「第1話 産まれた 〜 小学校の途中くらいまで 『姉』 」  昭和46年3月18日に生まれる。  未熟児というわけでもないが、小さい赤ん坊だったらしい。  血液型はO型。  「自分の哲学を持った正しいヒトに成って欲しい」との願いから「哲」と名づけられる。   5歳上に眼鏡とおさげがトレードマークの姉が1人、  10歳上にスポーツ刈りにしてる兄が1人いる。  姉は勉強が得意でTVが嫌い、兄は自分が気がついたときには親に混じって店で働いていた。  実家が商売をやっていた為、手がかからなくなるとすぐに放って置かれるようになった。  TVと、ボール紙、ハサミ、セロテープ....小さい時の友人はこんなものだった。  ボール紙をチョキチョキ、張りつけてペタペタ....  店から奥の部屋に向かって母親が呼びかける。   母:「哲、そこにいる?」  自分:「いるよ...」   母:「ん。」  手間のかからない子供だった。  姉が帰ってきたら、お守りは姉の役目になる。  帰ってきたと同時に、辺りを片付け姉の元へ駆け寄る。  お守りとはいえ、姉は自分の勉強等をするので自室にこもる。  それでもかまわない。  姉の部屋で寝転んで本を読む...それだけで充分だった、お守りとして自分として。  店が閉まるのは夜の9時。  それまでに眠気が襲ってくることも多々あった。  その場合は姉の布団に寝ていた。  けれど一人で眠りにつくことがこの当時苦手だった。  赤ん坊と同じで「自分だけどこかに行ってしまうのでは」という不安があるからだった。  怯える自分の為に、姉は時間を割いて添い寝をしてくれた。  温かかった...だから安心できた。  だから、姉が母親だった。  だから、姉が好きだった。  出歩くのは好きではなかったけれど、姉と一緒なら外に出た。  もっぱら買い物の時くらいだけだったが。  姉と一緒ならば心強かった、元気に受け答えができた。  近所のヒト:「あら、今日もお姉ちゃんとおでかけ? 仲が良いわね」     自分:「あたりまえだい、オイラおねえちゃんだいすきだもの!!」  近所のヒト:「お姉ちゃんも大変ね」      姉:「それほどでもないですよ(笑)」  小学校に入っても、いつもどおりだった。  姉の部屋で本を読み、姉のそばで一眠りする。  添い寝は無くなったけど、そばに姉が居るという感覚は安心以外の何物でもなかった。  姉が中学に入っても、行動パターンは変わらなかった。  試験中でも、静かにしていれば姉は怒るようなことは無かった。  着替えのときも部屋の中にいてもつまみ出されることは無かった。  いつまでもこんな時間が続くと思っていた。  けれど、時間はいつまでも同じようには流れてはくれなかった。  自分:「あれ? お姉ちゃん、髪切ってコンタクトにしたの?!」  姉:「うん、もう高校生だしね、自分のしたい髪形にすることにしたの」  自分:「おさげ嫌いだったの?」  姉:「あんまり好きじゃなかったわ。      けど、お父さんが『女の子はおさげだ』って言うから仕方なく...ね。     本当はショートカットのほうが好きなの。     動き回るから眼鏡よりもコンタクトのほうが良いしね。」    なぜか、姉が自分の知らない女性になったような気がした。    その日を境に、姉の部屋に入るようにはならなくなった。  今まで自分を支えていたような軸が、突然に抜け去ってしまい、『石原哲』という独楽は  どこまでもブレながら一人歩きを始めるのだった。  次回「第2話 小学校の途中 〜 中学の途中まで 『未知』」