「採って下さい」

 たしか9月の暑い日。

私はしょうちゃんと小岩で待ち合わせをしていた。

待ち合わせ時間を間違えたことに小岩の駅を降りたときに気付いた。

「・・・疲れた」1時間駅ビルを歩き回ってみた。あと30分。

駅前に出てみた。

うーん・・・。でも抜くか!

時間も丁度良さそうだし。

私は献血はキライではない。

人様の役に立っているって一番実感できるし。

 ちなみに私はこの頃、ものすごく血の状態が良かった。

のちに睡眠時間をさいてバブルの中を遊びまくっていたことがたたり、

血の比重が軽くなって献血出来なくなってしまった。

本格的な役立たずだ。

最近は全然献血していないけど、いい血になったのかなぁ。

 献血が終わったのは丁度約束時間10分前。

ジュースを飲んで、サランラップを貰った。

さて行こうかなって思ったとき、右の手のひらがグッショリぬれた感触。

「汗?」

・・・見ると手が真っ赤に染まっていた。

「!」

止血の脱脂綿の下から、ドクドクドクドク・・・流れ出てる、流れ出てる。

あらら、と思い献血車に引き返した。

「すみません、血が止まりません」

と、声をかけたとたんに看護婦さんが悲鳴をあげた。

私は気付かなかった。

右の脇腹にベッタリが付いていて、刺されたようだ。

止血剤を使って血を止めて貰い。

新しいシャツを買ってもらってしまった・・・。

「すみません」と言う私に、

「いいんですよ。献血をしてくださったんですから」

と、その中でもエライと思われるおじさまが言って下さった。

いい人だ。これからも献血しよう。

そして私に笑顔で太鼓判を押して下さった。

「あなただったら400cc採っても大丈夫!」

 待ち合わせ時間は大幅に過ぎていた。

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