「適齢期LOVE STORY?」第六話・帰れない二人



 朝が来た。
 いつも通り、ぷにっーーーーーーーっっな儀式を終わらした後、朝食をありがたくいただき、そして今、オレは玄関にいた。
「じゃ、行って来るよ」
「いってらしゃいませー」
 愛しあうふたりの、見本のような挨拶。
 うーん、コレ、本当に「適齢期LOVE STORY?」なのか?
 し、新鮮すぎる…。
「今日は、お帰り何時頃になりますか?」
 と、マルチが聴いてきた。
 うぅぅ、しかし、マルチ、すっかり新妻やのぅ、めっちゃかわいい…!
 ひぃぃ、どうしよう、オレ?
 …たべちゃう?
「…浩之さん…?どうかしましたか?」
 マルチは、そんな言葉と共に、体をオレに近づけ、オレの顔を覗き込む。
 そんなマルチの仕草に、ドキッとして、我に返るオレ。
 …あさから、そんな可愛いことしないでよぅ、マルチィ!
 学校行く気、失せちゃうだろ!
「いやさ、マルチかわいいなぁ、って思ってさぁ」
 分かり切ったことを、オレは口に出す。
 そんなオレの言葉に、照れるマルチ。
 …今日は、いい日にちがいない!
 こんなに、こんなにもすばらしい朝を迎えているのだから…!



「あ、そうだ、マルチ」
 オレは、いったん、ノブにのばした手を戻し、くるりと振り向いてマルチを見た。
「?どうしたんですか、浩之さん?」
 マルチが小首を傾げる。
 やっぱり、かわいい…。
 でも、そればっかりだと話が続かないから
「今日、三時ごろ、学校こいや」
 と、簡単に用件だけいった。
 だが、マルチは、なんでですか?というように、またも小首を傾げた。
「今日は、一緒に晩御飯の買い物しよう。だから、待ち合わせ。クラブもないしな」
 そう、オレが言った。
 マルチは、えっ、と言う顔をしながら
「…商店街で待ち合わせ、じゃないんですか?」
 と、しごくもっともな質問をしてきた。
 そりゃそーだ。
 わざわざ学校まで来る必要は全くないからな、普通なら。
 でも、ちがうんだよ、マルチ。
「うん…、学校で…な?」
 続けて、
「ほら、オレ、マルチと、学校からの坂道を、一緒に歩きたいんだ」
 と。
 マルチが、ますますわかりませんー、という顔に。
「だからさ、オレがさ、マルチとあの坂を歩いた時って、あまり明るい話題が無かったじゃん。初めての時は、お別れ前日だったし、その次は、お別れの日だっただろ。だからさ、いつもあそこ通るたびにさ、マルチが、どっかいっちまうんじゃないか、って錯覚におちいっちまうんだ…」
「…浩之さん…」
「だからな、マルチ。オレ、また、あの坂を、明るい話なんかしながら、一緒に歩きたいな、って思ってさ。一緒にいるのに、マルチとのお別れのこと、頭かすめるなんイヤだから、それをぬぐい去っちゃうようなコトしたい、って思ってな。同じように、頭かすめるんだったら、明るく楽しいことの方が絶対いいだろ?だから、さ。ま、想い出作りの一環と言ったところかな?」
「…浩之さん…」
 マルチが、この上な
く嬉しそうな顔をする。
 うん、マルチ、キミは笑顔がいちばん可愛いよ。
「…というわけだ。いいだろ?」
 と、マルチの鼻の上に、人差し指を置きながら言う。
 マルチが、こくこく、とうなずく。
 先輩のような、ゆったりとしたこくこくではなく、ぶんぶん、に近い。
 言葉が出ない、だから…!、そんな感じだ。
「ん」
 オレはうなずき、マルチの唇をサッと、触れるか触れないか分からないくらいの速さで奪い、ドアノブに手をかけ、家をでた。
 ははは、たまにはこういうキスも良いだろ、初々しくてな。
 と言うか、作者、コレ、好きだな、たしかIn Heartのエンディングでもそうだったしな。
 あこがれているのか?
 …ま、いいか。
 それはおいておいて。
 …マルチ、オーバーヒートしてないかな?
 …大丈夫か、アレくらいなら。
 そんなことを考えなら、脚を前に出す。
 …今日は、やっぱりいい日だっ!
 そんなことを思った。



(作者注:この作品は、確かに「適齢期LOVE STORY?」です。引き続き、続きをお楽しみください)



 昼休み。
 今までは、雅史と二人でパン、と言うパターンだったが、今のオレには、「マルチの手作り弁当」と言うアイテムがあるっ!
 るんるん〜。
 オレは、鞄からその弁当を取り出すと、なにげなーく教室を出た。
 …ばれると、まずいんだ、これが。
 恐怖なんだな…想像は付くと思うけど…。
 と、そのとき、むんず、と制服をつかまれた。
 ん、だれだっ!
 あかりかっ?
 はぁ…。
 …やっぱりそうだった。
「浩之ちゃん、お弁当作ってきたよ、一緒にたべよ」
 そう、あかりは、オレの目の前に弁当箱を差し出しながら、この上ない笑顔を見せ、言った。
 最近、作者の中でのあかり度が高まっているためか、可愛く思えてくる。
 …嬉しいが…今日は、マルチの弁当が…。
 と、返事を渋っていると…。
「浩之、パンでしょ?一緒に買いにいこ。そして、お揃いのカツサンドッ!」
 と、さらにその横から雅史が割り込んできた。
 語尾が、力強い!
 で、お揃いの、ってなんだ、雅史?
 ワケわかんないぞ。
「幼なじみを越えた二人には、お揃いのカツサンドがよく似合う…!…ねっ!…愛し合う二人〜」
 雅史が、廊下で叫ぶ!
 …はぁ?
 幼なじみを越えた、ってなんだ?
 愛し合う二人〜、ってなんだ?
 おまえ、そのフレーズ、すきだなっ!
 オレはそんなことを思いながら、雅史を見る。
 雅史は、もう、これいじょうないってくらい、ニコニコだっ!
 そんな雅史をみて、キッ!
 あかりが雅史をにらむ!
 なに割り込んできてるのよー!
 そんな感じ。
 だが、雅史もひるむことなく、あかりの方をむくと
「…あの時はあかりちゃんだから、浩之のこと譲ってもいいと思ったんだ!でも、今は事情が変わったんだよっ、あかりちゃんっ!」
 と、ワケのわからんことを言い出した。
 いきなり何言ってるんじゃ、雅史!
 譲るとか譲らんとか、オレはものじゃねぇ!
 だが、あかりは、つーんっとして、雅史の言うことに聞く耳持たず。
 そして、
「…ごめんねー、雅史ちゃん。浩之ちゃん、私とお弁当食べるの。行こ、浩之ちゃん」
 とだけいって、オレの袖を引っ張り始めた。
 オイオイあかり、何やってんじゃ。
 それじゃ、あまりに雅史にわるいんじゃねーか?
 きっと悲しんでるぞ、一緒に食べればいいじゃないか、幼なじみなんだし、とオレが雅史の方を向くと、雅史は、どうしてくれようこのアマ、と言った感じであかりをにらんでいた。
 ……。
 雅史が怖い。
「あかりちゃん、浩之は僕と約束しているんだ!あかりちゃんこそ、遠慮してよ!」
 ……別に、約束などしちゃいないが…。
「浩之は、僕と昼御飯を一緒に食べるって、決まってるんだよ!じゃましないで!」
 雅史は続けた。
 ……決まってないが…。
「この二人の仲は、もう誰にも引き裂くことが出来ないんだよっ!」
 さらに、そう雅史は宣言した。
 …一体…オレと雅史の仲って…。
 だが、あかりはそんな雅史の言葉など気にはしていないらしい。
 そんなの関係ないわよ、あんた私の弟みたいなモンなんだから、黙ってなさいよ、といった感じ。
 むーっ。
 むーっ。
 にらみ合う、あかりと雅史。
 …仲のよい幼なじみとは思えない空間がそこにはあった。
 仕方ない…。
 オレは
「あのな、二人とも。オレ、今日はマルチが弁当作ってくれたから、それ食べるんだ。それに、誰と食うとかもめるから、一人で食うから、な?」
 と言った。
 これで納得してくれ…と思ったが、あかりが泣き出しそうな顔になり
「…せっかく、浩之ちゃんの分、作ってきたのに…」
 とかいいだすから、あぁっ、困ってしまう〜。
 な、泣くなあかり。
 お前が泣くと、作者が刺されるんだよ〜。
 オレがあかりをなだめようとすると、いきなり雅史が
「じゃぁ、マルチちゃんのお弁当をあかりちゃん食べなよ。僕たち二人で、あかりちゃんが作ってきたお弁当食べるから。…これで、お揃いだね、浩之!」
 などと言い出した。
 …頭のどこから、そんなアイデアが出て来るんじゃ、雅史?
 だいたい、なぜにお揃いにこだわるっ!?
 雅史は、万事解決、と言った風に微笑んでる。
 …あかりは、なにいってんのよ、あんたっ!、状態だ!
 …さっき、泣きそうだったあかりはどこにいっちまったんだ!?
 …とりあえず、泣きやんでよかったのか?
 …そ、そう言う問題じゃないか…。
 むーっ。
 むーっ。
 再びにらみ合う二人。
 …何やってんだか…。
 あきれて、おまけに何がなんだか分からないオレは、とりあえずあかりの手から、弁当箱をひとつひったくると、雅史に渡し
「はい、コレで良いだろ?」
 とだけ言って、その場を駆け出したっ!
 二人とも、へ?っと言った顔をしたのが分かった。
 …だが、こんな訳の分かんないことに、いつまでもつき合っていられるかっ!
 オレは、
「浩之ちゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーんんっ!」
「浩之ぃぃぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーっっ!」
 という二人の声を背中にうけながら、階段を駆け上った。
 …はぁ、ちっともいい日じゃない…マルチ…。
 そんなことを、思った。



 で、屋上にやってきた。
 もはや、学校でオレが落ち着ける場所は、体育館裏か、ここしかなくなっていた…。
 まさか、体育館裏で食事するわけにはいかんし、したくないからなぁ…。
 そんなことを考えながら、床に腰を下ろした。
 そのときだった。
 オレのすぐ後ろに、一人の女生徒がたっていた。
 彼女の存在に全く気が付いていなかったオレは、声こそ出さなかったものの、とりあえずおどろいちまったわけさぁ!
 あまり文章そっくりにすると、Leafに使用許可取らんといかんしな。
 毎話許可取ってたんじゃ、向こうも確認面倒だろうし…ね。
 ……。
 どうでもいいな、これ。
 で。
 …声、かけるべきなのか…かけざるべきか…。
 なんて考えていると、琴音ちゃんもオレに気付いたらしく、声を掛けてきた。
 しかも、あの、袖に隠れている手を、口元に持っていくポーズでだっ!
 …くっ、オレ、このポーズに弱いのにっ…!
「…こんにちは、藤田さん」
 何気ない挨拶に見えるが、琴音ちゃんの目は輝いていた。
 こんなところで会えるなんて…私たち、運命の二人に違いないですっ!
 そんな目だった…。
 …あまり、歓迎すべきじゃない事態だ…。
 オレは、曖昧に
「おう、こんちは…いつから…そこにいたの?」
 と、明らかにあのギャグをするために言った。
 場をごまかす意味もあった…。
 すると、琴音ちゃんは、
「…去年…と言いたいところですけど、さっきです。…もう、そんなレベルのギャグじゃ、読者、喜びませんよ…」
 と、くすくす笑いながら言った…。
 ……ばれてる…。
「でも、ここで私が、晴れた日はよくとどくから、って言うと、みんな喜ぶんでしょうね」
 琴音ちゃんは、訳の分かんないことを言い始め、さらに、白い手を太陽にかざし始めた。
「読者サービスは…わすれちゃいけませんよね」
 ……。
 何が言いたいんだ、琴音ちゃん?
 そして、
「藤田さんも…私と同じですよね…」
 なーんて言い出した。
「え?」
 なにがおなじやねん?
「藤田さんも出来るんでしょ?」
「え、オレが?なにを?」
「電波…じゃなかった、超能力です」
 にやり、と笑いながら、琴音ちゃんが言った。
 …読者サービスなのか、オレをからかっているのか…。
「オレには無いよ。そんなちから…」
 と、そのとき、軟式テニスボールがオレの頭めがけて飛んできて、すぱーんっ!とぶちあたった!
 …いてぇ…。
「ね?」
 ね?じゃねーだろ。
 琴音ちゃんがやったんじゃねーか。
「わかったでしょ?」
 わかんねーよっ!
「いいの、きっとそのうち気付くから」
 …気付きたくない…です。
「…すごく才能が…あるといいたいところですが、全くないですよね、藤田さん…」
 そう言った。
 …はぁ。
 わけわかんないよぅ。
「でも…才能無くても……しちゃえば、使えるようになるかも…」
 琴音ちゃんは続けた、照れながら。
 …しちゃう?
 なにを…?
 …でも、なんか期待しちゃうぞ…。
「…しますか…?…いいですよ…長瀬ちゃ…じゃなかった、藤田さん…なら」
 ……。
 …ぽっ。
 …って、なぜにオレが照れるんじゃぁぁ!
 なにいってるんじゃ、この子は…。
「でも…、そういえば…、藤田さんとマルチちゃんって、つきあってたんですね。私、知らなかった」
 はなしがころころ変わるなぁ。
 わけわかんないけど、るりるりチックな事は確かだ…。
 けど、コレ、「雫」やってないと、付いてけないだろうし…。
 ……。
 それに、いきなりなにを…。
 …どうしよう…。
 あまり知られたくない人に知られてしまった…事になるな…。
「あの…琴音ちゃん…それな…」
 オレはそう、声を掛けた。
 琴音ちゃんは、オレに向かって
「ふふふ、極秘のおつきあいですものね…」
 と、いったんはおおらかに笑ったが、そのあと、
「ふふふ…ふふふ…そうなんだ…そうなのね…信じられない…!」
 と変な、まるで太田香奈子ちゃんみたいな笑い声をあげ、一人納得した後、
「…藤田さんに、あーんする資格があるのは、この私だけなのに…!」
 と、聞き取れるかとれないかぐらいの声で言い、そして…
「…藤田さん…今日は…スカイダイビング日よりですね…」
 と、訳の分かんないことを言い出した。
 ……?なに?
「きっと、この高さから落ちたら、気持ちがいいですよね…」
 !!
 な、何をいいだすんじゃ、この子はっっ!
「藤田さん…空…とんでみたいでしょ…?とばしてあげましょうか…?」
 と言葉を続ける琴音ちゃん。
 そ、それは、どど、どういうことですかぁっ!?
「こ、琴音ちゃん…っ、そ、それはどういう…」
 とまで言ったところで、体が、ぴたっ、と動かなくなったっ…!
 げ、まずいっ!
 このままだと…やられるっ、マジでっ…!
 無意識のうちに、校長にライトぶつけようとした琴音ちゃんだ…やりかねんっ!
「こ、琴音ちゃん…ちょ、ちょっと…」
 オレは必至に声をだすが、聞いてるのか聞いてないのか聞こえてないのか聞きたくないのか、反応無し。
 ふわっ!
 げっ!
 体が浮き出したっ!
 ま、まずいっ!
 そうは思うものの、どうすることもでき〜んっ!
 ああっ!
「…楽しんでください…藤田さん…」
 琴音ちゃんはおっしゃるが、楽しめるわきゃねぇぇぇだろっ!
 ああっ、もうだめやぁ!
 オヤジ、オフクロ、先立つ息子を許して〜っ!
 それと、マルチ、ごめんよぅっ!
 と、思ったそのとき!
 ヒュンッ、くるっ、がしっ!
 いきなり、首にロープが巻き付いたかと思うと、ぐっと引っ張られ、オレは地面に叩き付けられた!
 …いってぇ…。
 校舎から落ちるよりか、いいのは確かだが…。
 でも、誰が助けてくれたんだっ?
 その前に…縄投げの達人が…この学校にいたのか…?
 そ、そんな都合のいいことが…。
 と、ロープの先端を見ると、ニヤリと笑ったいいんちょがいた。
 …はぁ?
 この話のどこに、いいんちょが縄投げの達人なんて設定があるんじゃぁぁぁ!
 どっちかてーと、怪しい機械使って助けてくれる方が、ネタ的に面白いんじゃないかぁっ!?
 で、なんでですかぁ、って目でいいんちょを見ると
「藤田くん、なんで私がロープ使いうまいか、不思議におもっとるやろ?」
 と聞いてきた、ニヤニヤしながら。
 …そりゃ不思議だ。
 こくこく、と首をアップダウンさせると、いいんちょは
「ほら、初めての時、私、藤田くんに手足しばられたやろ!藤田くん、そーゆーの好きか思ってな!だから、今度するときは、こっちが藤田くんのことしばったろ思って、密かにロープの使い方、練習してたんや!」
 そう言った…。
 …初めての時…?
 …縛った…?
 …何をいってるんじゃぁぁぁぁぁ、この子はぁぁぁぁ!
 オレは、いいんちょを縛った覚えなんてねぇぇぇぇ!
 だいたい、今度するとき、って何をするんじゃぁぁぁぁぁ!
 で、オレのこと縛るって、どーゆーこっちゃぁぁぁぁ!
「…気持ちよくさせたるで、藤田くん…!」
 そう、目を細めながらいいんちょは言った…。
「…何なら、今、ここでする…?」
 頬を赤らめながら、そんなことまで言いだした…。
 …がーん…。
 最近変すぎ…いいんちょ…。
 と、惚けるオレに、すり寄ってくるいいんちょ。
 ……。
「ねぇ…、しよーや。絶対気持ちよくしたるさかい…!」
 オレの胸に「の」の字を描くいいんちょ。
 ……。
 どないしろちゅーねん。
 ……。
 だだだっっ!
 ありふれたSEが入ったかと思うと、琴音ちゃんが吹っ飛んできた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ、藤田さん、そ、それって、どういうこ…!」
 琴音ちゃんがパニック状態に陥りながらいう。
 …オレだって、わかんないよー。
「お、オレにもなんだかさっぱり…」
 と言葉を発し、さらに続けようとしたところ、いいんちょが
「…姫川さん、あんた、だまっててーな。あんた、なんだかんだいって、おまけシナリオではいいとこさらっとる上、一番出番多かったやないか!この話でくらい、大人しくしててや!だいたい、あんたにるりるりの真似は似合ってないんや!」
 …そう言った。
 …るりるり?
 …おまけ?
 …だが、琴音ちゃんも黙っちゃいない!
「…保科さんだって、おまけじゃ、ちゃっかり仕切ってたじゃないですか…!ずるいです!だいたい、私のSSって少ないんですから、別にここで活躍したって、良いじゃないですか!保科さんこそ、本編のシナリオ評判いいんですから、ちょっとは遠慮してくださいっ!」
 ばちっ!ばちばちっ!
 …しゅ、修羅場が…。
 琴音ちゃんも…あのいいんちょに向かっていくとは…すげぇ…。
 だが、はっと、気が付いた。
 この二人…なんだかオレのこと忘れてるみたい…。
 ならば…にげよ。
 オレは、黙ってその場を離れると、教室に戻った。
 キーンコーン、カーンコーン。
 チャイムが鳴った。
 …また、昼飯食い損ねた。
 …なんてこった…。 



 そして、ついに放課後がやってきた。
 …ぜんぜん、平和じゃ無いじゃないか…。
 朝の、あの、雰囲気は何だったんだ!
 ちくしょう…作者め…!
 でも!
 校門まで行けば、マルチが待っている!
 くぅぅ、コレを幸せと言わずして、何というのか!
 イヤな事なんて、全て忘れられるさぁ!
 そんなことを想いながら、オレは教室を飛び出した。
 そして、下駄箱で下履きに履き替えると、そのまま外に飛び出した。
 顔を上げ、校門のあたりを見ると…。
 あっ、いたっ!
 ミドリな頭にヘッドギア!
 マルチだぁ!
 マルチは、ロングなスカートに、サマーセーターといったかわいらしい格好だっ!
 本編では、セーラー服しかなかったから、新鮮この上ないぜっ!
 本編では、マルチをこき使って作者の怒りの対象になっていた生徒たちも、あまりのかわいらしさに目を奪われているぜ…!
 だが、あのタイツが見えないのは、減点だなっ!
 今日は、キュロットを買ってあげようっ!
 きっと、かわいぃっぞぅ!
「おーいっ、マルチィ」
 オレが声を出すと、マルチは、あっ、浩之さんっ、と言ってから、こちらに向かって走りだした。
 それをうけて、オレも走り出す。
 あぁっ、コレこそ青春!
 愛し合う者同士の再開は、こうでなくっちゃ!
 スローモーションで映し出される二人っ。
 まるで、世界名作劇場での、母と子の再開のようなシーンっ!
「マルチっ!」
「浩之さんっ!」
 だきっ!
 オレは、マルチを抱きかかえると、頭を撫でながら、
「よく来たなっ!道、迷わなかったか?変なヤツに、声かけられなかったか?」
 と聞いた。
 マルチは、オレの腕の中で首をぷるぷる。
 そうかー、よかった。
 オレは、ぱっとマルチを離すと、はい、と手をさしだした。
 オレの手を握るマルチ。
 手が繋がる。
 心も繋がる。
「さ、行こうか」
 オレが言うと、マルチは元気な声で
「はいっ!」
 そして、俺たちは、お互い見つめ合いながら歩き出した。



 と、校門を出ようとしたとき
「かぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!」
 と言う声がひびいたっ!
 こ、この声はっ!
 セバスチャンだっ!
 しかし、なぜにセバスチャンッ!?
 オレとマルチは立ち止まると、目の前をみた。
 ……やっぱり、セバスチャンだった…。
 マルチが怯えるだろっ!
 おおぅ、可哀想にマルチ!と、マルチを見ると、意外や意外、マルチはなーんか不思議そうなかおをして、セバスチャンを見ていた。
 …?
 あ、ま、そ、それはいい。
 オレは、セバスチャンの方を向くと
「な、なんだよセバスチャン!今日は、先輩と一緒じゃねーぞ!じゃまするなよ」
 と、言い放った。
 我ながら、人生の先輩に対し、偉そうではある。
 そんなオレの言葉に対し、セバスチャンは
「…それは分かっております…」
 と、神妙に答えた。
「…じゃ、なんで…」
 オレがそう訊ねると、セバスチャンは
「…コレも、お嬢様の命令なのでございます」
 と言った。
 …先輩の…?
 なんで…先輩が…。
「…お嬢様が、藤田様に好意を寄せていらっしゃるのはおわかりでしょう。しかし、このところ恋敵が多く…お嬢様はやや劣勢なご様子…。もはや…藤田様と恋仲になるためには、藤田様を強奪するしか無いと思ったらしく…」
 …おじょうさまぁ…なに考えてるんですかぁ。
「…このセバスチャン!拾っていただいた来栖川の恩に報いるためにもっ…藤田さん、あなたを強奪させていただきますっ!」
 そう言って、セバスチャンは、オレに飛びかかってきた!
 げっ!
 オレ、男に抱きつかれる趣味は無いぞ!
 その前に、「あなたを強奪します」ってのはやめろっ!
 お前に体奪われそうで、気持ち悪いわっ!
 いやんいやん、私の体は、マルチだけのものなのっ!
 ……。
 と、思ったときだ!
 ぴたっ、とセバスチャンの体が止まった!
「ぬおっ!」
 セバスチャンが妙な声を上げる。
 こ、これは…超能力!
 と、ということは…とあたりを見回すと…いたっ、琴音ちゃんだ!
 なんだかんだ言っても、助けてくれたんだねーっ!
 ありがとっぅーーーーーっっ!
 琴音ちゃんは、ニヤリ、とした顔をすると、セバスチャンに近づいて行き、小さな声でこういった。
「…じゃますると…ひどいですよ」
 ……。
 滅殺?
 ……。
 そして、オレの方を向くと、
「そこにいる子なんてほっといて、私と一緒に、買い物いきましょ、藤田さん!そりゃーもうエンディングのようにっ!超能力だって、使っちゃうんだからっ!」
 と、気合いを入れて言った。
 …エンディングのように…って、どんなようにやねん!
 オレの横では、マルチが展開に付いていけず、ぽへぇー、としていた。
 こ、こりゃ、刺激が強すぎるな…。
 早めにずらからんと、と思うが、どうしょーも無いことも確かで、ニッチもサッチもどうにもブルドック、ハァッ!って感じだっ!
 んなわけで、おろおろしていると、琴音ちゃんが、いきなりおおきなあくびをし
「…作者も予想外なほど出番があって…超能力を使いすぎたわ…ね、眠い…」
 なんていいだした。
 …そうか、そう言えばそんな設定もあったなぁ。
 なーんておもう。
 さらに、とっとと寝ちまえ、とも思う(我ながらひどいが…)。
「…ああっ、藤田さんの前で寝ちゃったら…それそこ私…傷物にされちゃう…」
 どさくさ紛れに、琴音ちゃんはすさまじいことをいってくれちゃった。
 それはどーゆーこっちゃぁ!
 あのときは、そっちから誘ったようなもんじゃないかぁ!
 …あのとき…?
 ……。
「浩之さん、傷物にされちゃう、って、どういうことですか?」
 放心していたはずのマルチが、いきなり、明るく聞いてきた。
 …う…答えられねぇ…答えられるワケがねぇ。
 マルチは、そんな言葉、知らなくても良いんだよぅ!
 困っていると、いよいよ琴音ちゃんはまずいらしく、はぁぁ、いやぁぁん、もうだめぇぇぇ!藤田さぁん、そ、そこは…!とか声を上げてもだえて始めていた。
 …その声、やめて。
 とんとん。
 と、そんな琴音ちゃんの肩を、だれかが叩いた。
 先輩だった。
 ん?どうした先輩、と思うと、彼女はいきなり小さな瓶を取り出して、琴音ちゃんに差し出した。
 …あの瓶、みたことあるな…しかも…アレを飲むと…ポッ。
 ……。
 だんだん、記憶が混乱してきてるな、オレ…。
 そ、それはどうでもよくて、小瓶だ。
 琴音ちゃんはそれを受け取ると、
「…眠気さまし、ですか…?本編で藤田さんが飲んだヤツより…完成度が高いはずです…?」
 こくこく。
 先輩はうなずいた。
 なんだって先輩は、先輩の作戦を妨害している琴音ちゃんにそんなモノをあげるのか不思議だが…。
 敵に塩を送るってヤツか!
 いい人だなー、先輩!
 琴音ちゃんは、そんな先輩から小瓶を受け取ると、
「ありがとうございます…先輩!」
 と言って、一気にそれを飲み干したっ。
 ばたっ。
 いきなりその場に琴音ちゃんが倒れた。
 ……。
 …なにぃ!
 それと同時に、セバスチャンの体も自由になる。
「…お嬢様、助かりました」
 セバスチャンがいい、先輩はこくこくと首を上下させた。
 先輩は、よかったです、と言った。
 ……そう言うことか…。
 先輩の別の一面をみた気がする…。
 が、そんなことはどうでもよくて、今、ピンチなのには変わりはない…。
 …オレ、強奪されちゃうのかなぁ…。
 と、先輩をみる。
 先輩は、困り果てるオレと怯えるマルチを、ちらりとみると、セバスチャンに向かって、あなたがまた出ると、松原さんが出てきそうな気がします。そうすると、予定外の出番に作者も困るので、後は私がどうにかします、みていてください、と言った。
 …心遣い、ありがとう、芹香お嬢様。
 作者として、嬉しいです。
「…まさかっ、お嬢様…アレを…使うのですか…っ!」
 作者を無視して、セバスチャンが、怒鳴った!
 こくこく。
 先輩はうなずくと、地面に落ちていた木の枝を拾い、魔法陣を書き始めた…!
 それはもう、初回特典のマウスパッドの先輩の絵のようにっ!
「…あ、アレって…!?」
 オレも思わず怒鳴る。
 セバスチャンがそれに答える。 「…お嬢様最高の魔術…『鬼』の召還ですっ!」
 お、鬼ぃ!
 そ、そんなもん召還して、どーするつもりなんじゃぁ!
 あ、オレを強奪するのね。
 って、なに冷静になってるんじゃぁぁ!
 そんなオレを横目に、先輩は、魔法陣を書き終えると、呪文の詠唱を始めた。
「…………」
 呪文が聞こえない…作者が、呪文を考えるのが面倒くさいからにちがいないっ!
「…お嬢様…お嬢様…」
 セバスチャンが怯えている…!
 そ、そんなに恐ろしいのか…?
 ゴクリ…息をのむ。
 ぎゅっ…オレの腕をつかむマルチの手に、力が入る…。
「…………!」
 !
 詠唱が終わった!
 先輩が、きっと顔を上げる。
 すると、魔法陣から、ぼっ、と煙が上がったかと思うと、もわーっ、となにかが浮かび上がったっ!
 …来たかっ、鬼っ!
 と、目をこらしてみると、なんだか思っていたよりだいぶ小さい。
 なに?とか思ったが、オレの横にいたセバスチャンが
「…アレはっ…皇族四姉妹が一人…エディフェルッッ!」
 と、怒鳴った!
 エディフェルっ?
 …オレは、その言葉に、懐かしい響きを感じていた…って、オレは何者じゃぁ!
 と、その煙の中現れたなにかは、その煙の中から
「…違います。私は楓です」
 なんて冷静なツッコミを入れてくれちゃったりした。
 …だんだんと姿を現すなにか…なんと、それは、セーラー服におかっぱ頭のかわいい女のコだった…って、説明しなくても、だいたい分かるよな、コレ読んでる人なら。
 とりあえず、ブルマは赤、と言っておこう。
 ……行数の無駄だな…。
 完全に煙が消えると、その楓、呼び捨ては作者の心が痛むから楓ちゃん、とかいう鬼に先輩が近寄り、ぼそぼそ、となにかいい、続いてオレを指さした。
 楓ちゃんはうなずき、オレの方を向く。
 はっ、楓ちゃんの顔つきが変わった。
 ん、どうかしたのか?
 オレがそう思うと、いきなり楓は
「耕一さん…」
 などと言いだした。
 …何度も言うが、オレは、耕一、とか言う名前じゃねーっ。
 だが、そんなオレの心ツッコミは無視された。
 エルクゥは、お互いの意志を信号でやりとりできるんじゃねーのかよっ!
 …って、オレはエルクゥじゃねーか、ははは、なんてオレは一人ツッコミ。
 楓ちゃんは、そんなオレをみて、しばらく黙っていたが、やがて、ゆっくりと唇を動かすと
「…帰ってください」
 短くそう言った。
 ……。
 沈黙。
 空気が止まる。
 ……。
 そして、
「はい」
 オレは短く、はっきりとそう言った。
 帰らせてもらえるならそりゃー御の字ですよ!
 オレは、マルチの方を向き、手を取り
「じゃ、かえろうか」  と微笑んだ。
「はいっ、浩之さんっ!」
 マルチも微笑み、手に力を入れた。
 あぁ、可愛らしいお手々だこと!
 しあわせだなぁ!
 そして、校門に向かって歩き出す。
 と、そんな俺たちの前に、ノートパソコンを持ったセバスチャンがあわてて現れ
「藤田様!セリフが違いますっ!『…帰ってください』の後は、『今…オレに帰れって言った?』でございます!困りますっ、やることはちゃんとやっていただかないとっ!コレも読者サービスのうちですぞっ!」
 なんて怒鳴りだした。
 なんだそりゃーっ!
 なにをいっとるんじゃー、おまえはぁ!
 で、先輩は、そんな状況を理解するのに時間がかかったようだが、ようやく自分の召還した鬼が、やって欲しいことと全然反対のことをしたと気が付いたらしく、ぱたぱたと可愛らしく走って、俺たちの前に再び現れると、再び魔法陣を書き、呪文の詠唱を始めた。
「…………」
 またかよー、先輩っ…。
 もう、帰らせてくれよぅー。
 マルチがかわいそうだろー。
「…………!」
 あ、もう詠唱終わりやがった!
 魔法陣から再び煙が上がり、なにかが見え始めた。
 …再び、ちっこいなにかだ…頭のところがとがって見える…妖気アンテナ…?
「初音っ!あなた…!」
 そう、いままで黙りこくっていた楓ちゃんが叫んだ。
 な、仲間なのか…!?
 煙がはれる。
 そこには、楓ちゃんよりもちっちゃくて、もみあげに特徴のある、可愛らしい女のコがたっていた。
 …楓ちゃんは、初音って呼んでいたっけ?
 初音ちゃんって名前なのか…?
 オレが、そんなことを思って、その鬼をみていると、鬼、つまり初音ちゃんだな、は、こちらを振り向くと
「ねぇ、お兄ちゃん」
 伏し目がちにオレをみていった。
 お兄ちゃん?
 オレが?
 冗談はやめてくれー!
 オレには妹なんかいないじょーっ!
 だが、マルチはマルチで、
「浩之さん、妹さんがいらっしゃったんですかー?可愛い方ですねー」
 なんて言い出した。。
 ち、違うぞ、マルチ!
 オレがマルチに答えようとするのを、初音ちゃんがクロストークし、はっきりと、
「…千鶴お姉ちゃんには、お兄ちゃんを困らせるから言っちゃダメだって言われてたんだけど…お兄ちゃんには、ずっとここにいてもらいたい…」
 なんて言い出した。
 正確には「ここ→この家」だが、セバスチャンはツッコミを入れなかった。
 と、とにかく、そんなことを初音ちゃんは言った。
 …うっ。
 な、なんか…変な気分だ。
 …むかし…味わったような気がする…この気持ち…き、きず…あ…?
 初音ちゃんは、わずかに瞳を潤ませている…。
 ……。
 ますます、変な気分になってきた。
 …ここにいなきゃ、いけないような気がしてきた…さすが鬼…。
 先輩は、してやったり、って顔をしている。
 ……。
 これから、どうなるんだろ…。



 と、もう六話も終わりかと思ったら、いきなりマルチが初音ちゃんのところに歩いていき
「浩之さんの妹さんですか?私…マルチと言います!浩之さんのフィアンセです!これから、よろしくお願いしますっ!」
 なんて言い出した。
 な、なにやってるんじゃーっ、マルチ!
 先輩も、目をひんむいてびっくりしている!
 初音ちゃんは…そんなマルチに最初はびっくりしていたみたいだが、すぐに優しい表情になると
「マルチちゃん、でいいの?私は、初音、柏木初音っていいます。よろしくね」
 と言った。
 ……。
 なにがなんだかわかんない内に、メイドロボットと鬼のあいだに、友情が芽生えていた。
 もはや、オレの常識を越えた世界がそこには逢った…。
 鬼を召還した先輩さえも、想定できない様な事態がそこには逢った…。
 …。
 ……。
 ………。
 …鬼まで登場して…。
 はぁ、どうなっちまうんだろ、オレ…。


 いつになったら「坂」にたどり着けるんだ…、はぁ。



第七話につづく



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