06 芋田楽  入むこのふらちハいもへ味噌を付


初美 田楽というのは、串に刺した豆腐やこんにゃくなどに味噌をつけて焼いた料理、芋田楽はその里芋版ということよね。表題にある不埒は道理に外れること、芋田楽は里芋に味噌をつけた料理なのに、それをしたのがお婿さんの不埒だなんて意味が何か変だよ。
家守 あなたは知っているくせに、時々、しれっとして聞いたりするからなあ。
初美 そんなことがあったかしら。
家守 芋田楽の説明にはこの句が適当かな。

   でんがくのくしにへのこを遣ふ也  末二18   田楽の串にへのこを遣うなり

 親芋が母親、子芋はその娘、その両方にへのこの串を通した、つまり、一人の男が母親とその実の娘の両方と姦通したというのが芋田楽のもう一つの意味。親子丼とか、親子どんなどともいうよね。
初美 里芋の親芋は芋頭(いもがしら)ともいって、茹でても子芋より幾分硬いのよね。水けが少ないみたい。
家守 形も子芋が卵型であるのに比べ、親芋はもっとずんぐりしている。
 それで、表題句。

   おふくろに養子やつぺし味噌を付  末四17       お袋に養子やっぺし味噌をつけ
   入むこのふらちハいもへ味噌を付 破礼36(曲事)   入り婿の不埒は芋へ味噌をつけ

 「やっぺし」はやたらに、「味噌をつける」はしくじる、失敗するというのが本来の意味だけど、ここでは手をつけるぐらいの意味かな。田楽につけるのは手ではなくて味噌だろうと。養子がお袋に対してやたらと失敗したでは何のことやら意味が通じない。

   娵のへのこをお袋がとりあげる 末四14   嫁のへのこをお袋が取り上げる
   二役娵のへのこ實ハお袋のゝ  末四21   二役(ふたやく)嫁のへのこ実はお袋のの

初美 これらの句の嫁は息子のお嫁さんよね。その息子と母親が関係を持つって、えっ、近親……それって相当にまずいんじゃない。
家守 さすがに近親相姦はないよ。これらの句の息子というのは養子に入った男のこと、だから、母というのはその養母。この養母に亭主がいれば、まだ、子どもができる可能性だってあるわけだから養子をもらう必要なんかないんだけど、後家なのか、とにかく亭主はいない。年齢は30代後半といったところかな。それが養子をもらって、一方の若い男はやりたい盛りだから、その二人が一つ屋根の下で生活していたら、聖人君子でもない限り、なるようになるのは時間の問題じゃないかな。これらの句は、その養子が嫁さんを迎えたんだけど、そのへのこは既に養母が青田刈りしていて、売約済みの札が貼ってあったと、こういうことだね。
初美 でも、もとは他人でも養子縁組みしたら親子、不義は不義よね。
家守 それはそうだけど、川柳は笑いが基本だからさ、そこら辺はあまり目くじら立てないで穏便にいこうよ。

   とんだ事聟の寐所に母の櫛 七一19   とんだこと婿の寝床に母の櫛

 落ちていた櫛を家の者が見つけて密通がばれちゃった。この場合は大方、下女あたりが見つけたんだろうね。
 
初美 使用人がいるということは商家とか、そんなところよね。家を存続させなければいけないから養子を迎えるのか。

   いもの親娵にハゑごくあたるなり 末三3   芋の親嫁にはえごく当たるなり

家守 「えごい」はえぐい、いがらっぽい。「いもの親」は親芋という意味ぐらいだと思う。いもというと、いもづらのこともあるんだけど、この場合は考えにくいんじゃないかな。
初美 養子の息子とはねんごろになっていてかわいいから、そのお嫁さんに対しては実の息子の嫁以上に辛辣に当たる。でも、実際、こんな家に入ったお嫁さんは、めちゃくちゃ、大変だろうなあ。
家守 かわいいといえば、こんな句もある。

   あまり可愛がり養子を抱て寐る 傍三6   あまり可愛がり養子を抱いて寝る

 嫁さんが旦那とその親との不義を誰かに訴えるにしても、母と子が密通しているなんて良識人には想像できないから、一笑に付されて終わるどころか、かえって、ばかなことを言うなと叱責されかねないし、そもそも、身内の恥をさらすわけだから言うこと自体、はばかられるし、いずれにせよ、厄介だよね。

   後の親をおやとせずいもでんがく 末三9   後の親を親とせず芋田楽
   芋畑親子引とるふてへやつ     四二9   芋畑親子引き取るふてえやつ

 義理であっても親を親とも思わない。やっぱり、芋田楽なんていう不義はアウトだろうと普通の人だったら思う。これらの句の作者もそう思っているんじゃないかな。

   此儀斗リは御用捨と養子いい   末四15    この儀ばかりはご容赦と養子言い
   養母に恥をかゝせたでやかましい 一九ス12   養母に恥をかかせたでやかましい

初美 2句めは養子が拒絶して養母に恥をかかせたということかしら。でも、受け入れても拒否してもどちらも面倒くさいことになる。
家守 養母の胸一つで離縁されることもあるしね。
初美 親から子に三くだり半?
家守 養子に対して出された離縁状を見たことがあるよ。実物を見るまで思いも寄らなかったんだけど、確かに考えてみれば、そういうことがあってもおかしくない。
初美 養子に向けた養母からの離縁状か。

   おかしさは芋でんがくで相ばらみ   末四5    おかしさは芋田楽で相孕み
   けしからぬ事ハ養母が孫をうミ    末四26    けしからぬことは養母が孫を産み
   仲条へむすこけい母をつれて來る  一二12     中条へ息子継母を連れてくる
   とんだやつ親をのせてハ子をおろし  四九11   とんだやつ親を乗せては子をおろし
   かゝにさま付そうなのも不義のゑん 末三22   かかに様付けそうなのも不義の縁

家守 「相ばらみ」は養母と嫁の両方が孕んだということ、中条は堕胎専門医、「かゝにさま」はかかに様をつけてかか様、つまり、母様。不義の結果、母親とも呼べそうな年上を女房にせざるを得なくなった。でも、若後家とか男やもめとかが今日とは比べものにならないぐらいに多かったようだから、こんなことは少なからずあったんだろうね。
 一方、逆のパターンもあるよ。

   息子のものを親父ばんをくるわせ 末三30    息子のものを親父番を狂わせ
   醉ひまぎれ芋田樂をしうと喰    一〇二15    酔いまぎれ芋田楽を舅喰い

 1句めは、客分といって内祝言は済ませているんだけど、年回りが悪いとか、何らかの理由で正式な祝言を挙げるまで嫁さんを客扱いにして嫁ぎ先に住まわせることがあって、だから、息子もまだ新枕を交わしていない。その嫁さんに親父が先に手をつけちゃった。次の「醉ひまぎれ」は、酔いに任せて力尽くでというニュアンスもありそうな感じがする。
初美 それはとってもまずいという以前に親として、というよりも人間として失格。鬼畜だよ。
 それで、次は……あれ、これで終わりなの。今回も短いのね。
家守 うん。ほかにも句はあるにはあるんだけど、それらを羅列していたずらに引っ張るのもどうかなと思って。例えばこんな感じで。

   しうと女のまた最中に聟に行き     破礼35(曲事) 
   姑てむ子をもてなしもめるなり        破礼35(曲事) 姑で婿をもてなしもめるなり
   こつそりとあしな孝行する養子     破礼35(曲事) こっそりとあじな孝行する養子
   嫁か居ぬはつお袋のへのこなり    破礼36(曲事) 嫁がいぬはずお袋のへのこなり
   お袋をまつ大筒ておひやかし     破礼36(曲事)  お袋をまず大筒でおびやかし
   せんたつへ養母おかした事も言ゝ   破礼35(曲事) 先達(せんだつ)へ養母おかしたことも言い
     先達:その道の先生。
   りえん息子しうとを〆た咄をし     破礼36(曲事)  離縁息子姑を締めた話をし
   ふらつきよな息子しうとをふくらませ 破礼36(曲事) 不落居な息子姑をふくらませ
      不落居:合点がいかない→気まぐれ、物好き。
   大丈夫聟親舩の楫を取        六四7      大丈夫婿親船のかじをとり
   芋汁ハどふだと養母ぜんをすへ   一〇三4     芋汁はどうだと養母膳を据え
   聟どのや聟どのやには聟こまり    一〇八32    婿殿や婿殿やには婿困り
   いかなれバ娘と聟を別に寐せ     一四一34    いかなれば娘と婿を別に寝せ


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