからどうなるかを、是非にご期待下さい。
 さて、今回葵が手にしたリュオンの剣は両刃の西洋式長剣(LONG SWORD)ですが、刀身の幅が普通より大分細くなっています。自重も見た目よりは軽めなので、打ち合うことさえなければ、女性の力でも数合は振えるだろうと思います。柄は長めで、手が小さければ両手で握れそうです。末尾には大きな蒼い宝石がはめ込んでありますが、その自重から考えると、カウンターバランスの役目をはたしているかどうかは疑問です。
 琉央ですが、なにげに悪役街道をまっしぐらですね。最初の現れ方からすると順当なポジションなのでしょうが(笑)。彼の、これからの活躍にも期待ですね。それでは、また次回の更新で。

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