エントランスへ サイト・マップへ 主BBSへ 日記+更新録へ アドバイスへ 一つ上へ戻る



リアル・ストーリーの光と影

STAGE 1 「出会いは、唐突に」 SCENE#9
<初日>
 夜─―三奈瀬宅。
 卓上灯を付けて机に座った翔は、受験勉強をしていた時を懐かしく思い出した。葵から借りたマニュアルを鞄からそっと取り出すと、英語の辞書を棚から引っ張り出す。中学に入った時に購入したその辞書は、年数の割には新しかった。持ち主の使用頻度が伺えるようだ。

「さてっと・・・」

 おもむろに、1ページ目を開く。「ADVANCED DUNGEONS & DRAGONS」とタイトルが書いてある扉絵のページだ。中程に数行説明書きがある。

「これも読む対象なんだろうな。えーと、『A COMPLIED VOLUME OF IMFORMATION FOR・・・』うわ・・・、四行下までピリオドがないよ!」

 初っぱなから愕然とする翔。ブルブルと頭を振ると、大きく息を吸って吐く。意を決決して辞書を手に取ると、記念すべき(?)最初の単語を引く。

「“COMPAILED”の意味はっと・・・“編集された”か。この“VOLUME”は音量のことじゃないんだろうなぁ・・・」

 パラパラ、と辞書をめくる音。それが数回続いた後、ピタリと止む。

「駄目だ。紙にでも書かなきゃ、覚えきれないや」

 引き出しからノートを取り出すと、今調べた単語を書いていく。単語に矢印をひっぱたり、線で消したりすること10分。

「これで出来たかな?」

 自分の翻訳(?)を見直してみる翔。

『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズを遊ぶ人たちの為の編集された本。内容は、性格、民族、階級、水面の能力、まじないの表と叙述、用意する物の費用、武器データ、冒険の為の情報』

「・・・何となく、意味が分かるような、それでいてやっぱり判らないような・・・」

 ちらりと時計を見る。すでに、マニュアルを開いてから30分は経ってしまっている。

「まだ1ページも進んでないのに、もうこんなに時間がたってるよ・・・」

 心の片隅に昼間の光景が蘇る。あの時は、熱に浮かされたように、思い切って“やる!”と言い切った。だが、実際に取りかかってみると、目の前に横たわる膨大な英文に、少しだけ後悔を覚える翔だった・・・。

<二日目>
 朝─―UNO学院高等部1年学習室。

「よぉ、翔。なんか眠そうだな」

 自分の席に座ると、さっそく彰が話し掛けてきた。眠そうに掌で目頭をこする翔を見ていると、唐突にニヤニヤ笑いを浮かべた。

「翔ク〜ン。どうしたんだ〜い、そんなに眠そうで。じ・つ・は・深夜にいかがわしい記録ディスクでも見てたんだろ〜。わかってんだぞ、おい。ホントにいやらしいやっちゃな〜」
「はぁ・・・お前と一緒にするなよ、彰」

 突拍子もない彰の想像に、翔は目一杯脱力した。ただでさえ疲れているのに、ますます精神的疲労が嵩む。

「へっ? 違うのかよ」
「違う。」

 きっぱり返した翔を、不思議そうに見る彰。

「じゃ、なんかのゲームをやっててはまりこんだとか」
「それも違う。」
「彼女と長電話・・・いや、この線は絶対に無いな」
「大〜きなお世話だ!」

 いい加減頭に来た翔は、彰に言った。

「彰にはわかりっこないよ。いいかい、僕は英語の本を読んでたのさ」
「へぇっ?!」

 翔が退学届けでも書いていた、と言った方が彰には理解しやすかったのかもしれない。

「お、おい。翔、とうとう悪いびょーきに脳まで犯されたか? ついに、行くとこまでいっちまったのか?」
「いい加減にしろ。寝不足は睡眠時間の不足。睡眠時間の不足は、英語の本を遅くまで読んでた為。だから今は眠い。邪魔すんなよ、彰」
「えぇっ、マジかよ! 英語の本って、いったいどうしちまったんだ? 英語って、お前学科ん中で一番苦手じゃないか!」
「五月蠅い。寝る」

 切り口上で会話を打ち切ると、翔はこれ見よがしに向こうを向いて寝てしまった。彰に向けた背中から、“これ以上一切話さないぞ”と言う堅い決意が伝わってくる。しばらくブツブツ言っていた彰は、翔が全く反応しなくなったので、諦めて自分の席に戻った。

 こうして一日中惰眠を貪った後。放課後、彰が声を掛けるよりも早く、ダッシュで教室から翔は飛び出して行った。取り残された彰は、ちょっと唖然とした表情でつぶやいた。

「ホントに、どうしたんだ、翔のヤツ?」

<三日目>
 爽やかな朝。だが、翔は半分死んだような、どんよりとした表情での登校だった。マニュアル翻訳は遅々としてはかどらない。昨晩も、夕食後6時間はマニュアルに向かったが、辛うじて『FOREWORD』と『CONTENTS』の部分を訳したのに留まっている。

『努力と根性だ!』

 葵に言い切った時の高揚感を思い出す。自分を鼓舞しようとするものの・・・努力と根性でも太刀打ちできないように思える高い山に、気力が萎えそうになる。翔は鞄をぐっと握った。いつもより心持ち重い学生鞄には、葵から借りたマニュアルが入っていた。昼休みの時間も翻訳を続けようと思って持ってきたのだ。進まぬ翻訳作業に多少はげんなりしているものの、翔は決して諦めてはいなかった。少なくとも、今はまだ。

「おー、今日もどんよりか」
「・・・」

 教室に入ると、さっそく彰が話し掛けてくる。ここ数日で妙に迫力を増した視線で彰を睨みつけると、無言で席に座った。

「おーこわ」

 軽口を叩きながらも、彰は改めて友人を見てみた。赤い目、憔悴している顔、眉間の縦皺。いずれも典型的な夜更かしの症状に思えるが、どうもそれだけではないようだ。やれやれと肩を竦めると、彰は翔の前の席に後ろ向きに座り、翔の顔を見る。

「・・・なんだよ」
「なぁ、翔。俺たちゃ友ダチだろ?」
「それがどうしたんだよ」
「友ダチなら、抱え込んでるモノを少しは話してくれてもいいんじゃないか? ここ数日のお前って、心配の種をまき散らしているような感じだぞ」
「・・・」
「俺に何ができるかわかんないけど・・・話してみるだけでも、多少は荷が軽くなるっていうもんだ。なぁ、翔。話してみろよ」
「・・・仕方がないなぁ」

 根負けした感じで、翔は大きくため息をついた。

「神和妃先輩と話したんだ」
「あぁ。会ったって話は聞いた。何があったんだ?」
「これだよ」

 翔は、鞄からマニュアルをそっと取り出して見せた。

「これは?」
「AD&Dの“マニュアル”、つまりルールブックなんだけど、これを100ページまで読んで、内容を神和妃先輩に説明することになってるんだ」
「げっ! これを100ページか!」
「あぁ」
「そりゃ、えれー話だな。それで? こいつをいつまでやっつけなきゃなんないんだ?」
「来週水曜日」
「な、なんだって!」

椅子の背に頬杖をついていた彰は、思わずずっこけた。

「100ページを来週水曜までだって! できるのかよ、翔!」
「だから、毎日こうして夜遅くまで努力してるんだ」
「努力ったってなぁ・・・お前、出来ることと出来ない事ってあるんだぜ。こんなのを100ページ一週間で読めなんて、あの嫌みな学年主席の樫村でも出来ないぜ!」
「はぁ・・・それを言わないでくれよ」

 目に見えてがっくりする翔を、彰はあわてて励ました。もっとも、支離滅裂、滅茶苦茶な励まし方だが。

「いや、でもな、人間やってみないとわかんないぜ! だいたい、人間には未知のパワーがゴマンと宿っているんだ。努力と根性でぶち当たれば、きっと路は開けるぞ!」
「はぁ・・・」

 ますます脱力しかかる翔だが、彰がなけなしの脳みそを絞って励ましてくれているかと思うと、内容はさておき、その心遣いは嬉しかった。

「サンキュ、彰。諦めるつもりなんかないよ。それに、日数はまだ半分あるんだからね」
「そうだ! 翔、その意気だ!」
「あ、彰! ちょっとタンマ。そんなに叩くなよ」

 ばんばんと肩を叩きながら屈託無く笑う彰を見ると、翔は頑張ってみようと言う勇気が沸いてくる思いがした。一人より二人。分担して担げば、重荷はそれだけ軽くなる。翔も、いつしか笑みを浮かべていた。

 そんな二人を、じっと伺う視線があった。絡み付くように翔と彰を睨め回すと、二人に気付かれる前に視線を逸らす。

「まっていろよ。今に、僕が助けてあげるからね。クククク・・・」

<四日目>
 眠い。限りなく眠い。夢遊病者のようにふらふらと学校に行くと、ようやく辿り着いた自席でそのまま沈没する。どうにもならない。これほどまでして、寝る間も惜しんで翻訳しているのに、読むスピードは遅々としていてはかどらない。

「よっ、翔」

 彰にしては珍しく、心配しているような表情だ。

「酷い顔色だな」
「言わないでくれよ。あんまり寝てないんだ」

 ぐったりしている翔には、それだけ言うのがやっとだった。

「で、どこまで行ったんだ?」
「聞かないでくれよ」
「それだけでだいたい想像がつくぜ。半分も行ってないんだろ?」

 しばしの沈黙の後。

「計画進捗度、予定に対してマイナス80%」
「二割かぁ・・・。今晩入れてもあと三日。そんな状況だと、全ページ完訳はかなりムズイな」
「まぁね」
「どうすんだ?」
「続けるさ」
「終わらなくてもか?」
「・・・今は、結果のことは考えたくない。目先のことを精一杯やるまでだ」
「やれやれ・・・エールだけは精一杯送ってやるよ」
「ありがたくて涙が出るよ」
「へへへ、礼なら要らないぜ」
「言ってろ。」

 翔は、少し気分が晴れるのを感じた。昔から、自分が落ち込むと彰が気を紛らせてくれる。翔自身を除けば、翔の性格を一番良く理解しているのが彰だろう。見かけはアホでも(実際にアホだって言う話もあるが)、こんな時に頼りになる親友だった。

<五日目>
「三奈瀬君。ちょっといいかな」

 昨晩も夜遅くまでマニュアルと格闘していた翔が、精根尽き果てた感じでぐったり学習室の自席で沈没していると、いきなり耳慣れぬ声が掛かった。大儀そうに顔を上げると、視界に細面で色白な顔が入ってくる。

“あれ? 誰だっけ?”

 睡魔にぼけた頭でぼんやり考えていると、相手は構わず先を続けた。

「実はね、君と河邑君の話を偶然耳にしてしまってね。一昨日から、同じクラスメートとして何か手助けできないかと考えていたんだよ」
「はぁ・・・そうなんだ」

 我ながら、間の抜けた返事だと思ったが、とりあえずそれ以上の返事が思いつかなかったので仕方がない。

「そこでね、これを君に貸してあげようと思って持ってきたんだ」

 そう言うと、その相手は手にした薄いプラスティックケースを翔の鼻先でヒラヒラさせた。物言いたげに翔が見上げると、相手はにっこり笑って言った。

「DVD-ROMだよ。“翻訳大王布袋ビル”というソフトが入っている」
「はぁ・・・」
「そう。これを使えば、君の抱えている英文100ページなんてあっと言う間だ。どうだい、使ってみないか?」
「あっという間にだって?」
「あぁ。手順は簡単だ。まずは、学校のスキャナーを使ってその英文を全文取り込む。それを、この翻訳プログラムをインストールした君のパソコンに転送して、プログラムをランさせればOKだよ。翻訳された文章は多少修正が必要だが、それもご愛敬。まず間違いなく、今晩中に仕上がるよ」
「・・・」
「じゃ、渡したからね。いや、御礼なんて構わないさ。君の役に立てるようなら、僕もクラスメートとして嬉しいからね」

 一方的に話すと、唖然とした翔を残して相手は自分の席に戻った。因みに、その席は教壇の真ん前の、通称“ビーチヘッド”と呼ばれ、誰もが敬遠する特等席である。

「おい、翔。お前いつから御殿山と知り合いになったんだ?」
「知り合いも何も・・・名前すら覚えてなかったよ」
「そっか。しっかし、なんでアイツがお前にそんなもん貸してくれるんだ?」

 そう言うと、彰は翔が手にしているDVD-ROMのケースを指さした。

「僕にもわからないよ、そんなこと」
「そっか。まぁ、不思議なこともあるもんだ。もしかして、アイツ翔にホ・の・字・かもし・・・」
「絶対にあり得ないっ!!」

 彰の言葉を途中でへし折って、翔は完膚無きまでに否定した。

「まぁ、そんなことはどうでもいいんだけどな。それより、そいつを使えば翻訳完了ってわけだろ?」
「そうとは言ってたけどね。実際に試してみなければわからない。まぁ、本当に旨く作動してくれたら大助かりということろかな」
「期限まであと二日だからな。そうと決まれば、早いトコデータをスキャンしちまおうぜ!」
「そうだね・・・」

 彰の言葉に頷きながら、翔はどこか心に引っかかりを感じていた。

<六日目>
 翌朝。珍しくすっきりした顔で翔が登校してくる。その変化を目聡く見つけた彰が、翔の席に寄ってくるなりしたり顔でのたまった。

「よぉ、翔! よく眠れたみたいだな。その感じだと、うまくいったんだろ?」
「うん。凄いソフトだったよ、これって。僕のパソコンでも、100ページの翻訳に1時間掛からなかった」
「そりゃ〜いいな。それでよ、完成なのかい?」
「いや、まだ翻訳された中味をきちんと確認していない。今晩やるよ」
「やれやれだな。まぁ、約束の期限にぴったり間に合ったから結果オーライってとこか」

 笑いながら話している二人の背後に音もなく忍び寄る黒い影。

「やぁ、三奈瀬君に河邑君」

 いきなり不意打ちを食らわすのが御殿山の趣味らしい。驚いて振り返える二人の反応を、御殿山は薄ら笑いを浮かべ見た。

「あの翻訳ソフト、簡単だったろう? 今どきね、手で翻訳するなんて流行らないんだよ。世の中には便利なアイテムがたくさんある。旨く活用して、手間を減らすのが現代人の知恵さ。“努力と根性”みたいな精神論は、とっくに時代遅れだね」

 その口調には、そこはかとない悪意が混じっていた。優柔不断でやや鈍感な翔も、体育会系で大雑把な彰も、言葉に含まれる“トゲ”を感じていた。翔の表情も、彰の表情も、険しさを増した。

「そう決めつけるのはよくないよ」
「なんでかな? “努力と根性”とやらでやっていたら、君のその翻訳は終わらなかったのだろう? 結果から考えれば、どちらが優れているか明確だよ」
「それは違う。今回の件は、単に僕が英語を苦手としているからに過ぎない。個人の能力と専門ソフトの能力を比べるのは、コンピューターの演算が人間より速いって比べるのと同じだよ。コンピューターの方が定型作業に向いていて、作業が早いのは当たり前。それだけを対比させて、“努力と根性”を否定するのは短絡的だね」
「うっ・・・そ、そんなの屁理屈じゃないか」
「俺も、翔の言う通りだと思うぜ。確かに、コンピューターの演算は速い。けどな、そのコンピューターも誰かが“努力と根性”で作ったんだろ? それを否定してどうすんだよ」

 二人に言い立てられて、御殿山は思わず後ろに二三歩下がった。顔色が紙のように白くなり、口元がブルブル震えている。

「な、なんだよ! 偉そうなこと言っても、結局は僕の貸したソフトで翻訳を完成させたじゃないか! そんなに言うんなら、“努力と根性”だけでやってみろよ!」
「なんだとぉ!」
「ヒィッ!」
「ちょっと待った!」

 一方的な“白兵戦”が始まる前に、翔は御殿山と彰の間に割って入った。不満そうに唸る彰を背中で押しとどめると、静かに御殿山を見つめた。疚しい思いを抱いているのか、御殿山はそわそわと目線を動かしている。

「御殿山君。まだお礼を言ってなかったね。翻訳ソフトを貸してくれてありがとう」
「・・・ふ、ふん。」
「それから、もうひとつ。僕に大事なことを認識させてくれた」

 御殿山の讒言(ざんげん)を聞いて、翔は今まで漠然としていた想いが、胸の内に沸き上がってくるのを感じたのだ。どうして、自分はこんな翻訳をやると葵に言ったのか。自信なんかある訳がない。出来ると言い切る根拠のなさ。まさに蛮勇だ。それでも・・・自分は“やる”と言い切った。その時、不意に胸に沸き上がってきた想い・・・。それは人の心を動かし続けるエナジーだ。

「君が何を意図して、僕に翻訳ソフトを貸してくれたのか判らない。けれども、僕は自分が探していたものを見つけたと思う。それは、はからずしも、君が勧める“路”とは正反対の方向に伸びているようだね」
「何をいってるんだ! 私はね、君の苦労を軽くしてやろうと思ってだね・・・」
「ありがとう。でも、僕には必要ないよ」

 御殿山は、よろりとあとすざった。穴の開くほど翔の顔を見つめるが、全く付け入る隙が見つからない。白い顔が青くなっていくと、その場の圧力に耐えられなくなったのか、突然自分の席に走って戻った。慌ただしく机をかたづけると、鞄を掴み翔と彰を睨みつけた。

「み、見てろ! 今日の事を、今にきっと後悔するからな!」

 捨てぜりふを残して、御殿山は学習室から走り去った。

「・・・ヤレヤレ、朝っぱらから早退かよ。ま、アホは放っとこうぜ」
「あぁ」

 苦笑いして頷く翔。

「ところで、どうすんだ?」
「翻訳を続けるよ。翻訳ソフトで作った和訳は破棄する。楽してやっても、自分の為にはならない。それがわからなかったために、一日無駄にしちゃったよ」
「そりゃー違うぜ、翔」
「え?」
「何も無駄になっちゃいないぜ。その一日の経験が、今日の確信につながったんだろ」
「・・・そうだね。うん。その通りだ」
「そうと決まったら、時間を無駄にすんなよ、翔」
「わかってる。データは持ってきてるから、休み時間も翻訳を続けるよ。学校が終わったら、ダッシュで帰る」
「それがいい。授業さぼって翻訳してるのが神和妃先輩に知れたら・・・」
「本末転倒だね」
「ハハハ、違いないぜ」

 翔が、昨日から感じていた心の引っかかりは、どこかへ雲散霧消していた。翔はその日、晴れ晴れとした気持ちで授業にのぞんだ。

<七日目>
 最終日。朝日が東の窓から室内に射し込んでくる。翔はその眩しさに目を細めると、ゆっくりとマニュアルを閉ざした。やるだけのことはやった・・・そんな自負はあるが、それでも葵の言ったページは遙か彼方だった。自力で翻訳したページ数は33ページ。昨日学校が終わったあと家に直帰して徹夜で翻訳を続けたが、それ以上は進まなかった。

「潔く、自分の負けを認めよう」

 葵の期待に応えられなかったのは残念ではあったが、精一杯やったと言う想いに、後悔は感じなかった。

「さぁ、行こう」

 自分を鼓舞するように言うと、翔はそっとマニュアルを鞄にいれ、家を出た。
☆☆ SCENE#10に続く ☆☆

★天査からのメッセージ
 大変長らくお待ったせ致しました。RSMMのSCENE#9お届けいたします。いや・・・長かったです、このシーン。書けども書けども、終わりがないように思えました。ボリューム的には、これまでのシーン4本分くらいありますから、長かったのも当たり前ですけどね(^_^)。
 さて、翔に対する最初の誘惑がありました。翔は色々感じるところがあって、その誘惑をはね除けますが、ただでさえRPGは準備などに時間が取られます。従って、単純作業が要求されることには、遠慮なくその単純作業に向いている解決方法で処理しましょう。しかし、額に汗をかくことが要求されている場合は、手を抜いたり、ちゃっかり路線を走るのは止めましょう。キチンと見ている人には、全く評価されなくなるので。

 御意見・御感想・御要望は 天査 まで!