馬の耳に真珠

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その拾

人魚姫

「人魚姫」って童話知ってる? 知ってるよね。忘れてるかもしれないけど。
かいつまんで話すから思い出して。

人間の若者に恋してしまった人魚姫は、魔法使いから手に入れた薬で人間に
なるが、声を失い、脚は痛み、おまけに王子と結婚できなければ、海の泡に
なってしまう、という恐ろしい代償を払う。
気持ちを伝えることもできないまま、王子は他の娘と結婚することになる。
人魚姫には、王子の心臓を刺したその血を浴びて人魚に戻る、という方法が
残されていたが、愛する人に短剣を振り下ろすことはできず、その朝、海の
泡となって溶けていった。


ディテールは憶えてないんだけど、確か、その王子が結婚する娘っていうのは、
人魚姫が溺れた王子を救って浜辺に横たえた後王子を介抱した娘で、王子はその娘を
命の恩人だと思っていた。(ま、ある意味そうだけど。)人魚姫が、王子が気がつく
までそばにいられなかったのは、人間に姿を見られてはいけなかったから。
そして、人魚姫の声が出なくなったのは、魔法使いが薬と引き換えに奪ったから。

というような話でしたよね。

ふっと今日この話を思い出して<何でだ(¬¬) 、この話って一体何が言いたいのか、
しばし考え込んでしまった。ヒマだね(^^;

幼い頃の私は、「自分が生き残るために愛するひとを殺すなんてできないわっ」
という自己犠牲の無償の愛、純愛の話だと思っていた。

しかし、純愛もへったくれも、失恋の話だよね?これ。運命の悪戯で、人魚姫は
恋の土俵にもあがれなかったのだ。バリバリの片想いですね。
確かにかわいそうだけど、「人魚姫ってかわいそうだねぇ、お母さん」っていう
情操教育のためだけに、語り聞かされた話だとは思えない。片想いの悲しさ、
運命に翻弄された純愛の美しさは幼い子供向きじゃないような気がする。
この童話にはもっと違う教訓が隠されてるのではないのか?

そう考えると結局、人魚姫の話は本当にあった事だったから語られたんだと
思えて来た。

もちろん、人魚と人間の恋じゃなく、身分違いの恋を引き裂かれて、悲しみや
屈辱のあまりその身を海にでも投じた若い娘がいたのだろう。その昔。
だから、禁じられた恋をして、定められた運命に逆らい、身を置くべきコミュニティ
を飛び出した者の末路の哀れさを語り、子供や娘達を戒めたのだろう。
そしてその霊を慰めようともしたのだろう。
おそらくは、引き裂いたのは身分の高い方のコミュニティであり、その罰を怖れ
おおっぴらに語れず、「人魚の人間への恋」という異世界のものへの恋という
設定になったのではないのか。

皆さんは「人魚姫」読んで、あるいは聞いてどう思った?子供の頃。そして今。

いまどきならば、「身分違いの恋」っていうのは時代遅れだろうけど、分不相応な
恋はやっぱり罰を受けるのかもしれない。

久しぶりに思い出した私は、「お話」ではあるけれども、自分の選んだ道を
自分の責任で全うした人魚姫をエラいと思った。
王子様を殺しちゃってもよかったのかもしれないのに。・・・どうせ彼女が助けた
命だし、愛している気持ちどころか、命の恩人ということすら気づいてくれない。
全部ヤツのせいにしちゃっても誰も彼女を責めないだろう。
だけど人間になったのは、彼のせいじゃなく、自分の意志。気づいてもらえない
のも彼が悪いんじゃなく、納得ずくで自分が決断したことの結果。そう思ったから
こそその先の運命も受け入たのではないのか。プライドを貫き通した、という感じ
にも思えるし。
まぁ、世渡りが下手なタイプとは言えるか・・・・・
私だったら王子殺しちゃうと思いますけどね。きっと(笑)。
王子様がもし、人魚姫の気持ちに気づいたら、どうしたんでしょうね・・・。

ただ一瞬の幸せのために、勝算のない賭けに、全てを投げ打つことができた
彼女がうらやましくも思える今日このごろ。

それにしても、一度会っただけで忘れられなくなるほど愛してしまう王子様って・・・
どんなイイ男だったんでしょう。ぜひ見てみたいのですが。どこかに転がってない
ですかね?(笑)



その拾おわり

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