05 茶臼  帆柱を立ると女房かぢを取り


家守 「出合茶屋」の項で茶臼のことが少し出てきたので、今回はそれに関する句を集めてみたよ。でも、今回は説明も多くはなさそうだし、本当にジャブみたいに軽くなりそうなので、あなたの出番はあまりないかもね。
初美 いつもそう願いたいよ。 
家守 まあ、そう言わないで。では、早速。
初美 いきなり入っちゃうの。
家守 だから、短いって。

   おかしくも無に茶臼を見て笑ひ 二二9
   茶臼山講訳なかば下女笑    三四33
     講訳は講釈の誤り。

 1句めの茶臼は実際に茶葉をひく臼のこと、2句めの茶臼山講釈というのは、いわゆる太平記読みによる大坂冬の陣・夏の陣の講釈を聞く下女。太平記読みについては自分で調べてね。
初美 ちょっと、ねえ、ちょっと待って。軽い、短いと手を抜くのとは違う。今のは説明しなきゃまずいよ。
家守 えっ……そうか、ごめん。
 太平記読みというのは、広辞苑に「江戸時代、路傍などで太平記・信長記などを講釈したこと。また、その講釈師。後世の講談の初めという」とある。平賀源内の小説「風流志道軒傳」の主人公・志道軒なんかが有名だね。この人は松茸に似た棒で演台を叩きながら講釈したので、聴衆は笑いながら聞いていたらしい。ただ、志道軒は柳多留34編出版の40年ほど前に亡くなっている。

   左樣でハ逆と奥樣おいやがり     二七27
   あをのけに成て女房をいやからせ 二一ス3  あおのけになって女房を嫌がらせ
   女房をくどくを聞ば茶臼なり     末二20    女房を口説くを聞けば茶臼なり
   口をすくして女房をはらへのせ   末二33   口を酸くして女房を腹へ乗せ

 2句めの「あをのけ」は「仰向け」、次の二つの句は上になれと亭主が口を酸っぱくまでして口説いている。女が自分から男の上になるのは、恥ずかしいものだと前に言ってたよね。
初美 だって、がつがつしていると思われたくないでしょう。ところで、「あをのけ」の「二一ス3」はどういう意味なの。
家守 柳多留21編は、万句合勝句刷からの抜き出しが30丁で終わり、次の丁からは天明6年正月に開かれた角力句合という会の句が掲載されている。それの3丁めという意味。ス4丁からは同年3月に行われた女柳という人の追善句合の句がス12丁まで続いている。
 では、続き。

   いんにとぢやうにひらいて茶臼也 末初31   陰に閉じ陽に開いて茶臼なり

 易学、つまり、陰陽の筮竹(ぜいちく)を6本引く占いで、陰は女、陽は男とされている。この句はワンクッションが抜けているのでわかりにくいんだけど、陰の女に対して男は足を閉じ、陽の男に対して女は股を開いてということ。仰々しい割に何のことはない、単にスタイルを表しただけの句だよ。

   けた/\と笑ふをていしゆはらへのせ 末二9    けたけたと笑うを亭主腹へ乗せ
   今夜斗よと女房うへになり         末二23   今夜ばかりよと女房上になり
   上にしたそうで夜中に娵笑ひ       三七28   上にしたそうで夜中に嫁笑い
   あをむけに寐て女房にへのこされ    末二35   仰向けに寝て女房にへのこされ
   女房にへのこをさせるぶしやうもの    末二36   女房にへのこをさせる無精者
   下にしてくれなと女房せつながり    末二36
   から尻へ女房茶臼の乘心         二八24   から尻へ女房茶臼の乗り心
     から尻は荷を乗せていない馬。

   ちや臼のあいそうにていしゆもみつちり 末三2    茶臼の愛想に亭主揉みっ尻
   もつと大こしにとていしゆ下ていひ      末二33   もっと大腰にと亭主下で言い
   女房に茶臼引かせりや引はづし     末初34   女房に茶臼引かせりゃ引っぱずし

 「もみつちり」というのは尻をくねくねと動かすこと。でも、女が大腰を遣ってもなれていないと外れちゃったりする。

   しんぼうをはめると茶臼ねだり言  末三12
   日にまして茶臼なんどゝのぞみくい 末三31
   しやんとおやしなと女房のつかゝり  末四3
   さか子うミそれから茶臼とんとやめ 末四26   逆子産みそれから茶臼とんとやめ

   此やうにさせハせまいと女房いゝ  末四12   このようにさせはせまいと女房言い
   帆柱を立ると女房かぢを取り     三八33

 「此やうに」は、亭主が下女か何かに手を出してるので、あの女はこんなことまでしないはず、私のほうがいいだろうと言っている句、次の「帆柱」はへのこのこと、「かぢ」と船の縁語仕立てになっている。これらは茶臼かどうかわからないけど、女がかじをとる、つまり、リードするわけだから、茶臼関連の句としておいても、そんなに間違ってはいないと思う。

   茶臼おわつてしんまくの其わるさ 末三9   茶臼終わってしんまくのその悪さ

 「慎莫(しんまく)」は後始末のこと。茶臼の後始末は、厄介だとか、気まずいというところかな。大体のイメージは想像できるんだけどね。
初美 あえて説明しなくてもいいのはしなくていいと思うよ。
家守 さて、今回、用意したのはこれらで最後。

   茶臼山女房十分勝いくさ    三五26   茶臼山女房十分勝ちいくさ
   茶臼かとおもへハ巴首をかき 五六8    茶臼かと思えば巴首をかき
   女武者茶臼に成て首を取    六三18

 巴は木曾義仲の愛妾・巴御前。義仲の養父・中原兼遠の娘で武勇にたけ、義仲に従って京まで上っていった。
初美 以前に歴史を題材にした句は、取り上げないようなことを話していなかったっけ。
家守 そうなんだけど、巴や女武者関連は類句がほかにもあった気がするので、ここで取り上げておくことにする。巴は男まさりの勇ましかったので、戦場では男に乗ってその首をかき切ったこともあっただろうという句。
初美 これで終わりか。今回は本当に短かったね。
家守 句も多くないし、説明もそんなに必要なかったからね。


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