★ 馬の耳に真珠 ★
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★ その四 ★
教えて!スペシャル君2
鉄は熱いうちに打て。話は憶えてるうちにしろ、ということで(笑)、前回スペシャル -インタビュアー-(以下イ)饅頭−モンジューのネタ元はキャニオンロマンこと「ある」君オリジナルです(^^; |
★ その伍 ★
林檎の唄 ♪あ〜か〜い〜リン〜ゴ〜に 唇よせて〜♪の林檎の唄ではない。「りんごぉ〜のぉはなぁびぃらがぁ〜」美空ひばりの唄ではない。 ♪わたしは真っ赤なリンゴですぅ お国はさぁむい北のくに〜♪これも違う しつこいって・・・ 椎名林檎の唄 久々に好きになったFemale Singerだ。この10年ほど、好きになっては裏切られてかわいさ余って 憎さ100倍。キライになるミュージシャンの方が多かった。好きっていうよりイタかった。 そこまで感じた時は大体ずっと好きでいることが多い。 特に今回の「本能」を聞いてたら、中島みゆきを思い出した。異論のある人もいるだろうけれど。 みゆきの唄に流れるものは「生」と「死」、「希望」と「絶望」。相反するけど決して分かつ事が できない二つ。林檎の唄にもそれはある。そして更に、「性」が「生と死」の間に、「欲望」が 「希望と絶望」の間に割り込んでいる。それら二つが対極の言葉の間をつないでこそ、人間 であり、まさに「本能」といえるだろう。その唄の名を聞き、唄を聴いてそう思った。 愛や恋を描いた歌はたくさんある。歌謡曲のほとんどがソレだと言っても過言ではない。しかし 性を描いた唄はそうはない。ましてやシチュエーションやストーリーが必ずしもそれを描いた訳 ではないのに、人間の根源的な性や欲望を感じさせる唄やSingerは極めて稀だろう。時として毒 にもなりうるものだけど、アメリカから帰る飛行機の中で何度か聞いた「本能」が私の胸の中の毒 を押し流してしまっていた。昔、中島みゆきのどん底の唄を聞いてなぜか救われた気分になる人 がいたのに似ているかもしれない 林檎が、若干ハタチと何かで読み、少なからず驚いた。「本能」は18の時に書いた曲だそうだ。年下 の人間の才能には常日頃せんのない嫉妬を覚えどこかあらさがしをしたくなる私だけれど、時折、 その隙もない才能に出会うこともある。 女は鬱蒼として昼も直射日光の当たらない森の中をいそいそと歩いていた。 目指す館にもうすぐたどり着こうとしたとき、音を聞いた。空気が鳴っている。ふと、目を上げると 木々の上から水蒸気とどす黒い煙と舐めるような炎がのぞいていた。女は思わず立ち竦んだが、我 に返り駆け出して行った。あるはずの場所に館はあるにはあったが、煙と豪華なシフォンのような炎 に包まれて、もはや中に入るどころか近づくことすらできなくなっていた。 ごうごうと鳴る空気の中にパンッという乾いた音が響いた。銃声だろうか。女は銃声を聞いたことは なかったが男が以前に話していたことを思い出していた。 「人を殺す道具のくせに拍子抜けするような軽くて乾いた音を出すものだね。」 立ち尽くす女の前では古ぼけた館がそこここで炎の中に力なく崩れていくばかりで、さっきの音も 一度きりであった。 呆然として炎に顔を照らされていた女は、ジリっと後ずさりして、立ち木に背がぶつかると、途端に 向きを変え、後は犬に追われた兎のように森の入り口を目指して駆け去って行った。 森の出口まで息もつかずに走ってきた女は、やっと立ち止まって荒い息を整えた。今来た方角を 振り向いても暗い木々に阻まれて何も見えず、今のは本当の出来事だろうか、と思いながらトボ トボと歩き出した。我に返ってみると、結局のところまた裏切られたのだという思いがつのって きた。今日あの館に行ったのはあの男と心中するためであったのだ。女の勤めるカフェに、半年 前から通うようになった男と深い仲になり、ほんの1週間ばかり前、男が、自分は死ぬつもりだと 打ち明けた時に、どうせなら自分もあの世へ連れて行ってくれ、と言ったのだ。「じゃぁ一緒に死 のうか。」男がそう答えると女は「約束、ゆびきりげんまん。絶対に。」と小指をからませたのだ った。 女は親の顔も知らずに育ち、お定まりの道を歩いたあげくにつかれきっていた。身寄りもなし、 この先も男どもに食い物にされて漂い続けるよりいくらかましかもしれないと思ったのだ。何より 男は優しかった。女のなけなしの稼ぎをあてにしたり、その金で酒を飲んで女を殴ることもなかっ た。ただ蔭のように穏やかで静かな男であった。 けれど、男は屋敷に火を放ち、短銃で己を撃ち、女を裏切ってひとりで死んでいった。悲しい気持 ではなかった。悔しい事も悔しい気がしたが、ただ心も瞳も冬空のように乾ききっていた。 それから女はカフェの仕事も休み、家で呆けたように過ごしていた。相変わらず、涙も出ずに、 悲しいのやら怒っているのやら、自分が何を思っているのかよくわからなかった。 そうして3日ばかり経った日、女の家に一通の手紙が届いた。手紙にしてはずしりと重い手応えの 封筒であった。差出人はなかった。封を切ると、ざらざらと、古びてはいるが値打ちのありそうな 首飾りだの指輪だのが畳の上にこぼれ落ちた。最後にひとひら、筆書きの便箋がはらりと舞った。 『結局、君を裏切ることになって申し訳ない心持ちだ。しかし、ある事に気づかなければ、僕は君 を道連れに旅立っていたと思う。君は隠していたが、身ごもっているのではないか。僕の子だと 思うが、いや、誰の子でもかまわないが何も知らないその子を道連れにすることはできない。 どのみち僕は一人で消えていくのが筋のような気がする。生き抜く力が人一倍弱いのだろう。 新しい世の中に結局なじめず、じくじくしているのが関の山だ。 母というものは人間の中でもひときわ強い生き物だと聞いたことがある。どうか、その新しい命と ともに生きていってほしい。封筒に入っているのは、叔母と母の形見だからといって、借金取り に追われても手放さなかった宝石類だが、質屋に行けば相当の金になるだろう。暮らしのたしにし てくれ。』 男の手紙を読んで、女は初めて涙を落とした。 なぜか、「本能」を聞いていたら、こんな小説の真似事みたいなものが書きたくなった。「果たされ ないことなど大嫌い」という悲痛な叫びは「果たされる約束がほしい」と聞こえる。刹那を求める 声は永遠を求める声に似ている。 結局のところ、男が、自分は死んでも種は残そうとするあたりは遺伝子的にいうところの「本能」 だったりするのかな。でもね、この話、最初は、女が館に来る直前に男がピストルで自殺してた という設定だったの。今回の設定だと、遺体は誰もみていないわけだから、この男、どこかで 生きてるかもしれない。屋敷を燃やしたのは、死んだと見せかけるためと、自分のこれまでの 人生への訣別。女はただ、その目撃者に仕立てられただけだったのかもしれない・・・・となると この話の続編がいつかできるのかなぁぁぁ。 しかし、作者がなぜこんなもの書いたかわかんないんだから、続きなんかなおさらわからん(笑) |