A WORK IN PROGRES 感想

倶楽部YYZ宛にニールのビデオ「A WORK IN PROGRES」についての感想が届きました。
実際ドラムを叩かれてる方からの感想ですので、私が書いているよりもかなり説得力があります。
ちょっと長いですが、最後までご覧下さい。(
原文のまま掲載します

2000/5/23にTAMAドラム命さんからビデオの感想いただきました。
下に記載してあります。


北米での盛り上がりに比べて日本ではRushに対する注目度、またファンの数も圧倒的に少なくあまりメディア関係でも取り上げられません。
私は“Permanent Waves”でRushに感銘を受けそれ以来のファンですのでかれこれ20年近くになりますがあまりRushについて語り合える人が周りに少なく残念に思っております。
私自身ドラムをプレイするのでニール・パートはもちろんお手本のドラマーのひとりとして尊敬しております。
ニールはロックドラマーとしての面だけでなく、執筆面においても昨年“The Masked Rider”というバイクによる西アフリカ紀行本を出版しています。
この本、出版元に直接オーダーしなければならない為、非常に入手しにくく、まだ自身入手しておりませんがニールを研究する上で是非近々読んでみたいと思っております。
このビデオ、よくあるドラム教則物とは違い、もちろんドラムテクニックの披露もあるのですが、ニールのドラミングに対する真摯な考え方、バンド内における彼の役割や特にこのビデオを出す前の約二年間のバンドを休止期間を利用し、ドラミングに磨きをかけるためのフレッド・グルーバーに教えを請い、学んだことなどを中心にニール・パートという人物像にスポットライトを当てた構成になってます。
彼がこれ以上なにを学ぶ必要があるのか?もう既にテクニカルロックドラマーとして不動の地位を築き上げているにもかかわらずなにをこれ以上学ぶ必要があるのか、という声もNational Midnight Star(ラッシュのメーリングリスト)で当初あがってました。
フレッド・グルーバーについて不勉強な私は、彼についてはよく知らないのですが、ジャズ系のドラマーであることは確かだと思います。
確かに普段ロックドラミングのみこなしている者にとって、ジャズドラミングのアプローチというのは非常に新鮮で、学ぶことが多いことは確かです。
ロックに比べジャズは歴史が古い上、革新的なドラマーとして挙げられる名前もジャズ系の人が多いのも事実です。
こういう観点からニールはフレッドから教えを受ける要因になったのではないかでしょうか。
また常に謙虚に学ぶことを忘れず、常に進化を心がける態度を忘れない彼の姿勢を垣間見ることができます。
日本でこのビデオを購入すると訳本がついてくるので彼が何を語らんとしているのかはおおよそ分かると思いますが、映像には字幕が付かない上、半分以上語りで構成されているので英語がつらい人にとってはかなり苦痛になると思います。
ビデオに登場するニールは非常に雄弁、早口で無駄のないしゃべりかたをします。
強面、眉間の皺から予想される人格とは異なり、意外なほど気さくな感じの人で、規律正しく、まじめな人間であることが窺えます。
彼のドラミングスタイルに話を移しますと、かなり今回の“Test For Echo”では今までのマイナーチェンジと比べ、劇的に変化しています。
先ずグリップを全曲すべてレギュラーグリップでこなしたこと。
(“ザナドゥ”のエンディングのロール部分をレギュラーグリップで叩いているのをプロモーションビデオで確認したことはありますが)この事に対してニールはダウンビートが弱くなることを非常に危惧していた様ですが、実のところ最初このことを知らずにこのアルバムを聞いた当方はそのような印象は全く受けませんでした。
更に今までグリップエンドで常にヒットしていたのを、通常のチップ側で叩く、通常のスティックの使い方をしております。
いかに強く叩くかではなく、いかに音をスネアの特性をいかして効率よく叩くかが重要であるかということをスナップの使い方を披露しながらニールも強調しております。
またドラムセットもかつてのニールらしさを多少残しながら基本セットを重視したこと。
スネア、バスドラ、タム×1、フロアタム×2を基本とするセットはロックに限らずあらゆるジャンルのドラマーに共通の基本セッティングです。
かつて“Grace Under Pressure”の頃の目を見張るメロタム、タム類の数、また何を考えてか、観客に背を向けてシンセドラムを叩いていたころ(来日時のRed Sector Aがそうだったと記憶しております)は、この後彼のセットはいったいどうなってしまうのか、もう残っている場所は天井しかないなどと余計な心配してしまったものですが、Rushの音楽性の変化に伴って、セッティングも少しずつシンプルになり、現在にいたっております。
また全体的に打面の位置、特にスネアが、かなり高くなってます。
円運動という言葉を何度もビデオの中で使っておりますが、基本セットのスネア、タム類の打面を両腕の円運動でカバーできる位置、無理に不自然な形で腕を伸ばすのではなく、一度叩いた腕の勢いを利用し、自然な形で腕を打面に流れるように運ぶ。
そのためには、セッティング事体を大幅に変える、打面をできるだけ体に近づけることをフレッドから薦められたとニールは語っています。
“Test For Echo”以前のビデオを見るとスネアの打面の位置は膝頭より低いぐらいの位置にセットされダウンビートを重視するニールの姿勢が感じられますが、ビデオの中のセッティングはスネアの底が膝の位置と同じ高さにセットされています。
実際の“Test For Echo”ツアーでもレギュラーグリップで叩いていたようです。
またセッティングもビデオの中と全く同じものなので、過去の曲をどうタム類の少ない新しいセットでこなしたのか、興味深いところです。
フィルインについても曲調にあわせて比較的シンプルに聞こえるものが多いのですが、実に注意深く検討され、吟味されており、一見非常にシンプルに聞こえるフレーズも実はプレーしてみるとかなり難しいことを思い知らされます。
同じメロディーフレーズにたいして同じフィルインは使わない様に心がけている、などこだわりを感じさせられます。
かつての若さとスピード感のある体力派フィルインからスピード感は維持しつつも、見た目軽々しく、テクニックでこなす、技量的に優れたフィルインが目白押しであります。
またニールはドラマーについて確かにフィルインなど事前に考えず即興ですばらしいフレーズを叩ける天才的なロックドラマーも確かにいる、(私は個人的にはジョン・ボーナムがその筆頭だと思っております)だがしかし彼も含め、ほとんどのドラマーはそんな技量、才能はなかなか持ち得ないので、事前に曲調にあわせたベストのリズム、フィルインを十分に吟味し選択する必要があるのだと強調しております。
その結果ニールはすばらしいドラミングを披露してくれているわけです。
“Test For Echo”のプロデューサー、Peter Collinsから“ドラミングのスタイルは変わったけど、やっぱり君のサウンドは変わりないね”という印象を言われたとき最初は少しがっかりしたけど、良く考えるとそれだけ自分のサウンドが確立されているのだ、と自信を持った、というニールのコメントが非常に印象的で好感が持てます。
また機材についても、長年使用していたTAMAのドラムセットを“Test For Echo”から気分一新、DWのセットに全面的に置き換えた模様です。
ニールはこの新セットを非常に気に入っているらしく、シンバルの残響音を手でミュートして止めなければならないのと同様このセットはドラムの残響音を手でミュートしなければならないほど、音の伸びがいいと絶賛しております。たしかにタム類は非常に抜けのよいすばらしい音をかもし出しておりますし、ニールがほぼ全曲のプレイで使用している通称“ファットボーイ”(恐らく非常に重いのだと思います)というスネアもブラス胴のシャープさとウッド胴のまろやかさを兼ね備えた非常に味のある音です。
きっとこのセット、日本で購入するとなるとかなり高額なものなのだろうと思いますが...
ドラムを演奏するのにベストの衣装として、ヘッドフォンをつけた頭には必ず、自転車用のカスク(ニールはヘルメットと言っていますが正確には“カスク”と言います)にバンダナ。
シューズはスニーカーは駄目、必ず“ダンシングシューズ”(きっと底がかなり薄く作られているから良いのだと推測されます)、などとスタイルに対するこだわりも、見せてくれます。
またニールのもう一つのバンド内での責任範囲、歌詞についてもかつて“2112”、“フェアウェル・トゥ・キングス”、“へミスフェアーズ”で絶頂期を迎えた、アインランドの“Anthem”やJRR・トールキンの“指輪物語”から影響を受けた神話的、哲学的な世界からより現実的、現代社会的なアプローチの歌詞へと変化するにいたった心境を図り知る事ができます。
より自然に、肩に力を入れないリラックスした雰囲気で詩作活動にふける為に森にこもって思策を施すことなどがニールのにとって最良の制作活動環境であることを知ることができる。
ビデオの野外ロケもほぼ全編森の中で行われていることから彼の森に対する思いと、彼に内面的な憩いを与えてくれる環境を画面の中から感じとることが出来る。
私見ですが、このようにインターネット経由でさまざまな情報が入手できる便利な世の中になり私もその恩恵を浴びている人間として、ニールがインターネットに対し、否定的で警鐘を鳴らしているのが少し残念です。
以前Modern Drummer誌にニールから直接この件に関する手紙が届けられ話題になったこともありますし、“Test For Echo”の"Virtuality"にもこの考えが反映されております。
歌詞事体は直接的にnet boy, net girlを攻撃、批判しているものではないのは確かですが、私はニールがインターネットの利便性はそれとして、その弊害について存在することの認識を忘れてはいけない、と解釈し好意的に捉えたいと思っております。
常に物事には光と影が存在するということを。
最後に去る8月10日に交通事故で亡くなったニールの愛娘Selena Taylorに哀悼の意を表したいと思います。ご冥福をお祈り致します。


TAMAドラム命さんからビデオの感想いただきました。(原文のまま掲載します

私のニール・パートとの出会いは、ビデオの「A show of hands」でした。その爆発的かつ繊細なプレイは初心者にとって感動以上のものがありました。さっそくBig Moneyをコピーしてみたが全然!ワカラン!動かん!もうやみつきでした。しかし、ブッタたきドラム馬鹿だった自分に、まったく違ったモノを教えてくれたおかげで、自然に力を使わずたたいていても、「パワフルだね」といわれるようになり、しかーも!どこにいっても恥ずかしくないだけのウデはつきました。(もうニール様様!!)加えて今回のヴィデオ!もう言う事無いっしょ!てな感じです。 さて、当ヴィデオについて、私からも感想を・・・。まず一番感じたのは「フォームの変化」でした。以前に比べると、随分「柔らか」になったとおもい、その分演奏にも「丸さ」が出ているようにおもいます。しかも、ノリが「気持ちいい」のです。それは本人自身も言っているように、自由に「マエ・ウシロ」と行き来する(僕のようなヘタのまえ・うしろでなく)ノリが、何か心地よく感じるのです。そして「技」について。やはり以前に比べると、とても「優しい」のです。しかし、そのインパクトは数段、い やそれ以上のような気がします。と言うのも、「曲・他楽器のフレーズに埋もれず、そのフィルが曲の一部としてハマッている」ということです。ここでまた一つ教えられました。 最後に一言。全音楽人の皆様へ、「シンプルなもの」について、ぜひ覚えておいてほしい言葉があります。それは、「複雑なものを単純にしたものがシンプルなもので、単に簡単なものをシンプルとは言わない」という一言です。常に「芸術家」として活躍する人の言葉で、単なる「知っている・かじっている」ヤツの戯言とは、その重みが違うという事を、解ってくださいい。 随分とデカいことや知ったかぶったことも言いましたが、やはりニール・パートというドラマーを知る(しかも現在進行形の)一番のヴィデオです。ぜひ、見てください。