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リアル・ストーリーの光と影

STAGE 2 「仲間、と呼ばれて」 SCENE#1
「おい、翔。翔ってばよっ!」

 何度目にかの呼びかけに、漸く顔を上げると、そこにはあまりご機嫌の宜しくなさそうな親友の顔があった。

「ん? どうしたんだい、彰?」
「どうしたもこうしたもないぜ! さっきから、セントラル・スクェアに新しくできたアミューズメント・ゲームコーナーに行こうって誘ってるだろ?」

 無視しないでくれよなぁ、と彰はぶつくさぼやいた。

「悪いね。今日はちょっと予定があるんだ、」

──付き合えないよ、と続けようとする翔の言葉を彰は憤然と遮った。

「そのセリフ、昨日も聞いたぜ」
「そうかい?」
「一昨日もだ」
「そうなんだ」
「一昨々日もだ! 翔、ここんとこ、ものごっつー付き合い悪いぜ!」

 どうしちゃったんだよぉ、オレのこともう飽きちまったのかぁ、と端から聞くと誤解を招きそうな事を言いながら机に突っ伏す。

「う〜ん・・・」

 言うべきか、言わないべきか──翔は逡巡した。葵との話が持ち直したのも、彰の励ましに寄るところが大きかったりするのだが、有りの儘に事実を話した時、必要以上に騒がれるのも嬉しくない。

「仕方がないな。」

 色々な要素を天秤に掛けて量った後、優柔不断な翔は大きな溜息を付いた。

「神和姫先輩との話なんだけどね・・・」
「おぉ、例の小難しい英語の本だろ?」
「あぁ。あの話、あのまま続けることになったんだよ」
「え? それって・・・」
「うん。課題はまだ続いているんだ」

 目をぱちくりした彰は、翔の話す状況の理解に多少時間がかかった。そして、ぱっと理解の光が茶色の目に宿ると。

「それって──翔、お前まだ神和姫先輩と付き合ってるのかっ!」
「付き合うって、ADnDを教えて貰ってるんだよ。彰の邪推している様な関係じゃないってば」
「ちくしょ〜っ! オレの知らないところで一人だけ良い思いしやがってっ」

 がばっと翔の両肩を掴むと、彰はガクガクと揺さぶった。

「ち、ちょっと、彰っ! や、止めてくれよ」
「何言ってるんだ、この幸せ者奴! その幸せをオレにも分けろっ!」
「だ、だから、誤解だって、あ、彰・・・」

 翔がいい加減揺すぶり尽くされた後、漸く彰の暴走が止まった。いや、いじけて現実逃避に走ったとも言えるかも知れないが。

「・・・彰。聞いてくれよ。彰に励まされてね、精一杯の気持ちで神和姫先輩にぶつかってみたんだ。課題は果たせなかったけど、精一杯頑張ってみたんだってね。そうしたら、先輩がまたマニュアルを渡してくれたんだよ」
「ちぇ。なんか、余計なことしちまったって感じるよ」
「そう言うなよ、彰」

 ふて腐れた様な物言いに、口元に苦笑が浮かぶ。

「で? 新しい課題でも貰ったのかい?」
「それが・・・はっきりしないんだ。“諦めるか、諦めないか”って先輩に聞かれて、“諦めたくない”って応えたら、このマニュアルを戻してくれた」

 パチンと鞄の留め金を開けると、中からハードカバーの英文マニュアルを取り出す。

「でも、何時までとか、何をどうしろとは言われなかった」
「へぇ、そうなんだ」
「自分なりに読み続けてはいるけど・・・」

 彰は、パラパラとマニュアルをめくった。ぎっちりと書かれた英文──横文字が苦手な彰には、見ているだけで目眩がしてくる感じがする。好きこのんで、こんなモン読む奴の気が知れなかった。

“でも、待てよ”

 彰は思い直してみた。これに関われば、合法的にあの麗しの神和姫先輩との接点になるじゃないか? それって、掛けた労力に見合う報酬じゃないか? 彰は、忙しく卓上打算機を叩いてみた。

“へっ、物事はいつもハイリスク・ハイリターンだぜ”

 事が事だけに、ハイリスク・ノーリターンになるかもしれない可能性を脳裏からあっさりと追い払って、彰は決心した。マニュアルをぱたんと閉じると机の上に戻す。

「一人じゃしんどいよな、これって」
「そうだね。読むペースは、慣れのせいか多少は上がっているけど、まだ読み終わるのは遙か先だよ」
「・・・だったらさ、オレも協力してやろうか?」
「そうだね、それも良いかも・・・って、えぇ?」

 仰け反る翔。

「彰っ! これは英文だよ? 彰とは不倶戴天の天敵、あの神田先生が教える英語なんだよ? 正気かい?!」

 不敵に笑って片手で鼻の下をこすると、彰は大きく頷いた。

「正気も正気、大正気だぜ。異論は無いよな、翔?」
「あ、あぁ。異論は特にないけど・・・」
「そうと決まれば、神和姫先輩の所に行こうぜ! オレも参加する許可を貰わないとな!」

 白い歯をキラリンと光らせて笑う彰は、翔をひぱって教室を出た。一抹の不安を覚えながらも、状況に押し流されていく翔であった。
☆☆ SCENE#2に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 またもや、三ヶ月半も更新を開けてしまいました。完璧に呆れられているだろう、今日この頃の状況に、涙もちょちょ切れる思いです(自業自得なのですが)。とにかく翔も彰も全然動いてくれなくて、己の駄文が一層酷い物になったと確信しています。はぁ(溜息)。
 さて、邪な野望を胸に(笑)も彰が英文マニュアル読破会(?)に加わりました。一応、独り決めしないで教える側である葵の許可を貰いに行きますが、これは常識ですよね。これまでのマニュアル課題は、あくまで葵と翔の間のものですから、彰がこれに参加したいと思うなら、直接葵にオッケイして貰わねばなりません。このような場合でも、勝手に『大丈夫だと思うよ』と請け合い、『いいですよね』と言って相手から選択肢を奪うような対応例を多々見かけますが、仮に上記の状況で翔の立場であっても、翔が彰に参加しても良いと言う権限はありません。誰に諮れば大丈夫なのか──しっかりと考えましょう。

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