馬の耳に真珠

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その拾六

君の名は・・・・・・・

心の中では、ずっとひそかにその名前で呼び続けていた。
もちろん誰にも言わず。

ブルーフレア

その名前を思いついてからは、他の名で呼ぶことなど考えられもしなかった。
何かにこれほど確信を持つことは、私の場合とても珍しい。

我が愛娘の、初めて出資した一口馬主クラブの愛馬の、馬名が正式にJRAで登録された。
何と、私が命名者になってしまったらしい。
登録情報がもたらされたとき、確かに胸がいっぱいになった。涙腺がゆるんだ。口元が
にやけた。でも、不思議とじんわりした喜びだった。ほっとしたような気持ちだった。
先に、第一希望として申請されていることを知っていたからだろうか。そのことを最初に
知った時も、胸が震える思いがしたが、すぐに、もっと大きな不安のようなものに駆られた。
自分で応募したくせに。

一生、彼女はその名前を使うのだ。競走馬としての生活を終え、母となる日が来ても、
その名前で呼ばれ続けるのだ。
いいの?本当にいいの?この名前で。ねぇ。

そっと、呼んでみる。
もう、声に出してもいいんだね?

フレア・・・・。ブルーフレア。

最初からあった確信は何だったのだろう。
愛馬仲間の知り合いが皆気に入ってくれていたせいもある。でもそれだけじゃない。
まだ、一口馬主に漠然とした興味しかない頃、競馬雑誌の広告で、彼女に出会った。
一目見た瞬間に、強く魅かれた。いや、魅かれたなんてものじゃなく、憑かれたと言った
方が正しいかもしれない。「この仔がどうしてもほしい。」そう思った。2センチ角足らずの
小さなモノクロの写真を見ただけで。
血統もクラブも値段も見ずにもう決めていた。値踏みする暇などなかった。

一昨年の夏に、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、初めて北海道に行った私
だったのに、去年は、フレアに会いに4回もその地を訪れた。北海道日帰りすらしている。
ひとに話すと呆れられる。今じゃ慣れたけれど、自分でも不思議だった。
初めて会った去年の2月、焦がれ続けてきた彼女の姿に思わず涙をこぼしてしまった。
夜も昼も彼女の事を考える。会える日を夢見る。そして、彼女に会う度、
その鼻面に触れる度、何もかも忘れて癒される。
そんな想いが通じたのか、私が心に決めた名前が彼女の一生の名前になった。
誰に、どう言ったらこんな気持ちはわかってもらえるのだろうか。彼女のことを思うだけで
涙があふれてくるなんて。ひとめ見た時から片時も忘れられなくなるなんて。

あぁ、これが人間だったらカンペキにストーカーだ(笑)。
それとも私たちは前世で親子だったのかもしれない。
だから名付け親になれたのかも(おいおい)。

入厩は4月8日。デビューは6月くらいかもしれない。クラシックとはむろん縁がなさそうだ。
でも、やっぱりそんなことはどうでもいい。彼女は彼女らしく競走馬としての生活を送ればいい。

たった200分の1の親権しかない頼りない親だけれど、いつまでも見守っていてあげるから。
どんな時にもフレアの味方だから。



その拾六おわり

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