馬の耳に真珠

[HOME] [えとせとら★いんでっくす] [馬の耳に真珠INDEX]

その拾四

仔猫がいた日々

3/7 火曜夜、通勤路の途中、「やるき茶屋」の地蔵の奥でミュウミュウと仔猫の鳴き声が
した。朝も聞こえていた声だ。何かに足を挟まれていたり、怪我をしているのではない
かと思ってのぞいてみると、確かに仔猫がいた。
抱き上げてみると、挟まれていたのでも怪我をしているのでもないようだ。我が家の
事情を鑑みると、そのまま元に戻して通り過ぎなければならないのだが、おとなしく
私の手にある猫を見たら、そのまま連れ帰らねば、という気になった。もちろん、里親
を探すつもりだが。
途中のローソンに寄るにはネコを表においておかねばならない。バッグの中にいれようと
下に降ろすと、ミュウミュウ鳴いて私の足のまわりをグルグル回る。顔が出る程度に
ファスナーを開け、バッグにネコを入れる。もし、買い物が終わっていなくなっていれば
そこまでの縁だったと思うしかない。
幾つかの買い物の他、固形物が食べられない場合に備え卵も買った。(ネコ専用ミルクが
なく牛乳を飲ませる場合、卵黄を混ぜれば下痢をしない。)表に出ると、バッグから頭だけ
出してミュウミュウ言っている。
久しぶりに仔猫を抱いて浮き立つ気持ちと、最悪のケース(家族が増える)とで複雑にから
まる気持ちを宥めながら家に着いた。

予測通り、先住猫達のうち、ミケは早速拒否反応を示すと、タンスの上に飛んで行って
降りてこない。グレもほぼ同じ。別のカラーボックスの上に陣取っている。残るクロと
ターボーは遠巻きに眺めているものの、ゴハンがだされるとそれに抗うことはできない。
色気よりも食い気なヤツらなのだ。ミケもグレはおなかが空いてるはずなのに、決して
降りて来ようとはしない。まぁ、ほんとにひもじければ降りてくるさ、とタカをくくって
仔猫にも餌をやる。口を開いてみると小さいながらも歯が生えている。これなら猫缶は
食べられそう。
目は開いているものの、まだ完全には見えてないらしいので、手のひらに猫缶の中味を
空けて差し出すと、カプカプかみつきながら食べ始めた。皿に誘導すると、夢中で食べる。
拾ったばかりの仔猫や野良の仔猫に多いのだが、餌をやると、こいつもウミャウミャと何か
言いながら食べている。

おなかがいっぱいになると、私を探して足元でミュウミュウ言う。部屋に新聞紙を敷き
詰めて、どこでウンチやオシッコをされてもいい体勢にして、仔猫を下に降ろす。
明るいところであらためて観察すると、とびっきりの美人とは言えないけれど、
それなりにかわいい表情をしている。口元のピンク加減が鼻から胸にかけて白い三毛猫
特有で愛らしい。目もちょっと充血して目ヤニがついているが、一晩ここで寝て、拭って
ぬぐってやれば治るだろう。
推定年齢、生後1.5ヶ月。ようやく乳離れした頃か。どんないきさつで飲み屋のビルの狭間
で鳴いていたのか知らないが、私たちは確かに出会った。それは紛れもない事実。私は
お前を再び夜道に放り出すようなことだけは決してしない。だから安心してお休み。

里親探しのため、自分のHP含めいくつかの掲示板に書き込みをした。今回は本気。我が家
の現状を考えると、いつものようにまぁいいやじゃ済ませない。

しばらく部屋の中を探検していたが、そのうち疲れと満腹感から、ヒーターの前で眠りこけて
しまった。あまりによく寝ているのでそのままにしておいたが、明け方気づくと、ベッドの上
に乗せたつもりがないのに私の顔の隣で丸くなっていた。シーツに爪をひっかけてよじ登っ
たらしい。元気でよろしい。しかも中々賢いと見た(笑)。
我が家の先住猫達は、仔猫をいたぶったりはしないと踏んで(怖がりはするが)会社へ出かけた。

ちなみに仔猫の仮称はミュウ。

会社でも手当たり次第「ネコいらない?小さくてかわいいよ」と声を掛ける。
単身赴任中の上司の一人が、自宅で飼っているので、娘に聞いてみる、と
言ってくれた。安心はできないが幸先はよさそうだ。

家に帰ると、先住猫達が夕食の催促に玄関口までやってきた。
おや?仔猫はどこだ?
夕べから呼んでいるので「ミュウ!」「ミュウ!」と呼びかけてみた。が、反応はない。
昨日は私の姿が見えなくなると鳴き出し、見つけると部屋の向こうからでもトコトコと
走ってきたのに・・・。
急に心配になってきた。まさかとは思うが・・・いや、うちのネコ達を過信しすぎたのか・・・
しかし、惨劇の後はもちろんない。じゃ、何かトラップに捕まって(もちろん私が仕掛けた
わけじゃないが、仔猫は好奇心が強く、往々にして自分の能力で解決できない場所に
嵌まり込むことがある。)抜けられないのか・・・
まず、水場、風呂場の洗面器に水が溜まっていたっけ。まさかドザエモンになっていたり
しないよなぁ。コワゴワ覗くがセーフ。ふぅ。次は・・・。
いくつか心当たりを探すも見当たらず。ふと、ベッドの上の掛け布団を持ち上げると、・・・ ・・・居た!。ぐっすりと寝込んでる。もぉぉぉ、この仔ったら。
しかし、初めて来た我が家でいち早く一番暖かくて安全な場所を見つけるとは。大物かも。

起きたらごはんを食べて私のところにダッシュして戻ってくる。ダッシュといっても、30秒程
かかるが。今夜もウミャウミャいいながら食べていた。
観察しているうちに何となくこのコのトイレタイムがわかるようになってきた。
今まで普通にじゃれたり跳ねたりして遊んでいたのに、急にミュウミュウ言い出して昨日
トイレにしたあたりをうろつき出す。
コンビニのお弁当の楕円形の器に砂を入れた物をそのあたりにおいて、首根っこをつかんで
その上にミュウを乗せる。するとちゃーんと砂を掻いてしゃがむ。
惜しむらくは、ちょっとお尻がはみ出していたので、肝心のものは新聞の上に落ちた(笑)
とりあえず、トイレを認識したことをほめてやる。が、本人は褒められたとは思ってない
ようで指に食いつきつつちっちゃすぎるネコパンチを繰り出す(笑)。うちの先住猫のうち
ターボーとクロは7kgを超えているのでネコパンチを食らうとけっこう来る。しかしミュウのは
パンチもキックもぜーんぜん痛くない。生えたばかりの歯なんてくすぐったいくらいだ。
あぁ、これが仔猫なんだよなぁ・・・としばし幸せに浸った(笑)。

掲示板を見ると、昨夜のうちにRIKAが(飼ってもいいか)おうちで聞いてくれると書いてくれ
ている。
おぉ。ありがたや、ありがたや。
知っている人で猫を飼いなれている人にもらってもらうのが一番。無理は言えないが、
期待して待とう♪
翌日RIKAからメールが来て、ダメとは言われなかったとのことで嫁入り決定。
聞けば去年、飼っていたうちの一匹が死んで寂しくなっていたところだとか。
あぁ、ミュウ、お前はなんてラッキーガールなんだろう!
それに、里親探しも本気でやるのと、いいや、もう一匹、という心構えで
するのでは大違いらしい。

けれど・・・、ミュウ、そしたら週末にはお別れなんだね。ちっちゃいお前はもう私の後を
トコトコついてまわったりしないんだね。このプクプクの丸いおなかも、おもちゃみたいな
歯と爪も、打たれても痛くないネコパンチと、まだまだ修行の足りないネコキックも、
みーんな週末まで。さびしいよ。
さびしいけどお前はもっと幸せになるんだからね。いいコにして、RIKAにうーんと
かわいがってもらうんだよ・・・。
そう思うこっちの気持ちなんかミュウは知りもせず、スリッパにアタックし、指にかみつき、
手と相撲を取り、疲れて眠るまでじゃれ続けていた。
拾った仔を里子に出すので、一応病院に行って健康診断をしてもらうことにした。土曜日に
連れて行くつもりが休みだったので、日曜の午前中に変更。
RIKAのおうちに行くのは日曜の夕方6時だ。

日曜日、病院に行くのに適当なカゴがないので、ちっちゃなポーチに詰め込み、ファスナー
をちょっとだけ開けていく。閉じ込められているのがいやなのか、頭でこじあけて首から上を
出そうとするミュウ。頭が出たらネコは全部出ちゃうので押し込めようとしたが、やがて私も
あきらめてファスナーを開けておくことにした。
そうすると、安心したのかもうもがいたりせず、時折こちらの顔を見上げて「ミュー」と鳴く
だけでポーチの中に収まっている。なだめるように見返してやると、おとなしく座っている。
あぁ、いじらしすぎる。

病院ではごく簡単に触診してもらって、目やにがちょっと出ていること、ウンチがちょっと
柔らかめなことを話す。目薬を差してもらい、下痢止めのクスリをもらう。たぶん、野良ってる
間変なものを食べておなかをこわしていたのではないかと思う。うちに来た最初の晩は
ドロドロだった便も、だんだんやわらかいながらも形がついてきたし。
心配することはないようで、よかった。帰りもバスに乗ったが、ミュウは、何と!ポーチの中で
すっかり眠りこけている。歩いて家に帰る間もずっと。
何かと緊張したせいで疲れたのか、あるいは大物なのか・・・・。私の知ってる仔猫は、たい
がい道中ずーっと鳴き通しで、疲れて一瞬眠るが、すぐ目を覚ましてまた鳴き出す、の繰り
返しだった。

3時からTVで競馬観戦しながらミュウと遊ぶ。というか寝ているのにちょっかいをかけて指を
カジカジしてもらう。
ミュウと遊べる時間はもう、あとわずか。

ついに5時、RIKAの家のある駅までミュウを連れて行く時間になった。
未練を振り切るように、さっと首根っこをつかみ昼間のポーチにミュウを入れた。
相変わらず外に出ようとしてもがく。だけど寒いから出してやらない。

ミュウ、ついにバスに続き電車にも乗る。
ちっちゃいのにいろいろ体験するヤツだ。
もちろんミュウは無賃乗車だよ。
けっこう混んだ車内に乗り込む直前、鼻炎で鼻の詰まっている私にすらわかる程きつい香水
の匂い。ミュウを見ると、鼻をヒクヒクさせている。お前にもわかるのか?、すっごい匂い
だねぇ、とおかしくなる。爪の先ほどもないちっちゃな鼻をひくつかせながら、目を白黒さ
せている。

電車にもさほど驚かず、またもやポーチの中で座り、時々人の顔をみてミューッっと鳴く。
しかし、私がドアによりかかり、車窓から外が見えた途端ミュウがちょっとむずかりだした。
良く見えないながらおそろしい勢いで走り去る外の景色にスピードを感じ、こわくなったせい
だろうか。
ミュウのちいちゃな頭を撫でながら、「もうちょっとだからね。待っててね」とつぶやいた。
もうちょっとは西船までで、本当はまだ旅には先があるのだけれど・・・。

西船からははじっこの席に座ることができた。ファスナーを全部開けてやり表に出るの
だけは抑えながら電車に揺られる。ミュウはまた眠りだした。
このままずっと眠っていてくれれば・・・。
そして私は、目的の駅に着く一つ前の駅を過ぎた時、どうしようもなく寂しくなって
きた。帰り道、この厄介だけどかわいい小さなぬくもりは、もう私の腕にないのだ。
今ならまだ間に合う。何が?だから、RIKAに電話してごめんなさいって言えば。
そんなことしたって、ミュウも私も幸せじゃないよ。5匹も飼えると思ってるの?
そんな風に自問自答を続けているうちに、到着してしまった。
駅に着いてRIKAを待つ間も、ずっと考えていた。このまま引き返せないのかなぁ。
同じ問答を胸の中で繰り返していた。

RIKAがミュウを迎えに来てくれて、ミュウを無事に渡した。RIKAがお茶でも、
と言ってくれたけど、鼻炎の鼻水が限界に来ていたのと、これ以上後ろ髪を引かれるの
が辛いのとで、そそくさと駅を後にしてしまった。
RIKAが抱き上げた時に、私に向かって「ミュウ〜」と鳴いたのが、私をちゃんと認識
してたみたいで辛かった。

帰りの改札を通ってホームに上がるまでに、もう涙があふれていた。
構うもんか、マスクしてメガネかけてりゃ花粉症だと思ってくれるさ。
同じオレンジ色の武蔵野線。西船橋方面。行きの電車で思っていた通り、
この手、この腕に、もはやあのちっちゃい仔はいないのだ。重さなんてない
ようなチビだけど、いるのといないのとでは大違いだ。もう家に帰っても
ゴハンを催促してミュウミュウ言ったり、トイレがしたくてピーピー駆け回ったり、
いつのまにか遊び疲れて私の足元でコロンと寝入っていたりするヤツはいないのだ・・・・・
電車が自分の駅に着くまで泣き続けた。ついでにクスリが切れて鼻炎も悪化して、
マスクの中はエラい事になっていた。

正直言って、これを書いている間も私は泣き通しだった。もちろん、里親が
見つかって、本当によかったと思っている。RIKAに心から感謝している。
ちゃんとネコを愛してくれる人だとわかっているから安心もしている。
だけど、この寂しくって空虚な気持ちは何だろう・・・。たった5日間しか一緒に
過ごしていないのに、居たら いたで、他のコ達と同じく愛すべき、しかし
厄介な存在になるのがわかっているのに・・・・。

犬も猫も、飼ってしまうとすぐ情が移る。だからどんなに犬猫が好きでも、盲導犬の
育成(盲導犬もある一定の年齢になるまで一般家庭・・・その多くはボランティア・・・で
普通の犬として育てられる。人間の愛情をたっぷり注がれ、人間を信じることを
おぼえなければ盲導犬になれない。)とか、ブリーダーとかにはなれないと思っている。

テンパっている仕事も、鼻炎も、競馬も、何もかも忘れさせる魔力が仔猫には
潜んでいるんだねぇ。動物キライな人にはわからないみたいだけど、確かに動物には
人を癒す力があると思う。
愛馬になぐさめられる前には、ずいぶんうちのゴロ猫達にも助けてもらったような
気がする。もちろん精神的に。


自分の気持ちに整理をつけるためにミュウが居た間の事を書いただけで人に読んで
もらうようなものではないのだけれどね・・・。

ミュウ、イイコにして、RIKAにうーんとかわいがってもらうんだよ。
元気でね。バイバイ。



その拾四おわり

[馬の耳に真珠INDEX]