ふわぁ〜〜〜………………あっ!おはようございます!
僕の名前は碇シンジ。現在、25歳。碇グループと言う総合商社の………まぁ、一応………その………御曹司って事になってます。(テレ)
何故、一応なのかって言うと実の両親でないから………。
僕の本当の両親は僕が16歳の時に他界していて、父の弟夫妻に養子に入ったからです。 言うなれば叔父と叔母なんです。 今の両親は。
父と叔父は今の会社の共同経営者で、力を合わせ祖父からから受け継いだ時よりも遥かに大きくし、『財界の寵児』と呼ばれてたみたいです。
叔父夫妻には子供もなく僕を本当の息子のように扱ってくれ、時に養父さんはそれなりに厳しく、自分と兄………つまり僕の父さんが育てたグループを継げるようにと『帝王学』を学ばせました。経営者としても一流で尊敬できる人です。
養母さんも優しく聡明な人で、女性としてもすばらしい人だと思います。でも………なんというか………ちょっと過保護なんですよね〜〜。
それでも、僕の事を本当に愛してくれての事なんで文句はないんですが………(ポッ)
と、そろそろ会社に行く準備をしないと!(汗)
「おはよう、養母さん。」
「おはよう。」
「今日も良い天気ですね。」
「そうね。あ、そうそう。シンジさん、あなた、ニューヨークに転勤が決まったそうね。」
「え?ニューヨーク?」
「ええ。知らないの?冬月の叔父様が言ってらしたわよ。」
「さあ、僕はまだそんな話、聞いてませんけど………何時、聞いたんですか?」
「一昨日だったかしら………でも、冬月の叔父様がおっしゃる事ですから間違いないですわね。」
「そう………ですね………」
そう言うと養母さんはニッコリと笑いながら、僕の方へと近づいてきた。多少イヤな予感がしたが食事も終ってないので逃げる訳にもいかず、次の言葉を待った。何時もの朝食の風景だったのだが、予想した言葉が僕の耳に入ってきた。
「早速、貴方のお嫁さんを探さなくちゃ♪」
(ヤッパリ………何かある度にお嫁さん、お嫁さんて………)
僕は溜息混じりに言った。
「またですか?」
「またとは何ですか?」
「お嫁さんて………それこの前も言ったじゃないですか。僕にはまだ早いって………」
養母さんは1日も早く孫の顔が見たいらしく、最近は攻撃が頻繁になってきた。僕としても『良い人がいれば』と考えない事もないけれど、今の所、残念な事にそんな人は見当たらない。
「い〜〜え!シンジさんは少しのんびりし過ぎてます!」
(………何もそんなにキッパリと断定しなくても………(汗))
「25歳といえば、もう、結婚してなくてはおかしい年なんですよ!」
(………そ、そんなことないと思うぞ………30過ぎても独身の人だっているじゃないか………)
「それに!あちらの国ではお付き合いは夫婦単位と決まってるでしょ!」
(………そうかなぁ〜〜?………)
「行ったら、2〜3年は帰って来れないって、冬月の叔父様もおっしゃってたわ。そんな所に貴方を1人で行かすなんて………ウルウル」
(………出た!養母さんの最終兵器の泣き落としが………これには弱いんだよなぁ〜〜)
「わ、わかりましたよ、養母さん!その件に関しては任せますから、泣かないでください。」
その一言を聞いた瞬間、養母さんの顔は満面の笑みに変わる。
(………嘘泣きだってわかってるのになぁ〜〜)
いそいそと僕の見合いの準備を始める養母さんを見ながら溜息を一つつくと家をでた。
Another World
結婚への道
出社した僕を待っていたのは、相談役の冬月の叔父さんだった。
「シンジ君。ちょっと話があるんだ。お茶でも飲みに来ないかね?」
「はい。」
「シンジ君。今度、君はニューヨーク支社に配属が決まってね。」
「そうみたいですね。今朝、養母さんに聞きました。でも、どうして僕に言う前に養母さんに言うんですか?」
「まぁまぁ、すまないとは思ったんだが、つい………な。」
「はぁ〜〜………まあ、済んだ事は仕方がないから良いですけど………お話は以上ですか?僕にも、まだ、仕事が残ってるんですけど………」
「いや、もう一つ………」
「なんです?」
「君の養母さんから渡してくれと頼まれてな。」
そう言って叔父さんが出したものが………お見合い写真の束だった。
「なななななななんですか?これ?」
「見た通りだよ。みんな折り紙付きのお嬢さんばかりだ。好きなのを選んで良いそうだぞ。なんなら全員と見合いしてみるか?」
「ぜぜぜ全員と?」
そう言いながら溜息混じりに写真を見た時、1枚の写真が瞳に止まった。
「………1人で良いです………」
気がついた時には、僕はそう言っていた。
「綾波さん、お見合いするって本当?」
「うん、そうだけど………どうして知ってるの?」
「へっへ〜〜。ニュース・ソースは明かせないわ!で、相手はどんな人?」
「それがなんと!あの碇グループの御曹司なのよ!」
「「「え〜〜〜〜〜〜〜!」」」
「スッゴイじゃないですかぁ〜〜!」
「なんか私が聖心女子大出身だから、何か勘違いして話がきたみたい。」
「うそ〜〜!綾波さんてあのお嬢様大学出てんのぉ〜〜?」
「そうなのよ。私のおばあちゃんの悲願だったみたい。ミーはーなのよ。年甲斐もなく。本当は幼稚園から入れたらしかったけど、お金がなくって諦めたみたい。」
同僚達は只、私の話を聞いている。
「本当は私、お見合いなんかしてる暇ないんだけど、親戚も乗り気だし、お坊ちゃまにも興味あるし、私もクリスマスだし………まぁ、断られてもともと。なんて言っても赤阪の料亭でお食事できるんだも〜〜〜ん♪た〜のしみ〜〜♪」
「………綾波さんて………食べる事に目がないもんね〜〜(溜息)」
同僚達の冷たい視線が突き刺さった。(汗)
「こちらが碇様のご長男、シンジさん。お父様は、只今、商用で海外にいらしております。」
紹介されてシンジはお辞儀をする。続いてレイが紹介される。
「こちらが綾波様のご長女、レイさん。」
レイもお辞儀をしながらチラッとシンジを見る。で、感想。
(お坊ちゃまって言っても………なんだか地味ねぇ〜〜でも、可愛いかも♪)
ちょっと顔を赤くしてシンジが喋る。
「とても素敵な………振袖ですね。」
とたんにムッとなったレイのコメカミがヒクヒクと動き出す。シンジの養母がたしなめると焦りながら取り繕う。
「え、あ、いえ、も、勿論ご本人も………いえ、レイさんも………」
その場をしのごうとする仲人から質問が飛ぶ。当のレイはご馳走を前に我慢できるはずもなく、既に箸を走らせていた。
「綾波様の叔母様は確かオーストラリアにいらっしゃるんですよね?」
「いいえ。長野ですが。」
「えっ?」
ちょっと空気が重くなる。
「あの………レイさんは聖心女子大の仏文科でしたよね?」
「いえ、国文科ですけど。」
慌てて口の中の物を飲み込み答える。
「えっ?」
更に、空気が重くなる。
「ク、ク、クラブは、た、確か茶道部………で………」
「いえ、クラブよりもバイトが忙しくて。」
どんよりと漂う重〜〜い空気。
シンジの養母と仲人のヒソヒソ話が始まる。そして………
「あ、あの………碇様が急用を思い出されたそうで………」
「えっ?」
それまでレイをじっと見つめていたため、話に付いて行けなかったシンジが驚きの声をあげる。それに構わず席を立つシンジの養母と仲人。
「すいません。本日はこれで失礼致します。」
「???」
呆然と見送るレイと両親。?マークを出しまくっている。
が、我にかえった父親が状況を飲み込み怒り出す。(………当たり前か………(汗))
「なんだ!なんだ!なんだ!あの態度は!胸くそ悪い!」
「どうも、他の人と勘違いされたみたいねぇ〜〜」
「どーりで話がうますぎると思ったわ。でも、まぁ良いか。美味しいもの食べられたし♪」
暢気な母親と、取敢えず目的のご馳走にありつけて、満足そうなレイ。色気よりも食い気の25歳だった。(爆)
一方のシンジ達。養母が愚痴をこぼしている。
「まったく、なんて事でしょう。聖心女子大の学籍簿が間違ってたのかしら。考えられないけど………」
「………でも、僕はあの人気に入ったな。活発そうで………」
「何を言うの。そんな軽はずみな事を言ってはいけません!家の格が違いすぎるでしょ!なにも好き好んであんな………あなたにはもっと良いお話がいくらでもあるんですよ。」
「でも、養母さん………」
「とにかく!次からはこんな事が起こらない様に、然るべき所に調べていただいてからにしましょう。」
養母の言い方に不満そうな顔をしてるシンジだった。
で、翌日。
「綾波さん、お見合い、どうだった〜〜?」
同僚に聞かれ、大きなバッテンを両手で作るレイ。恥ずかしいのか少し顔が赤い。
「あらら〜〜それは残念………」
「その日のうちに仲人さんから、お断りの電話があったわ。」
「え〜〜、どうして?」
「どうやら、聖心女子大の卒業生の誰かと間違えたらしくて………で、家の格が違うとか言われたわ。」
「なにそれ〜〜ひっど〜〜い!」
「ま、しょうがないわよ。始めからダメもとだし、美味しいご馳走も食べられたし♪」
「綾波さんて、ホント、色気よりも食い気ねぇ〜〜」
「ほっといて!」
そう言った時、レイは呼ばれた。
「綾波さ〜〜ん、電話よ〜〜碇さんて方から。」
「碇さん?」
そう呟きながら受話器を受け取り、電話に出る。
「はい、もしもし、綾波ですが。」
「あの………昨日、お会いした碇シンジです。」
意外な人物からの電話に驚くレイ。
「………え〜と、あの………この前はあまりお話が出来なくて残念でしたね………」
「はぁ?………そう…です……ねぇ………(なんで?そっちから断ってきたのに電話かけてくるの?)」
状況が把握できないレイは混乱していた。
「で、もう1度お会いしたいんですが………そちらに伺っても宜しいでしょうか?」
「ええ………ええっ?でも、あの話は………お仲人さんが………」
しどろもどろになるレイを遮ってシンジは続けた。
「では、伺いますので後ほど………」
そう言って切ってしまう。
「ど〜〜したの?綾波さん?」
「………彼が………来るって………」
「誰が?何時?」
「お見合い相手が………これから………」
「え〜〜〜っ!碇グループの御曹司が〜〜!」
「すいません。突然、押しかけてしまって。」
「い、いえ………(う〜〜む、ヤッパリ可愛いわ。)」
「あ、あの、何か?」
ジッと見つめられてちょっと赤くなってしまうシンジ。レイも慌てて取り繕う。
「あ、いえ!ここじゃなんですから近くのティールームに行きませんか?」
シンジとレイは場所を移した。一緒に移動するレイの同僚………つまり野次馬。
「この前は本当にすいませんでした。うちの養母がなにか勘違いしたらしくて。」
そう言って頭を下げるシンジ。
「あ………いいえ、いいんです。」
「本当ですか?怒ってらっしゃいませんか?」
「はい。」
「それでは………あんな事の後であつかましいのですが………結婚を前提にお付き合いして頂けませんか?」
あまりに突然なので言葉が出ないレイ。やっとの事で喋ろうとした時、合唱が聞こえた。後ろから………
「「「ええ〜〜〜〜〜っ!」」」
レイの同僚達であった。彼女らも言葉が出なかったらしい。
「あなた達は〜〜〜!」
憤怒の形相のレイを見て、クモのコを散らすように逃げて行く。その後ろから再び声がかかる。
「どうでしょうか?」
「は、はぁ………」
「取敢えず、今度の日曜日にお迎えに参ります。」
「はぁ………え?お迎えは止めて!待ち合わせにしましょう!」
「はい。わかりました。では時間と場所は………………………それでは、楽しみしています。」
思わずそう言ってしまう。シンジは嬉しそうに頷くと日時を決め帰っていった。レイはその間、終始ボーっとしていた。
で、何度目かのデートで良い雰囲気になっちゃって………え〜〜〜と、確かキスした後、彼が………
「もう少し貴方といたいな。」
って真っ赤な顔して言うから、私も思わず………
「ええ。」
って言っちゃって………
「じゃあ、夕食でもご一緒に………」
って、言われて………
「いいわ。でも、落ち着いた所がいいわ。」
って、言ったのよね………で、彼が………
「じゃあ、僕が良い所を知ってます。」
って………………でも………それが、どうしてこんな超一流ホテルのスウィートルームになっちゃうのよ〜〜〜!!
「もう!お金持ちってイヤッ!………ヤッパリ、私帰ります!」
そう言って立ちあがった時、ルームサービスが届いた。見るからに美味しそうなご馳走に、レイは魅了される。
(ヤッパリ食べてからにしよ〜〜っと♪)
「頂きま〜〜す♪」
「どうぞ。」
(ホント、美味しいわ♪それにこのワイン、スッゴク美味しい♪)
「美味しいワインだけど、高いんでしょ?いくらぐらいするの?」
「そうですね………30万ぐらいかな。」
「さ、30万!」
で、それを聞いて一気に酔っっちゃたのよのね。そしたら慌てて彼が………
「わ!レイさん大丈夫ですか?あ、あの………お水を………」
「やだ〜〜さんじゅうまんて、わたしのげっきゅうよりもおおいわよ〜〜」
かなりキテたわ………(汗)。彼の優しさが嬉しくっていきなり抱きつちゃって………(ポッ)
「どうしてわたしなんかがいいのぉ〜〜?」
「え、そ、それは、最初、写真を見た時から………」
「ほんとぉ〜〜?」
「も、勿論!そして、お見合いで初めてお会いした時にこの人だって………」
熟しきったトマトのように真っ赤な顔してたっけ。その赤い顔を見ながらつい正直な気持ちを言っちゃったのよね。
「………わたしもいいなぁ〜って思ってたの。でも住む世界が違うから………」
「そんな事ない!そんな事ないです。」
私の言葉を遮って、そう言った時の彼の真剣な表情。あれに参っちゃったのよね………私。キスされた後はもう………きゃ〜〜〜、初めてだったのに………………(ポポッ)
で、そのまま泊っちゃった………初めての無断外泊………どうしようって悩んでたら、いきなりホテルの支配人が挨拶に来て焦ったわ!
………ヤッパリ、住む世界が違うんじゃ………でも、彼、支配人に『婚約者』って紹介してくれた。(ボ〜〜〜〜〜〜〜〜〜)
はっ!それどころじゃないわ!なんて言い訳しよう!)
夢見心地で家の廻りを歩いていた時は、その後に起こる事を夢にも思ってないレイだった。
「シンジさん。お早いお帰りね。」
「養母さん、すいません。昨晩は………」
「言わなくても結構。今朝、あのホテルの方からお電話がありました。全く!恥ずかしくて顔から火が出ましたよ。貴方はあの娘が気に入ったようですけど、遊びはほどほどにしないと………」
「遊びなんかじゃありません!僕は………」
「お黙りなさい!私があれほど言ったのにわからいの?貴方にはあのお嬢さんはふさわしくありません!良い事?私がちゃんと手を打っておきましたからね。」
「手を打った?………何をしたんです?」
「ただいま〜〜連絡しなくてごめんね………大学時代の友達……に……あって………………って、母さん?」
黙ってじっとレイを見ていた母親が、やっと口を開く。そして、ただ一言………
「応接間にいらっしゃい。お父さんがいるから………」
訳がわからず?マークを浮かべるレイ。応接間に行く。するとお客さんも来ていた。
「これはこれは、お嬢さんですね?」
「はぁ………」
「私、碇家の顧問弁護士の時田と申します。」
「はぁ………(彼の家の顧問弁護士?そんな人がなんでうちに?)」
相変わらず?マークを浮かべるレイに父親が話しかける。
「お前。昨晩碇さんの息子さんと一緒にいたんだって?」
父の言葉に真っ赤になり、次いで青くなる。それを見て時田が話し始める。
「まぁまぁ、あちらの奥様がおっしゃるには、お互い結婚前のことでもあるし、シンジ様にも次のご縁談が進んでいるところですので、まぁ………事を荒立てたくないと………それで、これをひとつ収めて頂いて………」
そう言って差し出された包み。何が包まれているか誰でも考え付く。あまりに無礼な仕打ちに、一気に血が昇るレイ。爆発しかけたときに、それより早く父親が切れた。
「バカヤロウ!人をバカにするのもいい加減にしろ!とっとと出て行け!」
包みを投げつけられる時田。真っ青になって這うように出て行った。
「おいっ!塩持って来い!塩っ!」
母親の持ってきた塩をまくと、レイを睨む。思わずビクッとする。
「レイ………お前ももう、立派な大人なんだ。自分で考えて自分で始末しろ!」
そう一言言って自分の部屋に入ってしまった父を見送る。
「………怒鳴られるよりもキツイ………ごめんね父さん………でも………ヒドイよ!これは!………好きになっちゃった後にこんなことするなんて………」
そう呟いたレイの瞳には涙が滲んでいた。
「ね〜〜、綾波さん。その後彼とはどうなってるの?」
事情を知らない同僚が、好奇心丸出しで聞く。その瞬間、こめかみに青筋が浮かぶ。
「金持ちなんて大っ嫌い!あんな恥知らずなんて知らない!」
ちょうど来社したシンジの耳にもその声が聞こえた。
「あ、綾波さん………お客様なんだけど………」
ムットした顔を同僚に向ける。その顔に引きながらなんとか伝える。
「えっと……例の彼なんだけど………」
それを聞いた瞬間、青筋が大きくなる。
「私はいないって言って!」
伝えるまでもなくそれもシンジの耳には届いていた。接客した女性が申し訳なさそうにシンジに言う。
「………だそうです。」
「………わかりました………また来ます。」
そう言って頭を下げ帰っていく。
それから、シンジの日参が始まった。3日が過ぎ、1週間になり、そして10日が過ぎた。その間、レイは決してシンジに会おうともしなかった。
「ね〜〜、綾波さん。彼、日参してるじゃない。1度くらい会ってあげたら?」
「いいの!私には関係ない世界の人なの!」
同僚の声にもシンジの事に関してだけは頑ななまでに耳を貸さないレイだった。
そして、2週間が過ぎたある朝。
「シンジさん。お見合い写真、まだ見てないの?早くしないとニュ―ヨークに1人で行くことになってしまうわよ。」
「見合い写真なんて………見る気になれませんよ………とても………」
「あら、何時まで怒ってるの?いやぁね〜〜いい加減あんな娘の事は忘れなさい。今は頭に血が昇ってるから、良く見えるだけなの………」
「養母さん!」
「な、何?急に大きな声なんか出して。」
「僕が彼女を選んだのは一時の激情じゃありません!彼女を侮辱する事は僕自身の価値観を侮辱するのと同じ事です!そんなに僕が信じられないんですか?」
「シ、シンジさん?」
「本当はすぐにでもこの家を出て行きたい所ですが、養父さんが留守の間はこの家を守る義務があるからそれまでは我慢します。でも………もう養母さんとは口をききたくありません!」
「シンジさん!」
そして、更に1週間が過ぎた。シンジの日参は未だに成果をあげていなかった。
「綾波さん。彼、来てるわよ………」
「1度くらい話を聞いても良いんじゃない?」
流石に同僚もシンジが気の毒になっていた。しかし、レイもかなり意地があるのか、会うどころかシンジの前に姿も表さない。
「いいの!行きましょ!今夜は飲みに行く約束でしょ?」
レイ達がタクシーに乗ろうとした時、シンジがちょうど会社から出てきて、それを目撃する。
「レイさん!1度だけ良いですから、ちゃんと謝罪させてください!」
その声がレイの耳に届く。
(謝罪させろって事は、あれを認めたって事でしょ?バカにするのも程があるわ!)
さっさとタクシーに乗ってしまうレイ。レイが乗りこむとタクシーは目的地に向かって走り出す。その走り出したタクシーを追いかけようと走るシンジ。
「綾波さん!彼、追いかけてくるわ!」
「えっ?」
同僚に言われ振り返る。そこにはこのタクシーを必死に追いかけるシンジの姿があった。だが、車に追いつける人間などいる筈もなく差は広がる。それでも走る事を止めない。
レイはシンジをじっと見ていた。
「あっ!」
シンジが何かに躓いたのか、大きく転んだ。
「スイマセン!止めてください!」
車を止めてもらいシンジに走り寄るレイ。
「シンジさん!」
シンジを抱き起こすと歩道の植え込みの所まで移動して座らせる。
「結構、無茶するのね………」
半ば呆れたように呟く。見るとスーツの所々が擦れてほつれかけている。かなり激しく転んだのがわかった。
「僕の話を聞いてください。」
「今更………何の話があるの?弁護士じゃなくてあなたが直接私にお金を渡すの?別に私はあなたの縁談の邪魔なんかしないわよ。」
「違う!あれは養母さんが勝手にした事で………今更、言い訳にしかなりませんよね………貴方を傷付けた事には変わりない………僕は両親の本当の子供じゃないんです。」
「えっ?」
「本当の両親は僕が16の時に事故で他界しました。そして、父の弟夫妻に子供がいなかったんで養子に入ったんです。僕の父は養父と一緒にグループを経営してました。だから、今の養父も僕に跡を継いで欲しいらしく、『帝王学』を学びました。グループの後継者としての教育は傍で見るより僕にはプレッシャーが大きいんです。
力と才能がなければそれを支える事なんて出来ない。僕のこんな肩に何万もの社員の生活がかかって来る。そんな僕にとっては、お飾りの妻じゃダメなんです。僕に必要なのは共に戦ってくれる妻じゃないとダメなんです。
それが養母さんにはわからないかもしれない。過保護なくらい甘やかす人だから。
だから………僕に言える唯一のプロポーズは………
『一緒に苦労してくれ。』
です………ダメですか?」
「いいえ、その言葉、気に入ったわ。だから………」
「だから?」
「もう、あんな無茶しないで。」
「ねぇ。」
「えっ?」
「いいのよ、何も今晩じゃなくて。」
「いや!早めにお父さんに承諾してもらわなくちゃ!なにせ、ニューヨーク転勤が迫ってるし!」
「ニューヨーク?」
「一緒に来てくれるよね?」
「そ、そりゃあ、結婚すればどこにだってついて行くわよ。一緒に苦労するって約束もしたし………」
「ありがとう。」
ニッコリと笑いかけられて真っ赤にになるレイ。2人はレイの両親に結婚の承諾を得るために家に向かっていた。
「ただいま〜〜」
レイの声を聞いて足って来る母親。
「レイ!帰って来たの?大変なの!きゃ!碇さん?ちょうど良いわ!ちょっと来て!」
レイの隣にいるシンジを見て驚く母親。そしてシンジの腕を掴み奥に引っ張って行く。
「か、母さん?」
またしても?マークを浮かべ、それでも慌てて2人の後を追う。そして、ついた応接間にはシンジの養母がいた。
「養母さん?」
「シンジさん!」
シンジを見るといきなり抱きつく養母。そしてレイの父親がシンジに向かって言う。
「なんとかしてくれんかね。あんたの母親。いきなり尋ねて来て、『うちのシンジとお宅のレイさんを結婚させてくれ』って泣いて頼まれて困ってるんだ。」
「はぁ?………養母さん、一体何してるの?」
「だ、だって………シンジさん、あれから私と全然口をきいてくれないから〜〜〜」
そう言って、縋りつく養母。
(シンジさんが言ってた通り、過保護過ぎるわねぇ〜〜)
その光景を見て呆れるやら、ほのぼのするやら、複雑な心境のレイだった。
ともかく、最大の壁はここに自ら崩れたのである。2人の結婚は急速に進むことになる。シンジとレイならこれからどんな苦難があっても互いに助け合い、幸せな家庭を築いて行くだろう!………………多分………
「私達を忘れたなぁ〜〜〜〜〜!飲みに行くんじゃなかったの?レイ!」
〜Fin〜
言い訳………(A^^ゞ
え〜〜と、Excelです。これは恋歌さんに『隠し部屋』に投稿して頂いた御礼に書いたものです。
設定は読んでわかるように異世界物。シンジとレイがお見合いで知り合う………と言う話です。
読んでて『あれ?』って、思う人がいると思いますが、元ネタはあります。私の妹が昔読んでたコミックが元になってます。それの設定上、シンジの母親がレイとの結婚を許しません。『家の格の違い』で。それがどうしてもユイさんには当てはまらないので、修正しました。それ以外は、ユイさんを思い浮かべたんですけど………(A^^ゞ。でも、ここまで弱くないな、ユイさんは。(爆) それにシンジもカッコ良いし!レイは本編設定が使えないので『リナレイ』です………って、説明しなくてもわかりますよね?
ヘッポコな上に元ネタを汚したことをここにお詫びします!スイマセンでした!
以上!言い訳でした!
御意見・御感想などは下記までお願いします。
Excel様へのご感想はこちら
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