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リアル・ストーリーの光と影

STAGE_03 「開かれた、扉」 SCENE#4
「三奈瀬くん! とりあえず、葵を寝かせて!」
「わかりました。悪いけど、彰も上着を頼む。」
「あ、あぁ。」

 上着を脱いで地面に敷く翔に習って、彰も慌てて制服の上着を脱いだ。翔はぐったりした葵を、そのそっとその上に横たえる。

「神和姫先輩、どうしちゃったんすかね・・・」
「わからないわ。こんなこと、あたしも初めてだもの」

 物事には動じない性格の亜里沙も、流石に困惑した様に彰に答えた。

「神和姫先輩、なにかご病気でも?」
「あたしの知る限り、何もないはずよ」
「病気じゃない・・・か。やっぱり、この金杯に関係がある、と思った方が良いんだろうな」

 先程、不意に空中に現れた金杯。今も、葵の両手にしっかりと収まるそれは、ワイングラスほどの大きさで、鈍く輝いている。

「この金杯っていったい・・・」

 何なんだろう、と呟く様に言う亜里沙。何もないところから現れるなんて、到底普通でないことが今ここで起きている。理解出来ないという表情を浮かべているのは、翔も彰も同じだった。三人は惚けた様に、互いの顔と眠る葵を暫し見比べるだけだった。

「うっ・・・」
「神和姫先輩?」
「葵? 葵、大丈夫?」
「大丈夫っすか、先輩!」

 低いうめき声がその停滞を破った。まだぼんやりとした表情で、葵はその瞳をうっすらと開いた。

「あ、りさ・・・?」
「葵、話せる? どこも痛くない?」
「・・・大丈夫・・・躰に、力が・・・入らないだけ・・・」

 ゆっくりとだが、言葉を返してくる葵に、亜里沙は緊張を解く様に大きく息を吐いた。よかった〜、と翔も彰も安堵の表情を浮かべる。

「心配したわよ、ほんとに〜」
「・・・ご、めんなさい・・・」
「高国先輩。まずは、神和姫先輩を保健室に連れて行きましょう。こんな所に寝かせておけませんから。」
「そうね。葵、保健室に連れて行くから。ちょっと辛いかも知れないけど、暫く我慢してね」
「・・・ん・・・」

 小さく頷くと、葵は眠る様に瞳を閉じる。そっと葵の髪を撫でつけてから、亜里沙は翔に言った。

「三奈瀬くん、頼める?」
「え〜っ! 何で翔なんすか! オレの方が適任ですよ〜!」
「アンタは黙ってなさい!」

 邪(よこしま)な考えを持っているヤツには頼めないわ! と亜里沙に一刀両断されて、彰は横暴だ〜と叫びながらさめざめと嘘泣きをしていた。もっとも、翔とてそんな光景をみる余裕が有る訳でもなかった。どうやって葵を運ぼうかと言う思考が、頭の中でぐるぐると巡っている。どうしようか、どうしようか、どうしようか・・・と悩んだところで、選択肢があるわけでもない。はぁ、と一つ溜息をついて、翔は意を決した。

「彰、上着を頼むね」
「わかってるよ」

 しゃ〜ないなぁ、と言う彰に頷くと、翔はそっと葵の背と膝裏に手を差し伸べた。

「先輩、持ち上げますよ」

 声を掛けると、翔は葵をそっと抱き上げる。思ったより軽い躰だった。先輩、きちんと食事してるのかななどと、場違いな思いに捕らわれる。

「以外に力があるのね、三奈瀬くん」
「これくらいなら大丈夫です。神和姫先輩、軽いですし」
「ま、がっちりした高国先輩だと、翔じゃ無理っすけどね〜」
「なんですってぇ!」

 ちゃちゃを入れる彰に、拳を振り上げる亜里沙。そんな二人に笑みを浮かべていると、屋上の扉が不意に開いた。背の高い、男子生徒が扉から現れた。酷薄な笑みと、影が差す様な雰囲気。翔はその名を知らずに口端に乗せていた。

「琉央・・・」
「やぁ、高国亜里沙さん。奇遇だね、こんなところで」

 努めて明るく振る舞う態度に、思い切りズレを感じる。見る間に機嫌を悪くした亜里沙がぶっきらぼうの極地、といった感じで対応する。

「アンタこそ、何しに来たのよ」
「ご挨拶だね。ここは共有の場だよ。誰に断る必要も無いと思うが?」
「じゃあ好きなだけいなさいよ。あたしたちは急いでいるんだから」
「ふふふ。君に言われるまでもない」

 敵意むき出しで相手に応じている亜里沙をみて、彰は驚いた様に翔に聞いた。

「誰だよ、あれ?」
「二年の琉央って先輩だ。どうやら、神和姫先輩と何かあったらしいけど、僕も詳しいことは知らないだ」
「そっか。でも、見るからにいけ好かないヤロウだぜ」
「その点は、僕も同感だね」

 小声で話していると、憤然と亜里沙が振り返った。

「三奈瀬くん、河邑くん! 行くわよ!」

 怒り心頭の亜里沙は、靴音高く歩いていく。屋上の扉を開けると、翔を手招きした。

「三奈瀬くん!」
「は、はい。今、行きます」

 翔は慌てて頷くと、抱き上げている葵の位置をそっと直して歩き始めた。得体の知れない笑みを浮かべる琉央とは、慎重に距離を取る。彰も、翔と琉央の間に入って相手を牽制することを忘れない。こう言うところは頼りになるな、と翔は思った。

 「三奈瀬くん。一つ忠告しておこう」

 屋上の扉まで辿り着いて、ほっとして翔が緊張を解いた時。背後から声が追いかけてきた。

「彼女は災いを呼ぶよ。このまま関わっていると、君も“女神が織りなす運命のタペストリーに編み込まれてしまう”よ。そうなってからではもう遅い。慎重に考えるのだね」
「勝手に言ってなさい! 二人とも、行くわよ!!」

 怒声と共に、叩き付ける様に扉を締める亜里沙。翔が最後に見たのは、亜里沙の剣幕にも全く動ぜず、いつもの冷笑を浮かべる琉央だった。
☆☆ SCENE_5に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 まずはお詫びを(この所、お詫び続きですが<苦笑)。本来、20日に予定していたアップ日を間違えて、18日と表記していました。間抜けな話、今日までそれに気が付かないなんて・・・。お待ち頂いていた方々、誠に申し訳ありませんでした。次回の予定日、23日は間違い有りませんでの、ご安心ください(笑)。
 さて、“金杯”なるアイテムがでてきました。アイテム(ITEM)とは、AD&Dで使われる魔法の道具を示すことばです。魔法的なもの(MAGIC ITEM)であることが多々あり、場合によっては、鍵となるもの(KEY ITEM)であることもあります。アイテムは、『鑑定』(IDENTIFICATION)をしなければ、その用途も能力も判らないことが殆どです。普通は、魔法使いに呪文(SPELL)を掛けて貰って、その用途と能力を特定してます。コンシューマーゲームに有る様に、手には入ったら即使えると言う訳ではありません。また、用途と能力が判っても、アイテムにその力を発揮させるには、『発動の言葉』(COMMAND WORD)を唱える必要がある場合が多いです。これも、前述の『鑑定』で調べることが出来ます。以上、ゲーム的な解説まで(笑)。
 ストーリーの方ですが、だんだんと混迷を深めている様な気がします(笑)。特に複雑にしようと意図しているのではありませんが・・・。非日常的な状況が続いていますが、ファンタシィ小説風味のゲーム手法解説を目指しているので、多少荒唐無稽な状況はご容赦を。

 御意見・御感想・御要望は 天査 まで!