馬の耳に真珠

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その拾九

牛乳やさん

先々週の木曜日、牛乳受けの中に牛乳の代わりに 紙切れが1枚入っていた。
雪印大阪工場の不祥事を詫び、日野工場の洗浄記録不明の発覚を受け事実関係が
はっきりするまで自主的に配達を休止するというお知らせだった。
雪印の指示通達によるものではないらしい。
感心するとともに、市井の牛乳屋さんも大変なんだなぁと思い。事件の大きさを改めて
実感した。

先週火曜日の朝、紙切れとともに牛乳が配達されていた。
「日野工場の検査の結果問題がないと判明したため再開しました。」というメッセージ
だった。
ご迷惑をおかけしたので、7月分の配達は無料にします、と書き添えられていた。
牛乳受けから取り出してそのまま一気飲みした。
朝は普通の牛乳でもおなかがゴロゴロすることもあるので普段は飲まないのだが、
街の牛乳屋さんの意気に感じてしまった。

その次の夜、帰ると、玄関脇の牛乳受けに紙が一枚、舌のようにぺろりと出ていた。
また、牛乳屋さんからのメッセージで、雪印が全国の工場の休止を決定し、しかし雪印
からは一切連絡がなく、再度配達中止を余儀なくされる旨、再開したら従業員一同
これまで以上にサービスに努めます、ということが書かれていた。
そして、火曜に配達したものは、都の衛生局の試験をパスしたものであるのでご安心
下さいと結ばれていた。

悲しくなった。
この牛乳屋さん、休止でも打撃を受けるだろうし、再開しても事件のせいで不審を持たれ、
商売がたちゆくんだろうか、とひとごとながら 心配になってしまった。
元々この牛乳屋さんとは、勧誘にきた人が話し上手な上に感じよく、気に入って契約した
のだった。
カルシウム不足は痛感するものの、毎日毎日牛乳というのも飲みきる自信もないし、と
思っていたが、見透かしたように、「りんごジュースと半々にもできますよ。」、
「配達は、こちらも経費節約、お客様も取りこみの手間半減、で週に3回です。」と提案され、
気が利いてると思ったのだ。
旅行で家を空けるといえば止めてくれて(玄関にメモを書いた時もちゃんと止めてくれた)、
請求からは引いてくれる。新製品のサンプルなんかも入れてくれたし、私がうっかり取込む
のを忘れた時には、時期的に腐敗の恐れもありますから、とメモを入れた上で回収して
おいてくれたりもした。
雨が降ろうが槍が降ろうが旅行で家を空けようがやたらと重ねて突っ込んで行くだけの
新聞なんかより(もっともこれはうちに来る新聞屋だけかもしれないが)ずっと融通が利いて
親切だったのだ。

余談だが、その新聞はずっと腹を立てていたので、契約期間が切れるやいなや、
止めてしまった。前回もそんな理由で止めたのだが、勧誘員がうちの玄関先に20個くらい
のトイレットペーパーと7個くらいの粉洗剤を積み上げて帰ってくれそうになかったので
やむなく取ったのだ。サービス良くするためにはタマに止めるといいんですよ、と、
そのしつこい勧誘が言っていたので実行したわけだが、ちょっとにぶい感じの配達の
兄ちゃんは、駄目ですか、そうですかと言っただけで、巨人の自由席のチケットどころか
追加の洗剤ひとつ出さず引き下がって行った。別に、会社帰りに行けもしない巨人戦の
チケットも、いまだ金を出して買ったことがない洗剤(新聞屋のせい)もほしいわけじゃ
ないのだけれど、商売の下手なやつから買ってやる義理はない。
牛乳やは、勧誘の時にまずサンプルを持ってきた。コーヒー牛乳や牛乳は冷え冷えで、
懐かしのガラス壜の表面にはしずくが伝って、ものすごくおいしそうに見えた。
契約して牛乳やが帰った後、私は早速それを一本飲み干したのだった。(4本くらい
持って来てくれていた。)しかも多少の保冷もできるという牛乳受けも貸し出してくれた。
あの時の、ちょっと抜け目なさげで喋りの上手な牛乳やの勧誘の兄さんは今頃どうしているだろうか。

こんな街の一牛乳配達所の誠意にあふれる、そして危機感を十分に感じた対応に比べ、
迷惑かけた張本人のていたらくを思うと、腹立たしさを通り越して悲しくなる。
総責任者である社長が、「私寝てないんです!」とほざき、記者連中から大ブーイング、
ブドウ球菌の有無についてあいまいな発言を繰り返している時に大阪工場長から暴露
(結果的に)されて、知らなかった、とのたまう。しかも幹部には、「社長は細かいことを
知らないのに、配慮してほしかった」と、世間では、雪印最後の良心とも評された工場長の
発言を逆恨みする声がある始末。
それでは裸の王様だ。
もはやおおごとが起こってしまったことは明白なのだから、すべての最新情報をトップに
集めるのも危機管理のひとつというものだろう。
社長が細かいことを知らないなんてこたぁ今回起こった事には何の言い訳にもならない。
そりゃ、普段はどこどこ工場の洗浄記録なんて社長が目を通す必要はないだろうけど、
コトは起こってしまったのだ。知らない奴に喋らせときゃバレないとでも思ったのか。まさか。

今回雪印はつぶれるかも、といわれるほどのダメージである。否、潰さなくてはならない
のかもしれない。
それは、現場で額に汗して働くひとには申し訳ないが、会社としては自業自得。
でも、雪印に原乳を販売している酪農農家、前述の市井の牛乳屋さん達も自分達に責任の
ないことで路頭に迷うことになる。
やりきれない。それはダメだ。
せめて、雪印あるいは業務を引き継いだ会社が工場を再開したら、牛乳屋さんの誠意を
信じて、契約を続けたいと思う。雪印は、こんなところで、自分が失った信用を一介の
牛乳配達所がつなぎとめてくれていることを感謝するべきである。
辞めた社長には爪の垢でも煎じて飲ませるといい。責任取って辞職というが、全然解決に
ならないのだ。
真に責任を取るというのなら、雪印を解体し、競業先に各工場と人員及び仕入先販売先を
引き取ってもらうために奔走した後、役員ともども辞職するしかないだろう。
そうせずに、ただ工場閉められても、トップメーカーの穴を埋められる競業先などおらず、
日本中の飲食業関係者も、生産者、中間業者、消費者ともども迷惑してしまうのだ。
こういうときこそ行政にも積極的に動いてほしいものだ。

件の社長、心労か過労かで入院したという。政治家がよく使うソノ手かどうかは知らないが。
どこかの新聞に、「やっと眠れますね」と皮肉られたとか。
まさか回収された自社の牛乳ヤケ飲みして、腹を壊したわけではあるまいが。
それは、ちとブラックジョークか、いや、牛乳だけにホワイトというべきか。



その拾九おわり

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