「ねえ神子殿、そろそろ、ご機嫌を直してくださらないかな」
「………………」
「そんなに嫌だったのなら、幾重にもおわびしよう。だから、
もう……つれないふりはお終いにして……ね」
「………………」
「ほら、袖をかむのはやめて、かわいい声を聞かせてごらん。
仕方ないじゃないか。長雨と宴続きで、これ以上会えない夜が
続いたらあなた恋しさに私の気が狂ってしまうよ。そうなれば
それこそ参内どころじゃない。元八葉の夫が神子姫を恨んで、
怨霊になってしまったらどうするの? ああ、だめだよ。
衣をかぶって隠れたって……そうら、見つけた」
「……っ!!」
「ふふ、ようやく花の顔を見せていただけた。どんなに
待ち遠しかったかしれないよ。……あなたは違うの?
名を呼んでくれまいか……声が聞きたい。私を呼ぶ君の声が」
「…………ずるいです」
「何が?」
「だから、そうやって寝てる時に、いつのまにか横にいて、
色々しながらささやくの、ずるいです!」
「どうして? 私の思いのたけを伝えているだけなのに」
「……友雅さんっ……あ……」
「ああ……その一声を聞かねば、眠ることもできやしない。
どうか情けをかけておくれ……ね……」
「友雅さん……時々だだっ子みたいです」
「そういう君は私だけの可愛いほととぎすだ。もうずっとね」
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