ケイゾク/映画  2
 
FAIRY TALE
99/12/27

さて、何から話したものかのう・・・

久方ぶりの帰宅に出迎えてくれたのはそびえ立つ洗濯物じゃった。
あれから、いろいろなことが起こり過ぎてのう・・・
ワシの頭も未だとっちらかっておるのじゃよ。

話す前に腹ごなしをさせておくれ。
とりあえずカロリー・メイトのフルーツ味と紅茶花伝のロイヤル・ミルクティーを・・・・・ん?
は・は・は・・・いかん、いかん。もうこういった食事はせんでいかったのう。
それじゃあ、チーズ味を・・・

ことの起こりは1回目の編集ラッシュからじゃった。

まだ1回目のお披露目も済んでいないうちからアフレコをやったり映倫チェックを行ったりと波乱万丈の幕開けじゃったが、通常の倍はあろうかというフィルムの山をやっとのことで繋ぎ終えたのが9日の朝で、そのお披露目をお昼から行ったのじゃ。

この繋ぎ終えるだけの作業がかなりの労でのう、今回はトリック解明とかのエッセンスがバラバラに上がってきたもんじゃからなかなか素材が一まとめにならんかったんじゃ。
特に小物撮影はラス日にまとめて撮られるもんじゃから、後半はほぼ手つかずの状態じゃったんじゃ。
何度となくAvidで編集できなかった仕上げ体制を呪ったもんじゃ。助手の伊藤君も次第に口数が減っていったのを覚えておるよ。
そうそう、今はこうして編集者としてビュワー(フィルム投影機)の前に座しているが、ついこの前まで対面の助手の席に座っておったんじゃよ。
そのワシがこうして助手をつけて作業ができるようになった事にちょいとした感慨もあったが、編集者としての重責に作業中は何度も助手の席に戻りたくなったもんじゃ。STARTボタンを押してパーティーチェンジをこう・・・は・は・は・・・冗談じゃよ、冗談。半分だけな・・・

そして、3時間のラッシュを観終えるなり堤さんがこう切り出したんじゃ・・・
オフライン
99/12/27

「こりゃ編集タイヘンだ。オフラインでやろう」

オフラインとはビデオ編集のことじゃ。
1回目の編集フィルムをテープにおとし、それをビデオスタジオでビデオ編集するというのじゃ。

ワシは自分の耳を疑ったが、「オフラインでやろう」と、ご丁寧に同じことを2回も言ってくれたので、それが事実と判明するのに時間はいらんかった。

しかし、冷静に考えるとそれはかなり合理的な方法じゃった。
ワシも『ケイゾク』テレビ・シリーズを事前にチェックし、ケイゾク的編集を勉強したつもりじゃったが、出来上がったものは堤さんの中では、まるでダメ夫君じゃったようじゃ。
その開きを埋める作業を堤さん立会いで、しかも3時間の素材をフィルムでやるとなると少なくとも10日はかかる。
クリスマス放映のスペシャル版の編集作業をしていた大野さんには寝耳に水の激務じゃったに違いないが、おかげで半分の日数でこなす事が出来たんじゃ。
いやはや、大野さんには多大な迷惑をかけてしまったワイ。この場を借りてお詫びを入れたいものじゃ。

オフライン作業に立ち合わせてもらい、ケイゾク的編集を再構築することが出来たワシは、その再編集テープを持ち帰り早速フィルム編集に還元することにしたんじゃ。ワシなりの消化をしての。

ふう、喋り疲れたワイ。ここいらへんでドロンさせてくれんかのう。イソジンの香り漂う館がワシを呼んでるような気がするんじゃよ。
目覚め
99/12/28

ん・・・むにゃむにゃ・・・

今、何時じゃ?
なんと!?まだ朝の5時ではないかっ!
どうにもあの過酷な日々のスケジュールが身体から抜けきれておらんようじゃの。
そう、あれはまさに戦争じゃった。
何人もの戦士が倒れ・・・・・

何?『MESSENGERS』のコメントでもそんなことを言っていたじゃとっ?
そうやって同情を引こうったってそうはイカンじゃとっ!
喝っ!
何を言うか!
確かにこの業界の奴らは「いやあ、もう3日寝てないよ」とか「1ヶ月帰ってないよ」とかツラさ自慢をしたがる輩が多いが、そんなものワシにとってはみっともないこと『愛する二人、別れる二人』の如しじゃ。苦しさを人前に出してなんとする。ツライことをグッと飲み込んでこその漢というものじゃ。そもそもワシは今月5回しか家に帰れなかったのじゃぞ!1日20時間労働じゃ!誰か「いい子、いい子」してくれてもよかろう!ってこれがツラさ自慢かーーーっ!!

前置きが長くなったようじゃの。
どうでもいいが、老人言葉はどうにも広島弁って感じがするのう。広島もんは老若男女みんな老人じゃ!くわっ!
2回目編集ラッシュ
99/12/28

2回目の編集ラッシュは大画面で確認したいとの堤さんのお達しにより、日活で行われることになったんじゃ。

上映日程は当初15日の予定じゃったんじゃが、再構築となると思った以上に時間がかかり、急遽ワシが助監督の佐藤さんにゴメンナサイの電話をするハメになったんじゃ。

編集部に多大なる理解と心のエールを送ってくれた佐藤さんのこと、この上映延期の知らせも快諾してくれるじゃろうと踏んでのことじゃったんじゃが
「15日までに出来ますって言いましたよね?」と、にべもない返事が返ってきよった!
鬼じゃ!
それまでの仏の顔が嘘のような鬼じゃワイ!
パズーによく似た小鬼がおるワイ!

ヘンゼルとグレーテルのような気持ちになったワシは早速釜戸に火をくべたんじゃ。

必死の思いでようやく再編集が出来上がったのは17日のこと。予定より2日遅れてのことじゃった。
オフラインのビデオを参考にしたとはいえ、ワシなりのアレンジをこっそり施しておいたんで内心ドキドキもんじゃったが、鑑賞後の堤さんの反応はマズマズのようじゃったワイ。
しかし問題は、依然2時間15分という尺の事じゃった。
この段階でかなり内容を切り詰めてあったんじゃが、どうしても2時間を切らんとイカンらしくて、上映後スクリーンを直撮りしたビデオを見つつ、再検討していったんじゃ。
尺調整マジック
99/12/28

たった今、フジのテレビ放映予定欄を見てきたんじゃが『困ったひとたち』(1月4日放映)の監修欄に堤さんの名前を発見したぞ。
いったい何時撮影したんじゃ!
まったくもってバケモンじゃ!
「おっことぬし」じゃ!

さらなる調整を施しようやく2時間を切った『ケイゾク』じゃが、シーン単位で外すことを選択しなかった為、3時間の展開が2時間に濃縮された結果となってしまったんじゃよ。

あまりの展開の早さに客がついてこれるか不安になったもんじゃが、テレビシリーズを思い返せばこんなテンポだったんかもしれん。

素材を扱う者としては、切り捨てられた幾つかの「遊び心」が惜しまれてならんよ。それは決して面白くなかったから切り捨てたという訳ではないんじゃよ。なんというか、こうスパイシー・チリドッグのような雰囲気たっぷりの「遊び心」だったんじゃが・・・

まあ、作品をまとめるという意味では必要な切り捨てだったと言い聞かせてはいるが、それにつけても驚かされたのはその尺調整テクじゃ。そのバラエティの多さにはさすがのワシも舌をまいたワイ。
CMやビデオ・クリップではお馴染みの手法らしいんじゃが、いざ自分がやるとなるとなかなかにテコズッタのを覚えておるよ。ええ勉強になったワイ。
幻影オール・ラッシュ
99/12/29

オール・ラッシュとはそもそも、その作品の編集における最終チェックのようなものでな、観終わった後は、所々の直しはあっても音楽や効果音の打ち合わせに費やされるものなんじゃ。

それがじゃ!
今回はそんなセオリーなんぞどこ吹く風だったんじゃ。
出てくる、出てくる!(菊千代)
追加合成カットに追加直しの山!
近づいた出口が遠のいていく『レナードの朝』のような心境じゃよ。
当然、小山ゆう顔じゃ!
「約束なんているぁないわぁ〜」、と巻き舌も快調に、ワシは看護婦姿に身を包みガラスというガラスを叩き割ったんじゃ。

結局、翌日と翌々日に直しのリクエストを加味した編集を堤さんにチェックしてもらい、なんとか事無きを得ることが出来たんじゃ。事無き、とは言えんがの。

ふう〜、これで『ケイゾク/映画』編集篇の話は終わりじゃ。ま、厳密にはあと一葉二葉あるんじゃが、それはまた別の機会にしてくれんかの。とにかく今回はお家に帰れんかったのが一番つらかったワイ。
編集室に寝泊りした時には何度となく、小人の精がワシの寝てる間にこの編集を片付けてくれんものか、とか、コクーンがワシに手を差し伸べて一言「もう十分やったじゃろう?」といって、あちらの世界に連れてってくれんものか、とか、現実逃避のヒットパレードが頭をよぎったもんじゃが、ふと「柴田のあの間が気になる!」という思いが胸をかすめると、居ても立ってもおれず自然と机に身体が向かうから不思議なもんじゃて。

ともあれ、12月中決して返されることのなかった第5編集室の鍵がようやく返される時が来たんじゃ。ゆっくり落ち着かせてもらうことにするよ。
ああ、君、すまんが牛乳屋さんの珈琲を買って来てくれんかの?ちょいと喉を潤したいもんでの。
 


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