□「はんばーがーというもの」  by SEIRU


 学校の帰り道。
 美汐はほてほて、と歩いていた。うなじを、風が通
りすぎていく。季節は・・・秋。

 美汐はふと、空を見上げた。いわし雲がふわふわと
空を漂っていて、なんだか美味しそうだった。

「今日はお魚にしましょうか」

 ついでにスーパーで、すっかりなくなったひじきも
買い足して。うん、そうしましょう。美汐がそう思っ
たときだった。

「ういーす」
「あ、こんにちは、天野さん」

 美汐は振り返った。

「?」

 美汐は祐一と名雪に気がつくと、ぺこりと頭を下げ
た。

「こんにちは」
「今帰り?」
「はい」
「天野は帰宅部だっけ」
「ええ。・・・相沢さんもでしょう?」
「名雪は違うけどな」
「うにゅ」

 名雪は微かに胸を張った。

「部長さんなんだおー」
「おーってなんだおーって」
「うにゅ」

 名雪はにこ、と笑った。

「そいえば、商店街よってくんだけど。天野さんもど
うかな」
「・・・・・・・・」

 美汐はちょっと考えた。

「別に、かまいませんけど」
「そっか。じゃわたし、バイト代入ったばかりだから
ハンバーガーでも奢るね」
「うお名雪太っ腹っ」
 
 祐一が茶化した。

「太ってませんっ!!うにゅっ」
「いや、そういう意味じゃなくってなぁ」

 祐一が拗ねる名雪を宥める。美汐はそんな二人を見
てくすくす笑った。

           ○

「天野さんは、何にする?」

 カウンタに並びながら名雪が問う。美汐は戸惑った
顔をした。

「あまり、その」

 こういう場所は入ったことが無いのだ。美汐はもと
もと和食が好きだったし、はんばーがー、などと言う
ものは高かろりーのうえに、一般的に栄養の偏りが指
摘される食べ物で、ぜったいぜったい、健康に悪いの
だ、と祖母から教わっていて・・・

「そう?じゃぁねじゃぁね、BLTなんかどうかな」
「びーえるてぃー?」

 美汐は間抜けにもそう聞き返した。
 そして、思わずその響きに真っ赤になる。

「ベーコンレタストマトの略。さっぱりした味で美味
しいんだよ」
「水瀬さんは?」
「わたしは、テリヤキバーガーにしようかな」
「てりやき!」
「きゃ!!」

 美汐はカウンタからぴょん!と飛び出た栗色の頭に
びっくりした。

「ま、真琴っ?!」

|真琴はテリヤキーっ。|gif

 うにゃぁ。真琴の赤いリボンで彩られた頭の上に、
乗っているぴろが鳴く。

「て・り・や・き!」
「あはは」
「真琴、たべるーっ」
「・・・・・・」

 美汐は目を丸くしたが、優しく微笑んだ。

「はいはい。真琴は、いつも元気です」
「あうー」

 真琴の頭を美汐はなでなでをした。

            ○

「遅かったなぁ・・・ってなんで真琴までいるんだ」
「なによーっ」
「まぁまぁ」

 名雪が祐一に言う。

「フィレオバーガーがいいんだって、真琴」
「おまえなんか半額バーガーで十分だ」
「あうー、何てことゆぅのよぉ」
「へへーん」

 美汐は、そんなやりとりを、見ている。
 賑やかなテーブル。

「どうしたの?」

 名雪が優しく聞いてきた。

「あ、いえ・・・」

 そして、手に持っていたBLTバーガーをしげしげ
と見た。

「おいしいよ」
「うん。BLTはお勧めだな」
「あ、真琴もそれにすればよかったなぁ」
 
 うにゃぁ。

「おまえはだから半額バーガーで」
「ほっといてよぅーっ」

 美汐は、そっと、それを口におっかなびっくり運ん
だ。じわ、とトマトの果汁と、しゃきしゃきとしたレ
タスの感触。そして、ベーコンの塩味。

 思ったより、くどくなかった。

|はむっ。|gif

「・・・おいしい・・・」
「ほら、やっぱり」
「良かったねぇ、美汐」
「ありがとうございます、真琴」

 もぐもぐ、しながら美汐は答えた。
 それからウーロン茶をすする。

 ずずずず。

「名雪ー、ポテトくれ」
「はい、どうぞ」
「真琴も真琴もーっ」
「はいはい」

 美汐はテーブルのそんな光景を見ている。

 そして、ふと、通りに面している硝子を見る。

 ・・・びっくりするほど、自分が笑っていることに
気がついた。

「どしたの、美汐?」
「いえ」

 美汐は小さく、くすり、と笑った。

 それは、どこかで、いつか、見た光景のようで、手
に入れる未来のようで、遠い過去のようで。

 いつまでも、続くような、放課の姿で。

 暮れ行く夕日に、流れる少しだけセンチメンタルで、
大事な未来に繋がるような。

 それは、きっと、オトナになっても、思い出すよう
な、"あなた"がそこにいる証拠。

 はんばーがー、というものは、多分、そういったも
のかもしれない。

 美汐はぱく、とBLTのパンズをもう一度口に含ん
だ。


                 おわり  ■■

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